44.俺は賢者だぞ
「仕込み爆弾か……!」
コンマ単位。ギリギリのところで多くの場所に防御壁を張り巡らせて、どうにか犠牲者が出るのを防いだ。
「お前ら! 逃げろ!」
俺の声と同時に、多くの生徒が闘技場から逃げていく。
よし。これでいい。
あとは変な邪魔さえ入らなければ……。
「最下生よ。なにをいきがっておる」
転移魔法陣が目の前に現れたかと思うと、そこから学園長が現れた。
おいおいおい。どうして逃げなかったんだよ。
「これしきのこと、わしの力で――」
嘆息しながら、学園長の目の前に飛び出して放ってきた魔法弾を弾き返す。どこで暗雲の魔女と知り合ったのかは知らないが、さすがの威力だ。
少しばかり痛かった。
「な、な、な……」
「ほら。多分学園長さんでも無理だ。だから逃げてください」
「わしを、守るというのか」
……学園長を守る。
考えてみるが、それは少し違う気がする。
俺は、
「学園のみんなを守りたいんです」
「なにほざいてんだよ! クソガァぁぁぁぁぁ!!」
連続で放ってくる、高威力の魔法弾を痛みを堪えながら弾いていく。
これくらい、朝飯前だ。
「暗雲の魔女から力をもらったのか。まったく、お前は少しは後先考えろよ」
「うるさいなぁ」
諭してみるが、あまり意味はなかった。
まあ、意味なんてほとんど求めていなかったのだが。
「お前ら。行け」
そうロットが発した途端、背後から十五人の生徒たちが飛び出してきた。しかし幸運なのは、彼らの目が赤く染まっていいないこと。
まだ、救いようはあった。
多分洗脳されているだけだからだ。
「ユリ、サシャ、エレア先生。他の生徒を頼む」
「分かりました」
「おーけー!」
「任せてぇ」
さて。
お互い、総力戦と行こうじゃないか。
「サシャ!」
人数が多い場合、ひとまず全員の視力を奪って一気に殲滅するのが手っ取り早い。
そんな時にはサシャの出番だ。
「〈光鏡〉!」
分かっていたので、俺たちは目を瞑る。
一秒ほど待ったあと、目を開くと案の定多くの生徒がふらふらと彷徨っていた。
「無駄だな」
一人を除いてだが。
ともあれ、彼女たちには三年組を任せている。
彼らの視界を奪うことができただけで上出来だ。
ユリたちは今がチャンスだと、ロット以外の生徒たちに攻撃を開始する。もちろん気絶する程度にだ。
時間は稼いでもらっている。
あとは俺が頑張る番だ。
「ロット。俺はお前を倒す」
「はは。やってみろよ」
にこやかな笑みを浮かべたかと思うと、突然目の前にロットが現れた。〈時間跳躍〉を使ったか。
だが、その程度で俺がどうなるわけでもない。
彼が放ってきた拳を俺は手のひらで受け止める。
「〈時間跳躍〉なんて、つい最近くらったばかりだ」
「ほう。それが?」
カチッ。
そんな音が聞こえたかと思うと、俺の手のひらが爆発した。
くそっ! また仕込んでいたのかよ!
さすがにそこまでは想像しておらず、もろにくらってしまう。
吹き飛ばされ、壁に激突する。
「ガルドさん!」
ユリの声が聞こえる。
一瞬だが、意識がぷつんと途切れかけた。
危なかった。
彼女の声がなかったら、間違いなくこの戦いは負けていただろう。
ふらふらとよろめきながら、俺は立ち上がる。
まったく。サシャのような戦闘スタイルだったかこいつ。
少しは賢くなったようだな。
だがな。
「俺は賢者だぞ」




