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雑文SF「ツインズ・ブラッティの大冒険」  作者: ぽっち先生/監修俺
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一般人を標的にした時点でテロリストの大儀は霧散する

まぁ、エレベータが爆発したと言っても別に生徒たちの目の前で爆発した訳ではない。爆発自体はビルの中間階で起こっていた。なので生徒たちはちょっとした振動とエレベータのドアの隙間から吹き出た爆風に少しさらされた程度で済んだ。


「えっ、何?地震?」

「なんか煙が噴出してきたわよ?もしかして火事なんじゃないの?」

突然の事に生徒たちはざわめきだす。そんな中、案内役のお姉さんはエレベータ脇に設置されているビル内専用通話装置の受話器をとって状況を確認した。


「こちら最上階ラウンジですが、只今直通エレベータシャフトの中から爆風が昇ってきました。それと僅かですが振動も感じました。もしかして事故ですか?」

生徒たちの手前、冷静を装っているがお姉さんの声は硬い。しかも受話器の向こうから伝わってくる管制室内の怒鳴り声に尚更緊張が高まったようだ。


「えっ、テロ?あの爆破予告って来週の訓練用じゃなかったんですか?・・はい、判りました。このまま待機します。状況に何か変化がありましたら連絡下さい。」

案内役のお姉さんはそう言って受話器を戻した。そして生徒たちの方へ振り返ると状況を説明する。


「皆さん申し訳ありませんが下階で事故があったようです。なので閲覧会は中止となりました。皆さんは救助が来るまでここで待機して頂きます。」

案内役のお姉さんは教えられた内容をぼかして生徒たちへ伝えた。確かにありのままを伝えたりしたら生徒たちはパニックに陥るかも知れない。なので彼女はマニュアルに沿って偽の情報を生徒たちへ伝えたのだった。

しかし、そんなお姉さんの気配りも展望ラウンジにいた他のグループの怒鳴り声で徒労に終わる。


「テロってなんだよっ!爆弾が仕掛けられてらた降りられないじゃないかっ!まさかここから階段で降りろとか言うんじゃないだろうなっ!ここから下まで何段あると思っているんだっ、冗談じゃないぞっ!」

「ビル建設反対派の標的は市長だろうっ!私たちは関係ないっ!巻き込まれるなんてごめんだっ!」

「と言うか、なんでここは携帯電話が繋がらないんだよっ!」

説明に失敗した他グループの案内役はお客たちに詰め寄られて右往左往している。そう、先程の爆発はこのビルの建設に反対していた保守派内の武闘派が起こした爆弾テロだったのだ。

しかもテロリストたちは銃で武装してビルの途中階を占拠していた。そして全てのエレベータをその階へ停止させていたので上下階の行き来も制限されてしまったのだ。当然非常階段にも見張り役が配置され、且つトラップまで仕掛けられていたのでそこを行き来する事も出来なくなっていた。

しかもテロリストたちは彼らが占拠した階で止まらない直通エレベータは爆破するという念の入りようだった。先程生徒たちが聞いた爆音はその音だったのである。なので展望ラウンジにいた人々は下へ降りたくても降りられなくなったのである。

因みに携帯電話が繋がらないのはテロリストの仕業ではなく、この展望ラウンジの仕様だった。この展望ラウンジはその見晴らしの素晴らしさを売りに各種イベント会場としても使用される事になっていた。イベントの中には携帯の呼び出し音を嫌ったり、電波を雑音として拾ってしまう機器などを使うものも予定されていたのでこのフロアには常時携帯電話の電波を遮断する設備が備えられていたのだ。


そして、そんな他グループの騒動を耳にした生徒たちは案内役のお姉さんの説明と食い違う内容に不安になったのか、その事をお姉さんに問いただす。それを受け、案内役のお姉さんも誤魔化せないと悟ったのか、管制室から聞いた正確と思われる情報を改めて生徒たちへ話し始めた。

「あのぉ、なんか向こうでは爆弾とか言ってますけど本当ですか?」

「申し訳ありません。先程の説明はちょっとはしょり過ぎました。まだ詳しくは判らないのですがどうやらこのビルの建設に反対する人たちが武力をもって途中の階を占拠しているようなのです。なのでエレベータは使えません。非常階段も彼らに監視されているはずなので使うなと言われました。でも安心して下さい。彼らが占拠しているのはずーっと下の階です。ここへの直通エレベータは彼らが爆破してしまったので彼ら自身も使えません。仮に非常階段を上って来るとしても結構な時間が掛かるはずです。なのでその間に非常階段にバリケードを作って彼らの侵入を防ぎたいと思います。ですが私ども係員だけでは時間が掛かり過ぎます。なので本当は駄目なんですけど手伝っていただけますか?」

「あっ、はい。判りました・・。みんな良いわよね?」

お姉さんのお願いに生徒たちを代表してリリィが答える。生徒たちは突然の事に不安そうだったが、リリィが率先して動き出したのでその流れで言われるがままに頷いた。


「で、具体的には?」

「非常階段にはドアロック機能が付いていません。なんと言っても非常時に使う事を想定されていますから。なのでソファーやテーブルを扉の前に置いて重石とし扉が開かないようにし防ぎたいと思います。」

「判りました。さぁ、それじゃ男子たちは重そうなやつを片っ端から持ってきてっ!女子も何人かで使えそうなやつを見つけて持ってくるっ!」

「お、おうっ。えーと、それで非常口ってどこ?」

「あなた非常階段の標識も見たことないの?ほら、あそこに標識が掛かっているでしょ?」

リリィが指差した場所には緑色の下地に階段を降りる人を模した標識が掲げられていた。


「あーっ、あそこか。判った。おいっ、あのソファーを持ってこようっ!」

リリィの指示で生徒たちはぎこちなくはあるが動き出した。女子生徒の中には不安なのか涙ぐむ者もいたがそれでも級友たちに励まされながら作業を始める。


「ありがとう。あなたみたいな生徒がいて助かったわ。」

生徒たちへてきぱきと指示を出し動かしたリリィに対してお姉さんはお礼を言った。基本、このような状況に陥ると人は頭が働かなくなり呆然と立ちすくんだりするものだが、そんな人たちがパニックにならないようにするには、とにかく何か目的を持たせて体を動かし続けさせるのが有効だった。リリィがそれを知っていたとは思えないが、図らずも彼女は有効な行動をした事になる。

だが口で言うのは簡単だがそれを実践できる者はそうはいない。そのいい例が展望ラウンジにいた別のグループで起こったパニック症候だ。彼らは助けを求めて案内人の制止も聞かずに非常階段から屋上へと駆け上がった。その行動は気持ちとしては理解できるが悪手である。

なんと言ってもこのビルはこの国で最大の高さを自慢するほどなのだ。そんな高いビルの屋上は常に強い風が吹いている。なのでそんなところに素人が何の準備もなく出ては忽ち足がすくんで動けなくなるだろう。

だがそれを口で説明してもパニックとなった人々が理解するものではない。彼らはとにかく脅威となるテロリストから一歩でも遠くへ逃げ出したい思いに駆られているのだから。

なのでそんなグループを率いていた案内人は説得を諦め彼らの後に続いた。本来ならそのような行動を取った者は切り捨て、残った者を守るべきなのだが案内人は責任感からなのかそれが出来なかったようだ。なので残った者を他の案内人に託して彼も屋上へと上ったのである。


その後、非常口をひとつだけ残してバリケードは完成した。ひとつだけ残したのは屋上に逃げた人が戻って来た時に迎え入れるようにした為だ。これは逆に展望ラウンジに残った人たちを危険に晒してしまう行為だったが彼らはそこまで非情にはなれなかったのである。

だがこの事が結局テロリストたちを展望ラウンジへ易々と招き入れる事となるのであった。


さて、リリィたちが展望ラウンジで対テロリスト用にバリケードを構築している頃、世間ではビルがテロリストに占拠されたとのニュースが各種情報デバイスを駆け巡っていた。エルはそのニュースを級友の情報端末にて知る。


「ちょっとエルちゃん、大変よっ!このテロリストに占拠されたビルってリリィちゃんたちが見に行ったビルよっ!」

女子生徒は手に持った情報端末のニュース画面をエルに見せながら叫んだ。だがエルはその時、洋服店に飾られていたふわふわなドレスを脳内で着替えるのに四苦八苦していて直ぐには理解しなかった。


「えっ、なに?テロリスト?なんじゃそりゃ。」

「だからリリィちゃんたちがテロリストに捕まっちゃったのっ!」

「なんだってぇーっ!」

リリィが捕まったという情報は級友の早とちりだったが、ここで漸くエルは事の重大さを理解した。だがエルが即座に反応したワードが『捕まった』の部分だったのはエルだけの秘密だ。そう、日頃から警察のご厄介になる事が多かったエルとリリィにとって『捕まった』というワードは禁句に等しいものだったのである。

そして丁度その時、女子生徒の情報端末に学校からの緊急安否確認のメールが届いた。


「エルちゃん、大至急ホテルに戻るよう先生から連絡が来たわ。」

「戻るって・・、リリィたちはどうなんのよ?」

「判んない・・。もしかしたら脱出できたのかも・・。」

「そもそも何で今時テロなの?ウチらの星って人民指導部ががんばっているからすごく安定してるのが自慢だったじゃない。」

「私にそんな事を聞かれても判んないよ。だけど、だからかも知れないけど大騒ぎらしいよ。ビルの周辺は立ち入り禁止になっちゃったらしいし、なんか軍の特殊部隊まで待機しているみたい・・。」

「げっ、治安維持法でも発令されたの?それはちょっと過剰反応じゃないかなぁ。」

「だから判んないってっ!でも先生が急いでホテルに戻れって言うんだからここら辺も危ないのかも。」

「う~んっ、そこまで人民指導部が強権を発動するって事はもしかしてテロじゃなくてクーデターなのかなぁ。ねぇ、その端末にリリィの班の子のアドレス入っているわよね?ちょっと電話して状況を聞いてみてよ。」

「えっ?あーっ、判ったやってみる。」

そう言うと女子生徒はリリィの班にいる彼女と仲の良い生徒へ電話をかけた。だが呼び出し音が5回なった時点で相手の端末からの応答がないとの機械的なメッセージが返ってきた。


「駄目・・、繋がんない。」

「ちっ、出遅れたか。回線がパンクしちゃったのかもね。」

エルは携帯電話が繋がらないのはテロ発生のニュースにより皆が一斉に情報を得ようとアクセスが集中した為通信回線がダウンしたのだと思ったが、実際は展望ラウンジに設置された電波を遮断する設備の為だ。だがこの時エルたちにそんな事が判るはずもない。


「となると、もう先生とも無理かな?」

「あーっ、それは私がもう試した。やっぱり繋がらないわ。」

エルの言葉に別の女子生徒が答えた。他の生徒たちも電話を持っている者はそれぞれ通話を試している。だがその全てが不通であった。


「そっか。ならあなたたちはホテルに戻って頂戴。私はここいらでもたもたしている生徒がいないか確認してから帰るから。」

「エルちゃん、ひとりで大丈夫?」

「ふっ、私を誰だと思っているの?自慢じゃないけどそんじょそこらのチンピラなんて私の敵じゃないわっ!」

「エル・・、相手はチンピラじゃないわ。テロリストよ。」

「あーっ、そうだっけ?まっ、似たようなもんでしょ。というかもたもたしていると電車も止まっちゃうかもしれないからみんなは早く戻って。あっ、私の事は先生には適当に誤魔化しておいてね。」

「ううっ、本当に大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫。ぐるっと見回ったら私も直ぐに戻るからさ。一応私もスクールクィーンなんてもんを張っているからさ。こんな時は生徒たちを守らないとね。」

「エルも律儀ねぇ。判ったわ。でもなるべく早く戻ってね。」

「オッケー、さっ、行った行った。」

エルは中々動こうとしない女子生徒たちの背中を押しやりながら明るく振舞う。だがエルがそんな行動をしたのには訳があった。

実はエルとリリィはお互い言葉を解さなくても心の中で会話が出来るという特殊な能力を有していた。ただこれには結構集中力が必要で、他の女子生徒たちと一緒では雑念が入ってうまくいかない可能性があった。なのでエルはひとりになりたかったのである。

なので他の女子生徒たちを駅まで送った彼女は早速駅前に設置されているベンチに腰掛けリリィへ念を送った。


<リリィ、聞こえる?>

<あらエル。どうしたの?>

<どうしたのじゃないわよっ!あんた、なんか面倒な事に巻き込まれているらしいじゃないっ!もうっ、あなたがヘタやると私までシスターに叱れらるんだから勘弁してよねっ!>

<いきなり自分の心配とはご挨拶ね。まっ、こっちは大丈夫よ。そもそもテロリストの目的は市長らしいから私たちは万が一に備えての人質みたいなもんでしょうし。>

<人質って・・、あんたもしかして本当に捕まっちゃったの?>

<まさかっ!そんなヘマしないわ。というかテロリストが占拠しているのはこのビルの中間階らしいから、私たちが今いる展望ラウンジは全然安全よ。直通エレベータは彼ら自身が爆破しちゃったみたいだし非常階段は封鎖したしね。後はここでゆっくり警察がテロリストを掃討するのを待つだけ。あーっ、でもここって食べ物がないからなるべく早く対処してねって警察の人に言っておいて。なんかここって携帯電話が通じないらしくてさ。>

<なんだ、そうだたの。私はあんたが捕まったって聞いたから驚いちゃったのよ。>

<ご心配頂きありがとうございました。あーっ、そうだ。できれば警察がどんな動きをしているか教えてくれない?なんか唯一の通信手段だったビル内専用通話装置も音信不通になっちゃったみたいでさ。現在私たちって情報難民なのよ。>

<えーっ、でもそれだと私たちが離れていても会話できる事を説明しなきゃならないじゃん。信じてくれるかなぁ。>

<そこはうまく誤魔化して。あなた、そうゆうの得意でしょ?>

<うーっ、警察相手だとちょっとなぁ。>

<早く解決して貰わないとシスターが心配するんだから諦めて。私もお腹が空いてきたし、あんまり待たせると暴れるわよ?じゃあね。連絡待ってるわ。>

<うーっ、了解。じゃあね。>

テロリストの脅威に晒されているというのにリリィは実にあっけらかんとしていた。もっともこれはまだ直にテロリストと対面していないが故の暢気さなのかも知れない。人はどんなに危険が迫っていても直に体験しなければ中々構えることが出来ないものだ。災害時の逃げ遅れなどはまさにそれが原因だと言われている。


だが、実際のリリィは言葉の調子とは裏腹に決して状況を侮ってなどいなかった。エルに対して普段のように軽く接したのは彼女なりのエルへの思いやりだ。ここでリリィがヒステリックに助けを求めても、ただの女の子であるエルにはどうのしようもないのを理解していたのである。ならばここは普通を装い安心させようとリリィは思ったのだった。

しかし、リリィは自分たちを普通の女の子と思っているようだが、それは謙遜または思い違いだ。そう、彼女たちは地元ヨネザワにおいて泣く子も忽ち黙り込むスクールクィーンなのだ。そんな彼女たちの片割れがいるビルでテロ行為を行ったテロリストたちはある意味運が悪かったと言えるだろう。

いや、そもそも抵抗する術を持たない一般人相手にテロなどという非道の行いをする事自体が天にツバする行為である。なのでリリィがいるビルでテロを実行したテロリストたちはある意味天罰を受けたのだろう。もっともそれを彼らが身に染みて実感するのはもう少し先の事なのだが・・。

なので自身の運命をまだ知らないテロリストたちは、現在ビル内にいる人質たちを把握すべくビル内をしらみ潰しに調べていた。そしてその中の一派が、そこに悪魔がいる事も知らずに展望ラウンジを調べる為に非常階段を上って来ていたのだった。

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