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雑文SF「ツインズ・ブラッティの大冒険」  作者: ぽっち先生/監修俺
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みいくんは超生命体で無敵のチート野郎

その時、黒い獣の動きを目で追えた者は殆どいなかった。1秒24コマで獣の動きを記録していた監視カメラにもぶれぶれになった黒い塊が戦車の方へ移動していると思われる画像が3コマしか記録されていなかった程だ。しかも3コマの内2コマは動き始めの初動部分であり動きに加速が付いたのであろう10コマ目以降には既に姿が写っていたなかった。

つまり黒い獣は監視カメラの撮影範囲だった30メートルを僅か0.4秒以下で移動したことになる。これはざっくりと計算するならば時速144キロメートルの速度だ。但しこの計算は本当にざっくりなので実際はもっと速度があったはずである。何故なら黒い獣は停止状態から動き出したのだから。

そしてその事は獣が監視カメラの視界から消えた15秒後に、黒い獣の2キロ手前で展開していたCチームの10式タイガー戦車の1輌が突然吹き飛んだ事からも推測できた。

その光景を目撃した観客たちはまるでスローモーションを見ているような錯覚に襲われていた。人は危機的な状況に陥ると脳の処理がその事だけに集中する為、状況判断能力が向上したようになり時間がゆっくり流れだしたような錯覚を覚えるという。この時彼らはまさにそのような経験をしたのだった。

そのような状況の中、彼らは黒い獣の一撃によって1輌の10式タイガー戦車が宙高く舞い上がるのを目撃する。10式タイガー戦車は小型化に成功したとはいえそれでも巨大な電磁拘束加速式砲を搭載する為に90式パンター戦車よりふた周りほど車体が大きい。また旋回砲塔を廃止したとはいえ、その分の重量は前面装甲に振り分けられていたので10式タイガー戦車の重量は70トンを超えていた。

しかし、黒い獣はそんな重量がある10式タイガー戦車をまるでダンボールでも放り上げたかのように吹き飛ばしたのだ。しかもその吹き飛ばされた10式タイガー戦車には黒い獣の爪が引き裂いたのだろう、自慢の350ミリ前面装甲部分がまるで紙を破るかのようにざくりと引き裂かれていた。

体重が500キロ程度の生物が70トンを超える金属の塊を腕力のみで吹き飛ばす。加えて想定された敵の戦車砲弾に耐えうる強度を備えた装甲を生物の爪が切り裂く。

これはもう常識では理解できない出来事だ。その為、その光景を目の当たりにした他の戦車兵たちはパニクった。なので照準を合わせるのもそこそこに黒い獣目掛けて主砲をぶっ放し始る。

しかし、本来なら空を音速で飛ぶ航空機さえ撃ち落せるはずの高性能な自動照準装置も逆に目標が近過ぎて100メートルの距離で動き回る獣を捕らえきれない。しかも黒い獣は他の戦車を襲っている為にその姿は仲間の戦車と射線が重なる。しかし、それでもその時の彼らはそんな事に気を回せる状況にはなく遮二無に主砲を撃ち続けた。

しかしたまにまぐれで直撃しても黒い獣は何事もないかのように砲弾の衝撃を受けきってしまう。


「だっ・・駄目だっ!あいつは化け物だっ!」

「諦めるんじゃないっ!この世に死なないやつなどいる訳がないんだっ!とにかく撃ち続けろっ!」

戦車内ではうろたえる砲兵に対し戦車長が活を入れる。その脇では各戦車間のネットワークを担当する通信兵が無駄とは知りつつも遠隔操作の搭載機関銃で12.7ミリ弾を黒い獣目掛けて嵐の如く撃ち掛けていた。

だがそんな各戦車の奮戦も黒い獣には全く通用しない。なので1輌また1輌と10式タイガー戦車は獣の爪でスクラップの塊へと形を変えていった。

そして黒い獣が反撃を開始してから僅か5分で12輌全ての10式タイガー戦車が沈黙する。たった5分で最新の戦車12輌が全滅する。それは常識ではあり得ない事だ。しかもそれを成した相手は傷ひとつ負っていない。なのでこの戦いを遠くでモニターしていた軍の幹部はそのに映し出された映像が信じられず呟いた。

「我々はパンドラの箱を開けてしまったのか?」

しかし、幹部が呆然としていたのは数瞬だけだった。気を取り直した幹部は惑星全土に緊急事態を宣言するよう大統領へ進言するよう手配する。また自身の権限内で動かせる全軍にも緊急招集をかけた。


「宙域内にいる戦闘艦を全て惑星軌道上に終結させろっ!いざとなったら惑星ごとやつを焼き払わなくてはならないかも知れん。大統領と政府関係者には緊急避難するように通達するんだっ!」

「はっ、了解ですっ!」

軍幹部のとんでもない命令に補佐官は顔を青くしながらも復唱した。そしてその後の司令部はまるで10年前にアキツシマ連邦と中華連邦の間で勃発した連邦間紛争が再発したかのような喧騒の中、それぞれの担当が終末戦争の準備に大わらわとなっていったのだった。


時を同じくして10式タイガー戦車部隊の敗北が確実になった時、戦車兵たちの奮戦を尻目にデモンストレーションに招かれていた観客たちは警備兵たちに促されて慌しくシェルターへと避難した。だが何故か警備兵の誘導を断って二人組の女の子だけが観客席に残っていた。その女の子たちは遠くで繰り広げられている死闘を冷めた目で見ながら普通に状況を分析している。


「あーっ、駄目だ。戦車隊は応援が到着する前に全滅するわ。」

双眼鏡で戦車部隊と黒い獣の戦いを見ていた女の子は双眼鏡を隣の女の子に渡しながら呟く。そして双眼鏡を受け取った女の子は自身の腕にある時計を確認しながら次に起こるであろう状況を予想する。


「そうねぇ、中性子ミサイルがやって来るまでまだ5分はあるから、あいつがこっちに来たらシェルターに避難した人たちも助からないでしょうね。」

「だよねぇ、ここのシェルターって巡洋艦のブラスター砲にも耐えられるって広報官は豪語していたけどあれにとっては多分スチロールをぶち破るより簡単ぽいわ。」

「そもそもあいつに中性子ミサイルが効果あるかすら疑問じゃない?だってあいつって宇宙空間を何万年も漂っていたんでしょ?ならその間、高強度の宇宙線を浴びまくっていたって事じゃない。」

「あーっ、そういえばそうだった。はははっ、見た目が生物だから中性子が有効だと思っちゃったのかもね。もっとも電磁拘束加速式砲弾の直撃をさらりと受けきられたのを目の当たりにしたら軍の司令官も判断が狂っても仕方ないか。」

「で、どうするの?あれはちょっと私たちでも手に負えそうにないわよ?」

「んーっ、でもだからと言って私たちだけ逃げても後から局長にお小言を言われるのは確実だし。今月はもう始末書を書きたくないわ~。」

「それには甚く同意するけど・・。」

二人の会話は的確に状況を分析したものであったが、それでもそこに焦りや恐怖の感情は読み取れない。

そんな一見暢気とも思える会話を女の子たちがしていると、双眼鏡で戦いを見ていた方の女の子が少し焦ったような口調で隣の女の子に状況を説明した。


「あっ、ヤバ~。あいつこっちに来るわ。」

「げーっ、塩撒いたら逃げないかな?もしくはペットボトル。」

「エル・・、確かにあいつは猫っぽいけど、そもそも猫が水の入ったペットボトルを嫌がるってのは根拠のない俗説でしょ?」

エルと呼ばれた女の子の猫避け案も何だかであるが、この状況でそれを普通に否定するもうひとりの女の子も同類だ。とても化け物が自分たちの方へ向かっている時の会話とは思えない。だがふたりはそんな会話を普通に続ける。


「なら夏みかんはどう?いや、レモンの方がいいかな?猫って柑橘類が嫌いなんでしょ?」

「エル・・、ペットボトルよりはマシでしょうけど、そもそもここにミカンはないわ。」

「食堂に行けば昼食後のデザートとして用意されていないかな?」

「あーっ、あるかも。でも残念ながら取りに言っている時間はないわね。」

「そっか、なら仕方ない。手持ちの機材でなんとかしましょっ!」

「そうね、一応やるだけはやりましたという姿勢は見せておかないとね。」

そう言うと女の子たちは足元にあったケースからなにやら取り出して体に装着し始めた。


「んーっ、普段ならこれで大抵の事には対処出来るんだけど今回はちょっと頼りないなぁ。」

女の子のひとりがやたらとでかいライフルに実弾の入ったマガジンを装着しながら呟く。

「そうねぇ、でもないよりはマシでしょ。」

もう一人の方もそう言いながらシリンダー式装填機構の付いたグレネードランチャーにマガジンを装着している。

ふたりはそれとは別にそれぞれ別の携帯火器を腰にベルトで吊るす。一人は普通の軍用自動拳銃だがもう一人はリボルバー式の拳銃だ。それを見て自動拳銃を手にした女の子がもう一人に言う。

「エルは本当にそれが好きねぇ。今時リボルバーなんてカウボーイだって使わないわよ?」

「そう?でも見た目がごついから威圧感は抜群なんだけどな。町のチンピラだと構えただけでチビって逃げ出すんだけど?」

「それはリボルバーにびびったんじゃなくてエルの舌舐めずりに恐怖を覚えたんでしょ。」

「そんな、リリィじゃあるまいし私はそんなお下品な事はたまにしかしないわ。」

「たまにはするんかい・・。まっ、いいわ。準備は出来た。作戦はある?」

リリィと呼ばれた女の子は最後に個人用の飛行スラスターを背負い込むと同じく飛行スラスターを背負い終わったエルと呼んでいた女の子に今後の動き方を問いかけた。


「んーっ、あいつにどんな能力が判らないから何とも言えないけど、取りあえずシェルターから遠ざけましょう。そんでミサイルが飛んできたら後はお任せ。全力で逃げるわよっ!」

「そうね、それくらいやれば言い訳は立つわよね。おっけー、それで行きましょうっ!」

そう言うとリリィと呼ばれていた女の子はスラスターを全開にして黒い獣目掛けて一直線に飛んでいった。


「あいつはアホか。ひとりで向かってどうするんだか。」

エルと呼ばれていた女の子もそう言いながらも自身もスラスターに火を入れ後を追った。そしてこちらに向かってくる黒い獣の手前で減速すると上空から銃撃を開始した。


どんどんどんっ!

大口径銃特有の腹に響く射撃音を響かせてエルのライフルが黒い獣目掛けて火を噴く。だが何故か全ての銃弾は黒い獣の直前で砕け散ってしまった。なので黒い獣の体には1発も届いていない。


「何あれ?どうゆう仕組みなの?」

エルはこの現象を既に戦車砲にて見ていたのだが、あの時は距離があったので彼女はせめて砲弾は黒い獣の体に命中してから爆散したと思っていた。なので改めて間近で経験するとその異様な現象に戸惑いを覚えた。

「考えるのは後にしてっ!取りあえず手持ちのやつは全部試すわよっ!」

撃ちこんだ銃弾が全て防がれてしまい一瞬攻撃が止まったエルに代わり、今度はリリィが黒い獣目掛けてグレネードランチャーの40ミリ破片弾を一気に全弾打ち込む。


ぽんぽんぽんっ!

その口径と厳つさからはちょっと想像できないくらい軽い発射音を響かせてグレネードランチャーから8発の榴弾が黒い獣に向けて立て続けに発射された。だがやはり全ての榴弾が獣の前で爆発してしまう。しかし榴弾は元々爆発して破片を周囲に撒き散らすものなので結果オーライだ。なのでその爆散した破片はどうにか黒い獣に届いていた。

しかし、生身の人間相手ならずたずたに引き裂いたであろう破片も黒い獣には通用しなかった。


「ちっ、駄目ねっ!となればこれはどうっ!」

リリィはグレネードの攻撃が効果なしと見るとランチャーを捨て、腰に手を当てそこに吊るしていた円柱状のものを取り出す。そして安全ピンを引き抜くと黒い獣へと放った。

「エルっ!VWガスを使ったわっ!風上に退避してっ!」

「げっ、なんつうモンを使うんだっ!」

リリィの警告にエルはスラスターを目一杯吹かして一目散に高度を上げ獣の風上へと逃げ出す。それを待っていたかのようにリリィが投下したモノの獣の真上で爆発する。


ぽんっ!

それは軽い爆発音を響かせると何やら赤いガスを撒き散らした。そしてそのガスはリリィの狙い通りに黒い獣を包み込む。

「グッドっ!さてさて黒猫ちゃんにVWガスは効くかな?」

ふたりは赤いVWガスに包まれた黒い獣を観察する。しかし獣はガスに撒かれても何の変化も示さなかった。


「ねぇリリィ。あいつって宇宙空間を何万年も漂っていたんでしょ?それってつまり呼吸しないんじゃないの?」

「あーっ、そういえばそうだった。でもVWガスは皮膚からも吸収されるから全く効果がないって事はないはずだけど・・。」

「んーっ、でも効いていないぽいわ。」

「参ったなぁ、だとしたら手持ちの武器ではお手上げなんだけど。」

「バルキリーを呼んだ方がいいんじゃないかな?」

「そうねぇ、でも時間的に間に合わないわ。後2分でミサイルが来ちゃうから。」

「えっ、もうそんな時間?げっ、なら私たちも避難しなくちゃ駄目じゃんっ!」

「そうね、観客もシェルターに避難し終わったみたいだしここいらが引き際かしら。」

ふたりが黒い獣の上空でそんな会話をしていると突然背負っていたスラスターが噴射を停止した。


「なに?何で止まるの?きぁーっ、落っこちるぅ~。」

突然の事態に悲鳴を上げて二人は高度30メートルの高さから地面へ落下した。だがスラスターのエアバックが作動した為怪我は無い。ふたりはエアバックに包まれながら2、3度バウンドして無事黒い獣の前へと着地した。


「ぐはっ、何だこの不良品はっ!リリィっ!あんたちゃんと整備したのっ!」

「うっさいっ!ちゃんと確認したわよっ!」

「なら何で止まるのよっ!」

「知らないわよっ!スラスターに聞いて頂戴っ!」

今の今まで攻撃していた相手の目の前に落下したというのにふたりは目の前にいる危機より原因不明で作動を停止したスラスターに文句を言っている。これはもしかしたら所謂現実逃避なのだろうか?だがそんなふたりも喉を唸らせて近づいてくる黒い獣の気配に否応なく対応を迫られた。


「ぐるるるる・・。」

「げっ、何か目が据わっているんだけど?もしかして怒ってる?」

落下の途中でライフルを手放したエルにはもはや黒い獣を攻撃できる武器はない。いや、腰のホルスターにはリボルバーがまだあったが、大口径ライフルの銃弾が効果ない相手に拳銃弾ではエアガンのBB弾をぶつけるようなものだ。しかし、それしかないのなら無駄と判っていてもそれで戦うしかない。なのでエルは即座にリボルバーを引き抜くと銃口を獣へと向けた。

しかし、それは欺瞞である。何故なら彼女には最後の切り札がまだ残っていたのだ。それは後1分もせずに彼女たちの元へとやって来るはずだ。そう、それこそ生きとし生ける者全ての細胞を破壊する中性子ミサイルであった。

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