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雑文SF「ツインズ・ブラッティの大冒険」  作者: ぽっち先生/監修俺
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みいくん最強っ!

その全身黒ずくめの獣は広いアキツシマ連邦軍の演習場の真ん中に1頭だけでたたずんでいた。だがその首と4本の足には超強硬度の鋼鉄製の太い鎖が巻き付けられている。あの鎖はアキツシマ連邦軍の主力戦車である90式パンター戦車を牽引するのに使用される引っ張り対荷重性能が10トン/cm2というとんでもない代物だ。

その性能を知っている者はそれだけであの獣がただの猛獣でない事を想像できたが、ここに居る殆どの見物人たちは単なる演出と思っているだろう。そんな彼らの興味は演習場の彼方から土埃を上げて近づいてくる12輌の10式タイガー戦車だ。

実は今獣に近づいてくる10式タイガー戦車はアキツシマ連邦軍が誇る最新型であり、今回のイベントはそのお披露目も兼ねていた。

現在主力の90式パンター戦車もその性能において他に追随出来る戦車はいないと言われていたが、10年前の連邦間紛争にて中華連邦が90式パンター戦車に匹敵する性能の戦車を登場させた為、それを撃破出来る性能を新たに付与した戦車を開発すべしとの政府命令により軍の技術開発部が8年の歳月を掛けて改良開発したのが、今目の前に迫りくる10式タイガー戦車であった。

その改良点は主にふたつで、まず主砲の口径を105ミリから最新の120ミリへとサイズアップした。しかしそれだけでは相手に追いついただけでアドバンテージはない。だが口径が同じだからと言って撃ち出される砲弾も同じ性能というものではないのだ。

その新たに開発された120ミリ重貫通鉄鋼弾は現在多くの戦車の装甲に使われている超硬度鋼板を易々と撃ち抜く性能を有していたのである。その貫通能力足るや300ミリっ!現在防御力で最強と言われているエレファント重戦車ですら前面装甲厚は280ミリなので、この10式タイガー戦車が搭載する新型の主砲で撃破出来ない戦車は存在しない事になる。

勿論そんな貫通能力のある砲弾を撃ち出すには口径が同じだからと言って従来の戦車砲では撃った途端に砲身が破裂してしまう。なので10式タイガー戦車では砲身も最新式の電磁拘束加速式へと改められた。所謂レールガンというやつだ。

この発射機構は従来の燃焼ガスを利用したものと異なり電界誘導により砲弾に初速を与えるものである。これは原理だけなら昔からあったのだが如何せん戦車に搭載できるサイズへの小型化が難しく、新開発の強電界伝導コイルの実用化によって漸く戦車へ詰めるくらいまで小さくなったのだ。

しかし、小さくなったとはいえ電磁拘束加速式の砲身は10メートルをゆうに超えている。しかもその砲身は大砲と言うよりは太いコイルでぐるぐる巻きにされた箱である。

なので10式タイガー戦車の外観は旧型とはうって変わって馬鹿長い金属の箱を車体に背負うように搭載した見た目だけでは消防が消火活動に使うはしご車かと見まがうほどであった。

だが10式タイガー戦車は攻撃力だけに特化した戦車ではなかった。確かに旋回砲塔を廃止した為、見た目はベースとなった90式パンター戦車からがらりと変貌したがその無くした旋回砲塔の重量分をそのまま車体の前面装甲に施した為、前面装甲の厚さはエレファント重戦車を凌ぎ350ミリにもなっていた。もっとも装甲が厚いのは前面だけで側面や上面の装甲は90式パンター戦車より薄かったのでそこを攻撃されたら90式パンター戦車より防御力は落ちた。そうゆう意味でも10式タイガー戦車はメインバトル戦車ではなくカデゴリーとしてはエレファント重戦車と同じ突撃砲戦車と言えるかも知れない。

もっともこれは戦術の変化に対応した改造だ。10式タイガー戦車はとにかく敵の主力戦車と正面から撃ち合い蹂躙殲滅する事だけを考えて計画された戦車なのである。なので10式タイガー戦車は単体で戦闘行為をする事は考えられていない。今回のデモンストレーションのように何輌かでグループを組み互いの死角をカバーしながら戦うネットワーク戦術を基本としているのだ。

だから当然戦車の天敵である航空戦力に対しては対空車輌を随伴して対処する事になる。もっともこれは従来のマルチロール戦車でも同じ運用方法で対処しているので10式タイガー戦車だけの運用方法ではない。

何故なら、かつては地上最強を誇っていた戦車も現代では個人が携帯する兵器の破壊力が向上した為、単独では歩兵部隊にすら獲物とされかねないのだ。だが長い間地上最強の名を不動のものとしてきた戦車はそこに存在するだけで大きなプレッシャーを相手に抱かせる。戦場にいる者にとってそんな負の感情を無条件に抱かせるのが戦車という猛獣の存在意義だったのである。


そして今、そんな戦車が12輌砂塵を巻き上げながら広い演習場を獣めがけて突進してくる。この光景を見た者は別に向かってくるのが最新式の戦車でなくてもあっという間に獣がミンチになってデモンストレーションはあっけなく終わるであろうと思ったはずだ。

そもそも黒い獣は鎖で拘束され身動きも出来ないのである。そんな獣を戦車砲で撃っても新型戦車のデモンストレーションになるのかと首を傾げるはずだ。そして、それは向かってくる戦車に搭乗している兵士たちも同じだったようだ。なのでこんな茶番はとっとと終わらせて宿舎で一杯やろうと車輌内のインカムで暢気に話しているほどだった。

だがそんな彼らも次の瞬間外部監視モニターに映し出された光景を見て驚愕した。なんと黒い獣は体に巻きつけられていた5本の鎖をまるで蜘蛛の糸を払うかのように引き千切ってしまったのだっ!

もう一度言うが、黒い獣を拘束していた鎖はアキツシマ連邦軍の主力戦車である90式パンター戦車を牽引するのに使用される引っ張り対荷重性能が10トン/cm2というとんでもない代物だ。これは90式パンター戦車同士で引っ張り合っても2台づつで掛からないと引き千切れない強度なのである。

それをあの獣は腕の一振りで引き千切ってしまった。体に残った鋼鉄の帯部分も爪を引っ掛け引っ張っただけで破断した。なまじ兵士たちは千切られた鎖の強度を知っているだけにこの光景に驚愕したのである。

なので逆に観客席で見ていた者たちにはそれ程驚いた様子はない。観客たちは黒い獣があまりにも簡単に鎖を破断したので、獣を鎖で繋いでいたのはパフォーマンスに過ぎず鎖の材質はせいぜいプラスチック程度なのだと思ったのである。それ程黒い獣はその身を拘束していた鎖をあっけなく引き千切ってしまったのだ。

だがこの事により戦車に搭乗しいてた兵士たちは一瞬で気持ちを引き締めた。ここら辺はさすがと言うべきであろう。そう、彼らは本物の兵士であった。見た感じはちょっとへらへらした若いあんちゃんみたいであったが、実は実戦経験もある軍の選抜チームだったのだ。

故に部隊長は12輌の戦車を4輌づつ3班に分け黒い獣を三方から包み込むべく左右に展開させた。そして通常の戦車相手の戦法と同じくアウトレンジからの一斉射撃を命令した。


どか~んっ!


12輌の10式タイガー戦車は黒い獣に3キロメートルまで近づいた時、未整地路を走りながらも正確にその120ミリ電磁拘束加速砲を黒い獣へ向け一斉に発砲した。但し発射した砲弾の種類は対戦車用の鉄鋼弾ではなく軟目標破壊用の榴弾だ。これは爆発すると無数の破片を周囲に撒き散らしその爆散半径にいる軟目標、大抵は生身の兵士などだがそれを肉片に変えてしまう恐ろしい砲弾だ。

そんな砲弾が12発、黒い獣の周りにて爆発した。しかも全ての砲弾は黒い獣の周囲20メートル以内に着弾した。これは別に着弾がばらけたのではなくそうなるようにわざと着弾範囲を広く分けたのだ。これは万が一黒い獣がその場から逃げ出しても爆散半径に獣を閉じ込める為である。そう、彼らはまさに鉄壁の対応をしたのだった。

なのでこれでは如何な鋼鉄の鎖をあっさりと千切った化け物とてグラムいくらの肉片と化すであろう。いや、多分肉片すら残ってはいまい。

しかし、各戦車の戦車長たちは風で爆煙が晴れた後に何事もなかったかのようにその場に佇んで顔に降りかかった埃を前足で払っている黒い獣の姿をモニター上にて視認し絶句した。獣の周囲には砲弾の破片が抉り取った無数の土くれがクレーターとして見て取れる。その状況から見て破片は絶対に黒い獣に当たっていたはずである。しかし、黒い獣は前足で顔周りに降った土くれを何事もなかったかのように払っていた。


「ば、馬鹿な・・。あいつは化け物かっ!」

そんな戦車長たちの動揺を尻目に部隊長だけは冷静に弾種を対戦車用の貫通鉄鋼弾へ切り替えての再攻撃を命ずる。

「Aチームは獣を直接照準っ!Bチームは獣が万が一回避行動をとる事を予想して周囲に着弾を散らせっ!Cチームは回避された場合を想定して攻撃結果を確認後とどめを刺せっ!もしかしたら動きが速いかも知れんっ!侮るなっ!」

「Aチーム了解。」

「Bチーム了解。」

「Cチーム了解。」

部隊長の指示に先ほどまで動揺していた各チームの戦車長たちから返事が返る。戦車長たちも動揺していたのは一瞬だけだった。確かに彼らは黒い獣を舐めていた。しかし、相手の実力を知った今は気持ちを切り替え歴戦の兵士の目になっている。そう、彼らも相手は一筋縄ではいかない化け物だと理解したのだ。


そして黒い獣に2キロまで近づいた時点で4輌づつ左右に展開していた戦車からまたしても黒い獣に向けて主砲が火を噴いた。


どか~んっ!


今度の弾種は高速度と強硬度を誇る対戦車用貫通鉄鋼弾だった。その砲弾の初速足るや音速の7倍を超えるとんでもない代物だ。なので発射された砲弾は2キロの距離をたった0.7秒で飛び切ってしまう。なので発砲した次の瞬間には着弾していた。その光景を見ていた見学者たちの目には戦車の砲身から紅蓮の炎が黒い獣に突き刺さったように見えた事だろう。

もっともこれは比喩ではない。実際対戦車用貫通鉄鋼弾が通過した経路上にはあまりにも速過ぎる砲弾に砲弾前面にあった空気が逃げ切れず圧縮され続け、その圧縮熱にて自然発火した空気の筋が真っ直ぐ黒い獣まで伸びていたのだ。


だがまたしても戦車の兵士たちは驚愕の光景を目にする。それは黒い獣に突き刺さったかに見えた砲弾が獣に弾着した瞬間爆散したのであるっ!

対戦車用貫通鉄鋼弾は先に撃ち込んだ榴弾とは違いその砲弾内に爆薬を内蔵していない。なので目標に着弾しても爆発はしない。但し相手がある程度硬い材質ならば着弾した時に砲弾の速度と質量が熱と圧力に変わりまるで砲弾が爆発したかのように見える事はある。しかし、今回の攻撃目標は生物だ。鋼鉄の鎧を身にまとった戦車や強硬度コンクリートで作られたトーチカではない。なので兵士たちは砲弾が獣の体を貫通するものと思っていた。またそうなるように精密射撃モードで照準していた。

しかし、実際には砲弾は硬質な目標に衝突した時の様に爆散してしまった。しかも黒い獣は4発の砲弾が命中してもその場から吹き飛ばされた様子もない。

対戦車用貫通鉄鋼弾は見た目が細長いのでずんぐりとした榴弾などより質量の軽い砲弾と勘違いされ易いが、その材質は鉄などより比重の高いタングステンや劣化ウランなどが使われており弾着時の衝撃強度は凄まじいものがある。なので仮に貫通しなくても2、3トン程度の固定されていない質量のモノならば容易く何メートルも後方へ吹き飛ばされるはずである。

そして黒い獣は確かに生物としては大きい方であったがその体重はせいぜい500キロあるかないかと推測される。そんな軽量なモノが対戦車用貫通鉄鋼弾の直撃を受けておきながらその場に留まれるのは常識から考えてありえない事であった。


なのでここに来て漸く兵士たちも自分たちが攻撃している相手がとても自分たちの手に負えるモノではない事に気づく。そうなると如何な実戦経験を積んだ兵士と言えどもパニックになるなと言うのは酷というものだろう。なので部隊長は各戦車長へ攻撃の中止を通達しその場に留まるよう命令した。そして自身は通信装置の回線を切り替えて事の次第と今後の対応を請うべく本部へと連絡したのであった。

「こちら戦車部隊長っ!本部は応答されたしっ!何なんだ、あの化け物はっ!こんな事になるなんて聞いてないぞっ!」

部隊長は本部が応答する間も与えずまくし立てる。だが、部隊長から連絡を受けたのは担当の通信兵なので部隊長からあの化け物は何だと問われても答えようがない。なので怒鳴りまくる部隊長からの苦言から逃げる為にヘッドホンを外して上官へ助けを求めた。

「大尉、戦車隊の部隊長がカンカンなんですけど?どうします?司令官をお呼びしますか?」

通信兵の問いかけに上官である大尉は渋い顔をする。彼はあくまで通信関係の責任者でしかないので基本今回の異変に責任はない。だが、だからと言ってほいほいと司令官へ部隊長からの責任追求を橋渡ししては後々司令官から嫌味を言われるのは確実だった。

だが大尉のそんな苦渋も司令官自らがやって来てマイクを手にした事により霧散する。


「あーっ、私だ。今回の事は我々にもイレギュラーだった。あの黒い獣を捕獲調査していた部署もあれにそんな能力があるとは判らなかったらしい。なので未確認生物対処班が今こちらに急行している。だからお前たちはそのまま待機しろ。但しあれが何らかのアクションを起こした時は全力で対処しするんだ。」

「対処しろって言われても・・。あいつは対戦車用貫通鉄鋼弾の直撃を凌いだんですよっ!我々はこれ以上攻撃力のある兵器を装備していませんっ!」

「判ってる。今私の権限で中性子ミサイルの使用許可を軍司令部に打診した。だから20分だけなんとかしろ。これは命令だっ!」

「くっ、了解です・・。交信終了。」

司令官に命令と言われては軍人である部隊長にはそれ以上抗議を続ける事は出来なかった。何故ならそれが軍隊と言うものだからである。上官の命令にはそれがどんなに不条理なものだとしても従わなければならないのが軍隊なのだ。そうでなければ基本殺し合いを生業とする軍隊は組織として成り立たない。故にそんな組織を維持する為ならば、もう嫌だと戦場を勝手に離脱した兵士に対して非常な処置がとられる。それは現場の上官権限による裁判無しの銃殺刑だ。


なので司令官からなんとしても黒い獣をその場に釘付けにしろと命令された部隊長は、今度はその死刑宣告にも等しい命令を各戦車長へ通達する。

「部隊長より各戦車長へ。あの化け物に対して司令部は中性子ミサイルの使用を決断した。ただミサイルが飛んでくるまで20分は掛かるらしい。よってそれまで我々はあいつをここから動かさないようにしなければならない。残念だがこれは命令だ。各自、全力を持って対応しろっ!兵器の使用制限は無しだっ!派手にやれっ!」

「・・Aチーム了解。」

「Bチーム・・了解。」

「Cチーム了解・・。」

部隊長からの命令に各チームの戦車長たちからは躊躇いながらも日頃の訓練で染み付いた条件反射の如く気持ちとは裏腹に了解したとの返事が返ってくる。


「よしっ、それではやつを全周包囲しろ。いや、Aチームは観客席側を固めろ。BとCはその左右だ。東側は敢えて空けておく。」

部隊長の命令は一見わざと黒い獣に逃げ道を空けるような感じを受けるがその実、東側は彼らがやって来た方向でありそちらには彼らの部隊に不具合が生じた時用のバックアップ部隊がいた。そしてそれらの部隊も完全武装でこちらに向かっているとの連絡があったのだ。

そして駆けつけて来るバックアップ部隊の車輌数も12台である。これで部隊長側の戦力は倍の24輌となった。獣一匹に最新の戦車24輌で対応する。獅子は獲物を狩る時は全力で襲うと言えば聞こえはいいが、部隊長の不安はこの戦力を以ってしても拭えなかった。


だが黒い獣は戦車長たちに準備をする時間を与える気はさらさらなかったようだ。なのでそれは「みぎゃぁー。」と一鳴きすると次の瞬間部隊長たちの戦車へと襲い掛かったのであった。

なんで?どうして話がラノベにならないんだ?この投稿サイトでは誰もこんな展開や要素なんか望んでいないのに・・。でも諦めたらそこで終わりだっ!と有名なラノベの主人公が言っていた・・はず。だから次こそはヘリウムより軽いお気楽な展開になるようがんばろうっ!おーっ!

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