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雑文SF「ツインズ・ブラッティの大冒険」  作者: ぽっち先生/監修俺
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宇宙、そこは最後のフロンティア

高千穂遥氏の名作「ダーティ・ペア」のパクリです。えっ、ご存じない?そうですか・・。でも本当は知ってるでしょう?隠しても無駄ですよ。

宇宙・・、そこは地球という惑星の表面を開拓し尽くした人類にとって次に挑むべきフロンティアだった。

しかし、意気揚々と宇宙空間へ踏み出した人類はそこで自分たちが如何にちっぽけな存在だったかを思い知らされる。

そう、宇宙とは人類が考えるよりも遥かに大きな存在だったのだ。夜空に輝く星の光を観測する事によって全てを知り尽くし、後はそこに人類の旗を立てるだけだと自惚れていた人類に対し宇宙は実にそっけない態度で真実のみを伝えてきたのであった。

それでも人類は歯を食いしばってこの広大な宇宙を征服しようと汗を流した。そして長い年月をかけ漸く太陽系内の外縁部までコストに見合った時間内で達する術を開発したのだ。

もっとも、これは宇宙全体から見たら箱庭のようなところを征服したに過ぎない。しかし、物事には順序というものがあるのだ。人類はそれを優しき『月』という衛星に教えて貰っていた。

そう、月こそ心優しき女神が人類が宇宙へ進出する為に用意してくれていた浅瀬であり足がかりだったのだ。

なので人類はまず頭上に浮かぶ月を目指した。そして頭がくらくらするくらいの巨費を投じて月の上に最初の第一歩をしるした。その喜びたるやその成功に当時の人々が狂喜乱舞した事からもうかがい知れよう。

その後、そんな心優しき月で宇宙の何たるかを学んだ人類は次に月を拠点として火星や小惑星帯へと進出し、やがて木星や土星へと版図を広げていった。

だが宇宙は広大だった。土星ですら多くの失敗を繰り返して漸く達したのに、その先の天王星や海王星は土星までの距離の2倍以上の距離があったのだ。そう、恒星を周回する惑星には外縁に行くほどお互いの距離が遠くなるという法則があったのである。

だがこれもまた母なる太陽が人類の為に用意してくれていた訓練場だった。これを陸上競技に例えるなら、まず立って歩けるようになるまでが月への到達で、1kmを休まず走れるようになるのが火星への到達だろう。そして記録を競い合う公式種目として次に登場したのが10万メートル走競技くらいに相当する木星だ。

だがここからは走る距離が倍々で増えてゆく。なんと土星に達するには木星までの2倍近い距離があったのだ。しかし、人類は喘ぎ苦しみながらも遮二無二走りきり到達する。

しかし、そんな人類も次の目標である天王星を見て思わず足が止まった。

何故なら天王星は土星までの距離の2倍も遠くにあったのだ。確かに土星も木星までの距離の2倍近く遠くだったが、天王星はその遠かった土星の更に2倍の距離にあったのである。冥王星に至っては4倍以上である。

この途方も無い距離は人類の心を折り、一時期惑星開発は土星までにするべきではという声も上がった。しかし、人類はパイオニアであった。数としては少なかったが一握りの宇宙開拓者は目標が高ければ高いほど燃えたのである。

そんな中、運よくこの時期に新しい理論に基づく宇宙空間推進装置が開発されたのも宇宙開発推進派の背中を後押しした。この推進装置によって人類は常に0.3Gの加速度にて長時間宇宙を航行出来るようになったのだ。

その推進装置の名は『プラズマ亜空間循環エンジン』。プラズマ化した推進剤を亜空間へ噴射する事によって、それまでの数百分の一の燃料消費量で数百倍もの推進力を長時間得る事が出来るようになったのだ。

この推進装置により人類は時間は掛かるが何とか太陽系内の惑星としては最縁部にある冥王星まで到達する事が出来るようになった。因みに今ここで冥王星は惑星とは認められていないという不毛な論争には耳を貸さない。その手の話は火星と木星の間にある小惑星群は実は昔木星の重力により破壊された第5惑星の名残りだった論争で懲りたので・・。

さて、話が反れたので戻すが母なる太陽の庇護もここまでだった。人類は観測により知識としては知っていたのだが、実際そこに立ってみて初めて太陽圏外宇宙の広大さを身をもって実感したのである。

そう、またしてもその先にはそれまでの挑戦とは比べようもない長大な距離という障壁が横たわっていたのだ。その名を『恒星間空間』という。

そこは何もない空間であった。いや、実際には無数の太陽系外縁天体が存在していたのだがそれらの分布範囲は広大でそれらの距離間隔は冥王星までの距離の比ではなかった。ざっくりいうと1万倍以上である。しかもその距離を克服したとしても次の目標である隣の恒星系までは更にその1万倍以上の距離があった。

これによりさしもの宇宙開発推進派たちも自分たちの限界を悟りここまでかと肩を落としたのである。


だがやはり人類はパイオニアであった。200年の年月を要しはしたが、とうとう人間が許容できる時間内で恒星間飛行を可能とする方法を開発したのだっ!

その方法とは『重力ジャンプ』であるっ!これはジャンプなどという名前がついているので時々少年漫画雑誌によくあるトンデモ系とよく間違われるのだがさにあらず。これこそ宇宙空間に満遍なく存在している『重力』というチカラを利用した推進機関なのだっ!

それまでの推進機関は物質が位置変化、つまり移動する時に発生する反作用を利用したものだった。化学燃料ロケットもプラズマ亜空間循環エンジンも、原理的にはどちらも推進剤を放出した反作用で推進するという理屈であった。

なので推進剤が無くなればエンジンはあっという間に役立たずとなった。宇宙開発初期にはそんなお役目を終えたエンジンと空の推進剤タンクを捨てて身軽になり搭載しておいた小型のエンジンにて更なる加速をするなどという、あんたお金持ちだねぇ~と嫌味を言われそうな方法で宇宙へ飛び出した時期もあったが、そんなのは目的地が近場にあったからこそ出来る無理やりな力技だ。

なのでそんな方法では人間の尺度で考えると無限にも等しい恒星間の距離を克服できない。理論的には可能であったが時間が掛かり過ぎた。だから恒星間を人類が許容出来る時間内で行き来するには考え方と技術の切り替えが必要となる。

まぁ、必要となると言われても新しいものを考え生み出すのは容易い事ではない。しかし、神はそんな人類にひとりの天才を遣わされた。

その天才の考えた理屈は簡単に言うとこうだ。

「推進剤なんてデットウエイトよ。そんなの宇宙空間から拾えばいいじゃんっ!」

うんっ、天才の考える事って本当にぶっ飛んでいるよね・・。拾えばいいって・・。そもそも恒星間空間にはほぼ何もないってさっき説明したじゃないっ!

だが、そんな何もないと考えられていた宇宙空間は実はとあるエネルギーで満ち溢れていたのだっ!そのエネルギーの名前はっ!

じゃじゃ~んっ!『ダークマター』だっ!

はい、嘘です。当時も今もダークマターは科学的に存在が確信されているけど見つかっていません。つまり使えない理論です。では天才はどんなエネルギーを拾えばいいと言ったのか?

じゃじゃ~んっ!それは『重力』だっ!

そうっ、この宇宙は重力で満ち溢れていたのだっ!まぁ、確かに重力は代表的な『四つのチカラ』の中でも非力な事で知られていて惑星クラスの質量を持つもの同士じゃないと人間の感覚で作用し合っているのを確認出来ないくらい小さなチカラではあったが、その伝達距離は無限と考えられていたから宇宙に物質がある限りその量は無限大とも言えるエネルギーであった。

宇宙開発初期にはそんな惑星の重力を利用した『スイングバイ』などという方法で探査機を増速させ第二宇宙速度を得るという涙ぐましい方法がとられていたくらいである。

なので理屈の上では重力を利用するのは理に適っていると言えよう。しかし、それはあくまで強大な重力圏があればの事である。先にも言ったが恒星間空間にはほぼ物質が存在しない。なので重力エネルギーを分けて貰う相手がいないのだ。

だがちょっとだけ科学的な事に興味を持ち合わせている御仁ならば、重力のチカラの伝達範囲はほぼ無限だという事をSF小説を読んで得ているはずである。

そうっ!重力とはほぼ無限の距離を隔てていても相互作用を起こしあうチカラなのだっ!

もっともそのチカラは距離の2乗に比例して弱くなっていくらしいので重力圏の近くでないと実用に耐えるチカラを分けて貰う事はできない。あの化け物級の質量を持ち、一旦その重力圏に捕らえられたら光ですら脱出できないと言われているブラックホールですら、規模と位置関係にもよるが結構近くまで近づいても昔の化学燃料ロケットの推進力程度で易々と離れる事が出来るはずなのだ。

それ程、重力とは距離が離れるほどチカラが減衰してしまうものなのであった。


だがやはり天才は天才であり凡人とは違うものであった。なんと彼女は「宇宙のみんなっ!オラに少しだけみんなの重力を分けてくれっ!」と言って集める方法を編み出してしまったのだっ!すごいぞ天才っ!なんか自分もそんな凄い存在と同じ種だと思うだけで自分が偉くなった気になるよっ!

あっ、因みに今天才と呼んでいる方は女性です。しかもこの理論を発表したのは20代でした。すごいねぇ、やっぱり若さってのは可能性の塊なんだね。う~んっ、負けていられないぞっ!男子諸君っ!そんな彼女の名前は・・、えーと、自分で調べて下さい。それくらい自分でやらないと彼女に笑われちゃうぞっ!


さて、そんな理論のブレイクスルーをもたらした彼女の重力推進機関だけど、動作理論はすごく難しいので説明は省きます。だって皆さんだって説明されても多分理解できません。

でも動作理論が理解できなくたってこうすればいいのよと言って貰えれば物は作れます。そうして出来上がったのが恒星間航行用推進機関『マリー・アフロディーテ』だっ!

恒星間航行用推進機関『マリー・アフロディーテ』。これのすごいところは色々あるが、その中でも伸びしろの可能性が凄かった。当初は絶対推力値においてプラズマ亜空間循環エンジンはおろか昔の化学燃料ロケットにすら負けていたのだが、数々の改良によって忽ち既存の推進装置を凌駕する値を叩き出すようになった。

しまいには副産物として宇宙船内に人工重力まで作れるようになったのだからウハウハである。

そうっ、人工重力っ!これこそアニメやSF映画でとんでも設定と馬鹿にされる最大のご都合主義だっ!だが安心してくれたまえっ、諸君っ!我々人類は人工重力を手に入れたのだっ!もう、ご都合主義だなんて誰にも言わせないぜっ!

まっ、その動作原理を説明するにはマリー博士が発表した700ページもある論文とそ中に出てくる理論を解説した36もの別論文の内容を説明しなくてはならないのでここでは割愛する。興味のある方はご自分で確認して下さい。というか私には理解できませんでした・・。


しかし、そんな夢の恒星間航行用推進機関『マリー・アフロディーテ』にも欠点はあった・・。いや、これを欠点と言ってしまうのはどうかと思うのだが確かに既存の推進装置と比べるとこの一点だけが劣っていたのだ。

その欠点とは『推力』である。あっ、『推力比』じゃなくて『推力』だから間違えないように。推力比に関しては『マリー・アフロディーテ』はピカイチの性能を叩き出しているからっ!でも残念ながら開発初期に発生させることが出来た推力に関しては既存の化学燃料ロケットにも劣っていたのは先ほど話したとおりである・・。

これは初期のイオンエンジンと同じような要因からくるもので、それはぶっちゃけ推進力として運用する恒星間に満ち溢れている『重力』のチカラあまりにも非力だったのが原因だ。

これを例えるなら一億円を用意するのに1万円札なら1万枚で済むのだけど、1円玉で用意しようとすると1億枚必要になるのに似ている。・・、似ているかな?むーっ、どうだろう?

因みに1円玉1枚の重量は1グラムらしいので1億個用意すると1億グラム、つまり10万キログラムだ。トンで表すと100トンになる。うんっ、とてもじゃないけどサイフに入れて買い物には行けないね。

さて、話がちょっと反れたので戻すが、つまり夢の恒星間航行用推進機関『マリー・アフロディーテ』は推進力に宇宙空間に満ち溢れている重力のチカラを使うのだけど、その重力のチカラは微々たるものだったので大きなサイフを用意しないと隣町のショッピングモールまで買い物へ行けなかったのである。

いや、必ずしも行けない訳ではないのだけど高速道路の法定速度まで加速するのに時間が丸一日かかった・・。しかも減速するのにも同じだけの時間がかかるので実質2日である。これだと自転車の方がまだ速い。もっとも自転車の場合はこぎ手の燃費が悪くて途中で食事を取らないと隣町まで漕いで行けないという難点があったので比較のしようがないのだけど・・。


勿論力技で大きなサイフを用意するか、もしくは時間をかければプラズマ亜空間循環エンジンをも凌駕する速度を恒星間航行用推進機関『マリー・アフロディーテ』は得る事が出来たのだが残念ながら当時の技術ではそんな大きなサイフは用意できなかったのである。それに時間に関しては人間の寿命が関係するし、そもそも時間が掛かり過ぎると乗組員の食料とかモチベーションという別の問題も出てくるからね。

だがそんな痛し痒しな状態になると俄然本領を発揮する人種が人類には存在した。そう、それは『日本人』だっ!

昔からこの日本人という人種は微細加工と装置の改良を得意としていた。なので微力な重力を効率よく集める方法を発明すべく、それこそ寝食を忘れて研究にまい進したのだ。そしてとうとう彼らはそれまでの装置よりも100倍も効率よく重力のチカラを集める方法を見つけ出したのだっ!すごいぞ日本人っ!これぞワンチームのチカラだっ!今夜はお赤飯でお祝いだぜっ!

因みにこの手の発見は仮にチームで作業をしていてもリーダーの名前が業績に残るものなのだが、この発見というか改良を成し遂げた日本人たちは後世にチーム名で名を残した。なので文献などにも個人名ではなくチーム名で紹介されている。そのチーム名とは・・。

サムライ・ジャムパンだっ!

まっ、冗談はさておき、この業績により1億円を用意するのに1円玉ではなく100円玉を使えるようになった。しかもこの方法には伸びしろがあり、いずれは500円玉や千円札で1億円を用意できる見通しが発見当時から既に予測されていた。

そして現在では更に改良が施され小切手で支払いが出来るまでになっている。そう、1億円だろうが100億円だろうが紙切れ1枚にサインすれば済んでしまうようになったのである。


しかもこの恒星間航行用推進機関『マリー・アフロディーテ』は、これまた発明当時から予測されていたのだが、その動作原理から相対性理論(特殊相対論)上において発生する質量増加とローレンツ変換等の数学上の矛盾の壁をあっさりと打ち砕いた。

いや、これによって特殊相対性理論やローレンツ変換が間違いだったという訳ではない。ただそれらの問題を回避する別の原理が存在し、マリー・アフロディーテはそれを使って光速の壁をあっさりと乗り越えてしまったのだ。


かくして現在恒星間を行き来する宇宙船の巡航速度は光速の100倍なんてのは当たり前であり、最新の研究用実験船と一部の軍用高速宇宙艦は300光速以上の値を叩き出している。因みに300光速とは光速の300倍という意味だ。これは地球の大気圏内を飛行する航空機の速度を音の伝達速度を基準にマッハいくらと表現するのと同じである。

しかし、それでも宇宙は広大だった。恒星間航行用推進機関『マリー・アフロディーテ』によって人類はそれまで夢でしかなかった恒星間航行を現実のものとしたのだが、そんな人類の前へ次に立ちはだかったのは『情報』の壁だった。


さて、それでは人類の前へ次に立ちはだかった『情報』の壁とはどの様なものなのかを説明しよう。

これは例えるなら隣町の友人へ手紙で用件を伝えるのに似ている。今では電波や電信を使った高速通信が普通なのでピンとこないかも知れないが、それらが発明される前は遠地へ情報を伝える最良の手段は手紙であった。つまり情報を人が運んでいたのである。なので当然時間がかかった。

これに関してはちょっとした逸話があるのでここで紹介しておこう。

さて、現在も過去でも有用な情報を誰よりも早く把握したものが他を出し抜き優位になれるのはご存知だろう。特に経済界では地域ごとに異なる情報伝達速度の幅を利用してお金を増やすなんて事が横行した時期もある。その代表的な逸話としてイギリスの大富豪ロスチャイルド家の話は有名である。


時は1815年6月18日。日本ではまだ徳川幕府が磐石な体制を維持していた頃、遠く欧州では仏国とその周辺国が覇権を賭けて争っていた。そして当時そんな仏国を率いていたのがかの有名なナポレオン・ボナパルドである。

もっともこの時のナポレオンはロシア遠征に失敗して一回失脚した後の返り咲きだった。だがそれ故に英国などの周辺各国はナポレオンからの逆襲を恐れ、今度こそ完膚なきまでにナポレオンを叩き潰そうと対仏国同盟軍を組織し決戦の地『ワーテルロー』へ向けて進軍していた。

この『ワーテルローの戦い』に関しては語りだすと日が暮れてしまうので詳しくは説明しないが周辺各国はなんとかナポレオンが率いた仏国軍の殲滅に成功した。

そしてここからが『情報』の持つチカラが如何に強大であるかとの話となる。もっとも情報自体は唯の知識や結果でしかない。だがそこに人間が関わると、これから説明するような事が起こりえるのである。

『ワーテルローの戦い』が同盟軍の勝利で幕を閉じた翌日。その事を知っていたのはワーテルローで戦った兵士たちとその周辺にいた住民だけであった。仏国国民はもとより同盟軍の母国でも自国が参戦した戦いの天王山たる『ワーテルローの戦い』の結果はまだ誰も知りえていなかったのである。

そんな中、ひとりの男がオランダの港から英国へ向かう船に飛び乗る。手には朝イチで刷り上ったばかりの新聞を握り締めていた。そしてその新聞の第一面には同盟軍の大勝利が大きく書かれていたのだ。

そして翌日の6月20日未明、男が運んだ新聞は英国のフォークストーンの港で別の男の手に渡される。その男こそ当時のロスチャイルド家の当主であったネイサン・ロスチャイルドである。そしてここが肝心なのだが、その時英国にて『ワーテルローの戦い』の結果を正確に知っていたのは彼だけだったのである。これが意味する事は明白であろう。そう、彼は『情報』を独占していたのだ。

もっともこの独占も時が経てば霧散してしまう。なのでネイサン・ロスチャイルドは迅速に行動した。具体的にはロンドンに向けて馬車を走らせたのである。そう、情報とは生ものであり且つ持っているだけではあまり意味を成さない。その情報を使って動くことによって利益やチャンスを手に出来るのだ。

ではネイサン・ロスチャイルドはどのようにして『情報』を活用し利益を上げたのか?それは債権だった。彼はロンドンの証券取引所にて『ワーテルローの戦い』の結果次第で大きく値が動く債権を『売り』に出したのである。そう、彼はまず『買い』ではなく『売り』から始めたのだ。これは別にその時彼が保有していた不良債権化するのが目に見えている債権を売りに出したのではない。みなが『ワーテルローの戦い』の結果を知れば高騰する事間違い無しの英国が発行する『コンソル公債』を彼はまず『売り』に出したのである。

ここら辺が凡人と才覚のある者との違いであろう。彼は『ワーテルローの戦い』の結果という『情報』をそのまま使うのではなく、その情報にひと手間掛けて手にする利益を何十倍にもする策を打ったのだ。

その仕組みはこうである。まずネイサン・ロスチャイルドは当時でもそこそこの資産家であった。そして情報通であると資本家たちからも見られていた。なのでここでネイサンが『コンソル公債』を『買い』始めるとそれを見た投資家たちは「あのネイサン・ロスチャイルドがコンソル公債を買い始めたっ!と言う事は英国軍はナポレオンを打ち負かしたんだっ!これはぐすぐすしていられない。コンソル公債は高騰するぞっ!私も全財産をつぎ込まねばっ!」と勘ぐり、みなが一斉にコンソル公債の購入に走るであろう。そうなると如何に先陣を切ってコンソル公債を買い始めても高騰した債券では量が買えないし利幅も薄くなる。

なのでネイサン・ロスチャイルドは一芝居を打ち、まずは『売り』から始めて投資家たちにコンソル公債は暴落すると思い込ませたのである。

これぞ持てる者の才覚というものであろう。もしもこの時ネイサン・ロスチャイルドがそれ程資産もなく他の投資家たちからも注目されていなければ彼が打った芝居は不発に終わったはずである。つまり彼は『情報』だけでなく『動かせる資産』と『他人を信じ込ませられるだけの信用』を持っていたからこそ今回のような博打が打てたのだ。

結果を言うと彼の行動に惑わされた投資家たちは手持ちのコンソル公債を全て売りに出した。なので当然コンソル公債の値打ちは暴落する。そうなった後、ネイサンは次に密かにコンソル公債を安値で買い漁ったのだ。そう、『買い』に関してはネイサンは密かに行った。何故なら大々的に買い戻してはまたしてもネイサンの動向に注目している投資家たちがネイサンの意図に気づき参入してきてしまうからである。

かくしてネイサンは大量のコンソル公債を底値で手に入れた。後は正式な『ワーテルローの戦い』の結果が英国の投資家たちに届くのを待つだけだ。そしてその報が届くやいなや投資家たちはまたしてもこぞって高騰するのが確実なコンソル公債を買いに走る。そしてコンソル公債の価値はうなぎ上りに上昇しネイサンは投資家たちの熱が冷める前に安値で買い占めた膨大な量のコンソル公債を売りに出すだけだった。

こうしてネイサン・ロスチャイルドはちょっとした芝居と資産運用にて自身の資産を何十倍にもしたのである。

今を生きる人の感覚からはネイサン・ロスチャイルドはえげつねぇなぁと思えるかも知れないが、まぁお金を儲けるなんてのは大抵はえげつないものである。ようはチャンスを見逃さなかったやつが勝ちなのだ。


しかしネイサン・ロスチャイルドの時代ならその程度のチャンスでも大金を儲ける事ができたが今ではこの方法はあまり使えない。何故なら現在は電波や電信を使えるところなら誰でも通信機器のボタンを押せばあっという間に相手に繋がり情報を伝えられるからだ。しかもそれら電波や電信がカバーしている範囲はグローバルであり地球全体を網羅している。なので現在は情報伝達の遅延という現象は存在しないのだ。

だから今時の人々は手紙などで用件を伝えたりはしない。何故なら電波や電信を使った方が断然便利だし早いからである。

しかし、これは電波や電信を使った高速通信が光の速さで情報を伝えられるからであり、地球規模でも遅延が許容範囲内に収まるのは通信に使用している電波や電気信号の速度が1秒間で地球を7周半も出来るからである。そう、電波や電信を使った高速通信はその情報伝達速度において他を寄せ付けない速度を有しているのだ。


だがそんな宇宙最速の電波を持ってしても宇宙の広大さには白旗を掲げざる得なかった。確かに電波は光や重力と同じく宇宙の最高速度という肩書きを有しており、進んだ距離によって減衰はしつつもどこまでも届くという性質を持っていた。だがそんな宇宙最高速度を以ってしても地球から隣の恒星まで情報を伝えるには4年以上の時間がかかったのである。これが100光年離れた恒星となれば情報を発信した者は相手に情報が伝わる前に寿命を迎えるであろう。

そう、人類は恒星間航行用推進機関『マリー・アフロディーテ』によって生存圏を何百光年もの彼方まで拡張していったが、その距離が逆にそれぞれの恒星間において情報の共有化に齟齬をもたらしたのである。つまりそれぞれの移住先恒星圏は情報の孤島と化したのだ。

これについては恒星間航行用推進機関『マリー・アフロディーテ』によって人の往来は出来たのなら何が問題なのかと首を傾げる御仁もいるかも知れないが、遠く離れ離れになった者同士が人類のアイディンティティを維持するには情報の共用が不可欠なのだ。これなくしてはそれぞれの恒星にて独自の生活圏が生まれてしまい世代を重ねるごとに自分たちは地球人であるという意識が薄れ、それはやがていらぬ争いの種となり人類という種の存続すら危うくしかねない危険なものだったのだ。

そこで人類はコストを度外視して人類が移住した恒星間に『情報船』という宇宙船を飛ばした。これならば100光年離れた恒星間でも2年以内に『最新』の情報を届けられる。その時間差は『情報船』の性能が上がる度に縮まり情報船が一番活躍した時代では100光年離れた恒星間でも1年以内に『最新』の情報を届けられていた。

人々はそんな情報を運ぶ船を大昔の情報伝達組織の代名詞であった郵便事業になぞらえ『郵便船』と呼んでいた。


だが、それでも人類は情報の遅延に納得できない者もいた。そしてそんな者たちは何とかして郵便船より速く情報のやり取りが出来る方法はないかと模索し、とうとうその解決策を見つけたのであるっ!

その解決策とはっ!

じゃじゃ~んっ!『わーるどわいわいうえーぶ』略してwwwだっ!

『わーるどわいわいうえーぶ』は云わば情報の『マリー・アフロディーテ』である。但し、恒星間航行用推進機関『マリー・アフロディーテ』は宇宙に無尽蔵に存在する『重力』を活用したが『わーるどわいわいうえーぶ』は『空間』そのものを利用した情報伝達手段だ。その動作原理は・・、申し訳ないが難しくて説明できない・・。

実際、この方法を発明したベルソン博士もなんでこんな現象が起こるのか解明できなかった。しかし、先にも言ったが動作理論が理解できなくてもこうすればこうなるという因果律が判ってしまえばそれを活用する事は出来るのである。そうして出来上がったのが通信速度が光速の1千倍を超える『わーるどわいわいうえーぶ』略してwwwであった。

この『わーるどわいわいうえーぶ』の発明によって人類は遠く離れた恒星間であっても許容出来る時差にて情報のやり取りが可能となった。そしてその後も『わーるどわいわいうえーぶ』の情報伝達速度は向上を続け、現在では光速の2千500倍くらいで通信事業を展開している事業者は普通で、最速を誇る本家のベルソン通信社が提供する通信システム『ネッター』は光速の3千倍の情報伝達速度を誇っている。

因みに他の情報伝達事業者で有名なのは『ドコム』とか『エーディ』などである。

かくして『わーるどわいわいうえーぶ』の情報網が人類の版図にくまなく広がるにつれ、それまで恒星間の情報伝達を一手に担っていた郵便船は役割を終える。但し郵便船が完全に無くなる事は無く一部の国家文書などは今でも郵便船での輸送が慣例となって残っていた。

とは言っても殆どの事において郵便船が『わーるどわいわいうえーぶ』に勝てる要素はない。国家文書ですらグレードの低い物は強化された暗号化を施され『わーるどわいわいうえーぶ』にてやり取りされている。

なので郵便船が時代遅れな事には変わりなく、今ではその存在を知らない者も多い。そう、郵便船こそ宇宙開拓時代初期に咲いたあだ花。新たな情報手段の出現によりその座を追われた現代の『恐竜』なのであった。


そんな情報伝達手段において宇宙の新たな覇者となった『わーるどわいわいうえーぶ』であるが、ここで忘れてはいけないのがロスチャイルド卿の時代より現代まで『情報』を握った者が莫大な富を得られるという事である。そして富を得た者はその富を活用して更に新たな事業を展開し巨大な組織へと変貌してゆくのであった。

つまり、金持ちは金を使って更に金持ちとなり得るが、貧乏人は活用できる資金が無い故にいつまでも貧乏なままという人類の不文律が今も成り立つのであった。

とは言っても巨大化した組織が多くの安定した雇用を生み出しているのも事実である。そんな事業のひとつが『わーるどわいわいうえーぶセキュリティ』略称wwwsであった。


『わーるどわいわいうえーぶセキュリティ』は元々ベルソン通信社の保安部門だったのだが、通信事業各社が宇宙に展開する事業範囲の安全をそれぞれ個別で担保するのは効率が悪いとなり各通信事業社が資本を出し合ってそれぞれが管理していた保安部門を統合し新たに設立した機関が『新わーるどわいわいうえーぶセキュリティ』である。

だが何故か人々は『新』という名称を付けずに単に『わーるどわいわいうえーぶセキュリティ』と呼んでいる。書類上の正式名称は『新わーるどわいわいうえーぶセキュリティ』なのだが、業界最王手であるベルソン通信社の保安部門だった名と実績はそれ程安心感を人々にもたらすものだったのだろう。

そして『わーるどわいわいうえーぶセキュリティ』は資本的には各通信事業社が株主となっているが、通信事業に関するセキュリティに関しては完全に独立した権限を有している。つまり株主と言えどもわーるどわいわいうえーぶの安全に関する事で不正や支障をきたす行為をした場合は『わーるどわいわいうえーぶセキュリティ』からの査察が入り処分されるのだ。それ程この時代では『わーるどわいわいうえーぶセキュリティ』はなくてはならない存在であり、その存在を脅かすものは例え身内であろうと処分されるのであった。


そんな厳しい掟で活動する『わーるどわいわいうえーぶセキュリティ』は恒星国家から無条件での武力行使権を承認されており、その為国家が統制する警察組織よりある意味頼りがいのある組織であった。

元々連邦には恒星間規模犯罪を取り締まる機関として連邦警察が存在したが、その活動は主に諜報活動などの証拠固めが主であり武力行使能力はそれ程有していなかった。それらの実力行使は連邦宇宙軍が担っていたのである。

なのでテロや犯罪等が恒星国家の権力外まで影響を及ぼす規模の場合、一々連邦政府へ自国の警察活動の範囲拡大願いを提出をしたり、連邦宇宙軍の派遣を依頼していては犯人を取り逃がしたり被害を拡大させてしまう場合が多い。

なので恒星国家や恒星間グローバル企業などは、問題が発生した時には連邦政府や連邦警察ではなく『わーるどわいわいうえーぶセキュリティ』へ問題の解決を依頼した。

もっとも『わーるどわいわいうえーぶセキュリティ』へ問題解決を依頼するにしてもそこには制限があり、それは『わーるどわいわいうえーぶ』に関する事案である事が大前提であった。

しかし、昨今恒星間通信を介さない重大犯罪などは存在しえないのでこの規制は最早建前でしかない。なので『わーるどわいわいうえーぶセキュリティ』への依頼は後を絶たず、現場の危機解決担当員たちは専用のカスタムされた宇宙船にて今日も宇宙を駆け回っているのであった。

はい、ここまでで紙の本だと20ページくらいの文量があります。よくもまぁくじけずに読みましたね。

そんなあなたへのご褒美として次回からは漸くキャラクターたちのお喋りが始まります。思いっきり『ラノベ』していますのでハードSFを期待している方はがっかりして下さい。

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