旅にでるぞ!
ここは地球ではなく異世界。剣と魔法のファンタジーだし、魔物もいるし、勇者もいるし、魔王もいる(らしい)。
大概の異世界ファンタジーの小説では、主人公がなんだかんだでチートで、仲間にとても愛されて、周囲の人にすごい畏怖と尊敬の目を向けられて…etc。数え上げたらキリがないが少なくとも、私の旅ではあまりそういったことは期待しない方がいいんじゃないかと思っちゃう。うん。
前置きが長くなってしまった。私の名前はウチダ。15年前になんだかんだでこの世界に来て、なんだかんだで15年もこの世界に滞在してしまっている。さて、私はこれから旅に出るところだ。14年間お世話になった家を出て、今更ながらだがこの異世界を見て回りたいと考えた。
そんな私の旅の相棒を紹介しよう。今私の頭の上に乗ってる(被っている)とんがり帽子はトン。なんと意思疎通が可能。この世界に来て一番長く一緒にいるし、お互いのことはよく分かる。そしてこの異世界で出会った少女、エミ。今は14歳の、バリバリの育ち盛りである。
「ウチダ。これからどうやって生活するつもりですか?旅して回るのなら、手取り早くギルドに登録した方が色々とお得だそうですよ?」
とてもとても長いサラサラの金髪を中盤のラ○ンツェルみたいに結び、桔梗色の瞳を宿したエミが質問を投げかける。
「確かに、ギルドに登録すれば手数料は取られるけど、危険すぎる依頼は基本来ないし、もし命を落としても遺族へのある程度の支援が期待できるって聞いたカプ!」
頭の上にいるトンが更に追加で説明する。
「もー!ダメでしょトン!私達と話すときはその変な語尾ごと存在を消すか、来世への自分に期待してからにしなさいって前にも言ったでしょ!」
「それほぼ遠回しに死ねって言ってるだけな気がするカプ!」
まあありきたりなコントは置いといてだ。ギルドに登録?どうするかはすでに決めている。2人(?)には悪いが私は今回旅をするって決めたとき、すでにこの手筈は整えておいた!
「色々と提案してくれて申し訳ないんだけど、ギルドには入らずに、"パーティ"として、これから旅をしたいって思っているんだ!」
「「了解です(カプ)。」」
………?
「あ、あれ?ここは驚いた顔してエクスクラメーションたっぷりつけたところで『やれやれ…』っていいながら私の意見に賛同するシーンじゃないの?」
この世界でいう"パーティ"とは、どのギルドにも所属せず、個人で依頼を受ける人達である。ギルドとは違い、報酬はこちら側が勝手に決めていいし、手数料なんて取られる心配はないが、その代わりどんな危険な依頼も承ることが前提とされるものであり、遺族への補償もない。相当腕が立つ人か、とにかく荒稼ぎしたい人ぐらいしか、なりたい人はいないだろう。いわば某無免許天才外科医みたいなものだ。
「サプライズしたかったんカプ…。」
「それは申し訳ないことをしました。しかし、正直知ってたのでこればかりはなんとも。」
「知ってたの!?なんで!?」
「だって昨日夜遅くまで1人でコソコソ作ってたじゃないですか。
----------------旅のしおり。」
「作っておいて結局部屋に置き忘れてたからついでに持ってきといたカプ。」
「ガッデム!重大発表後に『それでは、お手元の資料をご覧ください。』って言いながら仕事が出来る秘書風に計画を話そうと思ってたのに!恥ずかしっ!」
「じゃあ資料置き忘れんなよカプ。しかものり付けが上手くいってないから微妙に剥がれかけているカプ。」
「ちょっ、今だけは私を見ないで。顔が今スクランブル交差点だから!」
「意味が不明です。なんですかそのスクランブルなんとかって。」
「色んな感情が入り混じって顔がグチャグチャになってるってこと!ってなんで自分のボケを自分で解説するハメになるの!余計恥ずかしいわ!」
「じゃあやるなよカプ」
----------15秒後-----------
「いや、意外と立ち直り早いカプ。ここまで空白入れたんならせめて分単位で落ち込めカプ。」
「何の話をしているんですか。」
いや、意外と現実そんなもんだろ。そんな何分もうだうだするほど切り替え遅くはねーんだわ。
「えーと…とりあえず、パーティとして旅に出ますか?」
「それもそうですね。ギルド勧めておいてなんですけど、正直こうなることはしおりを読まなくても予想ついていましたので。」
「とりあえずどうやって依頼を募集するんだカプ?ギルドと違って、こっちから動かないと存在すら認識してくれないカプ。下手したら一文なしが何日もとかあり得るカプ」
「………。」
「ウソだろカプ…ここまで引っ張っておいてまさかのノープランカプか!?」
「はい、じゃあ今日の夕食は二人で大体ポテトニ皿分かな?これからじゃんじゃん稼がないとね!」
「僕を売るつもりカプ!?しかもポテト二皿分って夕食にするにはちょっと少ないかなって微妙な値段で売れたカプな!?」
私達の冒険はまだまだこれからだ!(始まってもいない)