零話:カズヤ
「カズ君っ」
教室でぼーっとしていると名前を呼ばれた。
入口を見ると一人の少女が立っている。
「遅くなってごめんね。楽器のお手入れに時間かかっちゃって・・・」
体全体から申し訳ないオーラが発せられてきて、逆にこっちが申し訳ない気になってくる。
「気にしなくていいよサチ。さっきまで寝てたから」
そう言って笑顔を向けながらおいで、と手招き。
近寄ってきたサチは既に笑顔になっていて、俺の心を癒してくれる。
「今日も部活お疲れ様。楽しかった?」
「うん!楽しかったよ」
サチは吹奏楽部に入っていて、部活終わりにこうして毎日会っている。
いつもその日にあった出来事を楽しそうに話してくれたり、習った曲を聴かせてくれたりする。
心から楽しそうに笑うサチをちょっと羨ましく思う。
「俺にも楽しい思いをさせてよ」
サチの顔に手を添え、そのままキスをした。
拒絶する素振りを見せたものの、実際は抵抗せずに受け入れてくれた。
「誰かに見られたらどうするの?」
照れて赤くなった顔で睨んで来る。
何度キスしても毎回照れるサチは可愛い。
「サチが可愛いからいけないんだよ。それに、見られて困るものじゃないからね」
そう言いながらもう一度キスをする。
今度はさっきよりも、深く長く。
口を離した時にお互いの唇から唾液の橋が出来ていた。
慌てて口を拭う仕草も可愛い。
「ところで、それ何?」
顔を真っ赤にしながら、誤魔化すように俺の机を指差す。
「何って・・・折り紙だよ」
「そうじゃなくって!折り紙で何作ったの?」
さすがに折り紙くらいはわかるか。ちょっと怒らせてしまった。
サチはツリ目のせいで元々キツク見えるから、怒らせると見た目は本当に怖く見える。
怖く見えるだけで全然怖くないんだけど。
「ツルとかカエルとか色々かな」
「へぇー、これどうするの?」
「捨てるつもりだけど、要る?」
こんなの欲しがるヤツなんて居ないだろ。
そう思って冗談半分に訊いたんだけど。
「欲しいっ」
って言われてしまった。
ほんとに子供っぽいんだから。
「好きなの持っていきなよ。残ったヤツは捨てるから」
「んー・・・。じゃあコレ」
サチが手に取ったのはアイツが一番初めに折ったツル。
結局、折り方教えてくれなかったから折れなかったんだよ。
「コレが一番キレイに出来てるから」
たかが紙切れを大事そうに持つ姿は、とても純粋な子供のように見えた。
こうなると見た目も中身も子供って事になるなぁ。
「んじゃ他は帰る途中で捨てようか。行こう?」
「うん!」
二人で手を繋ぎながら教室を出た。
この学校は学年が上がる毎に階数も上がる。
俺は三年だから三階で、サチは一年だから一階。
「そういえばね」
階段を下りてる途中で、サチが思い出したように口を開いた。
「今日のお昼休みに階段で人とぶつかっちゃった」
怪我はないから大丈夫だよ、と心配する俺に軽く手を振る。
「その人急に飛び降りてきて、危うくぶつかる程度じゃすまなかったよっ」
私怒ってますって顔をしながら階段を下りていく。
つうか飛び降りるって、そんな下り方するやつアイツしか知らないんだけど。
急いでたから間違いなく飛び降りてるだろうし。
「なぁそいつ、背高くて顔良くて髪にメッシュ入ってなかった?」
「顔は覚えてないけど、背高くてメッシュは入ってたかも。もしかしてお友達?」
メッシュ入ってるなら間違いないな。
教師に怒られても平気で髪の毛染めるのはアイツくらいだし。
「それたぶんうちのクラスメイト。明日一言言っとくよ」
「ちゃんと叱っといてね?ほんとに危なかったんだからっ」
「うん、ちゃんと言うから大丈夫だよ」
それを聞いて安心したのか、笑顔に戻ってくれた。
その後は友達とこんな事話したとか、適当な話題を繋げながらサチの家に向かって歩いていく。
「今日も寄って行っていい?」
サチは一人暮らし。
寄って行くって事はつまりはそうゆうコト。
「・・・・うん。いいよ」
先に訊いてしまえば断れないって事もわかっていた。
なんだか悪いコトしてる気分になってくる。
でも、好きなんだから仕方ないよね。
「お邪魔しまーっす」
サチの部屋はワンルーム。
一人で居る時は狭く感じないのかもしれないけど、二人で居ると正直狭く感じる。
部屋自体は割とキレイにしていて、と言うよりも荷物が少ない。
「ねぇ、何か飲む?」
冷蔵庫を開けながらこちらを向く。
「ん〜、そうだなぁ」
冷蔵庫を覗くフリをしてサチを抱きしめる。
「飲み物よりサチがイイ」
「・・・言うと思った」
キスを交わし、サチを抱えてベッドへ。
明るいのは嫌だって言うから電気は最初から点けていない。
ベッドの上へサチを放り投げて、上から抱きしめる。
「サチ、好きだよ」
耳元で甘く囁きながら手は胸へ。
ブラジャーの硬い感触を邪魔に思いながら手を動かす。
「私も、好き」
サチの言葉を最後まで聞く前に自分の唇で塞いだ。
ここからはもう言葉は要らない。
必要なのはお互いの気持ちだけだから。