8話 再会
「ほら、15年くらい前、塾でお世話になりました、佐野啓介です! 綾瀬とか星月とかと一緒に補習してもらっていた、あの佐野です!」
「あ、佐野か! 思い出したぞ。え、お前が社長なのか?」
佐野は、塾で教えていた生徒のうちの1人だった。
「そうですけど。先生なんであの時いなくなったんですか? というか彼女たちとの繋がりはなんですか?」
佐野は、質問だらけで慌ててしまっている。無事にロケット飛ぶかな。
「昔のことは打ち上げが無事終わったらしてやる。この子たちは私の娘だ」
「娘!? そう言われればなんとなくそう見えますが……。あ、優佳は今日ここに来てるので呼んできますね」
そういうと返事も待たずに佐野は行ってしまった。優佳とは、確か同じ教え子のうちの綾瀬優佳かな。
「まさかこんなところで教え子に出会えるとはな。佐野はあれから変わらず宇宙のことを調べていたとは」
「塾講師時代の教え子さんですか。あとで紹介してくださいね」
ミアは私の教え子に興味があるらしい。なんか恥ずかしいな。
「あぁ、勿論だ」
バタバタと走り込んでくる音が聞こえた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、ほんとだ、入谷先生だ、はぁ」
佐野から連絡を受けて、全速力で向かってきたらしい。ちなみに佐野はまだ帰ってきていない。
「久しぶり。そんな走ってどうした」
「先生が昔、突然消えるからですよ! あの時から聞きたいことたくさんあるんですから!」
駄々っ子のように叫ぶ綾瀬。早く宥めないと、周りで準備してくれている方々に迷惑になってしまう。
「なんで綾瀬もここにいるかはひとまず置いとして、星月や柴田、園倉にも声かけてみてくれないか? どうせならみんなに会いたい。連絡先くらい交換しているだろう」
「わかりました」
綾瀬が電話をかけてくれ、私も電話に出たりしている間に、佐野が帰ってきた。綾瀬どんだけ足早いんだよ。
「ほんと元気だな優佳は……。先生、駐車場に止まっていた、あのヘンテコな車は先生たちのですか?」
「ヘンテコ? あぁ、知らない人たちからしたらそうかもしれないな。あれ、一応LEVEL5の自動運転車『リンカー』なんだよ」
「「「え?」」」
佐野や綾瀬だけでなく、職員の人たちも耳をそばだてていたようだ。LELEL5の自動運転技術はまだ実現されていない、未知の技術。現在実用化されているのは渋滞時や高速での自動追従システムなどが搭載されたLEVEL2だが、『リンカー』が搭載するLEVEL5は、道路がなくても周囲を認識して全ての操作をクルマが行う。
「まだ東京とか人が多いところでは試してないから完全ではないけど、ほぼほぼ完成したといっても過言ではないわね」
リーナは褒められて嬉しそうだ。
「ロケットの技術を見るだけで嘘じゃないと分かるけど、それにしても……。あの形状にはどんな理由があるんですか?」
「今までのクルマは、運転者が車の幅や長さを把握しやすくするために四角い形がスタンダードだけど、自動運転に任せてしまえるのなら四角い必要がない」
マニュアル車とオートマ車はほとんど形が変わらないが、自動運転ともなると今の形である必要がないことにエリーは気づいていた。
「むしろ、なんらかの衝撃が起きてしまった時のために丸い方がいいからね。そして、運転席が必要ないことからボンネットは前にある必要がないし、空気抵抗を減らすために前窓も丸いほうが良い」
「あの形が自動運転車の最終形態になると?」
「まだ検証段階だけどね。タイヤももう少し改良できると思う」
エリーは話が通じる相手を久々に見つけたからか、佐野の質問にしっかり答えていた。
「やっぱり先生の子供はこうなるわよね。知ってたけども」
心外だな綾瀬。もう私の手に負えていないぞ。
「イリヤ、この子たちにどんなこと教えたんですか……」
最近ミアはため息しかついてないな。幸せが逃げていくぞ。
「3人は仕事を早退してこちらに来るそうです。ロケット発射が無事終わったら空港まで迎えに行くのはどうでしょうか」
綾瀬の電話を受けて、3人ともすぐくるらしい。行動の積極性は大切だと教えたからな。しっかりみんな覚えてるみたいだ。
ちなみにヴィーナ以外の娘たちは雑談に入ったのを確認して、管制室の中を探検しに行っていた。迷惑はかけるなよ。
「そうだな。2人はどこに住んでいるんだ?」
私の中では、教え子の5人を私たちの町に呼ぼうと考え始めていた。
「ここからすぐのところです」
「一緒にか?」
佐野はともかく、綾瀬まで北海道にいるのはなぜなのか気になった。
「実は、私たち結婚しまして」
「そうなのか!? おめでとう!」
なるほどな、そういうことか。
「あ、ありがとうございます。ちなみに、園倉と柴田も結婚しまして」
「ほぅ、それはそれは、おめでたいが……」
「もうひとりの星月さんが可哀想ですね」
ヴィーナが拾ってくれた。こういった気配りみたいなのは4人の中で唯一持っているかもしれない。とても助かっている。
「というか、先生の性別はどっちなんですか? 百合愛は先生のこと好きだったみたいですけど」
そ、そうなのか。反応に困るぞ。一応女だし。
「こ、こほん」
ミアがわざとらしく咳き込んだ。本当にわかりやすいが、他人もいるこの場所で、明かすのは問題だったのでありがたい。
「詳しい話はみんな来てからな。私たちにとっても、この実験はぜひとも成功させてほしいからな」
「わかりました!」
管制室全体が一気に張り詰めた空気になったので、まだ室内を探検中だった3人を残して外に出た。




