4話 高校入学?
ちょうどみんなが15歳になった冬だったので、急いで(当然裏技も使いつつ)高校入学を取り付けた。しかし、今まで伸び伸びと過ごしてきた4人には到底無理な話だったようで、半年も経たない間に全員退学した。この話はまた別の機会に。
退学によって家も学校から近く、住みにくくなってしまったため引っ越すことになった。
そしてやってきたのが北海道の南西部。海から山の麓までが10キロほどしかない、自然豊かな土地だ。
彼女たちの能力を最大限活かすことのできるよう、広大な土地を購入した。
「日本人が北海道に土地を買いたいだなんて久しぶりだ、って言われたな」
不動産屋に物珍しげに見られたよな。
「中国系の華僑が買い占めてるらしい。一時期規制されたけど、M&Aで日本の会社買って、会社経由で土地購入してるとか。そうすれば名目上、問題なくなるから」
「裏技、というか法の抜け道か」
経済に詳しいソーニャが教えてくれた。10歳で経済に興味を持ち、12歳から投資を始め、既に何十社にもエンジェル投資をしている。つい先日もそのうちの一つがIPOで上場したため莫大な利益が入ってきた。今回の土地購入はソーニャの稼いだお金を使っている。
華僑とは、中国から海外に移住した人やその子孫のことを指すが、一般的にはその中でもお金を持った人たちのことを指し、各地に勢力を広げている。それは当然日本にもおり、日本の制度である生活保護を不正に受給されている問題は度々ニュースになる。
「カナダやオーストラリアでも一昔前に問題になっていたそうですね」
ヴィーナもどこかの知り合いから得たのか、知っていたらしい。ヴァイオリンやらクレー射撃やらで海外飛び回ってた時期もあったので外国人の知り合い多いからかな。
「いつか奪っちゃおうぜ!」
「いや、ダメだろ」
過激なことを言い出すリーナとそれにツッコむエリー。リーナはソフトウェアエンジニアに、エリーはハードウェアエンジニアになった。この2人、息が合うようでたくさんのプロダクトを作ってはソーニャに販売してもらったりしていた。今回の北海道の土地購入も、だんだんと作るものが大きくなりすぎた2人のためだった。
「ここは山もあり、海も近くてとてもいいところですね。観光地にならなかったんでしょうか」
「あの山はまだ活動している活火山に指定されているらしく、危険なんだと。だから工場としての用途しか無かったんだろうな」
ここに移住することにした最大の理由が、この工場だった。金属製品の製作工場だったここは、プレス機などで加工ができるだけでなく、原材料から金属を取り出す機械も備わっていた。国内生産は海外生産に比べてコストが高くつくことから売り上げが伸びず、赤字経営になっていた会社がM&Aで売りに出されていたので、工場ごと買い取ることにした。
「たくさん重機もあるし、設備も一世代前とはいえまだまだ現役だ。これは設計のしがいがあるな」
「ほんと!? じゃあこの前渡したあれとか作れそ?」
「……いけるな。やるか」
「よっしゃー! 早速プログラム組む!」
エンジニアの2人は楽しそうに何かを作ろうとしていた。いいことだ。
「あの、専用射撃場を作ってはくれませんか?」
ヴィーナも工場を見て、そう要望してきた。
「もちろんいいぞ。ソーニャに相談して機械を購入してもらいな」
「まずは場所の選定だね」
ソーニャがそう言い、2人で外に繰り出していった。やっぱり私たちの娘は伸び伸びと生活してもらいたいからな。学校やめて正解だったかもしれない。
「家もこの近くに作らなきゃですね。きっとあの子たち夜通しで作業に夢中になることもあると思うので、できるだけ防音の家にしませんか?」
残ったのはミアと私だけだった。今のところは近くの工場勤務社員用の社宅に住む予定になっているが、あまり住み心地がいいわけではない。
「確かにな。メインの居住部分を地下にしてみるか。活火山だというし、噴火の可能性も考慮してシェルターにしてしまうのはどうだろう」
「それは良いですね。実際に自分たちで作るって楽しいですね」
興奮をを抑えられない様子のミア。だが、私もそれは同じ気持ちだ。
「この国に来た時はバイト三昧だったしなぁ。懐かしい。最近は能力も全く使ってないし、日本に来て良かった。人間の生活も悪くないな」
「それもこれも、彼女たちのおかげですね」
「ほんとに立派に育ってくれてよかった」
月日が経つのは早いものだ。