開始
「何なりとご指示を」
リビングアーマーは膝をついたまま淡々と言う。
「大事にしてあげてくださいね」
これまで無表情だったエンジェルが微笑み、捲に聞く。
「分かりました」
捲も大丈夫だと言わんばかりに自信気に返す。
「さてと、次は戦力を増やさないとね!」
「戦力?」
「では、こちらを……」
捲がヴァルキューレの台詞に疑問を持つと、エンジェルがそれに答える様に五枚のカードを渡す。
それを受け取った捲は、表面を見つめる。カードには何も描かれていない白一色の無地だった。
裏面はトランプの様に、青のチェック柄が描かれている。
「幻獣を眷属するには、対象をある程度服従させてから、こちらを投げつけてください」
淡々と話すエンジェルに対して、首を傾げた。
「そもそも幻獣って……?」
「ああ、私としたことが! 忘れてたわ!」
「何やってるんですか……」
ヴァルキューレは思い出したのか、手を口元に当ててしまったと言わんばかりの顔をして、エンジェルはそれを睨む。
「幻獣はこの世界に生きる異形。まあ、貴方達の世界の言葉で言うならモンスターって所ね」
「モンスター……」
「それと、さっき言っていた服従ってのは力づくでも言葉でも何でもいいわよ」
「……とにかく捕まえて、デッキを作っていけばいいんだな?」
「呑み込みが早くて助かるわ」
ヴァルキューレの説明を聞いてやるべきことを飲み込んだ捲。それを見届けたエンジェルが口を開く。
「これで、基本は大体学べましたね。後は貴方次第です」
「それじゃあ、行きましょうか」
長い話が終わると、ヴァルキューレは捲に声を掛ける。
「最初はお試し屋敷がいいわよ」
「お試し……?」
「この世界で生きるのに体を慣らす必要があるでしょ」
「あの」
突如、エンジェルが二人に声を掛けた。
「最後にニ言」
「何ですか?」
「一つ、彼らを所持できるのは一人、五十二体までです」
「もう一つ、幻獣同士が力を合わせるとより強い力が生まれます」
「色々と、教えて下さってすいません」
「仕事ですから。では、頑張って下さい」
エンジェルがお辞儀をすると、捲は大声で言う。
「ありがとうございました!」
捲はそう言ってエンジェルに頭を下げた。
リビングアーマーを含めた三人は、入り口の前にまで戻り
「それじゃあ、私もこれで」
「何処かに行くのか?」
「ええ、私が導けるのはここまで、後は自力で頑張って頂戴ね」
そう言いつつ、懐から一枚の紙を出すと、捲に握らせる。
「ああ、分かった」
「それじゃあ、頑張ってね」
そう言うとヴァルキューレの背中から純白の羽が生えてきて、空へと飛んでいった。
「そてと、これには一体……」
そうぼやきつつ紙を開くと、地図が描かれている。
「地図ですね」
横から顔を覗き込むリビングアーマーが呟く。
「地図だな」
捲はそれに返す。
「それで……今は、何処に……」
「どうかしたのですか?」
「……地図を読むのが苦手なんだよ……」
「ふむ……」
「さっき言っていた屋敷に行きたいんだけど……どう行けばいいんだ?」
「私に任せて下さい」
リビングアーマーはそう言うと、素早く捲の膝の裏に右腕を伸ばし、左腕を添えて、そのまま抱きかかえる。
「ちょっ⁉ 何やって⁉」
「私が運びましょう」
「いや、いいから!」
捲は、足をバタつかせ抵抗する。
「そうですか……」
リビングアーマーはどこか寂しそうな反応をしつつ捲を下ろす。
「道を教えてくれるだけでいいから……」
「分かりました」
こうして、二人はヴァルキューレの言っていたお試し屋敷へ向かう。数十分後、リビングアーマーのガイドもあり、二人は森の中にある屋敷に辿りつく。二階建ての建物に周囲には、塀一つ無いそれを見て一言。
「ここが屋敷か……」
「そのようですね」
屋敷の全体を見渡すと捲は叫ぶ。
「よし、行くぞ!」
二人は、屋敷の中へと入って行った。
次回から戦闘が始まります。
ここまで、長かったな……