利用価値
あれから数時間経ち、今は夕方だ。
俺の営業時間である。
あのバイオレンス娘は画用紙の裏の文字を読んでいる。
そして、俺はそれに合わせて画用紙を入れ替えているだけだ。
「こうしてレオナルドは東の山の怪物を…」
「ほら、笑顔で! 声は大きく!」
「こーしてれおなるどはー!」
「あははー! おねーちゃんうるさーい!」
限度というものを知らないのか…。
これでも開演前には大分練習もしたのだ。
しかし、このバイオレンス娘の朗読は良くならない。
ボソボソと小声で喋り、全てが棒読みのまま。
暗記は大得意だと、無い胸を張っていたにもかかわらず
結果が恥ずかしがってこのザマだ。
「もうさ、諦めて家に帰れば? 営業の邪魔だからさ」
「うぐぅ」
こんな下手糞な紙芝居なんて、俺は絶対に認めない。
声で稼がなければいけないのに、嫌々働くのならば不利益しか生まないのだ。
勿論、所々聞こえるセリフを繋いで画を見れば多少の補正は出来る。
だが、紙芝居は聴くだけで聴衆に負担をかける物ではないのだ。
「あのさ、いくら男爵様に頼まれたとしてもやる気が無い奴を使おう何て思うわけ無いじゃない。 君は何も出来ない、ただの人殺しだよ。 親の七光りって言うんだっけ? 君には何にも無いんだね。 俺より年上なのにね」
「グスッ…うぅ…」
「ほら、泣けば許して貰えるとでも思ってるの? 馬鹿みたい。 見た目がいい女性はいいよね、泣くだけで全てが許されるんだから。 でも俺は許さないけどね。 分かるでしょ、人殺しさん」
「うわああああああああ!」
バイオレンス娘は号泣しながら逃げ去った。
「さ、気を取り直して紙芝居の時間だよ! 今日も楽しんで行ってくれ!」
「まってましたー! さっきの劇も迫真の演技だったぞー!」と、お客さん。
劇じゃないけどね。
この日の売上げは上々だった。
なんでも俺がバイオレンス娘を責めているときに、面白いことをやっていると人伝に広がっていったのだ。
ふむ、あんなのでも使い道はあるか…。
少し検討してみる余地はあるかもしれない。
さて、営業も終わったことだしそろそろ男爵様の家に向かわないと。
勿論、あのバイオレンス娘に店の手伝いを辞めさせるためだ。
利用価値を少し考えてみたのだが、手伝って貰う程の事があまり無いのだ。
売上げだってそうだ。
正直なところ、俺とポチだけの営業でも使っても余るほどの利益は出ている。
ここでリスクを負ってまで更なる利益を狙う事も無い。
であれば、半ば強制的に従業員になったバイオレンス娘を振り落とすことに躊躇いは無い。
この紙芝居屋で、俺があのバイオレンス娘に任せたのは朗読だけだ。
その程度の手伝いも出来ない人間が、他の所で社会勉強などできるはずが無い。
「さ、行くか」
「はい、殿!」
正直なところ、足取りは重い。
そこそこ親しくなった人の頼みを蹴るのだから当然だ。
だが、こればかりは仕方がないと腹を括って男爵家へと足を踏み入れた。




