宿
「もうすぐ陽が落ちる、だいぶ歩いたと思うのだが宿はどこにあるんだ?」
少年の足がぴたりと止まる。
「お兄さん、気付いているんでしょう? 全く、最近は勘の良い人が多すぎるよ」
少年が言葉を発すると同時に、少年の体が捩れだした。
ねじれが収まる頃には、二メートルにも届きそうな大きさの大男がそこに立っていた。
「どうだ? これが俺が神より授かったギフトだ。 多少の制限はあるが、それでも有効に使えるぜ」
ギフトか、こっちの大陸ではギフトで通っているんだな。
「ギフト持ちには初めて会うが、凄いものなんだな」
帝都に入ってすぐに遭遇するなんて、とても才能が不足している世界とは思えない。
大男を観察していると、周囲の取り巻きが倒れた。
「お、ポチ。 終わったのか?」
「終わったでござる! こやつ等、とても不味かったでござる!」
それはご愁傷様。
「な、何をしやがった!」
「ポチが食った」
「我輩が食べたでござる」
空気が冷たい。
「で、用事がないなら宿を探さないといけないんだ。 もういくぞ」
「まt…」
大男の足をロックして、俺達は宿探しに戻る。
「なあ、ポチ。 良さそうな宿はないか?」
既に辺りは真っ暗で、看板を探すのも一苦労だ。
「あちらで良い匂いがしているでござる!」
「それじゃ、そこへ行こうかね」
チョコチョコと俺の前を歩くポチと、その後ろをついていく俺。
やがて、戸が開けたままにしてある家に辿り着いた。
「なあ、ポチ」
「き、きっと気のせいでござる!」
「本当に?」
「はいでござる!! た…たぶん、いや! 絶対でござる! きっと…」
どっちだよ!
立ち止まっているのも迷惑なので、とりあえず声をかけてみよう。
「夜分遅くに失礼します、こちらは…食堂ですか?」
家の中は、奥行きが広くなっていて
そこには、幾つかのテーブルが並んでいた。
「ええ、食堂ですよ。 お客さんも何か食べていかれますか? それとも、お泊りのお客様なのでしょうか?」
「おい、ポチ。 聞いたか?」
「聞こえたでござる! この女性、お泊りになりますかと仰りました!」
首の皮が繋がったからか、ポチは必死に女性の言葉を伝えてくる。
「っと、すみません。 ペットの連れ込みは可能ですか?」
食堂も開いているのだから、これは聞いておかねばなるまい。
「申し訳ございません、お客様。 ペットは原則禁止となっています。 裏にペット用の小屋も用意してあります。 それでもよければ…」
女性の言葉を聞いて、ポチが潤んだ瞳でこちらを見つめてきた。
「そうか…」
「主殿…」
俺の言葉に反応し、ポチが嬉しそうに尻尾を振っている。
「では、一人。 泊まりでお願いします」
「主殿ーーーーー!!!」
こうして、俺とポチは宿を得たのだった。




