毛布
見たこともない野菜の料理と果実酒を振舞われ
男三人で、えんやえんやと騒ぎ続けた。
ラウトさんが家畜を潰すと立ち上がるのを、カイルさんと引き止めて
ついにやってきた出発の朝。
都市の入り口の小さな町だが、本当に長閑でいい所だった。
元の世界に帰るにしても、余裕があるのならもう一度立ち寄りたい。
さあ、出発だ。
「ラウトさん、カイルさん! 本当にお世話になりました! 次に会うまでお元気で!」
二人の姿が小さく見えるまで、後ろを振り向きながら手を振り続けた。
ゆったりとした下り坂とはいえ、道は整備されていないのだ
タイヤが跳ねて転ぶのは当然である。
長期の別れを覚悟して出発したのに、二人に見送られ早々の転倒
当然、二人に見られているのだから非常に気まずい空気が流れている。
「だ、だいじょうぶです!」
と苦笑いで手を振り、こちらに走ってきそうな二人を制止した。
改めて出発だ!
神殿に向かう間に、最短のルートで街がひとつある。
次の街には何があるのだろうか。
夜、夜になった。
次の街は思っていた以上に遠く
地面に寝転がり、買ってきた毛布を被ることになった。
はあ、せめて寝袋でもあればと後悔するが
そもそも、売ってもいない物を欲しがったところでどうしようもない。
!?
ようやく寝つき、まだ暗いうちに違和感で飛び起きた。
夜の空気は少し冷たく、ブルリと身を震わせてしまったが
今はそれどころではない。
毛布の裏に、ムカデのような虫が這っていた。
それはそうだ、野宿をするのなら当然考えておくべきだった。
はあ、仕方がないか。
毛布に張り付いたムカデモドキを、バタバタと振り回して追い払うと
今度はラウトさんが選別にくれた物を漁りだす。
月明かりがそこそこ明るいので、視認できるレベルで見えるのは助かる。
500mlくらいの大きさの包みを広げると、銀色の硬貨が月の光を反射した。
きっと、ラウトさんが考えていたのは所持金のことだったんだ。
包みの中には、銀貨が15枚も入っていた。
有難い、いつか違う形返そう。
好意で頂いた金銭を金銭で返すのは失礼だし。
しかし、これで魔法の才が無かったら二人に合わせる顔がないぞ…
勿論、魔法の才が無くとも
二人は笑って受け入れてくれるだろう。
だが、魔法の才がなくとも
何かしらの技術を手にしてからじゃないと、戻る気にはなれないと思う。
役立たずなんて嫌だもんな!
折角の長旅だ、植物の種くらいは持って帰ろう。