缶詰
「主殿! この先から人の匂いがしてきます! もう少しでござる!」
ポチを使役してから丸二日、漸く村が見えてきた。
「よし、よくやったぞポチ!」
最初は蟲だからと嫌悪していたのだが、今は小さなマルチーズ
大人しいし、言う事も聞くので可愛いものだ。
「村か、ふむ…」
「主殿、どうかしたのでござるか?」
すっかり忘れていたのだが、大陸が違うので通貨が使えない可能性が濃厚なのだ。
「それならば大丈夫でござる! 主殿は商売をなさっていたのでござろう?」
ああ、そうか。
すっかり忘れていたが、仕入れに必要な通貨に制限はなかった。
「いざとなったら我々が魔獣でも狩って来るでござる!」
頼もしいな。
「ま、それはまだ必要ないさ。 前の大陸で稼いだ分は文字通り腐るほどあるからな」
それから暫く経ち、俺達は村の入り口に立っている。
背の低い柵に囲まれた長閑な村だ。
しかし、畑に生えている植物は元気がない。
食糧難になっていなければいいのだが…。
村人から声がかかったのはそんな時だった。
「旅のお方でしょうか?」
立派な髭を結わえた高齢の男性だった。
「ええ、短期間ですがお世話になろうかと…」
無難に答えておいた。
「そうですか、何もない村ですがゆっくりしていってください。 本当に何もありませんが…」
なんか恐ろしいことを聞いてしまった気がした。
それから一時間ほどして、宿を探しているのだが
何もないと言う言葉通り、宿もなかった。
どうにか泊めてくれる場所を探していると、村長の家に空き部屋があるというので
最終的にはそこに落ち着いた。
「村長さん、泊めていただいて助かりました」
村長さんは、最初に出会った村人のお兄さんだった。
「いえいえ、この村は本当に何もないのですよ。 作物も育たず、水も干上がり…。 あとは死を待つだけの村ですじゃ…」
おおう、急に話が重くなったぞ!
「ふーむ、資金もあまりないのですか?」
「いや、資金だけは潤沢ですじゃ。 貿易をしていた商会が倒産してしまったので、このような辺境にまで来てくれる商人さんがおらんでな…」
なんだそれ、何かおかしくないか?
「村長さん、どうして資金だけは潤沢なのか聞いても?」
「ええ、勿論ですとも。 この近くには川が流れているのですが、それが鉱山を経由して流れてきているのです。 その鉱山からは今も金が出土するのですが、商人さんが来るたびに換金してくれていたのですじゃ」
へー、だから資金は潤沢なのか。
「それでしたら、俺が食料を売りましょうか? 数ヶ月くらいなら余裕で保管しておける食べ物なんかどうです?」
これは缶詰のことだ。
「おお! 助かりますじゃ! あっても仕方がありません、資金は好きなだけ持っていってくだされ」
値段の交渉がないのはこちらとしても助かるので、倉庫に缶詰を放り込んでから対価を貰った。
そして通貨だが、デザインは違うがこちらの大陸でも通貨は殆ど同じだった。




