さようなら貴族街
「おい、おきろ!」
なにごと!?
昨夜は宿に戻り、疲れていたのでご飯を食べて寝ていたはずだ。
しかし、目を覚ますと髭面の甲冑男が目の前にいる。
なんだこれ!
「とっとと起きろ! 陛下がお待ちだ!」
何も聞いてないんですけど…。
「あー、スンリさんお久しぶりですねー。 じゃ、俺はこれから露店へ行かないといけないので…」
「おい、待たないか! あっ、くそっ!」
野生のスンリさんを閉じ込めた!
部屋を出ると、アローネさんが壁に背中をくっつけて立っていた。
「アローネさん、おはようございます。 朝から髭面のおっさんが不法入室してきたので捕獲してあります。 引き取ってもらえます?」
朝からテンション駄々下がりである。
アローネさんの口角がヒクヒクしている。
あらかわいい、ウサギさんかな?
「全く、あの馬鹿は…。 すみません、透殿。 こちらの人選ミスだ、許してはもらえませんか」
「まあ、害はなかったのでいいですけど…。 招いてもいないのに部屋に入ってくるのはどうかと思いますけどね…」
「はい、しっかりと躾けておきます。 今回こちらに寄らせて貰ったのは、以前の魔物の素材を買い取りたいと言われて…。 もしも、まだ持っていたら譲ってほしいのですが…」
「あー、あるのはあるんですが…。 解体してしまったので綺麗には残ってませんよ?」
「それくらいならば問題はありません。 解析班が資料として譲って欲しいそうで、今回もそれなりの値段で買い取らせていただこうかと思っております」
ほうほう。
「前回も大金で引き取ってもらったので、今回も期待しておきますね。 しかし、今日は露店を開かないと待っているお客様がいますから…」
「ええ、こちらも後日改めてお伺いするつもりでしたので問題ありません。 これで魔物の弱点がわかれば、これから襲撃があったときに手を打つことが出来ます。 本当にありがとうございます!」
俺としては、大金が入ってくるならば全く問題ないのだ。
「あ、そうだ。 アローネさん、これよかったら休憩の時にでも食べてください」
いくつかのマフィンを購入し、アローネさんに手渡した。
「甘いお菓子ですので、食べ過ぎないように気をつけてくださいね。 それと、また感想をお聞かせください」
ぽかんとしているアローネさんへとマフィンを押し付けて、いそいそと外へ向かう。
貴族街での活動は本日でお終いなのだ。
そうとは知らず、キッチンカーを追いかけてくる使用人さん。
今日は販売ではなく、クッキーを配るのだ。
お世話になったお客さんに、ちょっとしたお返しだと思って欲しい。
「いらっしゃいませ。 今日はクッキーですが、御代はいりません。 その代わり、数の制限を設けさせていただきますので順番に持っていってください」
さようなら、貴族街!
「あ、アローネさんもどうぞ。 明日はまた東区に行くので、よろしくお願いしますね」
宿の期限が明日までなので、明後日には旅に出ることになる。
情がでてしまえば、旅に出るのも辛くなるというもの。
いまはまだ黙っておこう。




