バーベキュー
昨日マーシャさんが宣言したとおり、大変なことになっている。
普段から並ぶことを良しとせず、使用人に並ばせていた貴族もそうだが
並ぶという行為に慣れていない貴族が、列を作ることもせずに押し寄せてきたのだ。
個数の制限を設けるために、使用人へは販売しないというルールを作ってしまったのが逆効果だったのだろうか。
「落ち着いてください、商品は沢山ありますから。 並ばないと売りませんよ」
ちょっとした脅しの一言もなんのその
まるで、バーゲンセールに乗り込むマンモスおばちゃんのような目付きが怖い。
「んー。 マーシャさん、どうしましょう」
「どうしようもないね。 荒れるとは思ったけど、ここまで荒れるとは思ってなかった…」
しかし、こんなに荒れている中で商品の受け渡しをしたところで
代金を受け取った人と違う人に商品を渡してしまう可能性が出てきてしまう。
「どうしたものか…」
「本当に、ここまでとは…。 何か手を打たなければ…、ん?」
「どうしました? って、あれ?」
二人で考え込んでいた間に、いつの間にか怒号のようなBGMが小さくなっていた。
「お兄さん、お客さんの整列は僕達に任せてください!」
孤児の少年だった。
「いやー、本当に助かったよ。 まさかこんなことになるなんて思ってなかったからさ」
「いいんですよ、美味しい物を毎日食べさせてくれるんですから。 お役に立てるタイミングを見計らっていたんです。 少しでも恩返ししたかったから…」
照れくさそうに笑う少年に、少し癒された。
「それにしても、俺がいくら言っても並ばなかったのに…。 どうやったんだ?」
「そのことなら簡単です! この辺りの貴族様は、たまにご飯をくれるんですよ。 その時に、顔を覚えていてくれた奥様にお願いしたんです」
なるほど…、思わぬところで人脈が役に立ったと。
「よし、今日はいつもより良い物を食べさせてやろう。 バイト代だと思って受け取ってくれ」
最近の楽しみがお弁当だったので、そこそこ良い物を食べていたのだが
今回はとっておきのものだ。
春夏秋冬、元の世界でも殆どの人が好んで行っていたイベント。
バーベキューだ。
今日の売上げだけでも、金貨にして三十枚以上。
金貨十枚分くらいはまわしてやろう。
伊勢海老やタラバガニ、但馬牛や飛騨牛まで
肉に限らず野菜や魚介まで、バリエーションは豊かに揃えてある。
大量に購入したのはいいが、これは食べきれないな…。
「アローネさん、王宮の庭にある公園を借りることは出来ますか? この辺りでは珍しい食材も使うと思うので、興味のある人には参加してもらおうかと思いまして」
「もう暗くなるし、公園には誰もいないだろう。 内々でやる食事会にすれば問題も起きないだろうし…。 よし、私が手配しておこう」
「有難うございます! 他にも孤児達を連れておいで、皆でご飯を食べよう」
夜の公園に笑い声が響く。
想定していたよりも人数は少なく、大人と子供を合わせても三十人といったところだろう。
「今日は沢山食べてください。 俺の故郷でも、それなりに高い食材を手当たり次第使う予定です。 今日も一日、お疲れ様でした!」
子供にはジュース、大人には酒を振舞いながらも
夕方に始まったバーベキューは夜遅くまで続いた。




