本
茹でられたスティッキーを完食し、今更ながらに言葉が通じることに安堵した。
安心すると、今まで気にならなかったことが気になってしまう。
お金のことだ
日本で使い慣れた通貨が通じるわけもなく、そもそもの通貨を見てもいない。
なので、恥を忍んで聞いてみることにした。
「すみませんが、この辺りでもこの貨幣は使えるのでしょうか」
まず使えないことは解っているのだが、引合に出せる物があれば違和感もないだろうと
ちょっとだけ反応を楽しみに日本の貨幣を取り出して見せた。
「なんだこれ? ごちゃごちゃしてるが…紙か? こっちのメダルは換金できそうだな」
「やっぱり使えませんか。 いえね、別の大陸から飛ばされてきたもので」
中央から来たと勘違いさせていたこともあり、このさいハッキリさせておこうと事情をぼかして伝えてみた。
「なんだ、中央からじゃなかったのか」
カイルさんが少しだけ、不信感を映した眼で見てきたが
俺もハッキリと違うと言わなかったのだ、甘んじて受け入れよう。
「ええ、すみません。 事情が事情なので、自分でも今の状況があまり理解できていないのです」
「なるほど…ね、まあしゃあねえやな」
苛立ちもあったろうに、苦笑いでごまかしてくれたのはありがたい。
「自分でも知らないうちに、この山の上のほうに居たんですよ。 だから、こちらの大陸のことはさっぱりで」
「そうか、それならまずはそうだな。 この大陸のことを知るために行くべき所はあそこか」
「ああ、あそこだろうな」
二人が指をさしている方向を見ると、民家があった。
「民家…ですか?」
「ああ、あそこにはこの辺りの本が集められている。 もちろん、原本ではないがな」
どういうことだろう
「写本ってことですか? でもなぜ一箇所に?」
「へー、写本って言うのか! 何故って質問は簡単だ! 本は高いからな、個人でも買うことはできるが精々が一冊か二冊と言ったところだ」
と、ラウトさん
そこにカイルさんが
「そんな高い本でもな、みんな学をつけるために買うんだよ。 役に立ったことはないけどな」
なるほど、つまり
「高いけど読みたい、この辺りで勝った人から借りて写せば共有できるってことですか」
なかなか良いシステムじゃないかな?
今はないが、俺も同じ漫画を何回か買ってしまったことがあるし
被らないように街を巻き込んだ巨大なシステムを作り上げたのはすごい努力だ。
「この街は大きくない分、あまり本はないがな。 それでもないよりはマシだろ? 話はつけてやるからいこうぜ」
ラウトさんとカイルさんに肩を掴まれながら、未だ見ぬ本へと足を進めた。