甲冑さん
盗賊のような身形の人間と、甲冑のような鎧を着た人間が戦っている。
近くには、車体の傾いた馬車が一台と馬のような動物が二頭
そのうち、一頭は首から血を流して倒れている。
メリットと、デメリットを考えると
明らかにデメリットの方が多そうだし、こちらの手札がバレることも避けたいので
木の陰に隠れたまま、盗賊風の男達の腕と足を固定した。
「うわっ! なんだ!?」
「うごけない! やめ…ギャッ」
手足を動かすことができなくなれば、剣も振るうことができない。
当然、敵対していた甲冑さん達が苦も無く斬り捨てた。
「おい、調べて来い」
「ハッ!」
気付かれたか。
俺は時空間魔法で、野営していた川の近くに逃げた。
だが、まだ安心はできない。
先程までいた場所と、ここはあまり離れていないため
調査に出た甲冑さんに見つかるのも時間の問題だ。
消えて冷えてしまった焚き火跡を、綺麗に地面ごと収納し
新しい木材で再度焚き火を始める。
リュックを取り出し、それを枕にして干し肉を齧る。
食器も買っておかないといけないな…。
ごろりと地面に寝転んでいると、ガシャガシャと重そうな音が聞こえてきた。
「貴様、そこで何をしている!」
甲冑さんが偉そうな口調で話しかけてきた。
「寝転がって火を見ながら干し肉を齧ってます」
「ふざけるな!」
ちゃんと答えてあげたのに…、ひどい返事だ。
「先程から何ですか? 初対面の人に対してその言葉遣いは無いでしょう。 貴方は偉い立場なのかもしれませんが、俺には関係の無いことです。 貴方が聞いてきたのでしょう、何をしているのかと」
自分のことを棚にあげた発言だが、どうでもいい相手に丁寧にするほどお人好しでもない。
「ふざけやがって! 跪け! その首、切落してくれる!」
おーこわ
「へいへい、わかりましたよー。 これでいいですか?」
言われたとおりに跪き、頭を下げる。
その際、自分の周りの空間を格子状に固めた。
「そうだ、それでいい! ようやく素直になったか。 既に手遅れだがな!」
甲冑さんは嬉しそうに剣を振り下ろすが、固定化された空間に阻まれる。
「貴様! 何をした!」
わー、凄く怒ってる。
「自分を殺そうとした相手に言うと思います?」
すっと立ち上がり、甲冑さんに向かってドヤ顔で言い放った。
「この野郎!」
うん、俺でも今のはカチンとくると思う。
すっと立ち上がり、甲冑さんと目を合わせる。
僅かな隙間からだが、鋭く血走った目が見える。
「おーこわ、へへーん。 俺を殺すだって? やってみやがれ! ばーかばーか!」
気分はまるで小学生のである。