狼
はあ、話をあげた以上は仕方が無いか。
「ちょっと待ってて下さい、外に置いてあるので持って来ます」
もちろん外になど無い、自転車も盗難が怖いので収納済みだ。
外に出ると、いつの間にか真っ暗になっていた。
子供達も家に帰っているので、誰に見られる心配も無い。
狼の頭を取り出し、自転車の籠に入れる。
念のため、外には狼の身体を出しておいた。
自転車ごと建物に入るのは凄く違和感があるが、運び方を聞かれるかもしれない。
魔法のことを追求されるよりはマシだと、覚悟を決めて酒場に入った。
「お待たせしました、これがその狼の頭なんですが…」
先程の、嫌な態度の仕返しとばかりに
男性の座るカウンターの上に狼の頭を転がした。
「おい! そんなもの置くんじゃない! 屋内が血だらけじゃないか!」
あ、ほんとだ。
「だって、遠まわしに見せろって言ってたじゃないですか!」
「言ってない! 何も持っていないと言っただけだ!」
いいおっさんが小学生みたいに…。
「わかりました! では嫌がらせに胴体の方も持ってきましょう!」
「ま、まて! 倒したのはわかったから裏口にまわってくれ! そこに買取所があるから!」
最初からそう言えばいいのに。
「わかりました、それでは失礼します!」
自転車を押して酒場の裏口にまわると、そこには露店のようなものがあった。
おそらくは、ここで買い取ってくれるのだろう。
「おう、きたか」
さっきのおっさんだ!
「ここは普段から人がいないんですか?」
「ああ、中のカウンターで納入物を聞いてから出てくるんだ」
なるほど
「ああ、遅くなりましたがこちらにおいても?」
今度はちゃんと聞いてから置くぞ!
「ああ、このカウンターの上ならいいぞ」
「よっと、とりあえず頭だけ置きます。 胴体の方も今から持ってきます」
そう言って酒場の入り口まで来たのだが、狼の身体が予想以上に重かった。
しぶしぶ裏口に戻り、おっさんを連れて再度入り口へ。
「おいおい、これは手配がかかってる奴じゃないぞ。 それよりもでかい固体だ」
え?
「ということは、もっと沢山いる可能性もあると?」
「そう言うことになるな…ちょっとまずいことになった」
「ふむ、それでは買い取りも無しですか?」
「ああ、いや。 買取はできるし、査定もするさ」
よかった、ずっと空間に収納しておくこともできるが
自分を食い殺そうとした敵の死骸と一緒に寝起きしてると思うと背筋が冷える。
「そうだな、手配書は表記を変えて複数にしておこう。 こいつは銀貨10枚でどうだ?」
「ええ、それでお願いします」
この街の在り方を考えれば、狼の乱獲も良いかもしれない。
「じゃ、俺はこれで。 ちょっといってきますね」