喋る犬
男爵様に教えて貰った通り、伯爵領へと続く道を歩いていると
近くの丘の上に一台の馬車が停まっていた。
「ポチ、見つからないように森の中を歩いていこうか」
「わかったでござる!」
どうして嫌な予感がしてならないのだ。
「ポチ、散って周囲を…。 特にあの馬車の近くを調べてくれないか?」
「どうかしたのでござるか?」
「少し嫌な予感がするんだ」
こういう、少し嫌な予感と言うのは気のせいであることも多いのだが
稀に、少しどころじゃなく嫌な事件に遭遇することがある。
念には念を入れて警戒しておかないと、後が怖い。
「殿、見てきました!」
しばらく待っているとポチが戻ってきた。
「お疲れ、どうだった?」
「何と言いますか…。 馬車は半分壊れていて、人が数人倒れていたでござる…」
「盗賊か?」
「いえ、恐らくは獣か魔物に襲われたのかと」
ということは、この付近にうろついてる可能性もあるか。
「ポチ、移動するぞ。 伯爵領は止めだ、俺の足に掴まっておけよ」
「わかったでござる! 馬車はどうするのですか?」
「あれは見なかったことにする! 面倒に巻き込まれるのはごめんだからな」
「なるほど! それならば、しっかり掴まっているでござる!」
「ああ、すぐに飛ぶぞ」
魔物だけであればそこまでの脅威では無いのだが、既に馬車が被害にあっているのが問題だ。
ここで魔物を倒したところで、容疑がかかる可能性が少しでもあるのであれば
この場から離れるのが一番楽で、一番面倒が少ないと言うことだ。
ポチと一緒に飛んだ場所は、俺がこの世界で一番最初に飛ばされてきた場所だ。
色々と出来ることが増えたので、逃げるついでに顔見せをしに来たのである。
「さて、確かこの下の方だったはずだが…。 あ、いたいた!」
「殿のお知り合いでござるか?」
「ああ、俺が一番世話になった人だ」
それを聞くと、ポチは止まって毛繕いを始めた。
「どうした?」
「身嗜みを整えるのでござる!」
そういうことか。
「ラウトさーん! お久しぶりです!」
声を張り、大きく手を振る。
「お? 透か? おい! 透じゃねーか!」
「あはは、お久しぶりです! お元気でしたか?」
「ああ、元気も元気さ。 カイルの奴も元気にやってるぜ!」
「それはよかった! 俺も元気にやってますよ。 ペットを連れて歩くくらいには上手くやってます」
「ポチでござる! よろしくお願いします!」
「ほう、喋る犬とは珍しい…。 しかし、なんだってまたあんな所から来たんだ?」
「少し面倒な場面に遭遇しまして、すぐに思いついた場所があそこだったんですよ」
「ははっ、確かに忘れられねーやな」
「ええ、ラウトさんとカイルさんに出会った場所ですからね。 忘れるはずもありませんよ」
「嬉しいこと言うじゃねーか。 ほら、カイルの奴にも顔を見せてやろうぜ」
「はい、行きましょう」
涙声で鼻を擦りながら喋るラウトさんの提案に、俺も賛成して歩き出した。
「しかし、元気でやってたってことは才放の儀は上手くいったようだな」
「ええ、使い勝手の良い才能を貰ったので助かりました。 あ、今日は泊まってもいいですか?」
泊まる場所を考えていなかった。
「おう、いいぜ! どのみち夜通し飲むことになりそうだからな」
「それもそうですね。 では、酒のあては俺が用意しますよ」
「てことは、それがお前の才能に関係しているって事か」
「まあ、近いですね。 色々あって、今は三つほど才能を授かりましたので」
「三つもか!? 昔話の英雄ですら二つだったぜ…」
「ああ、それなんですけどね。 どうやら、偉業をなす…。 世界レベルで凄い事を成し遂げると、新しい才能が開花するらしいんです。 その英雄さんも、偉業を成し遂げて開花したんでしょうね」
「なるほどな…。 ま、夜は楽しみにしてるぜ!」
ラウトさんが嬉しそうに俺の肩を叩く。
少し痛いくらいだが、それが暖かくて心地よかった。




