男爵家
翌日、俺は朝から男爵様の家に来ていた。
「朝早くにすみません。 昨日の料理人の処遇と、今日でこの街を離れるので挨拶をしておこうと想いまして」
「なんと、もう離れてしまうのか…。 昨日の罪人は王都の連中とも話がついた。 奴は間違いなくサンメーラの店員だったよ。 それも、料理長と言う立場のな…。 奴はこの都市内で鉱石を運ぶ罰を受けているよ。 もっとも、その罰が解かれることは無いがね」
「料理長が他国に脅しに来るとは、王都には近付かないことにします」
「そうだな、それがいい。 次に向かう場所は決まっているのかな?」
「いえ、特に決めていません。 男爵様のお勧めなんかがあれば教えて頂いてもいいですか?」
「ああ、いいとも! ここからならば、伯爵領が良いかもしれぬ。 我が男爵領は製造を主とした地だが、伯爵領は採掘を主にして発展している。 伯爵殿は人ができているからな、安心して主を送り出せると言うものだ」
「わかりました、男爵様のお墨付きならば間違いないでしょう。 ところで気になっていたのですが…」
「む、何か聞きたいことがあるのか? 構わない、言ってみなさい」
「では…。 王都・帝都・魔都と、国ではなく都がついているのは何か理由があるのでしょうか?」
ずっと気になっていたのだ。
「それならば大したことではないぞ? 数百年前までは、三国は一つの国だったのだ。 そして、その国には三つの大きな街があった。 だが、国王が崩御した際に問題が起きてな…」
「あー…、なんとなくわかりました。 王位を争ったんですね」
「そうだ。 それだけなら良かったのだがな、三国それぞれの街の領主が王族だったのだ。 王子達は三兄弟でな、それでいて三つ子だったのだ」
なんか凄い話だ。
「権力も立場も同じ人間だ。 一緒に育った家族として、命を奪うことまではしなかったそうだがな」
「それならば三国にわかれる必要も無かったのでは?」
「そうなのだがな…。 実際に、王子達は仲良くやっていたそうだよ。 だがな、野心家はどこにでも居るものなのさ」
「そういうことですか…。 いえ、わかりました。 気になっていたことなので、知れてよかったです」
「よいよい、儂と主の仲ではないか。 それで、今日はすぐに発つのか?」
「いえ、今日一日はこの街に居る予定です。 明日の朝に伯爵領へ発とうと思います」
「そうかそうか。 では明日の朝、もう一度こちらへ寄ってはもらえぬか? 伯爵様への紹介状を書いておいてやろう。 昨日の様な事が無いとは言えぬからな」
これはありがたい申し出だ。
「それは助かります。 今日は夕方の営業だけ予定していますので、良かったらまたいらしてくださいね」
「ああ、奴も連れて行こう。 儂も奴も、良い休息が取れて助かっておるよ」
「あはは、それは素直に嬉しいですね。 今日も広場が騒がしくなるかもしれませんが…」
「いや、あれで良いのだ。 主が広場で商いを始める前はな、ライバル店同士のいがみ合い等が頻繁に起こっていたのだ。 無理もない、ここは製造を主とした街だからな。 言うなれば、殆ど全ての店がライバル店なのだ。 だが主のおかげで、皆随分と仲良くなっている。 儂としては、今後もこの様な宴が続いて欲しいとすら思っておるよ。 男爵家から酒を提供しても良いと思う程度にはな」
そうか。
最初はそこそこ酷い状況だった様だが、紙芝居と映画で争いの芽を摘み取れたということだ。
「それは皆さん喜びますよ。 この街の人達は優しい人が多いですからね。 鍛冶も料理も、もっともっと成長するはずです。 王都になんか負けてちゃダメですよ?」
「そうだな、主の言うとおりだ。 奴らなど先祖から受け取った物を使い回すだけで進歩が無い。 帝都でも、料理が美味いと言うイメージを植えつけることさえ出来れば負けるはずもない」
「その意気です! 男爵様の肥えた舌と住民達の向上心があれば無敵ですよ」
そう伝え、男爵家を後にした。




