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虹彩都市アイリス  作者: とんさき
第五章 アイリス・デイリー・ライフ
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地下世界60

幾つの試練を乗り越えたのだろうか。

最果ての集落『フレイム・ロック』を超えてから数えきれない程の命の危機を経験した。

未だ見ぬ地上への憧れは誰もが一度は抱き、誰もが諦めてきた願いだ。


諦めてしまうという意味が私の小さな身体に無数の傷として刻まれている。


いくら息を潜めることはできてもそれを超える感知をもつクリーチャーや、悪戯に破壊を振りまく軟体生物、空間ごと貪り食う触手の化物を前に私達ができることはいつも逃げの一手だ。


果てへの、地上への道はあまりに厳しい行程だった。

私の判断ミスで大切な同志『ノーバート・ウィーナー』が死んでしまった。


そんな苦労をして。

そんな苦行を乗り越え。


少しずつ上へと登り、地上は必ず近づいているのだと自らに言い聞かせて足を進めた。


道を歩くときはいつだって気が抜けない。

突然、洞窟を破壊して何者かが何処かに向かうことは日常茶飯事だ。

我々が気が抜けるのはペーターが作り出してくれる安全な空間だけ。


それでもいつかは辿り着ける。

神話に謳われる太陽を拝めるのだと自分に言い聞かせた。


しかし、我々が祈る神格はいつだって試練しか示さず恩寵を与えてはくれない。


――――それは突然目の前に現れた。


松明すら掲げられずに進む中≪暗視効果≫(ナイト・ヴィジョン)に頼りきりだった視界に光が入り込んでいたことは気付いていた。


また、何者かの集落なのだろうか、或いは私を半ばまで腹に収めた光をまき散らすあの食肉植物だろうか。

数多の経験をした私達にとってその異常はありふれた事象の一つのはずだった。


――――光の膜。

岩で構成された登りの巨大通路を塞ぐように突如出現した光の膜。


いや、違う。

本当は突然現れたわけじゃない。

見えていたのに脳が認識することを拒否していた。


虹色の光を放つソレは何故がとても不吉で、その光の持つ狂気のエッセンスを理解する事を脳が身体が拒否していた。


私達はこの旅路でデーモン達が崇める72柱のうちの1柱を遠くから見たことがあった。


存在の格の違いを実感させられたその時の恐怖は筆舌しがたく、私の幼稚な文章力では記すことができない。


――――それでも尚、あの光の膜に対する畏怖は全てを上回る。


あの膜は境界であり檻だ。

水泡のように揺らめく光の膜を超えなければ地上に辿り着くことは出来ない。

しかし、あの膜には触れることも越えることもできないのだと肌で理解することができた。


地上を目指すわたしにとって道を塞ぐあの膜は何よりも忌々しい存在だ。


だが、虹色の存在感が否応なしに告げてくる。

光の膜は途方もなく巨大でこの通路を覆うだけに留まらず、全てを、地下を覆っているのだと。


私は無意識に誰かに縋り、助けを求めるように後ろを振り返った。

一列縦隊で歩み続けてきた頼もしい仲間に顔を向ける。


皆、一様に顔は恐怖で歪んでいた。


止むを得ない戦闘の際に、常に先陣を切り我々を勇気づけてくれたバニー・ボーイですら腰を抜かしていた。


前を向き、無理を承知で震える足を動かした。

後ろからやめろとか細い声で親友が呟いた。


一歩、一歩と足を動かし、光の膜まであと数歩となった。

乱れる呼吸を正そうともせず、地上を見たいという一心で足を―――――



足を持ち上げようとして――――どうしても動いてはくれなかった。


出発の時、決心したはずの私の心は音を立てて崩れ落ちた。


あれには触れてはならない。

きっと許容を超えて私が私でなくなる、そんな予感がした。


私達は逃げるように後退る。

頭の冷静な部分が膜以外の脅威を警戒してゆっくりと足を進ませた。


行きの何倍も時間を掛けて光の膜から遠ざかり、ようやく虹色の光が届かなくなった頃、私達は全員、膝から崩れ落ちた。


誰も先に進み、光の膜を超えようなどと口にする者はいなかった。


私達の物語は、此処で終焉を迎えたのだった。



(ラインホルト・ファインズ 『世界旅行紀行 第八章より抜粋』)




第六十話




黒い布に囲われた質素なテント。

ただ布で区切られただけの空間は外界から切り離されており、人で溢れかえっているはずの外から、音一つ侵入を許さない。

中央には飾り気のない木の椅子4つと木の机1つ、他に目立った調度品の類はない。

照明の類は少なく、間接照明が隅に簡単に置かれていた。


そんな薄暗いテントの中で、俺は一人のエルフと向かい合って座っていた。


「本当にお久しぶりです。スバル様。最近いらっしゃらないので、てっきりもう私共と取引してくださらなくなってしまったのではないかと枕を濡らしていたところでしたよ」


木の椅子に姿勢正しく座っているエルフ――――キールが、石のゴーレムに指示を飛ばしながらお道化たように切り出した。


此処は闇市最奥に設置されている『アークティック商会』のテントだ。

俺は毎度おなじみ闇市に秘術発動体の補充に訪れていた。


「ははは、何を言ってるんだ。折角できた良い縁を俺が逃すはずないじゃないか」


室内には何処からか音楽が流されており、数体の石のゴーレムが金貨を数える擦れた金属音を和らげている。


今はすでにキールに欲しいものを告げ、金貨を支払う段階。

後はゴーレムが金貨を数え終わり、商会が品物を用意するまで待つだけだ。


「しかし、意外だったよキール。まさか、まだこのテントであんたに会えるとは思ってもみなかったよ」

「スバル様は特別なお客様ですから、相応の接客ができる者でないといけませんからね」

「特別か……だったらもっと値引きしてくれても構わないんだぞ?」

「ソレはそれコレはこれですよスバル様」


軽口を叩いてみるが、いざ実際に値引きをされたら俺は困る。

安くなるのは嬉しいがもっとビジネスライクでないと後が怖い。


今はアークティック商会にとって有用な情報を差し出し、彼らへの貸しの方が多いが値引きなんてされ続けたら俺の貸しは簡単に吹っ飛んだしまう。


金貨は稼げる。

だったら、いつか金に変えられない何かの形で返してもらった方が断然良い。


「そういや噂に聞いてるぞ。君らの商会は随分と手広くやってるみたいじゃないか」


今、闇市の中でアークティック商会と言えば、アイリスへの黒龍襲来事件以降、急速に地盤を固め飛ぶ鳥を落とす勢いで拡大している商会だと専らの噂だ。

酒場では闇市の運営に関わる大商会の一つから、闇市を取り仕切る商会にまで勢力を伸ばしたとの話だったが、今日の闇市の露店やステージでの運営状況を見る限りその話は事実なのだと確信できた。


大きな商会がさらに大きくなるというのだからなんとも景気のいい話が転がっているもんだ。

彼らの躍進の裏でどれほどの血が流れているのか、想像すらできない。


俺の内心を余所に、キールは笑顔で答えた。


「幸運な事に闇市のある部門を取り仕切る商会が『また』黒龍様の逆鱗に触れたみたいでしてね。残念なことに私共の商会の大事な人材も巻き込まれてしまいましたが、私共は彼らの犠牲を糧に今一度大きな一歩を踏み出しました」


商人らしい人の良さそうな笑顔の裏でいくつもの禄でもない企みを実現させているのだから彼らを敵には回したくない。


キールの今の話も、意訳すればライバル商会と一緒に無能な味方、或いは商会内の敵対派閥を処分したよ、という意味になることは請け合いだ。


またと言っている辺り、黒龍を騙ってるのか本物かは分らない。

正直、人間のことなど然程気に留めているように思えない黒龍が出張るとも思えないので大方黒龍を騙ってキールが動いているのだろう。


キールは黒龍が行使した力を見ているだろうに、騙りが出来る辺り脅威を理解していないのか、それとも知っててやっているのか……。


まぁ、何れにせよ俺に飛び火しないのであれば、懇意にしている商会が力を持ってくれるのは良い事だ。


「そうか、景気が良さそうで安心したよ。俺としては今後も良い関係を続けていきたいからな。あれだろ? デーモン共に囲まれてる例の……グルタラモ。あの街なら君らの需要も高いだろう? 最高に儲けたんじゃないか?」


同じ人間同士の争い、クリーチャーやモンスターとの戦い。

これらはどういった経緯で起こるにせよ戦いには多くの物資が投じられる。

食料、医薬品、秘術発動体、例を上げればきりがない。

その物資を揃えるのは何時だって商人たちだ。

これから起こるであろう戦の事を彼らが知らないはずがない。


「あぁ、グルタラモですか……」


予想とは裏腹にキールは浮かない表情を見せた。


「そんな顔してどうしたんだ? 結族の連中が販路を全部搔っ攫いでもしたのか?」


部屋の片隅では俺が地面に広げた金貨を石のゴーレムが三つ指で一枚ずつ数えている。

仕草は可愛いらしい。

最近、リナを慕う子蜘蛛が料理に掃除にと一生懸命働いてくれているのも良いが、やはり小さな人型の方が断然可愛さは上だ。


本来であれば秘術で金貨を数えることも可能なのに、こういった贅肉とも言える時間を作り、会話を交わすことで互いに情報を交換し、より強い信頼関係を築くことができるのだ。


この辺りの信頼関係とビジネスライクな付き合いの線引きを上手くコントロールするのも大変だが重要な事だろう。


「……そのうち広まる話ですし、スバル様だからこそ今、言いますが……」


ほんの雑談程度に出したつもりであった話題だったはずが、どうも本当に何か良くない事が起きているらしい。


「どういうわけか、デーモン達の勢力が忽然と消えてしまいましてね」

「……そりゃ可笑しな話だな」


俺はデーモンの専門家というわけじゃないが、ロベルティーネから話は聞いている。

彼らは戦いに備えたのにも関わらず、矛を収め大人しく和平をするような性質を持ち合わせていない。


グルタラモの街が巻き込まれるかは別にしてもデーモン同士で戦いもせずに引き下がるとも思えない。

小競り合いではなく、別の指導者の元に集まった軍団であれば猶更だ。


「彼らが駐屯していた場所には争った形跡がなく、ただ消えてしまったように見えるそうです。戦いを見込んで用意していた物品が捌けなくて商会としては残念でなりません」

「全く、変な世の中になってきたな……」


デーモン同士の争いが起きなかったのか、それとも彼らが抵抗を許さないほど隔絶した実力差のある存在に葬られたのか、真相は闇の中だ。

知る術はない。


「本当です。良い事があったと思えば悪い事が起き、更に悪いことが続く。そう景気の良い事ばかりじゃないのが。この稼業の辛いところです」

「何かまだ心配の種でもあるのか? 闇市を運営する商会が心を砕く程のことが」


言外に、お前ら裏で何でもできるだろうにという意を含ませる。


デーモン達相手ならいざ知らず、人間社会であれば大抵のことを裏で実現させることのできる力は持っているはずだ。


「最近、ある麻薬が急激に流通量が増えましてね」

「麻薬?」

「それも危険な類の品でして、流通量をかなり制限しているのですがどうにも何処からか、かなりの量が流れてるみたいでして……」

「危険な類って、もしかしてルシフェリウムか?」

「えぇ。あの薬です。そもそもあの手の危険な薬は本来なら闇市と言えども御法度でしてね。完全に取り締まると歯止めが利かなくなるので少量の流通を認めてはいたのですが、此処に来て私共の商会が感知しない品が一気に量を増やしましてね」

「そう言えばこのテントまで来るまでに結構紅い目の奴がいたな」

「それらは私共が認めているものではありません。いくら、私共の稼業は明るいものではないとはいえ、やってはならぬルールがありますので」


あの時、黒龍使っての同業者処分を誘っておいてなんだが、同業者を裏切るような真似は有りなのか。


「寝首を掻かれるのは掻かれる方が悪い。それもこの稼業のルールです。冒険者の方も同じようなものでしょう?」


顔に出ていたのか、キールに補足をされる。


「あの薬、ルシフェリウムには多くの副作用に異常なほどに強い常習性があります。あれは人間社会を危険に晒すもの。私共は財を成すことに重きを置いておりますが、そのお金も社会無くして価値はありません」


キールにしては珍しく、彼の瞳は損得勘定をしている類のものではなく心の底から怒りを滲ませているように見えた。


「だからこそ私共の稼業にも遵守すべきルールがあり、誰もが皆、最低限に設定されたそれを護って営んでいます。だと言うのにそのルールを破り、稼業全体、引いては人間社会を危険に陥れようと画策している輩が居るのです」


思い返すとこのテントまでの道程は、たしかに以前よりも瞳を紅くした連中が居たように感じた。


「売人を掴まても、売人に売った胴元の情報は、奴らが念入りに足跡を消しているようで手掛かり一つ得られていません。もし何か怪しい事、怪しい噂、どんな些細な情報でも構わないので何か知っている事があったら教えていただけませんか?」


闇市全体に喧嘩を売ってルシフェリウムの売買か、大層なことを企む連中も居たもんだ。


「残念だけど何も知らないな……そちらも知っての通り俺達は今、開店休業中だ。それに君らが分らないことが俺にわかるのか?」

「黒龍様とお知り合いで、私に商機を紹介してくれた方ですから、何か御存じではないかと思ったのですが……」

「残念だが本当にわからないな」


俺の返答を聞き、キールは深く息を吐いた。


「……はぁ、お客様の前でこんな弱音なんて吐くなんて。私もどうやら疲れているようですね」

「休みでもとったらどうだ? ゆっくり羽根を伸ばせば心が軽くなるぞ。商会にそんな制度があるのかは知らんが」

「その休みでスバル様は『地底の篝火ミルトリオン』で宗教団体とやり合ったと噂話が流れていますよ」

「………………」


あれ以来、まともな戦闘をしていないということもあるが、ニヶ月以上もた経った今でもあの時の疲れを時折思い出す。

あれは中々にハードな経験だった。

ただのショッピングが原理主義者討伐に発展するだなんていったい誰が想像できるんだ。


「さて、私ばかり話過ぎてしまいましたが、スバル様もそろそろ本題に入ったらどうでしょうか? このところ大して宝石の類を使っていないはずなのに、まさか、本当に買い物に来ただけいうわけでもないでしょう」

「色々と物を揃えて用意をしたいってのも嘘じゃ無いんだが……まぁ、聞きたいことはあるな」

「……どのような事でしょうか?」


疲れを見せていたキールが椅子に深く座り直した。


「協約とやらについてだ」


キールの表情からは何も情報は読み取れない。

しかし、何の話をしているか分かっていないわけではなさそうだ。


「最近の噂じゃあのグルタラモでデーモンの奴らが集まったのも協約のせいだというじゃないか。黒龍が言っていた協約と同じものかはわからないが、龍二体だけに留まらず上位者達がなんらかの取り決めを交わしているなら内容を知らないのは危険だろう? あんたの事だ。俺が協約という言葉を口にしてからすぐに調べ始めていたんじゃないか?」


俺がキールに協約の話をしたのは黒龍と接触してしまった時の事。

あれから随分と時間が経っている。

情報が集まるのには十分な時間だ。


「……ふぅ、そうですね。調べていないと言えば嘘になります。ただ、スバル様が求めている情報は何も出せない、というのが実情です」


それは俺には話せない内容だということなのだろうか。

俺の様子を見て、キールは静かに付け足した。


「いえ、言い方が悪かったですね。何も分かっていないのです。中身も、いったい誰が協約に参加しているのかもまるで、何も、全くわかっていません」

「……まるで何も?」

「えぇ、まるで何も……黒龍は勿論、白龍の線からも、知性あるクリーチャーからも、結族達からも答えは得られませんでした。一つ分かっている事はただの知性あるクリーチャー程度では協約の存在すら知らない、ということくらいでしょうか……」


予想はしていた。

だからこそ俺はそれほど気を落とさずキールの話を聞くことができた。


「各街の古い記録や、小規模集落の伝承から協約という言葉自体は何度か出てきてはいるようですが、それも龍だとか天使だとかデーモンだとか上位の存在が協約という言葉を口にした、という程度でしたね」


黒龍の口ぶりやデーモン達の小競り合いから、勢力圏が定められているということなのだろうか。


俺の脳裏にワニスの言っていた人間の勢力圏が大きすぎるという言葉がちらついた。


「これは私見ですが、もしかすると白龍がアイリス……いえ、正確にはセントラルシティですね。あの街を守護している事と関係あるかもしれませんね」


我らが白龍様は何故、この場所を守護しているのだろうか。

まさか博愛精神に溢れているわけでもなかろうに、何かこの場所を護る理由があるはずだ。


アイリスにおいて二つ、明確に他の街と違うものがある。


一つはセントラルシティの存在。

当初、アイリスにやってきた時はたいして気にも留めていなかった。どうせ結族の身分の高い連中の特別地区でもあるのだろうと考えていた。

しかし、ドゥシャー・ルキーニシュナ・ミクリナという御伽噺に出てくる純人間ピュア・ヒューマンと出会ってしまった。

そして、彼女は外装骨格という世間には出回っていない強力な科学技術を持っている。

純人間と科学技術、これは他の街にはないものだ。


もう一つは、宙に浮かぶ虹色の球体だ。

目に煩い七色の光を放つあの球体はどの街に行っても同じものがあると聞いたことはない。


これらのうちどちらか、或いは両方に白龍が護るに足る理由があるのだろうか……。


考えても答えは出ない。


「そうか…………」


考えても調べても結果が得られないのは気分の良い話じゃないが、分らないのなら仕方がない。


…………いっそ黒龍にでも直接聞いてみるか?

いや、それは得策とは思えない。


そもそも教えることのメリットが黒龍にない。


俺の頭の中で思考がぐるぐると回り続ける。

何度かのループを繰り返し、深呼吸を一度して思考をフラットな状態へと無理矢理戻す。


「私共の商会ではこれからも調べていくので何か分ったらお知らせしますね」

「あぁ、頼む」


結局のところどんなに考えてもいつも通り淡々と目的に向かって動くしかない。

世界の真実がどうであれ、ココとロベルティーネのために何かしらの解決手段を探さなきゃいけないことには変わらない。


わからないなら余計な心は回さずに目的に全力で取り組もう。


「あぁ、そういえば最近はアイリスで蜘蛛が住んでる家をご購入されたとか? 言って下されば良い物件をお探ししましたのに」


少しの沈黙が続き、キールが突然切り出した。


このまま無意味に沈黙が続くのは本意ではない。

俺は無理矢理な話題の転換に乗っかることにする。


「蜘蛛と同居ってのも中々に良い奴らだぞ。大きさは手のひらサイズから巨人サイズまでいるが、話の分かるやつらで最近じゃ料理までしてくれる」

「えぇ…………」


キールは蜘蛛が嫌いなようで商人の顔を脱ぎ捨て、本気で引いている。


「…………家までを構えてゆっくりなさってたと聞いてますがそろそろ冒険者稼業を再開なさるので?」

「まぁ、ぼちぼちな」


長い休みを経て、すっかり疲れは消えて新しい道具や武器も手に馴染んできた。


リナも外装骨格の研究も一段落したようだし、ココも何やら一区切りが付いたようだ。


俺も現状ですべきことは終わった。


この休みの間に原理主義者どもから復讐でもされないかと心配していたが俺たちに何かしようとする動きはなかった。

もしかするとグラント結族やケラニア結族、それともミルトリオンのシティガード、大穴ではあるがキールも後ろから手を回してくれていた可能性もあるが。


「なるほど……スバル様方のような力ある冒険者が遊んでいたのは世の損失、『アークティック商会』では常に優秀な方の手を求めています。よろしければ私共商会に力を貸していただけないでしょうか?」

「いやいや、先ずは簡単な依頼から受けて調子をあげていくさ」


現在進行形で多方面に喧嘩を売って拡大を続ける闇市の商会の依頼なんぞ、何をやらされるかたまったもんじゃない。


休み明けの身体には辛い事この上ないだろう。


「それは残念です」


口ではそう言ってるが、キールの商人としての顔はまるで残念がっているようには見えない。

俺の性格や傾向を調べているのであろう。

断られることも想定済みなのだ。


キールが残念だ、と言い終えると同時にテントの奥から石のゴーレムが宝石を並べたワゴンを押してやってくる。

ちょうど金貨を数えていたゴーレム達の手も止まっており、彼らは余った金貨を俺に差し出してきた。


「良いタイミングで用意ができたようですね」


そのタイミングを見計らっていた癖によく言う。


俺はゴーレムが持ってきた宝石を確認し、注文した物であることを確かめて携行袋に詰め込んだ。


「じゃあ、そろそろ行くよ。また何かあったら使わせてもらうからよろしくな」

「スバル様、毎度有難うございます」


俺が立ち上がるとキールも立ち上がり腰を曲げた。

手を挙げて礼を返し、俺は闇市のテントを後にした。


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