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虹彩都市アイリス  作者: とんさき
第五章 アイリス・デイリー・ライフ
88/93

地下世界58

アイリスエヴォリューション 号外


・『グルタラモ』の危機的状況!! 小競り合いは始まっている!!


いつもなら街の小さな秘密を暴いたり、大きな秘密を突き回す我らがアイリスエヴォリューションも今回ばかりはおふざけ無しだ。

酒を片手に流し読むのはやめて珈琲を用意して優雅に文字を追って欲しい。

我々にも真面目な部分があると善良なアイリス民の皆様にもご理解頂けると確信している。


私は伝手を利用し、エルフの街『グルタラモ』へと赴き、グルタラモの近くで屯しているデーモン達の近況を手に入れた。


今現在、グルタラモ近郊にはは二つのデーモンの勢力が集まり、今まさに戦火が巻き起こそうとしている。

そんな彼らの警戒を掻い潜るのは至難の業だった。


だが、私のジャーナリスト魂は止まってはくれない。

デーモン達が話す言葉は難解だが幸い私には彼らの意思を見る力がある。


彼らの思考を纏めると今回の戦いの原因は『クリミト』を筆頭とするデーモンの勢力が『ラーヴェイジ』を筆頭とするデーモンの勢力に対して『協約』というものを破ったことが原因らしい。


彼らの話す『協約』がどういった内容なのかはわからないが何か重要なことなのだろう。


彼らの意思から察するにデーモンの勢力はそれぞれの筆頭をトップとする完全なピラミッド構造であることは理解できた。

今のところ彼らはグルタラモに興味を示している訳ではないがこのまま本格的にぶつかり合えば余波が街に及ぶことは想像に容易い。


それぞれの勢力の正確な数は全く把握できていない。

ただ、『クリミト』30の軍団、は『ラーヴェイジ』は42の軍団を率いているらしい。

少なくとも巨大な洞窟を受けつくすほどの数は私の目で確認できている。


どうだろうか?

アイリスの賢い皆様方ならばこの状況下を切り抜けることができるのかわかっているのではないだろうか?


無論、解決策なんてものはない。

あれほどの数のデーモンは自然災害と同じく諦めるよりほかにない。

我々に許されている事は天使に祈りを捧げるか『グルタラモ』から尻尾巻いて逃げ出すことだけだろう。


今はミゲッタ結族が集まり、街の避難を順次開始してる。

願わくば全員が逃げ切れるように祈りを捧げたい。



残念ながら私が意思を読みとったのはピラミッドの下層にいるデーモンからだ。

更に事情に詳しいであろうピラミッド上部の存在からは話を盗み聞くことおろか視界に収めることすらは叶わなかった。

仮に叶っていたら今頃私はこの記事を発表することは出来なかっただろう。


なんて私は幸運なんだ。

もちろん私はグルタラモから他社を押しのけ真っ先に逃げてきた。

ジャーナリスト魂? そんなものは命あっての物種だ。


やはり私はアイリスの小さな秘密が性にあっている。

皆も自分の命は大切にしよう!!


今回の担当記者 カニエル・ウッドワード




地下世界 第五十八話




「今回モ良い取引ダった」

「こちらこそ良い取引だったありがとう」


差し出されたボルトガの小さな手を握り返した。

彼はコボルト基準では大柄だが、やはり獣人の俺と比べると随分と小さい。

黒孔と『秘術の携行袋』に詰め込んできた大量のお菓子を出し終わり、対価の冒険者の遺品を受け取り、お茶を口に含んでようやく一息つく。


いつものような薬草の香りではなく、アイリスの応接間で飲むような洗練された芳醇な香りのお茶だ。


現在、俺はココやリナと離れ、ボルトガが長を務めるコボルトの集落に来ていた。

最も、発展具合からして集落と言えるような規模では無くなっているが。


「此処に来た時も思ったが、此処から改めて見るとよくわかる。随分と発展したんだな……」


ボルトガの家の窓から見渡せる集落の様子は数ヶ月前と比べて目に見える形で様変わりしていた。


集落の道には模様が描かれた石畳が敷かれ、『消えずの松明』の数も大幅に増えており、殆どがテントだった家も石造りに変わり、噴水のようなものまで設置されている。

多層構造により至る所に渡されていた縄橋も立派な木造に入れ替わっていた。


大型の建物も増えており、コボルト達が至る所で熱心に働いている。

よく見れば農作業をしているコボルト達が持つ道具も新調されているように見えた。


また、ボルトガの石造りの家自体も増築され、獣人でも自然に暮らせるほどの大きさになっていた。


「アぁ、そうだ自慢の街だぞ。面倒も多いが仲間が増えルのは本当に喜ばシい」


集落の外からボルトガの家まで歩いてくる道もよく整備されており、動線も大幅に改善され、格段に歩きやすくなっていた。

他にも、集落と外との境界で仕掛けられている罠の凶悪さや複雑さも増し、コボルトの見張りも増えていた。


さらに、ボルトガが身に着けている装備や服だけではなく、そこらのコボルトが着ている服の縫製レベルも格段に上昇し、今やボロ布を羽織っているようなコボルトは一匹も存在していない。


「仲間が増えたのか? ざっと見た感じじゃ別に以前と変わってないように見えたが……」

「フフフ、実は此処からアの時に襲撃したゴブリンの住処マデ一本道を引いたんダ。あのママじゃすぐに別の種族に使われテしまうのが目に見えていたからコッチで有効利用してやってルンダ。道ガ真っ直ぐなおかげデ今じゃ数時間であっちに辿リ着けるゾ! アッチには此処以上に仲間が居るんダ」

「凄いな……この辺にそれだけの数のコボルトがいたのか」

「いヤ、ゴブリンを退けた噂を聞キつけて遠くからもこっちに身を寄せに着た者もいル」

「なんでまたこんな所に来るんだ? 此処ってアイリスからそんなに遠くはないし安全とは言い難い気がするんだけどな」

「デーモン達が各地デ騒ぎを起こしてイルから藁にも縋る思いで此処に来る者モいる。誰だって戦いに巻キ込まれたくはないんダ。ボルトガはそういう仲間はデキるだけ受け入れタイ。ボルトガ達ハ平穏に生きたいンダ」


人手が増えたから色々と出来ることも増えたって感じか。


……いや、だとしてもこの発展具合は信じられない。


人数が増えたとしても物を作るには資材や技術が必要だ。

食糧の増産もすぐには間に合わないし、こんな場所で資材を手に入れるのはかなりの時間が要するはずだ。


「……けど、人数が増えたにしても短い期間で発展しすぎじゃないか?」

「ヨクゾ聞いてくれタ、聞いて驚くナよスバル。ボルトガ達はコノ地に根を下ろすコトにしたんダ。それで生活レベルヲ元々の状態まで引き上げたンダ。簡単な道ノリじゃなかったが我々だっテ、本来はコレくらい朝飯前ダ」


たしか、元々此処のコボルト達は東から流れてきたんだとボルトガに聞いた記憶がある。

その時に、アイリスに近いからすぐに逃げられるように荷物はずっと纏めてあると言っていたはずだ。


「なんでまた突然永住することにしたんだ? 言っちゃあれだが、此処はアイリスに近すぎるだろ。結族の連中が黙っちゃいないんじゃないか?」


網目のように複雑に広がる地下世界とはいえ、このコボルトの街には徒歩数日でアイリスから辿り着いてしまう。

今は放置されているが何時、街を支配する結族たちの気が変わるかも分らない。


「安心してクレ! 先日、そのアイリスの結族ト互いに不可侵の盟約を立てたンダ」

「…………また、随分と急な話だな」


アイリスの結族連中は何年も放置していたのにどうして急にそんなことを言い出したんだろうか。

俺の疑問を察したのかボルトガが口を開いた。


「スバルも遠方とはいえ『グルタラモ』のことは知ってイルだろウ? デーモン達ガ最初に集まリ始めたノハ街から数日の距離にあったゴブリンの集落だったらシイ。ソコに人があまり近づかなかったセイでデーモンの動きをすグに察知できなかったコトを反省しているようダ」


そういうことか。

何故今更と思ったが今だからなのか。

こういった大きな空洞は必ず何らかのクリーチャーが住みつく。

であればこういう空洞を勝手に変な連中が使うよりもあまり人類に積極的に敵対しようとはしないクリーチャーに使わせて管理させようっていう腹か。


「互いノ不可侵を約束する代ワリに定期的に連絡をするという条件ダ。最初は人を何人か住ませろとイッテきたが断っタ。ボルトガ達にもボルトガ達の生活があル」


元々、結族たちにそういった意図もあって放置していたのかもしれないが、完全に交流がないと知らぬ間にデーモンに集まられてしまう可能性がある。

だからこその定期連絡というわけか。


予想以上にグルタラモ付近でのデーモンの集結は他方に影響が出ているようだ。


「まぁ、そういうことなら良かったな。安住の地になるかはわからないが何時いなくなるかもしれない取引相手よりも定住してくれる相手の方が俺としてもやりやすい。これからは結族の連中との取引もあるだろうけど、俺達とも仲良くしてくれよ」


結族が介入して来ていたなら発展具合は頷ける。

最低限この空洞や元ゴブリンたちの住処を管理させるにしても簡単に他の種族に追いやられてしまっては話にならない。


不可侵とボルトガは言っていたが結族達はある程度の支援はしているのだろう。

でなければこの発展具合は説明ができない。


「あぁ、もちろんダ!! ボルトガ達が苦シイ時、最初に武器と食べ物を交換してクれたのはスバルだかラナ。あのゴブリン達の件もあル。ボルトガ達は恨みを忘れナイが、恩はもっと忘れナイ! これからモたくさんの甘い物を期待してイル」


サイオニックで作物の成長促進ができるとはいえ彼らがこの地にやってきたばかりの時は食料生産がすぐにできるわけもなく、数日おきに通っては食べ物を届けていた。

無論対価はもらっていたが。

俺が居なくともどうにかなっていただろうが居たことで楽にはなっていたはずだ。


「そうか、だったら期待に答えようか」


俺は黒孔から自分用とっておいた『頑固者のドーナツ屋』で購入した保存の効く新作ドーナツを取り出し、三個ほどボルトガの前に置く。

ダース単位で購入しておいたからこの程度の数、痛くはない。


「アぁ、毎度スバルの持ってくるお菓子には心が躍ル!! なんて素晴らしい!!」


夢中で頬張り、あっという間に食べ終えて悲しそうな顔をするボルトガにさらに追加でドーナツを渡してしまう。

幾つか種類のあるドーナツをボルトガは一つ一つ吟味しながら口に運んでいく。


ボルトガ同様に自身もドーナツを口に含み、補給された糖分で思考を回す。


……遂に結族の手がクリーチャーにまで伸び始めたか。


今は先入観や慣習からボルトガとの交易を最小限にしているだろうが、いつか彼らの有用性に気が付くだろう。

いや、むしろ今までも知性があり比較的交渉しやすいクリーチャーの有用性にはずっと気が付いていたはずだ。

だが、街の住民や冒険者の目があるから表立ってクリーチャーと取引は出来なかった。


冒険者は仲間を殺したクリーチャーを恨まないはずがないし、街の外は危険だと教えられている街の一般住民も恐怖の対象と取引して欲しいなどとは考えもしなかっただろう。


しかし、状況が変わった。

デーモン対策などという大義名分があれば監視や管理、いくらでも名目つけて交流ができる。


ボルトガは今後の取引に影響がないようにしてくれると言ってくれたが鵜呑みにはできない。

彼はコボルトの長、一万以上のクリーチャーを率いる責任者だ。

義理や恩を大切にすると言ってくれたが、ボルトガは必ず、長として正しい決断をするだろう。


楽な稼ぎ相手を失ってしまいそうだ。

別の金策も考えておいたほうが良いだろうな……。


ボルトガは一口に結族とだけ言ったが何処の結族が此処にやってきたのだろうか。


「そういえば、ここに来た結族って何結族だったんだ? アイリスでも色々と結族って名のつく連中がいるんだが」

「ソウか、結族っていうやつにも色々と種類が居るんダナ……ボルトガを訪ねてきた結族はケラニア結族と名乗っていたゾ」


フラーラのとこか。

いち早くクリーチャーとの交渉に動いたのが彼らなのか?

……それは考えづらいな。


変に抜け駆けすると他の結族に付け入る隙を与えるだけだ。

クリーチャーと取引する悪辣な結族だと噂を流されるだけでも信用に傷がつく。

そうなると協議の上でフラーラが此処を担当したと考える方が自然なはず。


俺自身は行ったことはないが、たしか、アイリスの周辺には他にもクリーチャーの集落が幾つかあったと聞いたことがある。

もしかすると結族同士でそういった集落を均等に分け合ってる可能性があるな……。


今から新しい集落と仲良くなろうとしても旨味は少ない。


いっそのことフラーラに頼んでこの集落での取引に噛ませてもらうか?

……得られる金額よりも結族への借りの方が大きくて駄目だな。


まぁ、仕方ない。

やはり別口の金策を考えよう。


思考をまとめ上げ、笑顔でボルトガと談笑しながらドーナツを食べ進める。


考えれば考える程、全くもって結族は厄介な連中だ。

恩恵も多いが面倒事も多い。

俺の得意先と変な盟約を結びやがって……。


「あぁ、そうだ。盟約って言葉を聞いて思い出したんだが、龍が結んでいる協約ってやつについて何か噂で聞いたことがあったりするか?」


ボルトガはドーナツを食べるの手を止め、何かを思い出そうとするように何もないところを見つめた。


「……アぁ、思い出シた! 昔、長老に聞いたことがある。たしか、ボルトガの先祖達が『高貴なる地底龍』から聞いた話だったはずダ。遥か昔に結ばれた誓いで内容までは聞かされてないが、この世界にいる大きな力を持つ者達が集まりその誓いを立てたらしい。その誓いの重要さを表すために彼らは別の誓いを結ぶとき『協約』という言葉だけは絶対に使わないそうだ」


……口ぶりからすると龍同士だけで結ばれたものじゃなさそうだな。

興味本位で聞いてしまったがただの人間が興味を持っていいものじゃなさそう。


俺達、定命の小さな人間には関係ないだろうが、うっかり上位の存在が決めているタブーを侵さないようにしたいものだ。


それから雑談に花を咲かせているうちにドーナツも食べ終わり、出された茶も飲み終わる。

そろそろ潮時だろう。あまり長居してもボルトガに迷惑が掛かる。


「…………さて、そろそろ俺は帰ろうかな。ボルトガも大きな街のトップだし忙しいだろ?」

「そんなことはない。ボルトガは最後に首を縦に振るだけだ。他にも頭の良い奴が色々とやってくれている。ボルトガは立場の見た目ほど忙しくはないんだ。また、何時でも来てくれ。何時でも歓迎する」


椅子から立ち上がり、腰の『秘術の携行袋』から宝石を取り出した。

俺は最後にもう一度ボルトガと握手をして扉ではなく、物の置かれていない部屋の中ほどに歩いていく。


「どうした? 扉はそっちだゾ?」

「ボルトガの立場が上がってるように俺も多少は成長してるんだ」


宝石をボルトガに見えるようにつまんで見せた。


「こいつは≪転移≫が込められた宝石だ」


この≪転移≫の込められた秘術発動媒体はミゲッタ結族が生産者であるだけにかなりのお値引き価格で売ってもらっている。

常用するわけにはいかないが、今回のボルトガの取引で得られるであろう黒字を考えれば使ってもいいだろう。


一応、秘術が正常に作動するか確認はしてあるが、街の外で使うのは初めてだ。

最終確認を兼ねている思えばさらに使う理由ができる。


「≪転移≫?」

「平たく言えば瞬間移動だよ。別の場所と別の場所を一瞬で移動する秘術だ」


秘術の知識に明るくないボルトガの疑問符に素早く答えた。


「おぉ!! そいつは凄イ!! その手の力はボルトガには扱えない!! スバルも随分出世したみたいだナ!!」


街の冒険者には手管を晒してしまう危険性から自慢できないような事柄も、長い付き合いのボルトガには軽く話すことができる。

彼は義理固く、口も軽くない。

仮にうっかり他者に話してしまったとしても、≪転移≫を使用し続ければどうせいつかは広がることだ。


「じゃあ、またそのうち来るよ。次来るまでにこの場所がどれくらい発展するか楽しみだ」

「あぁ、まだまだボルトガ達の力はこんなもんじゃない。新しく来た仲間は手先が器用な者も多い、次に来るまでにもっと発展している。期待してていいぞ」


今、手に持っている≪転移≫の込められた宝石はすでに座標指定を行った宝石と紐づけられており、行先は決まっている。


もちろん、行先は自宅、通称『蟲の根城』だ。


ボルトガに手を振り別れの言葉を口にした。

そして、宝石に込められた秘術の力に意識を傾ける。


慣れない秘術を使う時はどうしても慎重になってしまう。

まぁ、でも繰り返すうちにきっと慣れていくだろう。


「≪転移≫」

「さらバダ」


力ある言葉を口にすると手を振り返してくれているボルトガが黒に染まり、次第に視界全体が黒く染まる。

全てが黒になった時、足元が消失してしまったような浮遊感が訪れた。


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