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虹彩都市アイリス  作者: とんさき
第五章 アイリス・デイリー・ライフ
85/93

地下世界55

右を見る、土の壁。

左を見る、岩の壁。

上を見る、光り苔のこびり付いた岩の天井。

下を見る、石ころの転がる地面。


我々を取り巻く環境全てに限りがある。

そう最初に感じたのは5つの頃だった。

想いは日に日に強くなり、次第に地下の世界が息苦しく思えてくる程にまで想いが大きくなっていた。


そんな息詰まる私の想いを慰めてくれたのは酒場の冒険譚や本で語られる神話の類だった。

酒場で冒険者が語る物語は壮大で雄大だ。


演奏家の奏でる音が臨場感を煽り、平凡な街の住民だった私もまるで私自身が冒険しているかの錯覚を与えてくれた。

冒険譚は冒険者の人生のそのもの、毎夜繰り返される彼らの語りには心が躍った。


しかし、中でも私が好んでいたのは神話だ。


かつて人類は地上に暮らし、青い空の元、日の光というものを浴びて生きていたらしい。

夜は月が地面を照らし、星が旅人を導いていたのだ。


太陽は、夜は、月は、星は、いったいどれほど綺麗なものだったのだろうか。


この二つの眼で真直ぐに見てみたい。

私は叶わぬ想いに空想し、想像の地上を走り回る夢すら見ていた。


この憧れは何時しか私を焦がし、旅路へと駆り立てた。


私は私財を売り払い、仲間を募った。

殆どの者には鼻で笑われてしまったが、何人かの命知らずが私の想いに賛同してくれた。

父母にも反対されてしまったが私は長男ではない。

家など長兄が継げば良いのだ。


私は私の想いに嘘は吐けない。

今、動かなければこれから先、私は事あるごとにその日の決断を後悔することになる。

そう確信していた。


おそらくこれから幾つもの困難に直面するだろう。

世界の果てに近づけば近づくほど人の影響力は少なくなり、安全な場所は無くなっていく。

デーモン達が住まう前人未踏の地へと自ら足を踏み入れようとしているのだ。


だが、私の足は止まってはくれない。

在りし日の想いが私を果てへと進むよう今この瞬間も誘ってくるのだ。


(ラインホルト・ファインズ 『世界旅行紀行 プロローグより抜粋』)




第五十五話 ある一日




朝、何時まで経っても起きてこないリナを起こしに彼女の部屋へと足を向ける。

彼女は最近、朝早くにこの家を出て行き、夜遅くに帰ってくる生活が続いている。


なんでもグラント結族の施設を間借りして励んでいる外装骨格の改良研究が佳境なのだそうだ。

その尻ぬぐいで俺は誰かを起こすなんていう朝の行事をここ数日連続で行っている。


俺は廊下ですれ違う知性ある蜘蛛の子どもたちに軽く挨拶をしながらリナの部屋へと辿り着く。

ノックをして返事がない事を確認し、俺はリナの部屋へと踏み込んだ。


室内には僅かな家具が置かれている。

タンス、ドレッサー、秘術で鍵の賭けられたチェスト。

殺風景、けれどおよそ人として最低限の生活を営むための収納家具がそこには置かれていた。


室内の中央、一番目立つ場所にはベットが置かれている。

しかし、部屋の中央でなくともそのベットは目立っていた。


柔らかなベットの上には日常では見られることのない巨大な糸玉が置かれていた。

人、一人ならば余裕で入るほどの大きさだ。

数匹の知性ある蜘蛛の幼体達が小躍りして糸玉の周りを踊っている。


「………………」


俺は溜息をつきながら腰のククリを抜き放ち、慣れた手つきで糸玉に刺し込んだ。

子蜘蛛が作り出した繭は固く、全力で力を籠めないと切り裂く事が出来ない。

蜘蛛達は逃げることなく俺の行動を見守っている。


糸の束を割き、玉を広げると中には銀髪の少女が眠っていた。

比喩ではなく文字通り眠っている。


「おい、リナ、いい加減自分で起きろよ……」


普段であれば寝坊など放っておくが、リナが研究を行っている場所は俺達最大の取引相手、グラント結族が統括する施設だ。

間違っても遅刻させるわけにもいかない。


リナが身動ぎ、身体を起こして繭に包まれながら伸びをする。

半覚醒の彼女に子蜘蛛達が飛びついた。

子蜘蛛は顔に肩に乗ってきゅいきゅいと鳴いている。


八本の脚を器用に動かし、リナの上を行ったり来たりしてる様は中々にショッキングな映像だ。


「……う~ん、みんなくすぐったいですよ」


蜘蛛に飛び掛かられたリナは大して気にした様子はない、それどころか耳を蜘蛛に甘噛みされても楽しそうにしている始末だ。

外装骨格、銀色の球体は寂しそうにその様子を見ながらふわふわと浮いていた。


「あ、スバルさんお早うございます。今日もすいません態々起こしてもらっちゃって……」


リナは顔に引っ付く手のひら大の蜘蛛を引きはがし、膝の上で撫でた。


「なんか……お前、変わったな……」


子蜘蛛が洗脳の類のサイオニックを使っている気配はないし、リナ自身は先日の件から警戒は怠らず、精神や身体を守る秘術は欠かしていない。

寝ているときも邪魔にならない程度に外装骨格を纏っているようで蜘蛛を撫でている手には銀色の手甲が嵌められており、全身には銀色のラインも見えている。


「……そうですかね? この子達も慣れれば可愛いですよ」


俺の回りくどい言葉だけで蜘蛛の事を指している事がわかるあたり、自分でも変化に気が付いているのだろう。


人の慣れというものは恐ろしい。

少し前では大きな蜘蛛を見るだけで顔を青くしていたというのに、今では頬ずりすらしている。


俺は蜘蛛に対して特別不快感を覚える性質ではないが流石に頬ずりまでしようとは思えない。


「……まぁ、程々にな」


リナについて深く考えるは諦める。他人の人情の変化なんて考えるだけ無駄だ。


「じゃあ、いつも通り糸を集めておいてくれ」


気持ちを切り替え、リナの前に真新しい『秘術の携行袋』を置く。

知性ある蜘蛛達の出す糸は頑丈な上に伸縮性も高く、服や防具の素材としての需要は高い。


今では、この糸を売るだけで彼らの食費がまかなえているどころか余裕でお釣りがくる。

差額で追加の肉を買い、それでも余るなら残りは俺達の懐の中だ。

彼らだけでは糸を売る手段も場所もないから手間賃くらいは頂いても罰は当たらない。


その代わりに蜘蛛は自身の糸が売れるという事がわかった翌日から彼らの居住空間にある本が仕舞われている部屋の使用料や、冒険者達の遺品の価格を釣り上げたのだからお互い様だ。

知性ある蜘蛛の名前は伊達じゃない。


俺は他愛のないことを考えながら子蜘蛛と戯れるリナを尻目に彼女の部屋を後にした。




――――――――





リナの寝室から出てこの家唯一のキッチンに向かうとココが何か料理を作っていた。

今日は彼女の当番だ。

ココは器用に包丁を操り、野菜や肉をあっという間に刻んでいく。


刻まれた食材はそのままドカッとフライパンに入れられコンロ、秘術の力で作られた火にかけられた。

肉を焼く匂いが鼻腔をくすぐった。

塩や香辛料が目分量で適当に入れられ、匂いが更に良い方向に変化する。


昼や夜の食事は外で済ますことも多いが、朝は折角手に入れた新居のキッチンを活用しようと当番制で回している。

今のところ、料理に飽きるまでは続けようと思っている。


この料理、意外にも一番上手いのはリナだ。

俺やココも最低限一通りものは作れるが如何せん野性味が強すぎる。

俺達の作る物では彼女のものと比べて味は一段落ちる程度に収まるが見た目の美しさがリナに遠く及ばない。


最近ではココがリナに対抗心を燃やし、料理に力を入れているようだ。

なんでも、調べものや作業の息抜きには丁度いいらしい。


ココの手慣れた鍋振りを見ながら椅子に腰かけ、卓上の『止めどない水』が取り付けられたデカンタを傾けグラスに水を注いだ。

本来なら新鮮な水を垂れ流し続ける『止めどない水』にオンオフ機能をつけた中々に値の張る秘術道具だ。

高いだけのことはあり、これが本当に使いやすい。


「リナはまた寝坊?」


ココは出来上がった炒め物を大皿に移し、何やら二品目を作ろうと準備を始めた。


「あぁ。その上、また子蜘蛛に繭に入れられてた。糸も全部回収してくるからまだしばらくは来ないんじゃないか?」

「ボクには蜘蛛の糸にくるまれて寝る感性が全く理解できないよ……」

「俺もわからん。一言目にはシーツの肌ざわり、二言目にも肌ざわり、セントラルシティのピュアってのは皆あんなんなのかね」


リナ曰く、蜘蛛の繭は極上の絹を遥かに上回る肌ざわりらしい。

しかも、蜘蛛の糸を加工して作られた布では駄目らしいのだ。

何やら未加工の糸でしか味わえない感触があるらしい。

全く理解できない。


たとえ心地の良いものだとしても捕食直前のような状態で寝るのは勘弁願いたい。


あのベットの上の様子を最初に見たときは捕食されてしまったのかと肝を冷やしたものだ。

俺の心配も虚しく繭を突き破りリナが起き上がったことにも驚いたが。


ココの料理を眺めながらしばらく話していると足音が近づいて来た。

足音は真っ直ぐに此方に向かってくる。


「おはようございます。ココさん」


部屋に入ってきたリナは相も変わらず子蜘蛛を侍らせている。

蜘蛛達には世話になっているだけに邪険に扱うこともできない。


この家は蜘蛛たちが管理し、補修まで繰り返していたせいか長く放置されていたのに建物の痛みは殆どない。

今も部屋の掃除も彼らがしてくれるし、留守も守ってくれている、さらに時々野菜も分けてくれる。

至れり尽くせりの素晴らしい環境だ。


そのお返しというわけではないが、朝食で多く作り過ぎた料理は蜘蛛たちのおやつとしてあげたり、外食の帰りには屋台のご飯を彼らに買って帰ったりもする。


素晴らしき隣人、いや隣蟲達だ。


ココがリナが来たのを確認すると、大皿に入った料理とスープ、市場で買っておいたパンをテーブルに並べてくれる。


リナも椅子に座り、用意の終えたココも続いた。

俺やココはすぐに料理を口に運び、リナは食べる前に手を合わせる。


「いただきます」

「いつもそれ言うけどなんか意味あるの?」


ココはがパンを千切りながらリナが何時もしている動作について訊ねた。

思い返せば今までもリナは酒が入っていないときにその動きをしていたことがあったがあまり深くは覚えていない。

酒場での食事の始まりは乾杯以外はありえないのだ。


「昔からの習慣なので詳しくはわかりません自然とやってますね。セントラルシティの時の知り合いも何人かはこうやってましたね」

「よくわからないけど宗教的な儀礼かもね」


いただく……ご飯をたべるからいただく? それとも宗教だとするなら命をいただくか? ……まぁなんでもいいか。

朝食の飯が旨いそれだけで良い。


「お二人さん、今日の予定は?」


食事の時間も折り返しに差し掛かり、この炒め物美味しいです等と喋っているリナとココにいつもの調子で問いかけた。


これも毎日の恒例行事だ。

先日のミルトリオンの一件以来、俺達は依頼を受けずに休んでいる。

休みといってもだらだらと怠惰に過ごすのではなく各々が、自分に足らないものを集めたり調べなくてはならないことを調査する自己研鑽の時間だ。


戦いによる経験は俺達を高めてくれるが戦いだけでは持てる手段の効率的な運用にしかならない。

戦いの最中の急激な進化なんてものは舞台の中や唄の世界の話で、現実には殆ど起こりはしないのだ。


日々の研鑽や戦いの手管を学び手段を増やすこと、クリーチャーの習性を先人達の記録から読み取り吸収することで戦闘の生存率を高めていくことが最も重要なのだ。

それ故に、手段を最も手軽に、かつ強力に増やしてくれる新たな秘術の入手も大事になってくる。

つまるところ、馴染みの店に顔を出してお金の使い店の主人と仲良くなれという話である。


ただ通いつめるだけではなく、仲良くなることが肝要、顔を見せればいいってわけでもない。

店の多くは売るだけではなく買取もしてくれる。

相手が望んでいる品物を手に入れて売るのも大切だ。

買いもせず売りもせずただ通うのはただの迷惑客だからな。


「私は今日も研究です。食べ終わったらダッシュで行きます」

「ボクはちょっと消耗品の買い出しかな……」

「じゃあ蜘蛛用の肉の買い出し頼むわ」


今日、店との親交を深めるのはココに任せよう。


「スバルはなにすんの?」

「俺は蜘蛛のためこんでいた本を読むつもりだよ。未だに全部を読み切れてはいないからな」

「私はまだ全然見れていませんが凄い蔵書量でしたよね……」


この家には蜘蛛達が何処からか持ってきた物の他にも、元々のこの家の所有者が残した物なのか、秘術や脳力、サイオニックに関する書物が多い。


10ある部屋のうち4つは本で埋まっているのだから驚きだ。

先住の冒険者はなかなかに良い趣味をしている。


その上、蜘蛛が勝手に地下を掘り起こし、増えた地下室にも本をため込んでいるのだから全部読み終わるまでにはまだしばらく時間が掛かるだろう。


今はそれらを読み漁り、貴重な知識を蓄えているところだ。


「あ、すいませんがそろそろ出ますね。ココさん美味しかったです。ごちそうさまでした!!」


リナが時計を確認して慌てて立ち上がる。

まだ食べたりなかったのか、少し迷う素振りを見せてから彼女はパンを手に持った。


「いってきます!!」


リナは一度頭を下げるとそのまま走って家を飛び出す。

纏わりついていた子蜘蛛が彼女から飛び降り、前足を振って送り出した。


「慌ただしい奴だな……」

「依頼が無い時ぐらいは余裕をもって生きたいよね」


ココと二人、日常になりつつある朝の喧騒を見送る。


「じゃあ、ボクもそろそろ行こうかな……じゃあ、いつも通りよろしく」


ココがゆったりと立ち上がり子蜘蛛達向かって手を振った。

子蜘蛛達は答えるように前足をあげた。

そしてテーブルの上に跳び乗ると皿に残った食べ物を腹を振りながら上機嫌に食べていく。


食べ終わった皿は糸を使って器用に流しまで運び、子蜘蛛達は協力して皿洗いを始めた。

面倒な片づけや簡単な家事は子蜘蛛に食料というワイロを送ることで代行してくれる。


本当に使える奴らだ。

この家を買った最大の利点は彼らだと断言できる。


子蜘蛛達の奮闘を視界の端に収め、ココを外まで見送る。

それから、大蜘蛛が寛いでいる彼の部屋まで足を進めた。


廊下は何処を見てもゴミや蜘蛛の巣一つなく清潔そのものだ。

今も中サイズの蜘蛛が箒を器用に操り廊下を掃除してくれている。

彼に向けて手を上げ軽く挨拶をして大蜘蛛の部屋を目指す。


彼らの協力が無かったとしたら、掃除用の秘術を常用しなければ俺達だけではこの状態を維持することはできなかっただろう。


平屋建ての一番奥、一際大きな扉を持つ部屋の前で止まり、ノックをした。


「オオモク、休んでるとこすまないが今日も本を貸してほしいんだ」


大蜘蛛が鳴き声をあげた。待っていれば彼女は部屋から出てきてくれるだろう。


オオモクはリナが名付けた彼女の名前だ。

正直、リナにネーミングセンスは無いと思う。


蜘蛛の性別なんてものはぱっと見で分かるわけないが、大蜘蛛はメスだったらしい。

まぁ、卵を産んで個体を増やしている張本人なのだから考えてみれば当たり前の話だ。


オオモク以外にも全個体にリナは名前をつけていたが俺は子蜘蛛や中蜘蛛の個体別の違いがわからず名前は呼べない。

というか見分けがつくのはリナだけだ。


彼らが名前を気に入ってくれてるかわからないが文句を言われていないのだから多分大丈夫なのだろう。


オオモクが大きな木製の扉を開き、部屋から出てくる。


「続きからで頼む」


俺はそう言いながら黒孔から大きな皿に乗った肉の塊を取り出した。

使用料という名目でオオモクに肉を渡す。

今回渡したのは少しばかり値の張る霜降りの牛肉だ。


良い肉なのは彼らへの感謝も含まれている。


オオモクは肉を見て満足そうに一鳴きして肉を近くの取り巻きに受け取らせた。

彼女はついて来いと前脚でジェスチャーをして歩き出す。


彼女が向かう先は此処のところずっと通っている書斎の一つだ。

書斎には部屋の至る所に棚が設置されており、本が無秩序に並べられてる。

今日まででようやくこの部屋の八割方の本を読みつくしたことになる。

似たような部屋があと二つに地下まであることを考えると先は長い。


部屋の前で来るとオオモクが何かしらのサイオニックを扉に向かって使用した。

どういった種別の力が込められているのかは分らないが、まぁよくある侵入者対策であることは間違いない。


オオモクが力を使い終わると木製の扉がひとりでに開いた。

扉は小さく、彼女の大きな体では入ることはできない。


俺は室内に入り、棚に並べられている本から先日の続きのを二十数冊程度見繕う。

黒孔や『秘術の携行袋』には収納しない。

盗むつもりがなくても変な誤解をオオモクに与えたくはない。

本が嵩張るせいで運ぶのは大変だが必要な苦労だ。


「じゃあいつも通り、終わったら子蜘蛛に返すからよろしく」


部屋を後にして待機しているオオモクに一声かける。

彼女はきゅいと声をあげると前脚を器用に操り、本を半分ほど肩代わりしてくれる。

こんな見た目だがオオモクは優しい。


「ありがとな」


俺は彼女の好意に甘え、自室へと戻った。




――――――――




「スバルー、帰ったよー」


ココの声で没入していた意識が浮上する。


あれから何時間経ったのだろうか、俺は昼食を摂るのも忘れて読書に没頭した。

殆どの本の知識は既知のものも多いがあれだけの蔵書量だと当然知らない知識もある。


今回はトンネルワームの生態に魅了された男の記録にどっぷりと嵌ってしまった。

偏執的なほどにトンネルワームへの愛が記されている事を除けば有意義な一冊だった。


彼はある時、幸運にもトンネルワームを目撃し、その瞬間に一目惚れ。

即座に追跡を開始したらしい。

著者自身が移動に関する脳力を持っていたお陰でトンネルワームの移動速度に付いていくことができたようだ。

トンネルワームは多くの種族、生物、果てはデーモンからも忌避されているようで、身体が衰え移動速度に付いていけなくなるまでの数十年間、著者はストーキングを続けたと記されていた。

まさか、あいつのフンから大量の宝石が発見されることもあるなんて想像もしなかった。


希少な鉱石を飲みこみながら進むことも考えれば当然と言えば当然だが、俺は奴のフンを探そうとも調べようとも思いはしなかった。

繁殖についても面白い意見が纏められている。


世の中、物好きな男も居たものだ。


「スバルさーん、居ないんですかー?」


リナの声だ。時計を見れば夜も始まったばかりの時刻。

今日は珍しく早くに終わったようだ。


部屋からでて食堂に向かうと、二人が出迎えてくれる。

蜘蛛達は居ない。大方寝てるか畑いじりでもしているのだろう。


「遅いぞスバル。お腹空いてるんだからもっと早く来てよ」

「そうですよ、スバルさん。どうせ気配で帰ってきたの気付いてるんですから出迎えるぐらいの優しさを下さい」

「悪い悪い、トンネルワームの本に熱中してて切りのいいとこまで読みたかったんだよ」

「うげー、ご飯がまずくなるからそいつの話は食事時にしないでよ」

「そんなにトンネルワームって気持ち悪いんですか?」


ココのトンネルワームへの悪口を聞き流し、リナに問いかける。


「今日は早かったんだな。ひと段落ついたのか?」

「はい!! ようやく一息つけます!! なので記念に久しぶりに三人で飲みに行きましょうよ」


飲みに行こうと言うリナの前にはテーブルに積み上げられている大量の屋台の料理がある。


「俺には机の上に大量のご飯があるように見えるんだがな……」

「これはアルフ君達へのお土産ですよ……」


たしか、アルフは子蜘蛛の事だったはずだ。


「……俺にはどいつがアルフ君なのかわからない」

「ほんと、よく見分けつくよね……その特技に関しては割と引いてるよ、ボク」


えー皆全然違うのになぁ、と呟くリナの言葉を無視して話を進める。

俺も昼食を抜いていたのだ。集中が切れてしまえば空腹感が一気に襲い掛かってきている。


「んでどこに行くんだ? また『木漏れ日酒場』か?」

「あそこ、白龍に壊されてから全然建物直さないよね。ちゃっかり道の半分もテーブルで占領したままだし」

「そうですねぇ……いつも通りに『木漏れ日酒場』っていうのも捨てがたいですが…………あ、そうです。研究員の方に良いお店紹介してもらったんですよ。そこ行きましょう」

「俺は唐揚げがあるならどこでもいい」

「ボクはラムが置いてあるならどこでもいいよ」

「そこの店は両方あります!! じゃあ、決まりです!!」


リナが声をあげ、間髪入れずに俺とココの手を引き歩き出す。


今日のリナのテンションはやたらと高い。

こいつ、もう酔っぱらってるんだろうか?

それとも睡眠不足でテンションが上がってるのだろうか。


まぁ、いいか。そんな日もある。


俺達は他愛のないお喋りをしながら三人で夜の街へと繰り出した。


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