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虹彩都市アイリス  作者: とんさき
第四章 地底の篝火
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地下世界54

石畳の道に、何人もの人々が歩いていた。

ある者は出店されている無数の屋台に舌鼓をうち、またある者は街の中央に浮かび幻想的な明かりを灯している島々に目を奪われている。


この場所から見下ろした範囲では衛兵の姿が最初に此処を訪れた時よりも少ない。

転送屋誘拐事件が解決されたからなのか、これから何かが起こりうるグルタラモに派遣されているのかは定かではない。


俺はミルトリオンの玄関口に相応しい喧騒を二階の大きな窓から眺めていた。


此処はミゲッタ結族の有する特別待合室だ。

俺達は転送のサービスが受けれるまでの間、此処で待機を頼まれていた。


如何にロストヴァからもらった紋章入りの飾りの力とはいえ、流石にグルタラモへの支援物資輸送よりは優先度が低くなってしまうらしい。


待合室であるこの室内には俺以外の姿はない。

ココやリナ、フラーラはジャンケンで勝利し、呼ばれるまでの間、屋台で買い食いをしに外に出てしまった。


窓から再び外を見下ろすと、この建物から少し離れた場所で楽しそうに買い食いしている彼女達の姿に目に入ってきた。

彼女達の手には自分たちが食べる分の串肉、そして出店で売っているエールが握られていた。


間違っても俺へのお土産なんてものはない。

ジャンケンの敗者に人権などないのだ。


ミゲッタ結族の給仕に出された紅茶を飲んでいると、ここ数日の出来事が頭を過った。


今はすでにルグシルトの本拠地強襲から時間が立ち、予定通りの滞在期間を経てアイリスへと帰るところだ。

大学での出資や装備品の収集、ロストヴァから送られてきたお礼の確認、ここ数日は戦闘とは違った忙しさで満たされていた。

もちろん突っかかってくる狂信者なんてものは居ない。


そろそろ転送の準備ができたと呼んでくれないだろうか、と酒とつまみを楽しむ三人への恨みを募らせながらアルコールの入っていない紅茶を飲むと、ノック音が聞こえた。


ようやく呼ばれるのだろうか。


入室を促すと入ってきたのは意外な男だった。


「ミスタースバル。この街から出ていくというのに私に挨拶もなしに行ってしまうなんて寂しいじゃないですか」


ミルトリオンのシティ・ガード隊長、ロストヴァだ。

彼とは報酬を受け取り、予想外の量の多さに礼を言いに行ったきりだった。

確かに別れの挨拶はしていない。


「やぁロストヴァ、そう何度も訪ねていくのは迷惑かと思って遠慮してたんだよ。だっていうのにこんなところに来て隊長様ってのはそんなに暇なのかい?」

「えぇ。遥か遠くの街では問題が山積み、その上、狂信者達の集団も一つ壊滅した所だとしても、指令を出す側というのは存外時間がある物です」


ロストヴァは事もなげに言うが実際はそんな事はないだろう。

彼は部屋を見回し、俺以外の面子が居ないことを気にした様子もなくエルフの長い足できびきびと歩いて俺の対面に腰を降ろした。


同時に給仕が現れ、流れるような無駄のない動作でティーカップをテーブルに置いた。

ロストヴァは簡単な挨拶だけではなく少し話があるようだ。


「なるほど。俺は指令を出す側になんてなった事がなくてね。そういうことには疎いんだ」

「ははは、我々ミゲッタ結族は主にエルフで構成されてはいますが他の種族が重要な地位につけないわけじゃない。どうですか? 貴方も自分を試してみる気はありませんか?」

「冗談にしてもきついな。規律ある組織の中で生きれないから俺達は冒険者なんだぜ? それに今のままでも十分満足してるさ」

「……それは残念ですね」


ロストヴァはカップに口をつけ、何処までが冗談か分らない声音で穏やかに笑った。


「……それでいったいどうしたんだ? まさかこんな与太話をするだけのために隊長殿が出てくるなんてことはないだろう?」

「組織というのは煩わしいときもありますがそれ以上に恩恵が多いものですよ……とは言え、確かに本題はそこじゃない。ちょっと先日の件で聞きたいことができましてね」


彼の纏う雰囲気は穏やかな空気から一変し、少し問い詰めるような、シティ・ガードの取調室で感じたような気配が漏れ始めた。


先日の事…………あの泡立つ湖の要塞跡地ではしつこいくらいに俺やココ、リナの戦闘の痕跡を消したはず。

何か見つかってしまったのだろうか。


「実はあの後、色々とあの場所を調査していたのですが、ほとんど戦闘の痕跡が見当たらないんですよ。まるで、誰かが戦闘の痕跡を執拗に消したかのように……」


まるで、なんて言葉を使っているが、口調は完全に痕跡の隠滅が行われたと断定しているように聞こえた。

どうやら、痕跡を執拗に消したのが俺達だとばれているようだ。


まぁ、隠しきれるとも思っていなかった。

工作に気が付かれることは織り込み済みだ。

工作に気が付かれてもその中身が分らなければそれでいい。


彼が疑ってるのは囚われていたうちの結族を殺したり、捕らえたり、死体を隠し持ってないよね? ということだ。


仮に疑われても証拠はないし、あの跡地を丸々引き渡しているのだから結族としては目をつむっても良い条件ではあるはずだ。


「…………そりゃそうさ、俺達冒険者はそう簡単には手札を明かさない。戦闘の痕跡を探られるなんてもっての外だ。知られて危険な事もある。当然の処置だ。それに俺は君らと良い関係になりたいんだ。自分の手管を隠すための偽装であって君らに害成すものじゃないと君らの神に誓ったって良い」


尋問口調を無視して努めて飄々と、何でもないことかのように明るく答えた。


「………まぁ、そうですね。此処まで執拗なのは珍しいですが冒険者であればある程度自身について隠蔽工作をするのは自然の事…………私は貴方がミルトリオン、そしてミゲッタ結族に害意がない限り良き友人としてあり続ける事でしょう」


釘を刺されてしまった。

……まぁ自分の痕跡を消す冒険者は珍しくはないしミゲッタ結族と事を構える気もない。


ちょっと名の知れた冒険者の中にも名前は知っているが脳力の中身が分らないなんてざらだ。特に直接戦闘に関わる脳力でもない限り、自分の脳力、アドバンテージを晒す奴なんていない。

搦め手の脳力を持っている者なら猶更だ。


残念なことに人類はどれだけ危機に苛まれたとしても敵はクリーチャーやデーモンだけじゃないのだ。


「そして、今回はそんなしばしの別れをする友人にちょっとしたプレゼントが持ってきたんですよ」


ロストヴァはそういうと、腰に下げた布袋から明らかに布袋の容量を超えた一冊の本を取り出した。

彼の腰の袋は秘術の携行袋だったようだ。


テーブルに置かれ差し出された本の表紙の文字を目でなぞる。

見た目に高価とわかる装丁で作られた本のタイトルは『世界旅行紀行』。


「……この本、もしかして著者はラインホルト・ファインズか?」

「ええそうです。これは私たちの結族が所有しているオリジナルの写本です。スバルさんのお連れ様…………名前はドゥシャー・ルキーニシュナ・ミクリナ様でしたかな? この本は彼女の探し物でしょう? 街での結果が芳しくなかったようなのでお持ちしたのですよ」


態々リナをフルネームで呼ぶか。

これはセントラルシティから来たってのもばれてるな。


そうなるとこれは彼個人の意志か結族の意向かはわからないがリナの機嫌取りか。

心証を良くして外装骨格研究のおこぼれを貰おうとしてるんだろうな。

全く、誰もかれもが外装骨格の秘密を欲しがっているようだ。


俺も欲しいんだから無理もないが。


「待ってくれ、最近闇市でオリジナルっていう触れ込みのその本を見た気がするんだが…………」

「不思議なことに世の中にはオリジナルというものが無数にあるもの何ですよね」


何でもないことのようにロストヴァは答えた。


まぁ、どれが本当のオリジナルかはわからないが、結族から渡されるものだ。

写本とはいえ変なものではないのだろう。


「ははは、なるほど、気を回してくれてありがとう。こいつは俺が責任を持ってリナに渡しておく」

「ありがとうございます。よろしくお伝えください」


俺は笑いながら『世界旅行紀行』を受け取り、秘術の携行袋に仕舞い込んだ。


「さて、これで私の用事は済みました。もう間もなく結族の方から呼ばれるでしょう。またこの街に君達が訪れるのを楽しみ待っています」

「……今度はもっと警備が厳重な時にくることにするよ」

「その際にはスバルさんの偽物が出たとしても無視するにしますね……では、訪れた時には是非、私の執務室に顔を出してください。出してくれないなんて寂しい事を言うなら私の使いに向かいに行かせますよ」


街を支配して出入国を管理しているのは彼らだ。

その目を誤魔化すことはできない。

彼にとっては冗談のつもりだろうが、笑えない冗談だ。


ロストヴァが一礼してこの部屋を後にした。


この街に来た一つの目的、数日探しても見つからなかった『世界旅行紀行』が手に入った。

リナも喜ぶだろう。

この本で何か地上への手掛かりを得られるか、或いは諦めるにたる理由が見つかれば良いのだが……。


そんな事を考えていると、彼が出て間もなくこの部屋に案内してくれたエルフが現れ準備が間もなくできると告げた。


タイミングが良すぎる。

もしかするとロストヴァが話す時間があるから待たされていたのかもしれない。


職員のエルフを見送りながら俺は三人の買い食い娘に≪念話≫を送るのであった。




第五十四話 『蟲の根城』




「…………なんで私はこんなところにいるんでしょう」


重苦しい気配を放つ大きな一階建ての平屋。

平屋の作りは確りとしており、外見からでも頑丈に作られていることが窺える。

敷地を囲うように建てられた石造りの塀が閉塞感をさらに高めている、


塀と建物の間には大きな庭があり、実りを見る限り、先住者達が色々な作物が育てていることが見て取れた。


庭付き一戸建て。

この住居は冒険者が住まう地域でもアイリスの中心街に近い場所に建てられていた。


俺達の理想的な住居を前にしてリナの小さな声が聞こえる。

その声は聞き取りづらく、ギチギチと口を鳴らしている騒音のせいでココですら聞き取れていないかもしれない。


「そりゃ、この家を買ったからだろ?」


俺はそんなリナの呟きに律儀に答える。


「なんでこんな家、買ってしまったんでしょうね…………」

「そりゃ安いからでしょ」


今度の呟きはココにも聞こえたようで、彼女は正確に理由を答えてくれる。


ミルトリオンから帰還してすぐ、俺達は塀に備え付けられた大きな門を潜り、アイリスの掘り出し物件、通称『蟲の根城』を訪れていた。

お金はすでにレイナールに支払い済みだ。


先住者に『知性ある蜘蛛』(インテリジェンス・スパイダー)がいるとは言え、この立地にこの建物、そして僅か金貨100枚という値段は魅力的だ。


そんな知性ある蜘蛛はギチギチと威嚇音を奏でながら敷地内に侵入した俺達を取り囲んでいた。


大小様々な大きさの蜘蛛は人間を超える大きさから手のひらサイズと幅広い。

天然の狩人である彼らの気配は薄く、秘術の補助なしでは正確な数は認識できないがおそらく全体で20匹前後だろう。


「本当にやるんですか…………?」

「そりゃそうだ。彼らは待ってはくれないぞ」

「…………あぁ、私は家の外で待っていれば良かったです」


顔色悪くしているリナの周りには外装骨格が漂っており、彼女は銀色の鎧を纏ってはいない。


「ボク達が害意がないってきちんと知らせなきゃいけないんだからそういうわけにもいかないでしょ」


威嚇はすれども知性ある蜘蛛達は襲い掛かってはこない。

そして、俺達がすぐにでも逃げれるように取り囲んではいるが、出口である門の側に蜘蛛の姿はない。


事前情報通りだ。

彼らは畑や子蜘蛛を守るように位置取り、積極的に俺達に攻撃を加えようとはしてこない。


俺は両手を挙げ敵意が無いことを示しながら彼らの前に進み出る。

蜘蛛達の警戒音が一段階低い音に変わる。


「まぁ、そんなに焦るなって、俺は君らと戦いに来たんじゃない。代表者でも纏め役でも何でもいいから一匹前に出てくれないか? 話がしたいんだ」


蜘蛛たちの警戒音が止んだ。

そして少しの沈黙の後、一際大きな蜘蛛が奥の建物から扉を開けて出てくる。


他の蜘蛛たちが大きな蜘蛛が通りやすいように道を開けた。

巨大な蜘蛛は胴体だけで人間のとほぼ同じ大きさだ。脚も太さだけで平均的な人間の腹回りくらいある。その脚の長さを含めれば全長は人間を遥かに超えている。

どうやらあれがリーダーらしい。


大蜘蛛はノシノシと巨体を動かし、俺の前で立ち止まる。


「これからちょっとした交渉を君らにしたいと思っている。まぁ、君らにとっても悪い話じゃない。話を聞くつもりがあるなら…………そうだな、前足を一本上げてくれ」


言葉は完全に理解しているだろうが、念のための確認だ。

前提として意思の疎通ができなければ交渉もくそもない。


そうなれば戦いになる。

彼らと戦って負けるとは思えないが、街中で派手な秘術は使いづらい。

多くの冒険者達が犠牲になってしまったのは立地も関係しているだろう。


大蜘蛛は俺の言葉に反応し、前足を一本上げる。


「俺達はこの家に住まわせて貰いたいと思っている。君達はこれまで通りに暮らしてもらってかまわない、三つの個室と食堂を俺達に分けてくれれば良い」


大蜘蛛は反応を示さずこちらの次の言葉を待っている。

当たり前だ、これでは蜘蛛にメリットが無さすぎる。


「その代わりと言っちゃなんだが、今後、君らの代わりに街で必要なものを調達してきても良い。肉でも調味料でも何でもだ。無論、相応の代価はもらうけどな。それと、この敷地をこれまで通り守ってくれるなら毎日……そうだな…………最低十キロの肉を持ってくると約束しよう」


大蜘蛛はまるで考えているかのように頭を揺らしている。

この限られた立地で肉、食料の供給は彼らにとって魅力的な条件のはずだ。


そして俺達もこの敷地を守る存在が手に入るというのは有難い。

人間ではないおかげで結族や変な宗教団体の影響下にいないというのは非常に好ましい。


それに、冒険者達を何人も屠っているくらいだから何者かが侵入してきたとしても足止めくらいにはなるだろう。


「これは君らにとっても悪い話じゃないんだぜ? 言っちゃあれだが、君らは少し派手にやりすぎたんだ。例え街中で冒険者の所有物だとしてもこれ以上被害が増えたり、君らの数が増えて脅威と見なされれば必ず討伐隊が組織される。今、君らは超えちゃいけないラインの手前にいるんだ」


話の内容を蜘蛛全体が理解しているのか小さな子蜘蛛達は数匹集まりこそこそと会話しているような反応を見せている。

ココは全く気にしていないがリナは鳥肌が立っていた。

都会育ちは蟲が苦手らしい。

是非ともコックスローチの大軍に囲まれてくれ。


「あぁ、そうだ。この話をまとめるには一つだけ条件がある。これ以上数を増やさないことだ。数は人間にとってわかりやすい脅威だからな。これ以上増えてしまえば流石に庇うのは難しい。それさえ守ってくれれば、俺が君らの安全を保障する」


この蜘蛛の安全を保障する話はレイナールにも通してあることだ。

彼には何言ってるんだこいつはみたいな目で見られてしまったが、蜘蛛自体は元々家から街へと出て人を襲っていたわけでもないし俺の監督下に入れば手を出さないと約束は取り交わしてある。


知性があると名付けられたクリーチャーなら損得勘定くらいはできるだろう。


「簡単に纏めちゃえば、俺達に個室三つと食堂を譲る。俺達は君らをこの敷地を守る護衛として雇う。その代わり此処では手に入れづらい食糧を俺達は君らに用立てる。そしてそれ以上の食糧、或いは物品を望むなら代価を頂く、こんな条件でどうだ?」


犠牲になった冒険者は発見されていない者も含めて数知れず。

他に優先事項があるからとグラント結族にほっとかれたこの蜘蛛達は犠牲者達の持っていた装備をため込んでいるはずだ。

知性があるなら物の価値くらいはわかっているだろう。


「さぁ、どうする?」


俺は大蜘蛛に向かって手を差し出した。

この提案は俺達からすれば蜘蛛と同居することに目を瞑ればそれ以外にデメリットはまるでない。

むしろメリットだらけだ。


そしてそれは蜘蛛にも言える。

群れ全体を一定数で保てばたんぱく質が自動で送られてくる上にある程度の安全が得られるのだ。

乗らない手はない。


「………………」


事前に打ち合わせしていたとはいえ、実際に交渉を始めると考えさせられるものがあるのかリナは正気を疑うような目で俺を見ている。


大蜘蛛達は僅かな会議の後此方に前足を差し出し、俺の手に重ねた。


「賢明な判断だ。これからはよろしく頼む。さて、まずは友好の証の肉だ。受け取ってくれ」


俺は黒孔から先の戦いで回収した死体を敷地にバラまいた。

ゴトゴトと音を立てて肉片が宙から降り注いだ。


突然の肉の嵐に蜘蛛たちは驚き、動きを止め見入っている。


積み上げられた死体は全て腐らないように氷漬けにされていた。

彼らに知性があるなら氷はなんとかするだろう。


友好の証と銘打ち、先の戦いで手に入れてしまった死体を彼らに贈れば証拠隠滅もできるし、肉の費用も浮く、その上蜘蛛達からの信頼も得られる。

まさに一石三鳥。


「ちょっと凍ってるが、まぁそこは溶けるまで待つなり上手い事やってくれ」


肉の山を前に蜘蛛達へ言葉を投げかけると彼らはサイオニックの力を発動させ、肉を調べた後、すぐに嬉々として屋敷へと運んで行った。


今の力の行使はおそらく、毒の有無を調べたのであろう。

当然だが毒なんて仕込んでいないので取引をする程度の信頼は得られたはずだ。


待ちきれないのか、中にはサイオニックを使い炎を生み出し氷を溶かそうとしてる個体までいる。


「肉を楽しむのは良いが使っていい部屋を案内してもらってもいいか?」


小躍りしそうなほど喜び腹を振っている大蜘蛛の脚を叩き、約束を思い出させる。

大蜘蛛は前脚を上げ、ついて来いと言わんばかりに建物を目指して歩き出した。


俺は交渉を大人しく見守っていたココとリナへと振り返った。


「さぁ新居だ、喜ぼう」

「よ、喜べるはずないじゃないですか!? こ、こんな大きな蜘蛛と同居だなんて……」


リナが今更文句を言い出した。

納得してたくせになんて奴だ。

蟲とはいえ意思疎通ができるなら問題ないだろう。


「泊まりたくないなら宿にでも行っていいぞ。俺とココはこの家に住むからな」

「まぁ、諦めなよリナ。どんな所だって住めば都さ」


ココは溢れんばかりの笑顔で項垂れるリナの肩を叩き、大蜘蛛の後について家へと向かう。


「そ、そんな……」


俺もココに倣い、リナを置いて大蜘蛛についていく。

地面にへたり込むリナに興味を持ったのか手のひらサイズのチビ蜘蛛がリナの目の前に跳んでいく。


「ひぃっ!!」


リナが尻もちをつきひっくり返った。心配そうに外装骨格がリナに近づく。

俺とココはリナの悲鳴を背後に聞きながら笑顔で大蜘蛛の後ろをついていくのであった。


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