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虹彩都市アイリス  作者: とんさき
第四章 地底の篝火
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地下世界46-2

拳を振り抜いた獣人は自らが打ちのめした標的への興味を失ったかのように新たな的に狙いを定めた。

ココに押され、体勢を崩したリナの元には銀色の外装骨格が辿り着く。

全身が装甲で覆われるのに1秒と掛からないだろう。


しかし、その1秒が届かない。

獣人が拳を振り下ろすのには十分お釣りがくる時間だ。


「ふざけるなぁああ!!!」


雄叫びにも似た俺の咆哮。

勝手に獣化した脚が筋肉を肥大させ、地面を蹴り抜く。

ぶちぶちと筋肉の断裂する音が体内で鳴った。

俺は全てを無視して駆け抜ける。


肉体を代償に限界を超えた加速を生み出した。


「≪雷の武器≫≪武器付与の効率化≫」


感情の高まりで冷静さを欠いた俺が使用したのは慣れた二つの秘術。

獣化された両手両足に紫電が纏わりつき、後の呪文で雷が勢いを増す。


地を蹴り抜き、跳躍。

巨人、ギガントにも匹敵するほどの大きさの獣人の顔を狙うには跳びあがるより他に方法はない。

再び筋肉の千切れる音が聞こえたが気にしてはいられない。


宙で回転しながら遠心力を利用して獣人の顔面目掛けて足を振るう。

獣人は俺の攻撃を視認して防御態勢をとった。


パリンと硬質な物が壊れる音。


激情に支配された俺の脚は防御の力場を蹴り抜いた。

破片が重力に従って落下し宙で消えていく。


蹴りの威力は削がれるが、中堅の冒険者ならば十分に殺しうる紫電を纏ったそれを巨大な獣人は事もなげに手甲で正面から受け止めた。


……見た目から想像はついていたが、くそったれの獣人は俺達と違いそちらのタイプらしい。

俺やココは攻撃を回避、或いは受け流すことで敵に攻撃に対処する。

間違っても先程のココのように正面から受け止めてはしない。


獣人はその逆、どっしりと構え受け止める重鎧タイプだ。

装備している鎧もそれに準じて防御力こそありそうだが重量がありそうなもの。


ならば先程、ココですら対処できなかった素早さは一時的な物であるはず。

そして、あそこまで劇的な効果が発揮できる秘術であるならば効果時間は長くない。


怒りに濡れた頭の、辛うじて明瞭な部分で今後の展開を予想した。


攻撃を受け止め防御に使用した拳を蹴り、地面に着地。

脚の痛みを無視して低い姿勢のまま敵の足を地に伏せたままの回し蹴りで狙う。

着地地点は当然のように獣人を挟んでハーフリングの対角線だ。

獣人を盾にハーフリングからの射線を塞ぐ。


獣人は俺の速度についてこれず無防備に突っ立っている。

ハーフリングは何やら動いているが、図体のでかい獣人が邪魔で援護はできていない。


岩が剥き出しの床を、足に纏う雷が焦がしながら進んだ。


獣人の脛が砕かれるーーーーその寸前、砕かれるはずだった脛は消えうせ、雷が空を切った。


空振り。


今まさに脛が砕かれるはずだった獣人の姿は掻き消え、後に残るのは秘術の痕跡のみ。


消えた獣人を探す手間はなく、そいつは俺の攻撃を受けるために腕を構えた体勢のまますぐ後ろに移動していた。


まただ。

賭場を出てすぐ、此処に導いてくれたブリントと同じだ。


必中に思えた攻撃が躱された。

通常じゃありえない手段で。


まるで瞬間移動。

瞬時に居場所が移動している。


初見なら驚きはしただろう。

事実驚いた。だが、見るのはこれで二度目。

驚きはしない。想定しうる事象だ。


ブリントの時よりも距離は近い。

俺と巨大な獣人とは4メートルもない距離だ。


動きを止めず、地を這うように獣人との距離を詰める。

追撃を仕掛けるべく俺が跳び出した瞬間、後方から炎の噴きだす音が聞こえた。


「ココさん!!」


音は敵二人には向かわず、遠ざかる。

リナはバーニアを噴かせココの元へと向かったようだ。


対して、茶色の体毛を生やした獣人は相変わらずの鈍重で身構えるのがやっとだ。

これほど速度が遅いとなるとココを攻撃した時のあのスピードはデメリットがあってこそのものだった可能性もある。


長椅子の破片を避けながら獣人へと肉薄。

動くたびに両足を苛む筋肉の痛みにはもう慣れた。


目の前の獣人は俺を目でしか追えていないのだ、追撃しない手はない。

ハーフリングが何もしてこないのは気になるが関係ない。


現状の脅威度は獣人の方が上だ。

ちょっかいを出して来ないのならば獣人の次、順番に殺るだけのこと。


獣人の遅すぎる防御の隙間を潜り抜け、重鎧の隙間を狙って爪を突き出す。


爪が獣人の腹に届く寸前。

再び、4メートルほど後方へと獣人が移動した。


防御の構えのまま何もなかったかのようにハーフリングの横に並び立つ。


内心舌打ちをする。

仕留められればどんなに楽だったことか。



だが、突然の移動はお前らの専売特許ではない。



脳に軽い痺れが走る。

無詠唱で脳力を起動したときに起こる小さな代償だ。


生物の移動ができず距離にも制限はあるが、俺の脳力≪便利で愉快な収納空間≫は自分から離れた場所にだろうと取り出し口が作れる。


黒い孔が獣人とハーフリングの死角、長椅子の破片の後ろや彼らの頭上に出現した。


「≪踊る剣撃、舞う鉄塊≫」


小さく、俺はアーティファクトを起動させる言葉を唱える。


早く、速く。

速度のみを重視して力を行使する。

それ故に、創った黒孔は4つ。

操る『秘影剣』も4つ。


俺は最速での攻撃を選択し実行する。


死角から飛び出した剣は最短距離で彼らに殺到した。

俺自身も彼らの元へと向かう。


4つの剣は直進し、奴らの頭部と胸部目掛けて飛んでいく。

死角からは二つの剣、そして正面からは俺自身。


何よりも速さの足りない彼らに攻撃を避ける術はない。

本来ならば。


剣が突き刺さる----その数瞬前に彼らの身体はその場から消え、それぞれ別の場所に現れる。

また瞬間移動だ。


しかし、想定はしていた。

攻撃を受けそうな時、自動で別の安全な場所に移動する。

彼らはそんな夢のような秘術を使用しているが、秘術の備えというものは無限に用意して置けるわけではない。

相性によっては重ね掛けしておけない秘術すらある。


このまま続けているればいつかは残弾が尽きるはずだ。


二人に二本ずつ剣を向かわせつつ、忌まわしき巨大な獣人に狙いを定めて彼の逃避場所目掛けて身体を動かす。


地を蹴り進もうとして、俺は目を見開いた。

反射的に見開いてしまった。


目指したはずの獣人の前には別の者が居た。

小さなハーフリング。


そしてハーフリングは自分よりも大きな人を抱えていた。

いつの間に抜いたのか、ナイフを彼女の首筋に当て勝ち誇ったように嗤う。

だらりと関節がないかのように彼女の腕が地面に投げ出される。


「えっ!? なんで!?」


リナの動揺が口から洩れた。

どうやって、なぜ、幾つもの疑問が脳裏を駆け巡る。

疑問に答えを出すよりも前にそいつは低い声で言った。


「動くな」


意識を失い、力なく項垂れているココの首をハーフリングは腕全体を使って支える。

ナイフの先端が彼女首筋に当たり、小さく血が流れた。


「くそっ」


俺は動きを止めずに舌打ちをした。


この手の脅しの効果は絶大だ。

動きを止めてしまいそうになる。

思考も鈍くなってしまいそうになる。


けれど従っても良い事はない。

必ず最終的には全員が殺される。

一度でも手を緩めてしまえば相手の思う壺。


対処法はただ一つ。

単純明快だ。


奴らがココを殺せる間もないほどの断続的な攻撃。

仮にココを殺したとしてもその瞬間には奴らが死ぬ。


そんな状況を作り出す。

秘術の気配のする防具や実力からして奴らはそこらの使い捨ての信者ではない。

好き好んで死のうとはしないはずだ。


ーーーーつまるところは殺られる前に殺っちまえ。


『秘影剣』が正確に獣人とハーフリングの頭部を目がけて飛んでいく。


奴らの瞬間移動。剣が虚空を穿つ。

巨人が別の場所に現出した。

ハーフリングはココも伴い現れる。


「ココさんを返せ!!」


リナが炎を噴かせ戦いに割り込んだ。

ハーフリングに突貫し、瞬きする間に彼女の背面から無数の銀色の銃口が現れた。

大部屋半分を覆ってしまいそうな勢いでにリナの背面の銃が大きく広がる。


流れるように弾丸の雨が放たれた。

爆音が部屋を埋め尽くす。


巻き込まれないように『秘影剣』を脳力の収納空間に仕舞い込んだ。


「「≪拒絶する力場≫(リジェクション・フィールド)」」


獣人とハーフリングが同時に秘術を唱えた。

正六角形を多重に重ねた力場が彼らの前にそれぞれ展開される。

隙間の無い爆音に混じって宝石の砕ける音が聞こえた。


リナの創り出した部屋の大半を範囲に収めた銃弾の雨。

うまい手だ。

短距離移動したとしても移動先は射程範囲。

奴らが防御の秘術を使用したのは、おそらく瞬間移動ができないせいだろう。


六角形の防御の力場はみるみるうちに削られていく。

弾かれた銃弾が奴らの前に無数に転がった。


リナも俺以上に頭に血が上っているのか無茶苦茶しているが、奴らの創った防御の力場の損壊箇所から見てココが居る部分は綺麗に避けている。


行動とは裏腹にリナは冷静に事を運んでいる。


弾丸の雨と防御の力場。

事態はリナのお陰で膠着した。


ならば俺も多少無理を通してでもやらねばならない。


這いつくばる様に地面に伏せ、自身の気配を薄める。

四つん這いのまま弾の範囲の外から敵の後方を目指す。


弾の嵐と安全圏の境界を最速で進む。

散らばる長椅子の破片が煩わしい。


側面から見ると銃弾の壁は厚く、嵐の中心に居る敵との距離は見た目以上に遠い。


やれるか? いや、やるんだ。やらねばならない。


狙うべきはココを抱えているハーフリングだ。

決断し、使うべき宝石に意識を傾ける。


「≪瞬間神経加速≫(ナーヴ・イントラプト)」


秘術の込められた宝石が砕けると視界が切り替わった。

爪に纏う雷撃が全身に広がったかのような錯覚。


加速された神経が動体視力を大幅に上昇させ、弾の雨、一つ一つがゆったりと進む。

足の爪の先まで力を込め、俺は躊躇せずに凶弾へと飛び込んだ。


速度と経験を頼りに弾の雨を潜り抜ける。

無理な加速と体勢で、進むたびに体内から悲鳴が上がる。

意図をリナが察してくれたのか、突撃経路は明らかに弾丸が少ない。


弾の壁を半分越えたところで獣人とハーフリングは俺の存在に気が付いたが、防御の秘術を操るのに集中しなければならずどうすることもできていない。


俺はより一層、体勢を低くして全身のバネに力を込めた。

右手を振り上げハーフリングの喉元を目掛けて跳びかかる。



そして、唐突に消失した右手の重量。



「ーーは?」

「ふふっ」


俺の驚きと後ろから聞こえた鼻で嗤う音がほぼ同時。


反射的に振り向くと、ハーフリングが身体の小ささを生かし、弾丸のない僅かな隙間に現出していた。

瞬間移動だ。


両手には血が筋を描く二振りの曲刀。

そいつは憎たらしいほどの笑顔で嗤っている。


振り返り、嫌でも視界に入る俺の惨状。

右手がない。正確には肘から先が振り上げた状態のままだ。

雷を纏い、宙でさみしく静止している。


切断面から紅い液体が溢れた。

血の上った頭が一気に冷えていく。


攻撃にまで瞬間移動を使うのか!?

しかも弾の嵐の中で瞬間移動が使えないかのように見せかけていやがった。


驚きを悟られたのか、奴の笑みがより深みを増す。


今までの発動トリガーは緊急事態の回避だけーーーーいや、違う。

何故気が付かなかった。奴はすでに一度自在に操っていた。

ココの元に行き、巨大な獣人と合流するために。


平時ならば看破できたはず事実だ。

しかし、怒りで鈍った思考のせいで事態を見抜けず普段なら取らないはずの選択肢をとってしまった。


無理な突撃、その代償は大きい。


急速に引いていく血の気が俺に冷静さを取り戻させる。

脳内の疑問符と焦りを追い出し、瞬時に現実の再認識に努めた。


損害を再確認。

右手の肘から先が千切れた。

自動で発動するはずの防御の秘術は敵の攻撃に耐えられずにその護りごと切り裂かれている。


間違いなくハーフリングの両手に握られた二振りが原因だ。

なんらかの秘術的処理か、或いはアーティファクトだ。

奴の攻撃は絶対に避けねばならない。


視界の隅では獣人が先程の防御呪文をもう一度展開し、壊れた力場を新しく取り換えていた。

銃弾の雨の前に奴はまだ攻勢には出れないはずだ。


思考する間にハーフリングの両手がブレた。

咄嗟に黒孔を起動し、切断された右手を収納空間に収納する。


ハーフリングの曲刀が空を切る。

大きな耳が奴の舌打ちを聞いた。


忌々しい小人野郎は俺の右手を治療不可能のサイズにまで細切れにしようとしたらしい。

静止してしまったせいで弾丸が命中し、右手に多少穴が開いてしまったがスライスされるよりは断然良い。


状況は悪いが最悪には程遠い。

殺害相手が向こうから近づいてきてくれたのだ。

現状を打開すべく、秘術を起動する言葉を唱えた。


「≪癒しの微熱≫(キュア・スレイト・フィーバー)」


癒しの微熱が筋肉の損傷を癒し、更なる無理を可能にする。

腕は時間を掛けねば治癒できない。無視だ。


跳躍のエネルギーを強制的に変換して自身の軌道を修正、跳ぶ力を脚へと回しハーフリングの顔面へとつま先の爪を向かわせる。

右腕から流れる血が軌跡をつくる。


銃弾の雨の中、攻撃を選択したことで≪凶弾の遅延≫(ディレイ・オブ・バレット)が発動した。

ハーフリングの≪凶弾の遅延≫も発動しているのか、側面からの銃弾は速度を緩め停滞している。


リナが少なくしてくれたとはいえ、銃弾は飛び交っている。

これほどの銃弾の量では互いの≪凶弾の遅延≫も長くはもたない。


「ちっ」


足先が届く前に、ハーフリングが視界から消えた。

思わず苛立ちが舌打ちとなって現れる。


こう何度もやられれば慣れてはくるが、鬱陶しいことには変わりない。


ハーフリングが出現する場所を予想し、再び身体を反転させる。

期待通り奴が現れたのは獣人たちの横、ココの隣だ。

最初にリナが弾丸を降らせた時とは違い、獣人の盾の陰に隠れている。自ら秘術を行使して盾を形成しているわけではない。


完全なフリーハンドだ。


間髪入れずに奴らに突貫する。

ここで畳みかけなければ何をされるかわかったものではない。


秘術の効果で停滞したリナの弾丸を横目に、地を蹴りココの元へと急ぐ。


「≪にわか追放≫(リゲーション・ホップ)」


ハーフリングが手を突き出し宝石を砕いた。

奴の言葉が終わると同時に俺の視界が変化した。


弾丸の壁が目の前にある。

視線で探り、自身の位置を把握する。


本来いた場所から後方に飛ばされた。

せっかく稼いだ距離は遠く離される。


あぁ、くそっ!

情報は命、知識は至高の財とはよく言ったものだ!


初見の技術の多さに対応をとり切れていないのが歯がゆい。

離された距離を埋めるべく再び疾走。


「邪魔ッ!!」


俺が攻撃できない隙間を埋めるかのようにリナが三対の刃を背負い、脚部のバーニアを噴かせて獣人の盾に斬りかかった。


外装骨格を分割して操っているのか、リナの背面に生えていたはずの銃口たちはその場に留まり自律して火を噴き続けていた。

彼女の腰の三対の刃が乱暴に獣人の力場を叩く。


二度三度と高速で刃が叩き込まれ、脆くなっていた六角の盾は連撃に耐え切れず砕け散る。


リナの刃と後方からの支援射撃の弾丸が獣人に迫る。

獣人は焦りもせずに体位を動かし、リナ目掛けて右足で蹴りを放った。


迫りくる弾丸を、刃を、獣人は身体で受け止める。

防具の効果か獣人の筋肉のせいか、弾丸は体表で止まり軽く表面を削るに留まった。

刃も身体に多少食い込んでいるが致命傷には至らない。


捨て身の獣人の蹴りはリナの腹部をとらえ、リナが吹き飛ばされる。


依然として弾丸は命中しているが肉体を貫くには至らず、獣人は顔色一つ変えない。


「引くぞ、らちが明かない」


大きな犬耳が炸裂音が満たす空間でハーフリングの声を拾った。


「良いのか?」


傷など意にも介さないというように落ち着いた声音で獣人が答える。


「あぁ、幸い女の素体は手に入った。お前の攻撃を耐える奴だ。予定していた奴よりも良いだろうな」


ハーフリングは気絶しているココの髪を掴み、乱暴に顔を持ち上げた。


不味い。

人を指して素体なんて単語を使う連中は禄でもないことしかやらかさない。


「まてッ!! ≪瞬間神経加速≫!!」


ココがリナを助けた時のように、彼らの行動に割り込むべく効果時間が切れかけた神経加速を再使用する。

連続した加速が脳を揺さぶり、神経への負担が視界を紅く染めて現れる。


しかし、ハーフリング達の動きに割り込めるビジョンが見えてこない。

残念だが今の俺ではこれ以上の加速は望めない。


敵の秘術で稼がれた距離は絶望的なまでに遠く、リナも吹き飛ばされた場所からは間に合わない。

ハーフリングが此方の絶望に拍車をかけるように両手を広げた。


「≪暴れる爆風≫(レイジ・ブラスト)」


最悪なことに今回奴の唱えた呪文は聞き覚えがあった。

それは余程大きな空間でなければ滅多に使われない秘術、まして狭い部屋、狭い通路なんかでは聞くはずのないもの。

熱と光そして巨大な衝撃で爆発を起こし、洞窟を、岩道を、破壊し崩落させる破壊の呪文。


術者すらも巻き込み、周囲の者全てを生き埋めにすることから別名、自殺の秘術。


ハーフリングの両手の間に圧縮された火弾が顕現した。

1メートル近いその火弾は内部で何度も爆発し、解放される時を今か今かと待ちわびている。


俺が持てる全ての手段を使っても間に合わない。

リナもようやく蹴りの衝撃から立ち直り、獣人とハーフリングの元に向かおうとしたところ。

彼女の弾丸は獣人が身を挺し盾になり、ハーフリングには届かず、獣人自身は気にも留めていない。


つまり、どちらも妨害が間に合わない。



「やめっーーーー」



瞬間、膨大な音と熱が空間を埋め尽くした。

視界が光に覆われる直前、転送の秘術でこの場から消える三人の姿を見た。

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