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虹彩都市アイリス  作者: とんさき
第二章 トレージャーハント
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地下世界25

女ゴブリンの所在を臭いで確認しながら通路を進む。どうやらこの道には居ないようだ。

石で塞いでおいた扉も暴かれ、扉自体も僅かに隙間が空いている。


現在俺達はゴルドとの戦闘の反省を生かし全員がきちんと準備をした状態だ。

リナは外装骨格を纏い、ココと俺は宝石を補充し、俺の周りには『秘影剣』が佇んでいる。

残りの起動時間は4分程度だろうか。


脳力を全力で使うことはいくら収納しか能のない脳力でも身体に負担が大きく一日に何度もできるものでもない。

そのため疑似的な剣の瞬間移動もできないがゴルドのようなホブゴブリンの規格外でなければ必要もないだろう。

24本の剣がただ飛んでくるだけでも十分に強い。


見たところ石が無くなり剥き出しになった広間へと通じる金属の扉からゴブリン達がこちらに侵入してきた様子はない。

ゴブリンはこの扉に興味を示していないらしい。


慎重に扉を開き広場へと入る。

≪秘術の錠前≫は本来であればかけた術者以外は開閉できない呪文だ。

リナが侵入時最初に使った≪秘術の解錠≫か何かで無理やり解錠したのだろう。


侵入した広場の中にはコボルトはおらず別の入口に最低限の人員を残し、ゴブリンとホブゴブリンが攻撃を仕掛けられているバリケードの方へと寄っていた。

ボルトガはバリケードを突破していないらしい。


扉の開閉音でようやく自分たちのボスが、ゴルドが来てくれたのかとゴブリン共は期待の眼差しを音源へと向けた。

しかし、出てきたのは獣人に一見ただの人に人型の金属の塊。

一瞬、何が起こっているかもわからないといった表情を浮かべ、ようやく現実を理解したのか俺たちへと攻撃の目標を定め行動をし始めた。


女ゴブリンは音を消して誰にも気が付かれないように通路から逃げたのだろう。

透明化しているとはいえ中々の隠形だ。


女ゴブリンのことを脳の片隅に追いやり目の前のゴブリン達の対処を第一目標にする。

≪念話≫を起動しボルトガに警告を入れた。

同時にリナにも一言。


「小部屋の地面付近は狙うなよ。一応生きてる人がいるからな」

「あ、忘れてました。危ない危ない」


リナの両腕が膨れ上がり変形し始める。

流体のように蠢き、外装骨格が八つ銃身を束ねた太く長いガトリング砲へと姿を変える。


「行きます」


短くリナが息を吐きだした。

炸裂する重低音。臓腑を揺らす死の弾丸が雨の如くばら撒かれた。

接敵しようと短剣を振り上げていたゴブリンが一瞬でミンチになる。

広間に積み上げられた食料が激しく舞い、血飛沫がそこら中であがる。

調理の為の火種も散水される血液に頼りない音を立てて消えた。


俺達にとっては愉快で、ゴブリンにとっては悪夢の光景。


瞬きすら許されず仲間が無残な肉片へと成り果てる。

銃口を向けられていないゴブリンが背を向けて逃げ始めた。

だが、弾丸はそれを許さない。


腕に覚えがあるのだろうホブゴブリンが射線に入らぬよう横に飛び、側面からリナへと飛び掛かった。

彼の努力も虚しく、24本の飛来した長剣が彼の身体を切り刻む。

別の側面から仕掛けたホブゴブリンもココのスローイングナイフを一身に受け命の炎を散らす。


他の入口を守っていたゴブリンも駆けつけ同様に死んでいく。


そんな一方的な殺戮がたっぷり二分も起これば広場に動く者はいなくなり、後に残るのは銃口から煙を立ち上らせるリナの姿。

射出された外装骨格の弾丸が死骸から浮かび上がり、小さな金属球となって彼女の元へともどってくる。


「いやーほんと凄いね。こりゃ楽でいいしボクも欲しいよコレ。普段から遠距離攻撃に使えばいいんじゃない?」

「弾丸部分は回収できるから良いですけど、撃ちだしに使っている外装骨格分がどんどん消費されて減っていくので普段は刃でいきたいですね。いつ外装骨格の流体金属が補充できるかもわかりませんし」


万能に見えるリナの外装骨格も一応弱点はあるらしい。


広場を見回し生きている者がいないか念の為、確認をする。

血臭が濃すぎて嗅覚では生者の確認はできない。

視界に入るゴブリンはどれも原型を留めておらず、生きている者を探すのは難しい。

ボルトガが居るバリケードへ通じる場所が最も酷い惨状だ。

援軍が向かってこないあたり、残りは全員逃げたか死んだのだろう。


これなら大丈夫か。

此処まで砕かれていればゴルドのように死体が動くことすら不可能だろう。

無詠唱では自分の近くに一個しか作り出せない黒穴を生み出し、術の効果時間が切れぬうちに『秘影剣』操作しを次々に収納していく。


自分の起こした惨状に顔を顰めるリナ、無事な装備がないかと死体漁りを始めるココ。

俺は二人を余所に、今も奮闘しているだろうボルトガに連絡をとった。



第二十五話



「ボルトガのほうにゴブリンが慌てて逃げてきたけド、これのせいだったのカ」


広場の惨状を見た、ボルトガが開口一番に呟いた。


「さて、これでボルトガの集落はこいつらに悩まされることはなくなったな。俺たちはまだやることがあるが君らはどうする? すぐに集落に帰るか?」


お宝をかき集めてホブゴブリンの装備もはがなきゃいけない。

あと、あれか。拘束されてるやつ。あの娘も起こさなきゃならない。


「……ボルトガ達はこの肉を貰って良いカ?」


ボルトガが地面に散らばる肉を指さして物欲しそうにしている。

正直なところ処分に困っていたから彼の申し出は有難い。

とても俺達で処分することなどできないし、放っておいてはむせ返るような血臭で確実に近辺の肉食の厄介なモノが集まる。


「あー……別に良いけど牢にまだ生きている人がいるからそいつ以外な」

「感謝するスバる! 今日は宴だ! 是非招待したいからやることが終わったら来てくレ! 自慢のスパイスで肉料理を御馳走しヨウ!」

「…………肉料理以外なら有難く頂くよ」

「遠慮は無用ダ!」


気を良くしたボルトガが仲間を呼び寄せ肉をサイオニックで氷漬けにしていく。

彼の部隊は傷こそ多少は見受けられるが致命的な損傷はないように見える。

ホブゴブリン交じりのゴブリン部隊を相手に随分とうまくやったらしい。


鼻歌を歌いながら冷気を放つボルトガから離れ日理場を眺めてぼーっと立っているリナの元へと戻り方を叩く。

傍目から見る限り特に落ち込んでいるようには見受けられない。


「さぁ、リナ。ぼーっとしないで取るもん取ってこよう。金貨とか宝石とか、あと金貨とか」


周りを見渡せばココの姿はなく、血溜まりの中でも嗅ぎ取れる慣れた彼女の匂いは小部屋の宝部屋まで伸びている。

うきうきと浮かれながら部屋にある物を物色している姿が目に浮かぶ。


「これ、凄いですね」


リナの言葉が何を指しているのかわからず少しの間止まってしまう。

彼女の視線を辿り、ようやく理解する。


「ん? あぁ、これね。大したもんだよ。外装骨格持ちの連中が全員冒険者になってなくて良かったと思うよ。是非とも彼らにはこのまま上で引きこもっててもらいたいね」


リナが見ていたものはミンチになり今は氷漬けとなって運ばれているコボルト達。


もし俺が上の連中と戦うのならばいくらでもやりようはありそうだが、面制圧が有効な雑魚狩りに関しては外装骨格の右に出るものはそうそう居ないように思える。


「上手くできたって喜んじゃいました。さっきも今も……あの時も」


後悔をしているような内容の割にリナの口調は平坦だ。


「別に喜んで良いんじゃないか?」

「そう、ですね。もう私にはこんな行為に対する悲しみすらないんです。私は上手くやれたんだっていう達成感の方が大きい」

「俺にはその悲しみとやらはもう理解できないけど、命は軽いよ。ゴブリンもマンティスも。もちろん俺もリナも。あの時『守りの指輪』を使わないでいたらミンチになっているのはリナだった。たった一度の、あの僅かな決断で生き死にが変わるほど、俺達の命は軽い」


幸いな事にリナには力がある。外装骨格っていう力が。

羽のように軽い命を繋ぎとめるのには力が必要なのだ。


けれど、羽のような命を綿埃みたいな価値にまで下げているのはリナ自身だ。

冒険者なんてものにならなければ少しは上等に生きれるくらいの環境はアイリスにはある。

最悪なことにトラブルが向こうからやってくることもあるが、自分から突っ込むよりは随分とマシにはなる。


「俺としては色々と葛藤を抱くくらいなら冒険者やめれば良いのにと思うよ。なんでリナが戦いに向かおうとしているか俺にはわからない。レイナールに言えばいくらでものんびり暮らせるっていうのに」


悩むぐらいならばやめてしまえばいいのだ。

誰も強制してはいない。


急にリナが両手を上げて伸びをして大きく息を吐きだした。

そして此処ではないどこかを虚ろに見つめて話し始める。


「私、やっと自分で選べるようになったんです。学校だって、勉強だって、服だって、趣味だってなんだってずっと周りを気にして生きてきました。このままずっと当たり前に終わってしまうんだなって思ってました。でも、誘拐されて……馬鹿みたいな話ですけど『あぁ、世界って繋がっててあんなに近づけなかった出口も簡単に跳び越えられるものなんだな』って思ったんです」


セントラルシティからアイリスに通じる道をリナは出口と言う。

彼女にとってセントラルは通路が出口に思えてしまうほど窮屈なものだったのだろうか。


「そしたら急に小さな頃からやってみたかった夢を思い出したんです」


リナが十人が十人とも振り返る、そんな魅力的な笑顔を浮かべた。

俺の夢はほとんど即物的で彼女ような朗らかな笑顔にはならない。

少し曇った下卑た笑みが精々だ。

今みたいな表情になれるリナの夢を俺は少しだけ応援してみたくなった。

自然と彼女の夢を問うてしまう。


「そりぁどんな夢なんだ?」

「地上を見てみたい。本物の太陽を、星を、月を真っ直ぐ……見つめてみたい」


言葉の僅かな間にどれだけの想いが込められているのかきっとリナにしかわからない。


「地上か、随分と大きくでたな。誰も辿り着いたことないって話だぞ」


地上。

高名で実力ある人物ですら届かなかった場所。

おとぎ話や神話みたいな眉唾物だ。

地下のデーモンの本拠地に行って生還して帰ってくると言った酒場の英雄譚のほうがまだ現実味がある。

リナはそんな場所に行ってみたいらしい。


「きっと本当はどっかに出口があって、みんな外に出ちゃったから帰ってこないんですよ。きっと」

「それはなんとも大胆な推論だな」

「私にはやりたいことがあります。そのためには絶対に力が必要です。こんな些事に構って止まってなんかいられません」


リナは地面に散らばったゴブリンの腕の欠片を思い切り踏みつけた。

近くのコボルトから「アァ、モったいナい……」と悲しい声が聞こえてくる。


「必要ならどんなことだってやります。だって自分で選んだ最初の願いですから。だから有難うございます、スバルさん! 私はまた一つ夢に近づけました! これからも一緒に冒険よろしくお願いします!」


青臭い宣言をされてどう返せばいいのかと悩み頭を掻く。

そんな時、小部屋の方からココの声が届いた。


「スバルー! 『秘術の携行袋』いっぱいになっちゃったから細かいもの脳力でしまってくれない?」


リナと顔を見合わせ、コボルトを縫って二人で小走りに駆けていく。

走りながら小さく一言。


「頑張りたいなら、まぁ多少は手伝うさ」

「はい! 有難うございます!」


満面の笑みで返された。微妙に気恥しい。

宝部屋でリナを見てすぐにココが一言。


「なんかリナしゃっきりしたね。流石に宝の前では微妙な顔はできないよね」


ココもリナの落ち込みに気が付いていたらしい。


「全部ひっくるめて吹っ切れました! 私も頑張ってガンガン稼ぎます! やりたいことするにはお金が必要です!」

「良い事言った! お金はあればあるだけ良いものだ!」


二人はお金の話で盛り上がる。

そうだ、兎にも角にもお金は必要だ。


笑顔の二人に交じり、俺もお宝をじっくりと見始めた。


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