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虹彩都市アイリス  作者: とんさき
第二章 トレージャーハント
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地下世界17-1

『秘術の携行袋』のように亜空間に物を収納する呪文があれば当然、亜空間に人まで収納できる呪文がある。

また、『秘術発動体』が脳力から作られている以上、そういった脳力があるのも当たり前の話だ。


この街最大規模の闇市、『ペスの隠し遺産』はそういった空間に作られている。


貴重な品々を盗もうとする輩も現世に保管場所がないため実行できず、空間内では現世に戻るために特定の場所と手順が必要なため盗みをしても逃げにくい。


もちろん現世でも盗みの対策をする秘術があるため同等の安全性は確保できる。

しかし、対策をする秘術は高価なことが多く、上位の秘術は生産者である結族が独占している場合が多い。


総合すると安価で場所も気にせず、売買の場を作れるという意味で位相のずれた別次元は闇市を運営するものに人気があるのだ。


そして一番重要な事、それは秘密基地みたいだという感覚。

目の前で駆け出したリナのように何度きても心が躍る。


「すごい! すごいです!」


露店の一番端でリナが熱に浮かされたように宙を見上げた。


専用に雇われている脳力者が宙の光の弾を操り、別の脳力者が動かす水へとぶつける。

演奏者の奏でる激しいリュートや太鼓と共に水の中で屈折した光が周囲にばら撒かれた。

演出はそれでは終わらず、水へ炎の縄があたり水蒸気が広がる。

そして水蒸気のスクリーンに幻が映し出され、ドラゴンが火を噴く。


街中で出来るレベルを超えた芸。

脳力や秘術の行使は大規模になるほど街中で使用は白い目で見られがちだ。

普段見ることのできないその光景、劇場や舞台で見るものともまた違った荒々しい映像は見る人を魅了する。


音楽に身体を揺らして宙を見るリナの後を追う。


「あれは長くなりそうだね……スバル、ボクは買いたいものがあるからリナは任せた」


ココがそう言い残して人波に消える。

本当はココにリナを任せようと思ったのに先を越されてしまった。

元気を出させるために此処に来たんだ。楽しんでいるところを中断させるのも忍びない。


俺は虚空の演出が終わるのをリナの後ろで待ち続けた。



第十七話 



「お姉ちゃんお姉ちゃん! これなんかどうだい? このナイフは強化の秘術の威力が何もしなくても普段よりも何倍も増しちゃう優れものの武器だよ!! 今ならたったの金貨四百枚!! けどお姉ちゃん可愛いからまけちゃうよ!! 今限りは金貨三百八十枚だ!!」

「大変ですスバルさん!! すごく安くなりました!! こ、これはお買い得なのでは?」

「…………」


露店の端から見て回ること僅か十分。

リナは勧められる商品一個ずつ全てに目を輝かせ、真剣の吟味する。

今も俺の腕を掴み、安くなったことへの嬉しさを身体で表現している。


彼女はドーナツ屋にすら言ったことがないと以前に言っていたし、こういった雰囲気も初めてなのだろう。


しかし、あんな物は値切りとは言えない。

そもそも商人は値段を下げることを前提としてこちらに提示しているのだ。

易々と買ってはいけない。

見たところそのナイフは込められた秘術的加工が弱いようにも見える。

あの程度の品は、はっきり言って値がつかないクズに近い。


外の店ですらもっと良いものをもっと安く手に入れられる。


正規の販売店でない以上買う側も売る側も自己責任。

偽物を掴まされても文句は言えない。

とはいえ、この業界もあまり大きいものでもなく、客は大切にされている。

偽物ばかりを売ると噂が広まれば自分が相手にされなくなってしまう。


どうやらリナはそんなリスクを背負ってでも良いと思えるほど、完全に物の価値がわからない鴨扱いされているようだ。


初心な反応に、この前の報酬で買いそろえた立ち振る舞いに見合わない高級な装備。

大方、何処か金持ちのお嬢様に見られているのだろう。


「ねぇねぇスバルさん! どうしましょう!! どうしましょう!!」

「君、外装骨格あるからいらないと思うよ」

「でも、こんなに勧めてもらって悪いですし……」

「君のお金だから止めないけど無駄遣いは感心しないな」


リナの商品の説明を全て聞く姿勢を気に入ったのか、なんとしても買わせたいのか、この露店の店主は次々とアイテムを紹介しようとしている


「ではお次の商品はこちら!! お徳用料理包丁!!」

「ゴ、ゴクリ……き、切れ味よさそうです……」


ゴクリ、じゃないよゴクリじゃ。

こいつはすげぇ、みたいな目をするな。

ただの料理包丁になんでそんな食いつくんだ。


「リナ、行こう」

「あ~、まだ見てるのに~」


腕を引っ張りその露店からリナを引きはがす。

こんな調子では市場全体を見るのに時間が掛かりすぎる。


「商品を見るならもっと厳選してみたほうがいい」

「どれも良いものに見えてきちゃいます」

「欲しいものとかは?」

「いまいち戦いに必要な物がわかってないんですよね。秘術の宝石は以前の買い物の時に全部見繕ってもらいましたし……」


リナは歩きながらふわふわとついてくる金属球を撫でる。

その時、リナの死角から金属球が球体を維持したまま細いトゲを伸ばした。

伸ばしたトゲは彼女の腰のポーチから物を掏ろうとした男の手に突き刺さる。

男は慌てて手を戻し、傷口を抑えたまま足早に立ち去った。


本当に高性能だな外装骨格。本人すら気づかないうちに護衛をしている。

これで旧式の装備だっているのだから驚きだ。

基本的にリナの武装はこれで十分かもしれない。


俺の目的の場所へと進もうとすると、またリナに声が掛かった。


「そこの綺麗なお姉ちゃん!! 見たところ銃を持っていないみたいだがこれはどうだい?」


商人の声に誘われリナがその露店に吸い寄せられていく。

ため息をついて後ろを追従する。


「この銃、本体は普通の代物だが、特別なのはこの弾丸!! 特殊な材料で作られていて、なんとあの硬いアームドホーンの装甲も貫通できる優れもの!!」


じゃらじゃらと商人の手から差し出される赤い弾丸。


「あ、あのアームドホーンを!!」


いやいや、驚いてるけど君知らないでしょ。

アームドホーンのこと。


「銃は火薬の音が煩いし臭いが付くから護身用か緊急用に留めたほうがいいよ。鼻が良い奴や耳が良いクリーチャーにはすぐばれるからね。前にも言ったけど……」

「わ、わかってます」


今にも財布に手が伸びそうなリナを再び露店から引きはがす。


「全部魅力的に見えてしまいます」


次は大丈夫です、とリナは反省しているが信用ならない。


「何でもかんでも見てたら時間が無くなる。良い秘術があるから抵抗せずに受け入れてくれ」


スクロールをポーチから二つ取り出す。

この時のために買っておいた秘術だ。


「≪秘術の目≫(セキュリティー・アイ)」


呪文の内包するエネルギーが解放され、視覚に新たな情報が追加される。

リナの目が黄色く光った。彼女にも問題なく付与されたようだ。

これは一時敵に隠蔽されてない秘術エネルギーを視覚的に見ることができる秘術だ。

その効果により、見えるエネルギーが多いものほど強力なアイテムの可能性が高い。


「なんだか白いもやが見えます」

「それが強力なアイテムかそうじゃないかを示してる。これでいいものがわかりやすくなるよ」


露店をぐるりと見回す。

所々に強力な秘術のオーラが立ち上る。


「……そんなにいい秘術があるならもっと早くに使ってほしかったです」


口を尖らせ、拗ねるようにリナは言う。


「ああいう売り込みに乗るのも此処の醍醐味の一つだからね。楽しみは奪えない」


俺も初めて来たときは同じ反応をしてココに止められたものだ。

あの時ばかりはどちらが年上かわからなくなった。


昔に思いを馳せていると、リナの姿が消えていた。

辺りに視線を巡らせる。目を離すとすぐにどっかに行ってしまう。

元々そういう性質なのかもしれない。酒で酔った時もそんな感じだった。

リナを見つけ、あの時のように手をつなぎ連れ出す。


リナは黙って文句も言わずについてきた。




しばらく歩き回り、付与された呪文を頼りにようやく目的の物を見つけた。

その店のメガネを掛けた店主はリナが惹かれるような大きな声での客引きはせずに商品を陳列し黙って店番をしている。

よほど自分の商品に自信があるのだろう。


その自信の通りに、並べられている品は込められたオーラが非常に強力な物ばかりだ。

秘術を発動する宝石はもちろんのこと、短剣などの武器をはじめ、道具を作る材料であるオーラを纏った金属の延べ棒に、何かの生物の羽など様々なジャンルのものが取り揃えてある。


俺の目的の指輪も無造作に置かれていた。

一粒の宝石が嵌められたその指輪を手に取り、念の為店主に説明を求める。

商品のオーラに圧倒されたのか、他ジャンルの商品に見とれているのか、リナは大人しく品物を見ている。


「これの詳しい説明を聞いてもいいかな?」

「これはお客様。私は店主の代理のキールと申します。説明の前にお名前を教えていただけませんか?」


売ることに必死な他の店主にはない丁寧な物腰でエルフの男、店主代理は答えた。


「俺はスバルだ。それでキール、指輪の説明をお願いしても?」

「かしこまりました、スバル様。これは『守りの指輪』。願うことで一日一度だけ≪秘術の鎧≫(アストラル・アーマー)を唱えることのでき、リチャージがされ毎日も使用できる秘術アイテムで御座います」


説明を受け、俺の目的のもので間違いないと確信する。

基本的に使い切りではなく繰り返し使用のできるアイテムは希少で非常に高価だ。報酬の入ったこのタイミングでなければ買えないだろう。

レイナールの知り合いに探してもらうという手もあったが、報酬以外でお願いをして結族に借りを作りすぎるのは良くない。

見返りをいつか求められることが怖い。


「スバル様のような革鎧を装備なさる方や、そちらのお嬢様にはピッタリの品と言えますね」


敵の攻撃に対してとれる行動は単純に分けて二つ。

避けるか、防ぐか。

俺は避けることを選択し、動き安くするために革鎧を装備している。

獣化の運動性のことを考えると俺は避けたほうが良いという判断だ。

ただ、その代わり、動きやすい革であるが故に金属の重鎧ほどの防御力はもたない。


この指輪に込められた呪文はその弱点を克服してくれる。

『秘術的鎧のポーション』と似たような性能で呪文を唱えることで重鎧相当の不可視の鎧を纏うことができるのだ。

さらに、二つを重ね掛けをすることで防御力が飛躍的にあがったりもする。


これだけだと重鎧には良い事無しに思えるがそうでもない。

≪軽量化≫(ライトネス)が永続的に付与されていれば素早い重鎧という敵からしたら悪夢以外の何物でもないことも実現できる。ただ、重鎧という全身を覆う装備をしている以上、どうしてもしなやかな動きは阻害されてしまう。

俺の戦闘パターンとはマッチしない。


「それを一つ頼もうか」

「そちらの奥様宛に箱をお選びになられますか?」


『秘術の携行袋』から値段分に相当する金の延べ棒と金貨を取り出す。

良いものを売る良い商売人には値切りなどしないほうが後々の為になる。


「お、おおおおくさま!?」


リナは慌てて手を放し、真っ赤な顔の前で手を違う違うと振り出した。


「いや、箱はなくていい。このまますぐ使う」


取り乱すリナを無視して淡々と取引を進める。

こういった反応は二度目だ。慣れている。


「これは失礼いたしました」


露店の展示スペースに金貨などを値段より少し多めに置く。

エルフは金貨の枚数や延べ棒の比重も調べずに俺へと指輪を手渡した。


「足りなくはないはずだが、確認しなくていいのか?」

「スバル様は不実な取引をされる方ではないと確信いたしましたので」


営業スマイルには見えない自然な笑顔で応対するメガネをかけたエルフの店主。


≪秘術の目≫の付与された俺の瞳が、店主のメガネに秘術のオーラを感じ取り、なんらかの秘術が付与されていると教えてくれる。

おそらく計量の類か物の価値を見定める≪公正な取引≫(フェア・トレード)などが付与されているのだろう。


信用してると見せてきっちりと確認はしている。

商売人だから当たり前か。

鼻で笑って、指輪をそのまま受け取りリナに差し出す。


「ええ!? ももらっちゃっていいんですか!?」

「あぁ、これがいざというときにあるだけで安心できる時も多い」


外装骨格は纏えば強いが、纏えない局面もいつか出てくるはずだ。

その時に、秘術アイテムの引き出しがあることは良い結果を導いてくれる。

俺の分はまたお金が貯まったら買おう。

今は俺よりもリナが持った方が良い。


「ココにも以前に渡してある」


一年ほど前、ココに渡したときも同じような反応をされた。

流石に二回目となれば慣れもする。


「……あ、そうなんですね」


残念そうにするリナを置いて、キールに礼を言い店の前を離れる。

遅れてリナが付いてきた。


これで目的の一つは果たした。

まだ、やることはある。次の場所に向かおう。


「見るべきはここら辺の露店だけじゃない。まだまだ色々あるんだ。目移りしちゃうのは俺にもよく分かるから、先に用事を済まさせてくれ。露店は全部終わったらゆっくり見よう」


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