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虹彩都市アイリス  作者: とんさき
第一章 誘拐少女
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地下世界13-2

話が長引いているので割って入る。

俺たちにとっての重大な話、リナの引き取りがまだ終わっていない。

ココなんて完全に飽きたようで机に肘をついている。


「あぁ、ミスター・スバル忘れてはいない。安心してくれ。さて、ドゥシャー・ルキーニシュナ・ミクリナだったかな? おめでとう、これで君は安全にアイリスからセントラルシティに戻ることができる」


大仰に両手を広げるミュラーはリナに話しかける。

リナが静かに問いかけた。


「……その前に少し聞かせてください……なんで命を狙ったのですか?」

「なんのことだ?」

「なんで、命を狙ったんですか?」

「そんな命令はでていないな」

「肉塊にならない私が邪魔だから消そうとしたんですか?」


俺が触れないでいた部分にリナは斬り込むらしい。

このまま黙っていれば何事もなく帰れるはずだっただろうに。

余計なことは言わんほうがいい。


あと、肉塊の話は不味い。殺ったのばれちゃう。

すでにばれてるだろうけど。


「……成程。二人の生き残りの部下から報告があった外装骨格を纏って地下遺跡の穴から逃走した者はやはり君だったか」

「…………」

「はははははは上手くやったものだな。二人の冒険者と小娘一人が旧型で練度の低い警備部隊とはいえ外装骨格を倒すとわな!!」


紳士的と思えた態度が一変し、大声で笑いだす。


「……失礼。我々から言えることは一つだ」


ミュラーすぐに落ち着きを取り戻し、鎧に覆われた顔でリナを見つめてたっぷりと間を置き、言った。


「自惚れるな小娘。お前みたいな人間は過去にいくらでもいた。特別だから殺されるとでも思ったのか? 特別だから命が狙われるとでも? あぁそうか、下層学をまだ学んでなかったんだな。その年ではまだ教えられないから仕方ないが。だが、よく考えろ。セントラルシティでの安全な暮らしは誰が最初に作り上げた?」


言葉を咀嚼し、やがてリナは何かに気が付いたのか目を僅かに見開き、真剣な表情に戻る。


「そこの獣の亜人か? 見目をころころと変える悪魔のような亜人か? 耳長か? 巨人か? カマキリか? 違う。そうではない。わかるだろう?」


紳士的に見えてかなりこちらのことを見下してるなこいつ。

ハーフリングについて言及しなかったのは取引相手だからだろうか。

何れにせよレイナールもあまり友好的な表情ではなくなった。


「……そう、ですね。肉塊になってしまっては子供残せないですよね」

「理解したか。さぁ、上に戻るぞ。ミスターレイナールとの契約だ。私にはお前を上に無事に送り届けるまで安全を保障する義務がある」

「……いいえ。絶対に帰りません。さっきの質問のはただの確認です」


……まじか。帰らないんか。

なんか喧嘩みたいになってるし……命を狙われたのは腹立つけど俺は帰ったほうがいいと思うんだけどな。

寝不足で思慮不足になってるのか?


どれほどの覚悟を込めたのか、リナの強い意志を込めた瞳が真っ直ぐとミュラーを見つめている。


「………………」


ミュラーはなにも喋らない。


「無事に帰れたとしても、私はその後、無事に生きていけるかわからない」


座ったままリナはゆっくりと言葉を続ける。


「セントラルシティは良い街です、良すぎるんです。犯罪者はどんなに小さな犯罪でも有罪が確定したら即死刑。潔癖なまでに異分子を許さない」


それはアイリスよりもだいぶ酷いな。

この街にも罪を裁く機関があるけど、殺人や強盗などの重犯罪でもない限り死刑なんてことはない。

みんながみんな脳力持ちだから自分が優位であるという確信がある限り致命的な犯罪は起こさないしな。


「秘密を消すために人まで送り込んだのに秘密を知った人間をわざわざ生かしておくとは思えない。上に戻ってすぐ殺されるか飼い殺されるのが落ちです。下手したら家族全てが殺される可能性だってありえます……いいえ、貴方達は絶対に殺すでしょう」


セントラルの人は脳力がないから犯罪に巻き込まれたらどうするんだ?

治安がいいとか言ってたけどシティガードみたいなのがそこら中に居たりするのだろうか。


「だけど、此処に居れば私は生きていられる。貴方が言った契約のお陰で」


考え事をしている間にもリナは力強く話し続ける。


「だから、帰りません」


そして、最後にきっぱりと明確な意思を込めてそう言った。

話の間、ミュラーは何も喋らない。


「確かに、君が戻ったら殺していただろうな……私としては至極どうでも良い事だが、上はそうは思わない。別の派閥に付け入らせる隙は与えたくないようだ」


リナが唇を噛みしめる。想像していたことでも実際に言われることは辛いのだろう。


「君の言う通り、私は契約で此処に君がいる限り殺すことはない。必要もない。君の選択は正しい。好きにするといい、私の目的はデータが第三者に渡らなかったという事実だけだ」


リナの様子を気にも留めずミュラーはただ事実のみを繰り返す。


「まぁ、もしかしたら他の派閥のなかには、君を我々の失態の証拠として上に取り戻して我々破滅させよう考える輩もいるだろうが……まぁきっと、それは考えるだけだ。ちょっとしたことで肉塊になってしまうこんな場所にいったいどこの誰が来たがる」


ミュラーはレイナールから受け取った記録媒体と長方形の薄い箱を別のケースにしまう。


「少なくとも私は長く滞在したいとは思わない。では、ミスターレイナール。私はそろそろ失礼する。長い階段を上らないといけないのでね」


足早にミュラーは部屋を出て行った。

彼が部屋から出ていくのに合わせてレイナールの連れも外に出て行った。見送りにでもいくのだろう。


部屋に残ったのはどうしたものかと顔を見合わせる俺とココ、ミュラーの出て行った扉を睨みつけているリナ。

そんなリナにレイナールが興奮した様子で声を掛ける。


「凄い啖呵だったじゃないかミス・ドゥシャー。上の事情は知っていたつもりだったが、想定よりも随分と酷いところだったらしいな。すまない。君を無事に上へと戻すのは元々無理な話だったようだ」

「いえ、お気になさらないでください。命を狙われた時点で私は帰るつもりはありませんでしたし」


マジかよ。それでなんか戦うことにやる気を見せてたのか。


「帰れないのは非常に残念だが、神は私に君への恩を返させるチャンスをくれたようだ。何かアイリスで困ったことがあったら遠慮なく頼ってくれ。君への恩義を返さねば『クランクルム』に天罰を下されてしまう!!」


確か『クランクルム』は策略や計略を司る神だったかな?

一般的なハーフリングは商売の神『ブシネス』信仰していた気がする。

彼が交渉を専門とているからなのか、変わり者なのかはわからない。


「そうだ、きちんと礼も言ってなかった。ありがとうミス・ドゥシャー。君のお陰で我々グラント結族は最悪の事態を免れた。本当に誘拐されてくれてありがとう!!」


小さな身体でリナに駆け寄り、子供程の手の平でレイナールが握手をした。


「…………はぁ」


誘拐されてありがとうだなんてなかなか言われるものじゃない。

本人的にはうれしい言葉でもないだろうに。

割とレイナールはデリカシーがない性質なのかもしれない。


「さて、奴らは上に帰ったことだし君達の報酬の話をしようか」


握手が終わると軽快に跳ね、レイナールは豪華な円卓の上に腰かける。


やっときたぜお楽しみタイムだ。

リナは可哀そうだがそれとこれとは別のお話。

トレジャーハントも楽しいがこうやって安全な場所で渡される報酬もまた格別だ。何処で手にはいっても金は金。


「君達の働きは素晴らしかった。きちんと記録媒体を守ってくれたのはもちろんだが、マンティスの拠点を一つ潰し、頭に来るセントラルのお坊ちゃんどもに一泡吹かせてくれた。この働きは非常に大きい」


レイナールが足を組み、手を挙げ指を順に三つほど立てる。


「マンティスの死骸も処理し終えたし、気色の悪い肉塊も私達が適切に処理しておいた。その過程で外装骨格自体も旧式のものだが一つ回収できたのは大きい。中でもあそこに潜伏していた大きなマンティス、ハザードを処理してくれた功績は多大なものだ」


あの触手出しまくりカマキリはそんな名前だったのか。


「君達は私の期待以上の仕事をしてくれたのだ。当然、報酬もその働きに見合ったものを約束しよう。まずは報酬の半分としてこの金貨を渡しておこう。かなり消耗させてしまったみたいだからな。当面必要になるものはこれで補充してくれ」


指を立てた手をくるりと回し、指を鳴らす。

扉が開き、先程まで卓を囲んでいたハーフリングの女性が帰ってきた。

報酬の詰まったカートを押して。


なんて良い演出だ!

金貨の山!! 金の延べ棒!! 凄い量だ。さすが結族気前がいい!!

きっちり二等分……いや三等分しても使った宝石を補充してもあまりある!!

しかもこれで半分の量ときたもんだ。


文字通りの大金にリナは目を見開いている。

今までの話に興味無さげにしていたココも目を輝かせている。


俺たちの反応にレイナールは満足気な笑顔を浮かべている。


「残りは金貨や宝石などで用立ててもいいが、もし望みの物があるなら言ってくれ。貴重な品が欲しいなら『アッシュの古代遺物店』や結族の秘術店などに取り次いでもいい」


アッシュの古代遺物店!!

売りに出された多くのアーティファクトや色々な種族が作った秘術アイテムが集まるお店じゃないか。

コネクションがないと買えない店にグラント結族が取り次いでくれるなんてなんてすばらしい話なんだ!!

しかも結族の秘術店にも取り次いでくれるとは。

今後は今まで買えなかった希少な秘術が使える!!


リナは彼の申し出の価値がわかっていないのかきょとんとしている。

ココも声にこそ出さないが表情でテンションが上がっているのがまるわかりだ。

今ならレイナールがああ言ってしまった心情がよくわかる。

俺だって思わず言ってしまいそうだ。


「リナ、誘拐されてくれてありがとう!!」


リナがジト目で見てくるが今回ばかりはココの突っ込みもなくうんうんと頷いている。

その時、右手の平が熱くなった。大鎌が消えていた。


≪契約≫の本質は履行の意思があるか否かの判定だ。

契約を果たしたことで紋章が消えたようだ。

契約の内容とは少し違うが、リナ本人が帰ることを望まなかったのだからそこは達成されずとも仕方がない。


≪契約≫も解けた、報酬ももらった。命もある。

今日はなんていい日なんだ。


金の山、報酬の話、これらで俺の眠気が綺麗に遥か遠くまで吹っ飛んだ。

興奮ですぐには寝られないだろう。

ならば仕事終わりにやることは一つだ。

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