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虹彩都市アイリス  作者: とんさき
第一章 誘拐少女
19/93

地下世界12-2

「私に寄ってきてるみたいですね……」

「そりゃまた便利な」


どうやって外装骨格を回収しようか考えていたところにまさか向こうから来てくれるとはちょうどいい。

手間が省ける。


「外装骨格は人の役に立つためにプログラムされているんです……もしかしたらあの肉の塊になってしまった人が死ねたのかも知れませんね……」


リナが一面だけ空いてる壁部分から手を出すと外装骨格が一つ近づいてくる。

咄嗟に金属球をつかみ取り『秘術の携行袋』に押し込む。


リナに睨まれた。


「あ、ごめん」


感傷的になられても目の前に貴重なものがあったら手に入れてしまう。

リナの前の金属球が居なくなると別の金属球が再び寄ってくる。

思わずまた手が動いてしまう。

隣を見るとココも同じく『秘術の携行袋』を片手に構えていた。


悲しいことにこの行動は冒険者の性だ。

手が止まらない。


「……わかってます。感傷的になるのは後にします」


長いため息が隣で聞こえた。

気にしない様にしてココと一緒に携行袋に金属球を押し込んでいく。


「ははっははははははは!!!! そこに居たのか!!!!」


夢中になって金属球を押し込んでいると突如下から声が届いた。

慌てて下を見ると一人奮闘していた兵士が戦いながらも上を見ていた。

明らかにこちらの場所を認識している。


やばい、ばれた。

何故だ。


そうか、金属球か。

人に寄ってくるってリナが知っているなら下の奴も知らないはずがない。


下方からの一際大きな炸裂音。

視認せずともわかる風を切って迫りくる何か。

ココとリナを両手に抱え、≪石の加工≫で作られた空間から躊躇いなく飛び出した。


あぁ。あと五個ほど金属球を回収していないというのに。


飛び出すと同時に後方から爆音。

身体を丸め、二人を胸に抱え込み、背後からの衝撃に備える。


地下空間を崩落させかねない巨大な爆発。

一歩間違えれば攻撃者すら巻き込むオーバーパワー。


これだから地下の戦いをしたことがない奴はダメなんだと心のなかで毒づいた。


しかし、想定した爆風がやってこない。


自由落下しながら首を捻り、後ろを確認。

すぐ後ろには銀色の何かが薄く広がり爆風を反らしていた。

浮遊していた金属球が助けてくれたらしい。


「ス、スバルさん大丈夫です。あれは味方です」


胸の中で苦しそうにリナが言う。


「きて!!」


リナの一言で広がっていた金属球が形を元に戻し、彼女のところへと飛んでくる。


先程の強い衝撃のせいで天井の一部が崩れた。

ガラガラと音を立てて無数の岩が今にも降り注ごうとしている。


そんな危機的状況の中、リナは俺の胸元から抜け出し、金属球へと手を伸ばしながら空中に躍り出た。


硬質な見た目を裏切り、5つ金属球が柔らかく形を変えた。

流体となった金属が無数の小さな1センチほどの立方体に分かれだす。

立方体は意思を持っているかのようにふよふよと動き始め、リナの手に、足に、腹に、顔に、全身に殺到した。


それらは瞬時に結合し、新たな形を模った。

無骨なフォルムがリナの全身に覆う。銀色の表面に赤いラインが引かれた塗装。

肘から先が一回り大きく、武装が隠されているように見受けられる。

腰からは蜘蛛の脚のような刃物が三対生え、膝から先も太く重点的に守られていた。


5つの金属球が纏まったせいか今まで見てきたセントラルシティの部隊の外装骨格とはずいぶんと造形が違う。

全体的にごてごてしている。


ココが≪軟着陸≫を唱えた。

足元の光の粒子が生まれ、俺とココの落下速度が緩まる。

胸の中からココを開放して着地。


隣にリナと思われる全身鎧も緩やかに着地。誰だこいつ。


変わり果てたリナを意識の外に追いやりすぐさま向き直り、ミサイルをかましてきた兵士を見た。

金属に覆われた顔からは表情は読み取れないが悔しがってる様子は伝わってくる。


また、幸いなことに天井の崩落は限定的で、通路全体が崩壊することはなさそうだ。


彼の周りにはワーグ、ハイエナ、他にもダイアマウスに、巣を作らず徘徊して狩りをする天然物の蜘蛛。予想以上にクリーチャーが寄ってきている。

リコの実ルコの実が効果を発揮しすぎた。

セントラルシティの兵士を倒せても残りのクリーチャーを相手するのは少々厄介だ。


マンティスも撃破し、上の部隊はほぼ壊滅。

当初の目的は果たした。戦う意味がない。

クリーチャーの相手はあの隊長に任せて、とっとと地下遺跡から脱出しよう。


「逃げるぞ!!」


全員でアイリスの街へとつながる穴の方へ一目散に走りだす。

俺とココが大きな瓦礫を縫うように走り、リナが瓦礫に目もくれず破壊しながら真っ直ぐに進む。

外装骨格を纏う前のリナとは段違いに速度が速い。俺やココと同じくらいの速さだ。


「まてぇええ!!!! ミクリナ!! 貴様のせいで俺の部下が!! 親友が!!」


多数のクリーチャーに囲まれているはずの隊長が全てを無視して地を蹴り砕きながら跳躍した。


ガスの臭いに甲高い燃焼音。


兵士はミサイルと似たような仕組みで≪飛行≫も使わずに飛んでいた。

地形に囚われず直線的に飛来するセントラルシティ部隊の隊長に追いつかれるのは時間の問題。


背後には何かが着弾して地面の砕ける音と火薬の臭いが迫っている。

どうやら敵は飛行しながら、火力兵器を景気よく撃っているらしい。


狙いをつけられないよう、道をジグザグに走る。

隊長の猛追にたまらずココが≪反発する力場≫を背後に起動した。


一先ず僅かな間、撃たれる心配は消えた。


「リナ!! 後ろのお友達をなんとかしてくれ!!」

「無理です!!」


外装骨格の効果は絶大なのか鎧で一回り大きくなったリナは息切れすら起こしていない。

顔まで金属で覆われているから表情こそ見えないが。


「あの金属球5個も使ってるんだからいけるだろ!!」

「装甲とか増すだけで機能的にはかわらないんです!!」

「じゃあ、あれだ。肩からミサイル撃つ奴で牽制してくれ」


返事をする間も惜しいのか無言のままリナの肩に後方を向いた大きな銃口が現れた。

弾が瞬時に発射される。


「ダメです当たりません!!」


次はなんだ。何ができる。

飛んでいるなら風の壁で地面に落とせるか?

思いついたら即実行。足を止めずに手甲の宝石に意識を傾けた。


「≪風の壁≫」


≪風の壁≫の風向きを地面へと向け、下へと突風を発動させる。


すぐに術に手ごたえを感じた。風が敵に当たり、奴は地面にめり込んだはずだ。

確認している暇はないが。


やったか?


「待てって言ってるんだよおおおおお!!!!」


如何なる執念か兵士は墜落からすぐに復帰し、殊更に大きな燃焼音を生み出した。

爆発的な加速で敵は俺の背後に着地する。


全身の至る所から銃口を生成し、全てが俺たちの方を向いていた。


「させません!!」


俺が攻撃の秘術を発動させるよりも早く、リナの足元から火柱を噴き出し飛び上がる。

そのまま背後を向き、爆風を防いだ時と同じ金属膜を生成した。

無数の着弾を響かせ、金属膜が歪んだ。


これではどれほどの時間耐えられるかわからない。


俺が追撃を考えた時、リナが手を突き出した。


「≪跳躍≫!!」


何処から宝石を取り出したのか、リナが呪文を詠唱。

動いている限りココやリナに変化はなく、もちろん俺にもない。

いったい誰にかけた?

いつ使えるようになった?


疑問を押し込めただ走る。足を止めれるほどの余裕はない。

銃撃が収まり、リナがボロボロになった金属膜を消した。


膜の先では無数の銃口の先から煙を立ち昇らせる隊長が恨めしそうに立っていた。

敵は立ち止まりながら撃っていたらしく距離がどんどんと離れていく。

リナが足元からの噴射をやめて俺とココに並走する。


「このまま真っ直ぐに走ってください!」


リナを信じて振り向かずに走り抜ける。

同時に激しい衝突音。

思わず音源へと振り向くとそこには天井に突き刺さっている隊長の姿。


まさか、あいつに≪跳躍≫の呪文を使ったのか。


「上手くいきました!!」


説明を受けている暇はない。

今もワーグとハイエナ、蜘蛛が追ってきている気配を感じる。


出口を目指し、足を動かしていると、後方でどさりと大きな落下音が聞こえた。

それはきっとあの隊長が天井から落下した音だ。

気絶しているのか身体を動かす気力がないのか俺達を追うような動きは感じられない。


迫りくるクリーチャーの群れに気絶した純人間。

これから辿る彼の凄惨な未来を幻視した。


それから間もなく、地下空間を照らす明るい光が見えた。

アイリスに色を添える虹色の光だ。

光の中には縄梯子も見える。


「リナは上まで飛べ!! ココ、最初に上れ!!」


ココと俺、お互い≪跳躍≫の宝石はすでにない。

上に戻るためには縄梯子しか手段がない。

幸いなことにココとリナが入口で銃撃を受けていた時に壊れなかったようだ。


全力で縄梯子まで駆けていると、突如、上からの射撃を浴びる。

咄嗟に全員が瓦礫の陰に隠れた。


「くそ、まだ残っていたか」

「まったく、最悪だね……」

「そんな……」


三者三様の文句が出た。

穴の上には二人の外装骨格。


今まで走ってきた道を振り返る。

クリーチャーが大挙して押し寄せているのが見えた。

隊長は大した足止めにもならず簡単に食われてしまったらしい。


使えん奴め。


リナは飛んで上に行けば被弾こそするが、おそらくは逃げられる。

だが、俺とココは無理だ。


いっそのことこのまま先の道を進み、命の掛かった鬼ごっこを再開するか……或いはこの場でクリーチャーを狩りつくすか……。


「スバル、どうする?」

「今考えてる」


ココは上に上がれない以上、クリーチャーとの対決を視野に入れているのか、背後を見据えダガーを構えていた。


≪飛行≫の宝石はあるにはある。

ただ≪飛行≫自体は制動も酷く速度も遅い。

上に行くまでにハチの巣になることは必至。


もっと早く飛ぶにはどうすれば……。


タイムリミットはあまりに短く、決断の時はすぐそこだ。


「…………あぁ、もう、めんどくせぇ!! 後は野となれ山となれ!!」


さっき面白い賭けに勝ったばかりだ。

この無茶だって上手くいく。


「全員突撃!! 穴の下まで言ったら≪飛行≫を使うから全員掴まれ!!」

「私が先頭を走りますついてきてください!!」


全員が同時に物陰から躍り出て、手持ち最後の≪風の壁≫を詠唱する。

光の降り注ぐ穴の下から上へと斜めに、まるで射出口のように、強烈な風力を持つ風の壁が出現した。

風に阻まれ出口からの銃弾が上空へと打ち上げられる。


「二人ともこい!!」


二人に向かって手を伸ばす。

リナが外装骨格のままを俺の左手に身体を絡ませ、ココは腰に抱き着いてきた。


「≪飛行≫」


呪文を唱えつつ、速度を維持してのまま≪風の壁≫へと突っ込む。

銃撃を阻むほどの激しい風に≪飛行≫により重さを失っている俺たちは抵抗できずに宙へと流される。


「――――――ッ!!」


激しい衝撃、景色が一瞬で流れた。

瞬きする間に街を軽く見下ろせるほどの高度にいた。

宙からの見た街並みは光りが当たるところ、影になってしまっているところきっちりと明暗が分かれている。


詰まる所いつも通りのアイリス。


誰からか笑いが漏れた。

笑いが伝播し、止まらない。

全員が呼吸もままならないほどに笑い合う。


今日はいい日だ。今ならどんな賭け事をやっても負ける気がしない。


たっぷりと笑った後、静かに言った。


「もう大丈夫そうだな」


緩やかな飛行の風を頬に感じながら身体にしがみついている二人に声を掛ける。

ココが抱き着きながら鼻にかかる髪を払う。


「無茶しすぎ。スバルもリナも。みんなで地下遺跡の奥にいったほうがよかったんじゃない? またはリナだけ先に上に行って二手に分かれるとか……色々やりようあったでしょ……」

「まぁ上手くいったから良いだろう」


リナが頭部の装甲をといた。長い銀色の髪が風に流れる。

鎧の肩幅と顔の大きさが合ってないためどこか間抜けだ。


「お前、凄いごつくなったな……」

「女の子にごついなんて言わないでください」


兵器に身を包みながらリナは頬を膨らませた。


「そういえばリナはいつ秘術を使えるようになったんだ?」

「いまさっき、無我夢中です」

「宝石は?」

「宝石を貸しておいてくれたのもう忘れちゃったんですか?」


思い出すのは『頑固者のドーナツ屋』。

確かに宝石を貸した気がする。


「あぁ、あの時のか……≪跳躍≫使ってくれたおかげで助かったよ。ありがとう」

「いえ、私なんて何度も命を救われていますし……」

「うわ、最悪。髪にマンティスの血が付いた……」


ココが空気も読まずに呟いた。

その上、俺の太ももか抓られる。


「俺のせいじゃないだろ」


深く息を吸って、吐く。

身体中から鉄と火薬と虫の不快な臭いがした。

風呂に入りたい。


「とりあえずひと段落だ。まだ終わりじゃないが一山越えた。マンティスは分からないけどセントラルシティの連中が来ることはしばらくないだろうさ」

「そう、ですね……」


リナの笑顔が少し陰り、ココは早く綺麗にしたいと髪をいじくる。

俺は二人の様子を交互に見ながら眼下に映るアイリスを見渡し、着地できる場所を探した。


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