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灰になっても  作者:
3/4

発見

「ご主人様、ご主人様」


 獣人の成長は早い。

 冬の初めに拾った時には、まだ歩みも覚束ない幼児であったのに、雪の消えはじめる頃には、少なくとも外見からは幼児っぽい(いとけな)さは消えていた。

 さらに季節が進み、若葉がすっかり青葉になった今では、(二足形態であれば)腰を落として視線を合わせなくても、立ったまま顔を傾けるだけで目が合うようになった。


「白、ご主人様はこっ恥ずかしいからヤメロと何度も……」


 白、と何の工夫もなく名付けた獣人の仔を窘めようとする青年だが、邪気のないつぶらな瞳に勢いが削がれる。仕方なくひとつ溜め息をついて続きを促す。


「……で? 何かあったのか?」

「あのね、ですね、あっち。何か、変、なの」


 操る言葉が見た目のわりにたどたどしいのは、実年齢のことを考え併せれば致し方ないだろう。たぶん。

 だが、興奮しているせいか、今はいっそうぶつ切りになっている。普段であれば、考え考えではあるが、もう少しなめらかに話す、はずだ。


「あっち?」


 白は、毎朝青年の耕作地を巡回するのが日課だ。まあ、朝に限らず、青年の目が行き届かない時には、たいてい自主的に見回っているのだが。いや、むしろ元気と好奇心が有り余って、じっとしていられないのかもしれない。

 その白が、あっち、と指さす方向は、野菜を植えるために、ここ何日か手を入れていた一画だ。 どこからともなく入り込む小石を半日かかって退け、さらに二日がかりで肥料を鋤き込んで。肥料が馴染んだら植える予定の苗は、自宅に隣接した作業小屋ですくすくと育っている。


「変、て?」

「変なニオイ、する」

「ニオイ?」


 畑を含むこの土地が青年に与えられたのは、三年ほど前、彼が成人した年であった。その当初から地味で些細な嫌がらせが、間をおいて続いている。

 例えば、種蒔きの終わった畑に一掴みほどの豆がばらまかれていたり(豆をつつく鳥がついでとばかりに種をほじくるのだ)、大人の拳ほどの石塊がぽつぽつと放り込まれていたり(投げ込みは他にも小枝とか、ぼろきれとか、蛇の抜け殻とか、さまざまある)、畑の一角が不自然に水浸しになっていたり、収穫間近の作物を囲ってあった柵が倒されていたり……

 それらの嫌がらせの被害箇所は、下手人が誰かを指し示すかのように、偏在していた。

 しかしそれは、今、白が指し示している方向とは反対側なのだ。

 しかも、『変な(・・)ニオイ』ときた。


「どんなニオイだ?」

「……んー……」


 白は首を捻る。


 大方の獣人の例に漏れず、白は鼻が利く。しかも物覚えが良い。……特に食べ物に関しては、一度嗅いだことのある物ならば、それがたとえ白の口に入ってなくても覚えているし、食べてはいけない物(主に他人の所有物、あと近辺に棲息している有害な動植物)も把握している。 さらに、嗅いだことのないものでも、生き物(生死を問わず)であれば、『おいしそうなニオイ』と表現する。どれだけ食い意地が張ってるんだ、と思わないでもないが、その言動に反して白は食が細い。というか、消化機能が弱い。食べ物の少ない冬場に、戻したり下したりしない食材と量を見極めるのには骨を折った。

 それはともかく。

 知っているものの匂いが少しでもすれば白はそう言うし、そうでなくても生き物の匂いがするのであれば、『美味しそう』と表現するはずだ。

 つまり、未知の何か。

 そして人工物の可能性が高い。

 厄介事の気配がする。


「……何かイロイロ混ざったニオイ?」


 人工物でほぼ確定。

 青年はひとつ溜め息をついて、小走りに駆けてゆく白の後を追った。



 白が『変なニオイ』がする、という一画に近づくと、厄介事の気配が濃厚になった。

 きれいに均してあったはずの地面が荒らされているのが遠目に判る。誰かが掘り返して何かを埋めたようだ。

 それを見た青年は、白にその場での見張りを命じると、自身は踵を返して村の中央に向かった。

 厄介事には、他人を巻き込んだ方が良い。

 幸いなことに、たまたま今、村にはそういうことの対応に長けた者たちが滞在しているのだ。

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