1/4
落花
風が、吹く。
薄曇りの空を、白い薄片が舞う。
不意に風が止んでも、白い薄片は、はらはらと、音もたてずに目の前をこぼれ落ちてゆく。
それは、あの日の光景にどこか似ている。
白い花片を零す樹の根元に凭れ掛かった男は、しっかりと抱えた壺の中にそっと手を入れた。
そして、おもむろに抜き出した拳を、ゆっくりと前に伸ばし、緩慢な仕草で指を開く。
すると、掌に握り込まれた白い粉末が、折りから吹き付けた風にさらわれてゆく。
風に溶けるように舞い散るその白い粉末は、暫しの時をおいて、男の目の前に奇跡のような光景を現出した。
「…………こんな、」
男の言葉の続きは、もごもごとした唇の動きだけで終わった。