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「公立新東京第一高校の2年で、お前...有川 那智の幼馴染み。」
「ありかわ...なち」
それが、これから先私が使っていく名前。
私のではない、他の人を表す記号。
「幼馴染み、だったんですね...」
また、申し訳ない気持ちになってしまう。
「だから、あんたがそんな顔する必要はないよ。...ちっさい頃から振り回されてばっかだったし、それが治るんなら俺としては万々歳だからさ。」
「......」
そう、冗談めかして言ってはくれるが、幼馴染みという深い付き合いだ、その中に少なくとも情の欠片くらいはあっただろう。...今こうして、私の側で話してくれているように。
「こんなこと言うと、余計混乱しちゃうかもしれないんだけどさ、一応付き合ってたりもしたんだよ。」
「......っ!」
ぎゅうぅっと胸が苦しくなる。
やっぱり、大切な人だったんだ。
そんな人を、いきなり私みたいなのが奪ってしまった。
......最低だ。
「......ちょっと、最後まで聞いて。」
ぐいっと、俯いていた顔を上げさせられる。
真摯な目が、私の情けない表情を映していた。
「結構成り行きだったし、お互いには特に感情も無かったから、1ヶ月くらいしたら別れたよ。俺が振られたの。」
何で、
何で何ともないような顔で言えるんだろうか。
「......分からない、じゃないですか。」
「は?」
「もしかしたら、その、那智さんはあなたのこと......」
そこまで言って、言葉に詰まる。
お互いに言葉が出ない、重い沈黙。
「しっつれいしまーす!!」
そんな時に空気を割って入った明るい声に、内心救われたとほっとし、同時に私の知らない知人がまた増えたのだと察し、不安に駆られた。