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「なに...何で...」
鏡に映っていたのは、ついぞ前、みっちゃんと一緒にいた時までのような、黒のロングでメガネ、周囲に地味な印象を与えるような「私」ではなく、染められた金髪はカールされ、日本人では有り得ないはずの碧色の眼、いかにも不良に見えるくらいキツイ印象のメイク。まつ毛はマスカラでバサバサというかベトベトだし、私が普段あまり使ったことのない、アイラインやチークまでバッチリ。
まぁ、多少崩れてしまってはいるもの、私としてはとても派手なそれは、どこか小慣れたもので...まぁ、極端に下手では無かった。
...少し混乱しすぎたか、考え事に余計なことが混ざってしまった。
とにかく、私が要するに何が言いたいか、ということなのだけど。
突拍子もない話、しかし私が現在進行形で体感しているのだが、「私」が「私ではない誰か」になってしまっている。中身は紛れもない「私」が、全く知らない「赤の他人」の容物を借りて存在してしまっているという状況。
状況から察するに(さっきの青年やこの容姿を見る限り)、その彼女というのは私とは正反対の性格の持ち主のようで。
「...っそんな、」
どうしろ、というのだろう。
この見ず知らずの世界で、欠片も知らない「彼女」として生きろとでも言うのか。
そんなことが私にできるのか。
___答えはもちろん、「否」だ。
私は「彼女」の詳細な性格やら、生い立ちその他の記憶がある訳じゃない。取り繕おうったって、取り繕えない。
第一、「彼女」について知り得た情報がこれだ。私が演じるにはあまりに無理がある。
あまりに唐突、他人に言えば荒唐無稽だと笑われそうな、そんなファンタジーな現実。
いいや、これは夢、きっと夢に違いないんだ。
きっと...目を覚ませば、彼女が側にいて待っていてくれているはずなんだから。
起きないと。
起きないと...!