陽だまり
『もしさ、私が男だったとしても、悠は私のこと好きになってくれた?』
愛しい恋人が唐突に聞いた、ある日の昼下がりの話。
「ねぇ。」
木陰に寝転がる僕の頭上から、大好きな声が聞こえる。
「ねぇってば。」
目を瞑り、気付かないふり。そうすれば次にきっと、彼女は僕の名前を呼ぶから。
「悠!」
「なぁに、凛。」
目を開けば、彼女の不満げな顔。
「気づいてんなら返事してよ。」
頬を膨らませて、文句を垂れる。
「ごめんごめん。」
そう言って膨らませた頬に手を添えれば、くすぐったそうに目を細める。
この時の顔が一番好きだ。
顔にかかる漆黒の前髪、その間からちらりと覗く碧眼。それが堪らなく好きなのだ。
「悠のばか。」
僕の手に頬を擦り付けながら言う。
「だから、ごめんって。」
頬に添えた手を首に回し引き寄せれば、彼女はいとも容易くこちらに倒れこむ。
見つめ合い、どちらからともなく唇を近づけ、口づけを交わす。
「…悠はさ、」
唇を離し、彼女が言う。
「私のこと、好き?」
「もちろん、好きだよ。」
微笑みかければ、嬉しそうに目を細める。穏やかな表情。
「じゃあさ、もし…、」
俯き、言葉を濁す。
「もしさ、私が男だったとしても、悠は私のこと愛してくれた?」
それは、本当に唐突な質問だった。
「…どうして?」
「今は女だから恋人同士になれるけどさ、もし男だったら、こうやって隣には居られないでしょう?」
二つの碧い目が、不安に揺れる。
「どうだろうね。」
ふ、と笑って返すと、少し傷ついた表情。
あぁ、本当に、この子は馬鹿で、どうしようもなく可愛いなぁ。
「凛は凛だよ。男だとしても、女だとしても、それは変わんないでしょ?」
「それは、そうだけど…」
「僕は凛が好きだよ。愛してる。」
そう言って抱き寄せれば、僕の首元に頭を埋め、唸るように言った。
「悠のばか。」
馬鹿なのはお互い様でしょ、そう言いかけてやめた。
その代わりに、背中に回した腕により一層力を込めて、木の葉の隙間から溢れる陽を見つめて呟いた。
「いい天気だねぇ。」
Fin.