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 こだまさんを見送り、帰宅した俺は疲れ切ってそのままベッドに倒れ込んだ。

「あぁ、疲れた……」

 行きはバスでK駅へ。そしてこだまさんに関東までの切符と念のための予備のお金を渡し……

 帰りはケチって、バスで片道四十分の地点から歩いて帰ってきました。ああ、こんなに歩いたの何年振りだろう。踵が痛い。

 これで詐欺だったら俺が馬鹿だったと諦めて教訓にしよう。その時はもう二度と女なんて信じない。

 そういえばサークルに顔出してみてはどうかとこだまさんに言われたばかりだっけ。別れてしばらくはそれもかなり前向きに検討しながら歩いていたのだが。むしろさっそく行こうかなくらいの気持ちだったのだが。

(たしか今日もなんかやるって言ってたな……えーとメーリスメーリス……あ。もう遅刻だわ。…………いいか、また今度で。今日はいっぱい外に出たし)

 呆気なく放り捨てられる携帯。まあ、ぼっち大学生の本領なんてこんなもんである。

 なんのやる気も起きず、取り敢えず惰性でニコニコしたくてPCを起動した。大型動画投稿サイトへアクセス中の画面がしばらく続き、ぐったりと横たわったままそれを眺める。

 そのとき、ピンポン、とメーラーの受信を知らせる音が鳴った。

 あーはいはい、と片手を伸ばしてマウスを操作する。受信BOXを開くと、一番上の送信元に母親の名前が現れた。

(珍しいな、パソコンの方にメールなんて。いつもは携帯にメールしてくるのに)

 少し違和感を覚えたが、特に気にすることもなく、母上からのメールをダブルクリック。

 その内容に、俺はますます首を傾げる。

 要約すると、どうやら朝方に俺の携帯から母親の携帯へ不審な電話がかかってきたらしい。

 それで俺が携帯を紛失し、良からぬ輩に拾われたのではないか、ちゃんと携帯は今手元にあるのか、といった確認のメールだった。

(……んん?)

 なんのこっちゃ? 失くしたもなにも、ついたった今サークルからのメーリングリストを確認したように、俺の携帯は確かに手元にある。他の誰の手にも渡っていないが……

(電話か。そういえば今朝こだまさんに貸したけど……)

 そう思い出し、一応発信履歴を確認してみる。すると確かに、母親の携帯電話に発信して、数分通話した記録が出てきた。しかも、今日の履歴はこれだけ。

(……? まあこだまさんがご家族の方と電話したなら、連絡先を残さないために履歴を消すくらいは考えられなくもない、けど……)

 なぜ一度うちの母親に電話を? 間違えて電話帳から呼び出してしまったのだろうか。俺は携帯の電話帳に母親を“ははおや”の読みで登録してるから、こだまさんも普段そうしてる人なら、いつものノリでつい間違えてかけてしまった、とかそういうことだろうか。

 まあ、取り合えず。

「携帯は、この通り、俺の手元に、あります、今朝の、電話は、諸事情で、人に、貸した時に、間違えて、かけてしまったものと、思われます、心配ご無用、卓、と。送信」

 携帯のメールでちゃんと携帯が俺の手元にあることを示しつつ、ついでに電話の件も釈明しておく。電話をかけてきたのが女性の声だったからまたなんか言ってきそうだが、その時はその時にまた適当に誤魔化すとしよう。事情を説明するには余りに突拍子もない。親からこだまさんが疑われて事を大きくされても面倒だし、場合によっては俺が不名誉な嫌疑を親から掛けられ兼ねない。

 ややこしいことは話さないが吉だ。

 謎は残るが、いずれにせよこの件の真相はこだまさんに話を尋ねてみないことには始まらないだろうし。

 外はまだまだ日が高い。こだまさんから連絡が返ってくるのは早くても日が暮れて以降だろう。

 考えてもしかたがないことは忘れて、俺は最近追い始めた動画シリーズの続きを見て暇な午後を過ごした。


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