表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タイトルで一行目の状況説明⇒朝起きたら知らない女が隣で寝てた。  作者: 甘とう 一休
第二章.翌日、あっさり筋肉痛になった。
11/12

 始発の新幹線に乗り込み、乗り継ぎ込みで九時間の長旅の末、ようやく俺は半年ぶりの地元に帰ってきた。生まれてから約二十年もの年月を過ごした町は少しも変ったところがなく、俺がこの町に帰ってきたというよりは、俺の元に普段通りの毎日が帰ってきたような気分になった。

 なんだか魂が安らぐようだ。これがノスタルジーってやつか。……なんか言葉の使い方間違えてる気がするな。まあいいか。

 二俣沢駅からの通い慣れた道を辿り、築十五年の実家に到着する。住宅地の風景の一角に溶け込む、なんの変哲もない二階建ての一軒家。それでも俺にとっては、一般的な幸福と幼少からの思い出の詰まった、特別な我が家である。

 ……なんて、こんならしくない心境になってしまうあたり、人生初の一人暮らしに俺も密かなホームシックを抱いていたのかね? 全然気付かなかったわ。

 玄関を開ける前に、ふと気になって隣の家へ目を向ける。幼馴染はもう戻ってきてるだろうか。夕方に会うぞとだけ言われているから、一応夕方と言える時間には間に合うようになるべく早く帰ってきたつもりだが、そういえばどう落ち合うか決めていない。お互いすぐ隣に帰ってくるのだからわざわざ待ち合わせなくとも帰ってきたタイミングで落ち合えばいいと思うのだが……

 僅かに逡巡。無遠慮に呼び鈴を鳴らして互いの家にお邪魔してたのももう十年以上前の話。今では俺もあいつも、子どもの頃のように振る舞うには半端に大人になってしまった。

(ま、まあ夕方って言うにはまだ早いしな。どっちの家で会うにしてもまだいいか)

 頭の中で誰にしているのか分からない言い訳をし、俺は実家の玄関の鍵を開けた。

「ただいまー」

 帰りの挨拶をするのも半年ぶりだ。ちょっと胸の内側に込み上がってくる感情があった。

 が、すぐに萎む。返事はなかった。それはそうだ。なんたって今日は九月のド平日、時間は昼過ぎ。妹は学校だし、共働きの両親も当然勤務中の時間である。この時期に暇してる奴なんて大学生かニートくらいのものだ。でもちょっぴり切なかった。

 そそくさと荷物を自分の部屋へ置き、リビングへと移動する。家族がいれば自然と集まる生活空間も、無人だと殊更静かだ。

 その真ん中、使い込まれたクロスのかかったテーブルの上に、ラップされた食器とメモの記されたA4の用紙が置かれていた。


-卓へ

 おかえりなさい。お腹が空いてたら

 好きに食べておいてください。

 それからオッキーからの伝言です。

 17時に駅の8集合だそうです。

 一応お母さんは19時には帰るので

 晩御飯がいるならメモを残してください。

 (といっても、いらないよね?)

 じゃあ、いってらっしゃい。

      母より


「お母さん……!」

 じーんと温かな家族愛に涙しそうになった。飢えていたというのか……たった半年で! ほんの半年前には当たり前のように享受していたものが、今ではこんなにも有り難いものに感じられる。皿の上のおにぎりたちが輝いて見えるのも、食費をケチって道中の昼食を我慢したからだけではないだろう。

 これからはもっと親、大切にしよう。

 俺はおにぎりを頬張りながらペンを持ってきてメモに、


-ありがとう。

 ご飯は今日は食べてくると思います。

 おにぎりごちそうさま。

 いってきます。  卓


 と、半年前の自分が見たら気持ち悪がるくらい丁寧に返事を書いた。

 しかし今の俺にとってはこれでもまだ図々しいくらいの気持ちだった。感激も然ることながら、それ以上になんというか、後ろめたさが半端じゃなくて。

 ――実は、ここまで帰ってくるための帰省代を、生活費とは別に振り込んである、授業料の口座から引き出してきたのでありまして。

 きっと帰省代と言って臨時に生活費を支給してくれると見込んでる自分がもうどうしようもなくダメなやつに思えた。……親にバレたら見せる顔がないな。

 その上生活費が底を尽きたので工面してくださいなどと言えるだろうか。いや言えない。

 すべてはこだまさんが約束通りお金を返してくれれば波音立てずに丸く収まるのである。


 信じてますよ? こだまさん。


 根拠はないけど。


 未だ連絡の来ない携帯を握り締め、窓の外の明るい空を見上げる。日は傾いた位置にあるが、まだまだ明るく青空から地上を照らしている。

 母親経由で伝えられたオッキーからの待ち合わせの時間まで、まだしばらくある。

 先に8(はちのじ)で時間を潰しててもいいのだが、それにしたって余りに早すぎるしな。二俣沢駅の駅ビルに入居する、石造りの数字の8のオブジェが目印の特徴的な店構えをしたファミレスは、しばしばこの辺りの人々の待ち合わせ場所に利用される。待ち時間に小腹を満たすも良し、落ち合った後適当に居座るも良しで居心地のいいファミレスなのだが、流石にいい歳した男が一人で数時間も居座れば浮いてしまうだろう。手持ち的にもコーヒー一杯が限度だし、二百円ぽっちで一人で数時間粘る勇気なんてございません。

 おにぎりを食べ尽くすとやることがなくなったので、俺は自室に戻り、実家に置いていた家庭用の据え置きゲーム機を久し振りに起動してみた。

 いや、ほら、もしかしたら昔二人でやり込んだゲームとかやるかもしれないし、勘でも取り戻しておこうかと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ