表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
急に地球が滅びないかな、と異世界で私は呟いた 〜気絶のフリで乗り切るはずが、私を召喚した令嬢に転生を待たれていた件〜  作者: めるしー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/101

縁を結ぶ

 ふと、見ると。


 いつのまにか。ピピが——元の、大きな姿に。戻って、いた。


 すらりと、伸びた背。流れる水のような、透き通った——長い髪。深い、湖の色を、たたえた、瞳。


「あれ……? ピピ?」


『ううーん。やっぱり——このサイズの方が。楽だ〜』


 ぴょん、ぴょん、と。嬉しそうに——跳ね回る。その仕草は、大きくなっても。やっぱり——あどけない、ピピ、だった。


-----


(……ピピ)


 この子は。私を、召喚するために。その力の大半を——使い果たして。あんなに小さく、なってしまっていた。


 それが、今——こうして。本来の、姿に。戻れた。


「……ふふっ。ピピ。……ありがとう」


 胸が、いっぱいに、なって。ぽろり、と。涙が——こぼれた。


-----


「……あら? なんですの、これ」


 お姉様が。私の頬を、伝う——しずくを、見て。きょとん、と、する。


「この、水の粒みたいなもの……。あなた、泣いたんですの?」


「あ……。えへへ。すみません、つい」


-----


「もう。しっかり、なさい」


 お姉様が。あきれたように——けれど、やさしく。私の、頬を、ぬぐう。


「あなたが帰ったら。エマだって。きっと——半べそかきながら。あなたの帰りを、待って、いてよ」


『半べそ〜』


 ピピが。お姉様の、真似を、して。ぴょこぴょこ——跳ねる。


「ふふ。……うん。そう、ですね」


-----


 帰る。


 その、言葉に。


 私は——一瞬。考え込んで、しまった。


(……帰る、場所)


 ここに来て、できた——大切な、人たち。エマ。お姉様。ユリウス。ピピに、フェン。そして——元の世界に、置いてきた。家族。妹。劇団の、みんな。


 私の、帰る場所は——どこ、なんだろう。


-----


『——緑』


 ふいに。荘厳な、声が。響いた。光の、精霊王。


『すまぬ』


「……え?」


『この召喚の儀式は。それ自体が——大きく、理を、捻じ曲げて、行ったもの。元の世界へ、戻す儀式を——すれば。その、ずれは。さらに、大きくなる』


-----


『戻った、としても。そこは——お前のいた世界と。似て、非なる場所か。あるいは——』


 精霊王の、声が。わずかに——沈む。


『その、魂自体が。理の、ひずみに、耐えきれず——保たぬ、かもしれぬ』


(……ああ)


 やっぱり、そうなんだ。うすうす——わかって、いた。


-----


「……いいんです」


 私は。静かに——首を、横に振った。


「もう……覚悟してましたから」


 元の世界には、もう——帰れない。それは。この世界に「残る」と、決めた、あの瞬間から。きっと、心の——どこかで。受け入れて、いたこと。


-----


『……ただ』


 精霊王が。静かに——続ける。


『魂を、送り返すことは——できぬ。だが。記憶に、触れたり。ものを、送ることは——できる』


「……記憶」


 その言葉が。なぜか——心に、引っかかった。


-----


「……そういえば」


 ふと。ずっと、聞きたかったことが。口を、ついて、出た。


「どうして——私、だったんですか?」


(……ずっと、不思議だった)


「私なんて……ただの。少し、演劇を、齧った——女子高生で。特別な力なんて、何も……。なのに、どうして。こんな、遠い世界に。私が、選ばれたんだろう、って」


-----


 その、問いに。


 精霊王と——シルヴィアが。そっと、目を——合わせた。


(……え?)


 なんだろう。今の——二人の、間に、流れた。意味あり、げな、空気。


-----


『……みどり』


 シルヴィアが。ゆっくりと——口を、開いた。


『あなた、前の世界で。お芝居を、する予定が——あったでしょう?』


「……ん? 劇団の、こと?」


 来月の、公演。私が、出るはずだった——小さな、舞台。


『ええ。……その、演目。戦争の——母と、娘の。物語だった、はずよ』


(……え。なんで、知って)


-----


『あれは——実は』


 シルヴィアが。少し——はにかむように。けれど、まっすぐに。


『わたしが——書いた、台本、なの』


「————っ、え!?」


 頭が。真っ白に——なった。


-----


「ちょ、ちょっと、待って! あの台本を、シルヴィアが!? で、でも、どうやって——」


『落ち着いて、緑』


 シルヴィアが。くすり、と——笑う。


『順番に、話すわ。……あなたを。緑の世界の人を、召喚するには。まず——「縁」を、結ばなければ、ならなかったの』


-----


『何の、つながりも、ない人を。いきなり——呼ぶことは。できない。だから——まず。細い、細い——糸を。結ぶ、必要が、あった』


「……縁」


『ええ。そして——もう一つ。大事な、制約が、あったの』


-----


 シルヴィアの、声が。少し——真剣な、ものに、変わる。


『召喚された人に——「選択」を。強制しては、いけない。呼ばれた人が。自らの意志で——「この世界に、残る」と。そう、決意しないと。この、儀式は——成立しないの』


(……自らの、意志で)


-----


『だから——わたしは。物を、送ることなら、できたから』


 シルヴィアの、瞳が。どこか——懐かしむように、細められる。


『お母さんと、わたしの——物語に。寄せて。一つの、台本を——書いて。あなたの世界へ、送ったの』


(……お母さんと、シルヴィアの、物語)


 戦争の、母と娘。昼は空襲に怯えて、夜だけ寄り添える——あの。私が、闇の精霊王の前で演じた——あの物語。


(……あれは。シルヴィアと、リリアさんの——)


-----


『その台本を。あなたの、劇団の人が——たまたま。演目として、選んで、くれた』


 シルヴィアが。やさしく——微笑む。


『そうして。台本を、読んでくれた人たちと。わたしの間に——細い、細い、縁が。結ばれたの』


「……じゃあ。劇団の、みんなも」


『ええ。その縁を、通して。わたしは——あなたたちの、様子を。少しだけ、見ることが——できたの』


-----


『そして——その中で』


 シルヴィアの、声が。あたたかく——震えた。


『わたしは。あなたを——見つけた。みどり、あなたが、いいって。あなた、しか——いないって。そう、思ったの』


『……あとは。以前、話した、通りよ』


(……そう、だったんだ)


 舞台の上で。役を、演じる——私を。シルヴィアは、鏡越しに、見ていた。あの、最後の——記憶の、映像。あれは。この、縁が、あったから——だったんだ。


-----


「……でも」


 ふと。一つ。疑問が、浮かんだ。


「なんで、強制しちゃ——いけないの? その方が……手っ取り早いし。呼んだ人を、無理やり、引き止めた方が。楽、なんじゃ……」


 すると。シルヴィアは。静かに——首を、横に振った。


-----


『……誰かを、犠牲にして。精霊は——生まれないの』


「……え?」


『無理やり、奪った命や。歪めた、心からは。決して——清らかな、力は、宿らない。だから——記憶を、操作して。選択を、強制するなんて。そんなこと——もっての、ほか、なのよ』


-----


(……ああ)


 すとん、と。何かが——胸に、落ちた。


 だから、シルヴィアは。あんなに——回りくどい方法を、取ったんだ。台本を送って、縁を結んで。私が、自分の意志で「残る」と——決めるのを。ただ、待っていた。


 強制も、しないで。命令も、しないで。ただ——願いだけを、託して。


-----


(……そっか)


 私は。しばらく——考え込んだ。


 元の世界には、もう——帰れない。台本が、縁を結んでくれた。私は、自分で——この世界に、残ると、決めた。


 その、すべてを——飲み込んで。


 そして——ある、考えが。私の中で。静かに——形を、結び始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ