表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
急に地球が滅びないかな、と異世界で私は呟いた 〜気絶のフリで乗り切るはずが、私を召喚した令嬢に転生を待たれていた件〜  作者: めるしー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/101

招待状の、選択

 翌朝。


 私の、机の上には。何通かの、お茶会の、招待状が、並んでいた。


 お茶会、復帰戦——もとい、イザベラのお茶会を、無事に切り抜けてから。なぜか、ぽつぽつと、招待状が、届くように、なっていた。


(……あの王女のお茶会で、わたし、変に、目立っちゃったのかな)


 倒れて、記憶を失くした令嬢。それが、王女のお茶会に招かれ、堂々と渡り合った。そんな噂でも流れたのかもしれない。物見高い令嬢たちの、好奇心をくすぐったんだろう。


 普段なら——正直、気が重い。社交の場は、神経を使う。できれば、避けたい。


 でも。


(……これは、チャンス、かもしれない)


 ふと、思った。


 お茶会は——情報の宝庫だ。令嬢たちは、噂話が大好き。そして、私が知りたいのは——シルヴィアと、イザベラの過去。母の、死。その真相。


 もし。イザベラと、関わりの深い人の、お茶会に出れば。何か——手がかりが、掴めるかもしれない。


(……よし。決めた)


 受け身で、待っているだけじゃ、何も、進まない。なら——こちらから、取りに、行く。


 幸い、私には。気配を読む、ピピも。遠くの音を聞く、フェンも、いる。お茶会という、情報の海に、潜るには——これ以上ない、装備だ。


-----


「エマ。ちょっと、相談が、あるんだけど」


 私は、招待状を、手に、エマを、呼んだ。


「この、お茶会の、招待状。差出人のこと、教えてもらえる? わたし……記憶が、ないから。どなたが、どういう方なのか、わからなくて」


「まあ、お嬢様。社交に、前向きになられて……! ええ、ええ、もちろんです」


 エマは、嬉しそうに、目を、輝かせた。倒れて以来、塞ぎがちだった主人が、自分から、社交に出ようとしている。それが、嬉しいらしい。


(……ごめんね、エマ。ちょっと、下心が、あるんだけど)


 内心で、謝りつつ。私は、エマの説明に、耳を、傾けた。


「こちらは、メルツ伯爵家の、お嬢様ですね。おっとりした、優しい方ですが……失礼ながら、少し、噂好きで」


(……噂好き)


「こちらは、ヴァイス侯爵家の、奥様。社交界でも、顔が広くて。あちこちの、お話に、お詳しいですよ」


(……顔が、広い)


 なるほど。エマは、見かけによらず——いや、侍女だからこそ。社交界の人間関係に、詳しい。誰が、誰と親しくて。どんな人柄で。すらすらと教えてくれる。


(……これは、頼りになる)


 私は、何気ない、ふりを、装って。さりげなく、核心を、探った。


「ねえ、エマ。……この中に。イザベラ王女殿下と、親しい方は、いる?」


「王女殿下と、ですか?」


 エマは、少し、考えて。それから、一通の、招待状を、指した。


「……でしたら、こちらの。ローテンベルク侯爵家の、お嬢様でしょうか。確か——王女殿下とは、古くからのお付き合いが、あるとか。幼い頃から、よく一緒にいらしたと、聞きます」


(……幼い頃から、一緒)


 心臓が、とくん、と、鳴った。


 幼い頃から、イザベラと、親しい。それなら——もしかしたら。シルヴィアと、イザベラが、まだ、仲が良かった頃のことも。知っているかも、しれない。


(……ここだ)


「……このお茶会に、出てみようかな。ローテンベルク家の」


「まあ。よろしいかと、思いますよ。落ち着いた、いい方ですし。きっと、楽しい、お茶会に……」


(……楽しい、かは。わからないけど)


 目的は、別に、ある。でも——エマには、言えない。私は、ただ、にっこりと、微笑んで、頷いた。


-----


 その、ときだった。


「——なに、騒いでいるの」


 部屋の、入り口から。つん、と、した声が、響いた。


 フレデリカ、だった。蜂蜜色の髪を、揺らして。腕を、組んで。いつもの、不機嫌そうな顔で、立っている。


「フレデリカ、お姉様」


「お茶会の、招待状? ……ふん。あなた、社交になんて、出られる、身体だったかしら」


 相変わらず、棘のある、言い方だ。でも——もう、慣れた。それに。


(……この人の、嫌味は。なんというか、不器用なんだよね)


 私は、内心で、苦笑した。


 以前、知ったことだ。フレデリカの、嫌味の、裏側を。


「ええ。おかげさまで、もう、すっかり。ローテンベルク家の、お茶会に、出てみようかと」


「……ローテンベルク?」


 フレデリカの、眉が。ぴくり、と、動いた。


「……あなたね。あそこは、王女殿下と近い、お家よ。……変な詮索をされたり。妙な噂を立てられたり。そういうこと、あるかもしれないわ。……気を、つけることね」


(……あれ?)


 私は、内心で、首を、かしげた。


 今のは——どう、聞いても。私を、心配している。「気をつけろ」と。わざわざ、忠告して、くれている。


(……またか)


 嫌味のふりを、して。その実、私の身を、案じている。フレデリカの、いつもの、やつだ。


「……ご心配、ありがとうございます。お姉様」


「っ、べ、別に! 心配なんて、してないわよ!」


 フレデリカは、ぱっと、顔を、赤くして。ぷいっと、そっぽを、向いた。


「ただ……家の体面に関わるから、言っただけ。あなたが、変なしくじりをしたら。わたしまで、恥をかくでしょう。それだけ、よ!」


(……はいはい)


 そう言い捨てて、フレデリカは、足音荒く、去っていった。


 その、後ろ姿を、見送って。私は、小さく、笑った。


(……素直じゃ、ないなあ)


 なんだかんだ言って。この継姉は——いつも、私のことを気にかけてくれている。家の体面、というのは、たぶん半分は本当で。でも、半分は——照れ隠し、なんだろう。


(……ま、そういうことに、しておこう)


 追及する気は、ない。フレデリカが、そういう、不器用な人だってことは。もう、わかっているから。


-----


 その夜。


 私は、ローテンベルク家への、出席の、返事を、したためた。


 目的は——情報収集。シルヴィアと、イザベラの、過去。その、手がかりを、探るため。


(……ピピ、フェン。次のお茶会も、よろしくね)


『はーい! また、かくれんぼ、するの?』


『……ふん。今度は、どんな、面倒事かな』


 二匹の、相棒も、いる。


 受け身で、待っているだけの、日々は、終わりだ。これからは——自分から、動いて。少しずつ、真相に、近づいていく。


(……待っててね、シルヴィア)


 窓の外。二つの月が、静かに、夜空に、浮かんでいた。


 その光に、誓うように。私は——次の一歩へと、心を、定めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ