招待状の、選択
翌朝。
私の、机の上には。何通かの、お茶会の、招待状が、並んでいた。
お茶会、復帰戦——もとい、イザベラのお茶会を、無事に切り抜けてから。なぜか、ぽつぽつと、招待状が、届くように、なっていた。
(……あの王女のお茶会で、わたし、変に、目立っちゃったのかな)
倒れて、記憶を失くした令嬢。それが、王女のお茶会に招かれ、堂々と渡り合った。そんな噂でも流れたのかもしれない。物見高い令嬢たちの、好奇心をくすぐったんだろう。
普段なら——正直、気が重い。社交の場は、神経を使う。できれば、避けたい。
でも。
(……これは、チャンス、かもしれない)
ふと、思った。
お茶会は——情報の宝庫だ。令嬢たちは、噂話が大好き。そして、私が知りたいのは——シルヴィアと、イザベラの過去。母の、死。その真相。
もし。イザベラと、関わりの深い人の、お茶会に出れば。何か——手がかりが、掴めるかもしれない。
(……よし。決めた)
受け身で、待っているだけじゃ、何も、進まない。なら——こちらから、取りに、行く。
幸い、私には。気配を読む、ピピも。遠くの音を聞く、フェンも、いる。お茶会という、情報の海に、潜るには——これ以上ない、装備だ。
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「エマ。ちょっと、相談が、あるんだけど」
私は、招待状を、手に、エマを、呼んだ。
「この、お茶会の、招待状。差出人のこと、教えてもらえる? わたし……記憶が、ないから。どなたが、どういう方なのか、わからなくて」
「まあ、お嬢様。社交に、前向きになられて……! ええ、ええ、もちろんです」
エマは、嬉しそうに、目を、輝かせた。倒れて以来、塞ぎがちだった主人が、自分から、社交に出ようとしている。それが、嬉しいらしい。
(……ごめんね、エマ。ちょっと、下心が、あるんだけど)
内心で、謝りつつ。私は、エマの説明に、耳を、傾けた。
「こちらは、メルツ伯爵家の、お嬢様ですね。おっとりした、優しい方ですが……失礼ながら、少し、噂好きで」
(……噂好き)
「こちらは、ヴァイス侯爵家の、奥様。社交界でも、顔が広くて。あちこちの、お話に、お詳しいですよ」
(……顔が、広い)
なるほど。エマは、見かけによらず——いや、侍女だからこそ。社交界の人間関係に、詳しい。誰が、誰と親しくて。どんな人柄で。すらすらと教えてくれる。
(……これは、頼りになる)
私は、何気ない、ふりを、装って。さりげなく、核心を、探った。
「ねえ、エマ。……この中に。イザベラ王女殿下と、親しい方は、いる?」
「王女殿下と、ですか?」
エマは、少し、考えて。それから、一通の、招待状を、指した。
「……でしたら、こちらの。ローテンベルク侯爵家の、お嬢様でしょうか。確か——王女殿下とは、古くからのお付き合いが、あるとか。幼い頃から、よく一緒にいらしたと、聞きます」
(……幼い頃から、一緒)
心臓が、とくん、と、鳴った。
幼い頃から、イザベラと、親しい。それなら——もしかしたら。シルヴィアと、イザベラが、まだ、仲が良かった頃のことも。知っているかも、しれない。
(……ここだ)
「……このお茶会に、出てみようかな。ローテンベルク家の」
「まあ。よろしいかと、思いますよ。落ち着いた、いい方ですし。きっと、楽しい、お茶会に……」
(……楽しい、かは。わからないけど)
目的は、別に、ある。でも——エマには、言えない。私は、ただ、にっこりと、微笑んで、頷いた。
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その、ときだった。
「——なに、騒いでいるの」
部屋の、入り口から。つん、と、した声が、響いた。
フレデリカ、だった。蜂蜜色の髪を、揺らして。腕を、組んで。いつもの、不機嫌そうな顔で、立っている。
「フレデリカ、お姉様」
「お茶会の、招待状? ……ふん。あなた、社交になんて、出られる、身体だったかしら」
相変わらず、棘のある、言い方だ。でも——もう、慣れた。それに。
(……この人の、嫌味は。なんというか、不器用なんだよね)
私は、内心で、苦笑した。
以前、知ったことだ。フレデリカの、嫌味の、裏側を。
「ええ。おかげさまで、もう、すっかり。ローテンベルク家の、お茶会に、出てみようかと」
「……ローテンベルク?」
フレデリカの、眉が。ぴくり、と、動いた。
「……あなたね。あそこは、王女殿下と近い、お家よ。……変な詮索をされたり。妙な噂を立てられたり。そういうこと、あるかもしれないわ。……気を、つけることね」
(……あれ?)
私は、内心で、首を、かしげた。
今のは——どう、聞いても。私を、心配している。「気をつけろ」と。わざわざ、忠告して、くれている。
(……またか)
嫌味のふりを、して。その実、私の身を、案じている。フレデリカの、いつもの、やつだ。
「……ご心配、ありがとうございます。お姉様」
「っ、べ、別に! 心配なんて、してないわよ!」
フレデリカは、ぱっと、顔を、赤くして。ぷいっと、そっぽを、向いた。
「ただ……家の体面に関わるから、言っただけ。あなたが、変なしくじりをしたら。わたしまで、恥をかくでしょう。それだけ、よ!」
(……はいはい)
そう言い捨てて、フレデリカは、足音荒く、去っていった。
その、後ろ姿を、見送って。私は、小さく、笑った。
(……素直じゃ、ないなあ)
なんだかんだ言って。この継姉は——いつも、私のことを気にかけてくれている。家の体面、というのは、たぶん半分は本当で。でも、半分は——照れ隠し、なんだろう。
(……ま、そういうことに、しておこう)
追及する気は、ない。フレデリカが、そういう、不器用な人だってことは。もう、わかっているから。
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その夜。
私は、ローテンベルク家への、出席の、返事を、したためた。
目的は——情報収集。シルヴィアと、イザベラの、過去。その、手がかりを、探るため。
(……ピピ、フェン。次のお茶会も、よろしくね)
『はーい! また、かくれんぼ、するの?』
『……ふん。今度は、どんな、面倒事かな』
二匹の、相棒も、いる。
受け身で、待っているだけの、日々は、終わりだ。これからは——自分から、動いて。少しずつ、真相に、近づいていく。
(……待っててね、シルヴィア)
窓の外。二つの月が、静かに、夜空に、浮かんでいた。
その光に、誓うように。私は——次の一歩へと、心を、定めた。




