表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男尊女卑の世界で最強の男は、虐げられる女性たちに寄り添いたい  作者: 夜白 -Yohaku-


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/8

初めての朝

アルトリア王国の王都から2つの領地を挟んだ先にある辺境の地ロベルタ。

そこは比較的人口が少ないながらも、土地代の安さと広さを利用し農作に力を入れており数々の特産品を持つ。

そのため多くの商人が出入りする、場所の割には豊かな街として有名だ。

そんなロベルタには、2つのシンボルとなる建物があった。

1つは街の要である『ギルド』。

街全体の建物やお金、住民の生活環境などを管理する重要な場所である。

基本的にロベルタのみに限らず、街で暮らす住民たちは『何か困ったことがあったらまずギルドへ』という考え方を持っているため、ギルド職員たちは毎日てんてこ舞いで働いている。

そしてもう1つのシンボルとなるのが、『黒銀の騎士団の拠点』だ。

今や黒銀の騎士団が保有する騎士の数は数百人にも上る。

そんな騎士団員が遠征に出ている時以外は全員ここで寝泊まりしているため、その建物もかなり大きく荘厳なオーラを放っている。

しかしよく見ると壁にヒビが入っていたり色がくすんでいたりと所々に年季を感じ騎士たちの苦労が窺えた。

そんな騎士団拠点は、遠目で見るだけではまさに要塞といった重々しさがあり、好奇心で近くまでは来ても、一般人が中を覗くにはかなりの勇気が必要な場所だろう。

しかし意外にも、ロベルタの生活風景を見ていると、騎士団と街の人々との距離はかなり近いものであることが窺える。

遊びたい盛りの小さな子供から、腰が曲がり歩くのも一苦労のお年寄りまで。

苦しい環境に負けず自分たちを守ってくれる黒騎士たちへ日頃の感謝を伝えたい。

そんな想いを持った街の人々が、余った食糧や日用品を持って気兼ねなく拠点を訪れるのは、ロベルタでは日常茶飯事のようだ。

そんな黒銀の騎士団の拠点内にある宿舎は、役職によって使う階が分かれている。

1階を使うのは騎士団の身の回りの世話をしてくれている『非戦闘班』と入団して間もない下っ端たち。

そしてその下っ端たちの中から1〜10番隊まである隊のどれかに配属された者は、晴れて2階に立ち並ぶ10人部屋を仲間と使うことになるのだ。

では、残りの3階はどんな役職の者が使っているかと言うと、もちろん騎士団で重要な役割を果たしている『幹部』たちである。

黒銀の騎士団を樹で表すと『枝』に値する彼女たちは、一騎当千の能力を持った猛者ばかり。

彼女たちがいるからこそ黒銀の騎士団は、民営ながらも国営の金色の騎士団と肩を並べるほどの力を持っているのだ。

そんな幹部たちが寝泊まりしている宿舎3階のある部屋にて、1組の男女がベッドの上で体を寄せ合っていた。


「…………」

「……すぅ……すぅ……」

「…………」

「……ん」

「……!!」

「……………………すぅ……すぅ……」

「……」


隊長たちに与えられているのは2人部屋。

それは日々、自分の隊についての情報を共有する隊長と副隊長が一緒に使用できるようにとの配慮のためだ。

しかし、脳筋が多い騎士団で他の団員が嫌がりがちな書類仕事も丁寧にこなすレイラは、団長から特別目を掛けられており、機密文書なども取り扱うことが多々ある。

本来ならそういう書類は団長の執務室から出してはいけないのだが、2人部屋を1人で使うことを許されていたレイラは、自室にも書類を持っていって良いということになっていた。




——今までは。




昨日……ギルドでのモネの不用意な発言により、男性であるジンと同じ部屋で生活することになってしまったせいで、レイラにとってその日常は過去のことになった。

そんなレイラは、いつもなら朝6時に起床し一通り身なりを整えると、朝食を摂る前の頭の冴えている状態で、溜まっている事務仕事を片付けるのが日課だった。

が、その日はいつも通り6時に目覚めたものの、40分経った今もベッドの上で寝ていることを余儀なくされていた。


(ああ……いつまでこうしていれば良いのかしら)


寝間着から着替えることも出来ないレイラは現在、ダブルベッドの上で気をつけをするように仰向けになっている。

寝相が良い彼女はいつも仰向けの状態で眠りにつく。

おそらく寝ている間に寝返りは打っているのだろうが、朝起きると寝た時の姿勢で目を覚ます。

なので、そこは問題ない。

問題なのは、いつそうなったのかは分からないが、レイラの体をホールドするように抱きしめている新しい同居人の存在だ。

決してジンの寝相は悪くなかったのだが、抱きつき癖があるのか、朝目が覚めた時にはすでに彼の両手両足でレイラの体は拘束されていた。

もちろん男性であるジンを無理やり起こすなんてことはレイラには出来ず、為すがままになっている内に40分が経過中。


(……誰か助けに来てくれないかしら。というか、お手洗い……)


可能性はほぼないと分かっていても助けを求めてしまうレイラは、このまま待っているだけでは己の膀胱が持たないと、目を閉じ打開策を考える。

目を閉じたことで研ぎ澄まされた聴覚が、ジンの呼気を先程より鮮明に拾う。

男が側にいるという事実をより強く感じ緊張が高まるが、脳内シミュレーションに集中することでそれを掻き消した。

ジンを起こさず彼を引き剥がすシミュレーションを……。

そんなアホみたいなことを真剣に考えていると突然、レイラの隣にある巨体がもぞもぞ動いた。

目は閉じたまま、緩慢な動作でレイラの頭に手を伸ばしたジンは、手慣れた動きでそのまま彼女の顔を抱き寄せる。

その行動に意味はなく、おそらくただ寝ぼけているだけ。

しかし、意識を他へ向けることができないほど間近に聞こえるジンの寝息に、香水などとは違う清潔感のある石鹸の香り。

そして何より、先程までは意識していなかったジンのたくましい筋肉質な体。

それらがレイラに緊張とは違う別の感情を抱かせる。


(……何を考えているの私。早くここから逃げる方法を……)


普段なら異性に抱くことのない感情が湧き上がり自分に呆れるレイラ。

『無駄にできる時間など無いはずよ』とすぐに思考を切り替えようと思った……その時。


「…………セイ、もっとこっちに……」

「……ぁっ!」


唇が耳に触れるか触れないかというところからジンの低音ボイスが響いた。

不意を突かれたレイラの口から甘い声が漏れる。

その時ジンの腕の中でレイラの華奢な体が跳ねたせいか。

小さく唸り声を上げたジンの瞼がゆっくりと開かれた。


「…………?」

「あ……じ、ジン様!申し訳ございません。あのっ……」


ジンを起こしてしまったことに焦るレイラは、普段の冷静さなど欠片もなく盛大に慌てている。

そしてその顔は、柄にもない声を上げてしまった羞恥により少々赤い。

ジンはそんなレイラの様子には気づいていないようで、眠そうにのんびりと目を擦っている。

しかしすぐに、現実を認識できるくらいまで目が覚めたらしい。

目の前にレイラがいると気付いたジンは、前髪を下ろしているからか普段より幼く見える顔に笑顔を浮かべた。


「おはようございます、レイラさん。よく眠れましたか?」

「は、はい。ジン様も疲れは取れましたでしょうか?」

「はい。全回復です。……ふわぁ」


まだ眠そうにあくびをするジンの顔を、頭1つ分もない至近距離で見つめるレイラ。

男女の扱いに差はあれど、美醜の価値観に珍しいものはない。

男らしく整った顔つきのジンは、イケメンというに十分な容姿を持っている。

だが今までであれば、レイラにとっては男の容姿など良かろうが悪かろうが関係なかった。

見た目がどうでも中身は等しく腐っていたからだ。

生まれて26年。

仕事で男性と関わることはあれど、レイラが肉体的な関係を持った男はいない。

何度か誘われたことはあるが、性的なことに関しては法律が守ってくれるため全て丁重に断ってきた。

憎しみすら抱いている男という生き物に、自分の体を触らせるなんて(おぞ)ましくて考えられなかったのだ。

だからこそレイラは、ジンに対して今、自分が負の感情を抱いていないことが不思議で仕方なかった。

お互いの息がかかるような至近距離にいても、不快感を感じるどころか、不意を突かれて恥ずかしい声まで上げる始末。

むしろ自分に呆れてしまう。

しかしそれも仕方ない。

今レイラの目の前にいる男は、今までの価値観では計り知れない人間なのだから。


(この人がAランクの魔獣を倒したなんて……何か信じられないわね)


ぼーっと近くにあるジンの顔を見つめ続けるレイラは、昨日のことを思い出していた。

死を覚悟した時の絶望とジンが魔石を渡してきた時の驚き。

そして……冷静になってから感じた、安堵を。


(初めてだったわ……男に対して『この人がいて良かった』と思ったのは……)


初めて抱いた感情を感慨深く思い返していたレイラは、いつからだろうか、ジンが自分を見つめていたことに気付く。

パチっと目が合ったジンは、『やっと気付いた』とでも言いたげに優しく笑い、レイラの髪をそっと撫でた。


「レイラさん、まだ眠そうですね」

「え?い、いえ……そんなことは……」

「目が、ぽーっとしてましたよ」

「っ……」


ジンのことを考えながら、自分がどんな顔をしていたのか想像できてしまったレイラは、赤くなっているであろう頬を隠しながら、そそくさとジンの腕の中から逃げ出した。

そして、すぐに気持ちを落ち着けると、今までのことをなかったことにするかのように美しい営業スマイルを浮かべる。


「ジン様がきちんと休めたということで安心いたしました。私はこれから仕事に参りますので、ジン様はごゆるりと」

「あ、はい。いってらっしゃい」

「失礼いたします」


手早く着替えを手に取ったレイラは、綺麗にお辞儀をし部屋を出た。

最後の最後、カチャッとドアが閉まるまで気を抜かず笑顔を浮かべていた彼女は、扉が閉まった瞬間すぐに深く溜め息を吐いた。


(何やってるの私。まだ朝起きたばかりなのに……すごい疲労感)


共同生活1日目の朝を終えて、この先の生活への不安が抑えられない。

団長に頼んでジン専用の部屋を用意してもらおうか。

いや急に2人部屋を解消することにジンが不快感を感じない保証はないと、堂々巡りの考えを繰り返すレイラ。

すると突然、一切人の気配を感じなかった廊下にカツッという足音が響いた。


「随分疲れた様子じゃない。お強い男性様との初夜はどうだったの?」


鼻にかかる妖艶な甘い声。

レイラをじっくり(なぶ)るようなゆったりとした口調。

視線を向けずとも、声の相手がどんな表情をしているかまで分かったレイラは、小さく溜め息を吐いた。


「変な言い方しないで……。特に何もなかったわ」

「ふぅん……。あの規則正しい生活をしているレイラ様が、いつもより遅い時間にパジャマ姿で起きてきたから、喘がされ疲れたのかと思ったわ」

「……イザベラ。ジン様はとても紳士な方よ。不敬な発言は慎みなさい」

「あら、そうなの?ふふっ……」


レイラの鋭い隻眼に睨まれても、動揺するどころか余裕な笑みまで浮かべた女性……イザベラは、騎士団唯一の医療班である4番隊の隊長を務めている女性だ。

肩口で綺麗に切り揃えられた薄紫色の髪。

本来なら女性らしさより男っぽさを感じさせるショートボブという髪型だが、それを一掃するほどの妖艶さが、彼女の悩ましげな瞳と肉感的な体から漂ってくる。

そんなイザベラは既に勤務中のようで、非戦闘時の騎士団制服である黒いシャツに黒いズボンをきちんと身にまとっていた。

一部その胸元は大きく開けられていて、豊かな双丘が織り成す曲線が顔を覗かせていたが……。


その胸元の前で腕を組んでいたイザベラは、挑発的な視線をレイラに向けながらゆっくりと右手を差し出す。

その手には銀色の鍵が乗っていた。


「普段は可愛げのないあなたのその姿、もう少し見ていてもいいんだけど……生憎仕事があるの。早く着替えてらっしゃい」

「……。……どうも」

「鍵は夜返して。それかパルダに渡しておいて」


自室の鍵をレイラに渡したイザベラは、用は済んだというようにスタスタと階段を降りて行った。

騎士団では階級が全てで年功序列という概念はない。

が、4歳年下のイザベラに面倒を見られたレイラは、自分の不甲斐なさに溜め息を吐く。

が、すぐにブルッと体を震わせると、それなりに切羽詰まった尿意を思い出したようだ。

一旦全ての考えるべきことを後回しにし、トイレに小走りで向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ