サンタ・クロース、警察一家に挑む
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※プロットを共有し、誤字脱字の確認や執筆の補助、構成の相談でGemini(AI)と協力しています
──まったく、どうして毎年毎年、この家だけ難易度が跳ね上がるのかのう。
赤い服を翻しながら、わしは深夜の住宅街の屋根をひょいっと飛び越える。
名をサンタ・クロース。
屋根の雪が月明かりに光る。
静かな住宅街に、自分の影だけがそっと動く。
足元の雪がきしむ感触も、街灯のオレンジ色が赤い服を柔らかく照らす光も、今夜限りの舞台装置だ。
職業は夢の配達人……なのだが、この家に限っては”ただの、超高性能防犯システムに挑む泥棒”になっている気がする。
だが、プロのサンタである以上、警備が強固になるほど血が騒ぐのもまた事実。
わしの装備は常にアップデートしておる。
最新の警備システムを欺くための『ステルス・ブーツ』と『サイレント・クロス』で誂えた赤い戦闘服、そしてどんなロックも無力化する『鍵開けの魔法』が、わしの誇りじゃ。
魔法の袋を肩に掛け、サンタ御用達の”魔法”で家の鍵を静かに開けた瞬間。
室内にビシリと張り巡らされたセンサーが目に入った。
(また増えとる……!?父ちゃん、今年はレーザー式にしたんかいっ!)
この家は一家四人暮らし。
父親は刑事。母親は警備課。
長男は去年から警察学校に入学し、格闘術を駆使してくるようになった。
三人がかりで『絶対に侵入者を許さない家』を作り上げるのは、もはや年中行事らしい。
いや待て、わしは侵入者ではない。ないのだが……!
否、侵入者なのかもしれぬ……クスン。
最初の関門はリビング。
父親のレーザー式センサーを、サンタ特製の微妙な魔法を駆使してギリギリ回避していく。
赤く光るビームが床を横切るたび、心臓が一瞬止まるような気がした。
去年はここで足を引っかけて、長男に追いかけられたのを思い出す。
大きく深呼吸して、慎重に潜り抜けた。
次に、静かに音を立てぬようワイヤートラップをまたぐと、母親の仕掛けた暗号錠が視界に入る。
「うーん……去年と配置が変わったな。母ちゃん、進化しすぎじゃ…」
暗号錠は紙と鉛筆で組み合わせを考えられるような数字遊び……ではなく、完全に電子制御。
けれど予想して準備してきたサンタは、用意した魔法により小指で軽く触れるだけで解除してしまう。
魔法の手軽さに自分でも思わず苦笑した。
廊下に足音が微かに響く。
どうやら、長男が夜の警備訓練中らしい。
兄ちゃんは去年より数段成長しているだろう。
去年の、鉢合わせからの大乱闘を思い出してゲンナリした。
三日間も筋肉痛に苦しんだのだ。
一年間ミッチリ鍛えてきたとは言え、今年は絶対に会いたくない。
どうにも、警察学校で学んだ知識をフル動員して、わしを捕まえるのが生きがいになっている節がある。困ったもんじゃ。血は争えん。
懐中電灯を持ち、光をチラつかせながら通路を確認しているようだ。
若き警察官の夜間訓練か。うーむ、やはり侮れん。
サンタは壁に張り付く。
息を止め、心臓の音まで抑えたつもりだが……。
「……ん?」
何かに感づいたかのように、足音は近づいてくる。
サンタは思わず“壁の影に溶け込む魔法”を使い、ギリギリで見つからずに済んだ。
壁に溶け込みながら、わしは内心舌打ちする。やはりこの警察一家、年々難易度が上がりすぎるっ!
息を潜めてやり過ごす。
長男の足音は、しばらくの間その場に留まっていたが、諦めたようにゆっくりと遠ざかる。
夜中の静寂に戻った廊下に、わずかにサンタの呼吸だけが残った。
(ふぅ……いやあ、我ながら上手すぎて本物の泥棒みたいじゃのう…)
魔法を解こうかと思案していると、階段の上から、微かな声が漏れ聞こえてきた。
親たちの声だ。
「ねぇ、あなた。今年は本当に静かね」
「ああ。やはり去年、ワイヤーとレーザーの併用が効いたか。あの高性能な泥棒め、さすがにもう諦めたと見える」
「ふふ。これで子供たちにも、サンタはいないってことが分かってもらえるわね。夢は自分たちで掴むものだもの」
「うむ。警察官一家たるもの、安易な侵入は絶対に許さない。今年の防犯システムは完璧だ」
(何が完璧じゃあぁぁ!!わしはここに居るわい!しかも泥棒ちゃうわい!)
サンタは心の中で叫び、赤ら顔を抑える。
もしかして、今までのプレゼントは『泥棒が残していった形跡』として、鑑識にかけられているのだろうか?いやいや、そんなまさか。
毎年毎年、泥棒呼ばわりされるのは慣れたとはいえ、心が痛む。
しかし、サンタだって折れるわけにはいかない。信念がある。
(この苦労も、一家の笑顔という最高の報酬のためじゃ……ッ!)
気を取り直してリビングにたどり着き、ツリーの前にしゃがむ。
ここまで来るのにすでに汗だく。
包装紙を整えながら、サンタは小さく溜め息をついた。
「ふぅ……今年も無事、一次任務完了じゃ……」
大人たち用のささやかなプレゼントを置く手が、一瞬止まる。
プレゼントを受け取った人の笑顔を思い浮かべると、やはりこの仕事はやめられない。
毎年泥棒みたいなテクニックを駆使しながらも、心の中は愛にあふれているのだ。
三つのプレゼントを置き、ふと周囲を見渡す。
小さな飾りや置物が、静かな夜に揺れる。
魔法の袋に手をかけ、最後の任務──末子の部屋に向かう。
妹の部屋の扉をそっと開ける。
ふっくらと布団が盛り上がっている。
今年小学生になったばかりの、まだ幼い少女はぐっすり眠っていた。
枕元にプレゼントを置こうとして、気づく。
小さな手紙だ。
サンタはそっと手紙を手に取り、文字に目を通す。
〔サンタさんへ。
おとうさんとおかあさんは、サンタさんのことを『すごいじょーずなどろぼう』って言ってたけど、
わたしはしってるよ。
いつもありがと!〕
眠る少女の顔を見て、胸の奥がじんわり温かくなる。
小さな手紙が、こんなにも力を持つとは……。
この一家の大人たちからは泥棒扱いなのに、感謝されてしまった。
思わず頬を緩ませ、サッと手紙にイイネのマークを描き加える。
手紙を戻して、プレゼントを置く。
静かに立ち上がり、音を立てずに部屋を出る。
廊下に出て来たルートを戻ると、先程は閉まっていた扉が細く開いており、室内では父親が監視モニターの前で転た寝していた。
母親はセンサーの点検中で、息を殺したサンタの存在には気づかない。
長男の姿はなかった。自室に戻ったのかもしれない。
足音を殺して、最難関の家を後にする。
深夜の空に消えていく赤い服が、静かな町に少しずつ溶けていく。
まるで自分が夜の絵画の一部になったようだ──否、絵画に忍び込んだ泥棒か。
サンタはポツリと小さく呟いた。
「来年こそ、正面玄関から堂々と入れるよう祈っとるよ………まあの家じゃ無理かの。来年までに鍛えるか…」
夜空には星が輝き、町を包む静けさとともに。
サンタの影は消えていった。
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