光と闇の双子王子ですが、兄は聖剣より昼寝が大事で、弟は世界征服よりスイーツ命なんです!
短編小説その14
アルヴェリア王国の王宮は、今日も朝から慌ただしかった。
王国建国以来、千年に一度訪れるという「聖剣継承の儀」。
世界の命運を握る勇者を選ぶという重大イベントである。
しかし。
「……兄上ぇぇぇぇぇっ!! 起きてよぉぉぉぉぉっ!!」
銀髪の少年ネフィリオは、王宮東の塔三階の扉を勢いよく開け放った。
豪奢なベッドに沈み込んでいるのは、双子の兄ルキウス。
金髪碧眼、光の王子、王国の希望――のはずだった。
「んぁぁ……ネフィ、うるさい。昼寝中」
「朝です! まだ朝です!!」
兄は顔だけ布団から出し、目をしょぼしょぼさせながらぼそりと呟く。
「じゃあ、朝寝中」
「ふざけないでっ!! 今日は“聖剣継承の儀”なんだよ!?
兄上が選ばれたら、勇者として世界を救うんだよ!?」
「……勇者? やだ。疲れるし……」
「疲れるとかじゃないよっ! 世界の危機なんだよ!?
ほら、神託にもあったじゃん。“光と闇の双子が世界の命運を握る”って!」
「じゃあ、お前がやれば?」
「僕は闇の王子だよ!? 魔王側なんだよ僕は!!」
ネフィリオは兄を布団から引きずり出そうとしたが、ルキウスは掛け布団に巻き付き、まるで巨大な芋虫のように転がった。
「離せぇぇ……俺の睡眠時間は世界より大事なんだ……」
「兄上の睡眠時間より世界のほうが大事に決まってるでしょ!!」
押し問答を続ける二人の元に、扉を叩く音が響いた。
「王子殿下!! 一大事でございます!!」
扉を開けたのは、老執事ロラン。息を切らせ、声を裏返らせながら叫んだ。
「聖剣が……目覚めました! それと、“勇者候補”を名乗る青年が到着しました!!」
「……じゃあ俺は関係ないな」とルキウスは言い、ネフィリオは「……ケーキはあるの?」と同時に言い放つ!
「ありますが、王子殿下! それどころでは――」
老執事の説明も終わらぬうちに、突然窓ガラスが割れた。
「我こそは、選ばれし勇者候補・カイだ!!」
眩しい朝日を背に、金髪をなびかせた青年が窓から飛び込んできた。
腰には青白く輝く魔剣。背中には巨大なマント。
……が、派手な登場とは裏腹に、床に着地した瞬間すべって盛大に転んだ。
「ぬおぉっ!? い、今のは前フリだ! ノーカウントだ!!」
「勇者候補なのに着地失敗……」
「ちょっと、床にケーキのかけら落ちてない? もったいないなぁ」
「王子殿下! 落ち着いてください! まだ続きが――」
老執事が言いかけたその時。
「ふふふ……やっと見つけたわ、光と闇の双子王子……!」
窓の外から逆光の中、黒髪ツインテールの少女が逆さまにぶら下がっていた。
……なぜか空を飛んでいる。
「魔王直属の第一使徒、リリシアよ! 今日からあなたたちは魔界のモノ! 世界征服に協力してもらうわ!!」
「なぜ空から逆さで出てくるの……?」
「ネフィ、なんで女の子が空飛んでるの……?」
「さあ?」
ルキウスは完全に状況を放棄し、ネフィリオはケーキを食べながら生返事をした。
「おのれ魔王の使徒め!! 世界は勇者カイが守る!!」
「やってみなさい勇者候補!!」
「待って待って待って、王宮の部屋で戦うのやめて!!!」
「ケーキにクリーム飛んだら許さないからな!!!」
勇者候補と魔王の使徒が勝手に剣を交え始め、部屋の中は戦場と化した。
「お兄ちゃん、これどうする?」
「俺、もう寝たいんだけど」
「僕はケーキ食べたいんだけど」
そんな二人の足元で、突如「聖剣」が眩い光を放ち、天井まで光柱を立ち上げた。
《選ばれし者よ……我を手にせよ……》
勇者候補カイと魔王の使徒リリシアが同時に叫ぶ。
「俺だ!!」
「私よ!!」
しかし、聖剣がゆっくりと宙を漂い、最終的に選んだのは――
弟ネフィリオが食べていた、ショートケーキの上だった。
《……ふわぁ……甘い……》
聖剣が震え、次の瞬間には完全にフォークを持ってケーキを食べ始めていた。
「聖剣が……ケーキ食ってる……だと……!?」
「やっぱりケーキ最強じゃん」
勇者候補はショックで床に突っ伏し、魔王の使徒はケーキを分けてもらって涙目で頬張り、聖剣はご満悦で「生クリーム最高」と呟いていた。
ルキウスはベッドに戻り、布団にくるまる。
「今日はもう終わり。おやすみ」
「僕もケーキ食べたら寝るー」
こうして、「聖剣継承の儀」は史上初の“ケーキ完食イベント”として幕を閉じた。
世界の命運?
それはきっと、兄の睡眠時間と弟の血糖値にかかっている――。
ありがとうございました