シン デレラ
その瞳を見てはいけない。
その声を聞いてはならない。
「あの‥‥」
伏目がちな瞳がわずかに涙をためてふっと上げられた時、辺境伯サーリャニコフは目を合わせてしまった。
きゅん♡
多くの貴族たちを破滅させてきたというその「かわいい」の魅力に、サーリャニコフもまた心臓を鷲掴みにされてしまった。
夜のように黒い、潤んだ瞳。
夜のように黒い、腰まであるさらっさらのストレートヘアー。
陶器の人形のような肌。
何かを訴えるように、少しだけ綻んだ唇。
「何か御用ですか、お嬢さま?」
すでに蟻地獄のような罠にはまったサーリャニコフ。
「お城の‥‥舞踏会に、行きたかったのですが‥‥。わたしにはドレスも馬車もなく‥‥」
質素な使用人のような服に、裸足。
「こんなわたしでは、入れてももらえませんよね。」
諦めたような哀しげな笑顔を見せる。
きゅん♡ きゅん♡
「なんの! 諦めるようなことはありませんよ。お嬢さまのような美しい方が舞踏会に出られなければ、そんな舞踏会は花の入れてない花瓶のようなものではありませんか。さあ、この馬車とそのカボチャを取り替えっこしましょう!」
「いいんですか?」
少女は喜びと遠慮の入り混じったような儚げな笑顔で、辺境伯を見つめる。
きゅん♡ きゅん♡
「そうだ! ドレスも準備しなければ。」
サーリャニコフは御者に命じて、屋敷の中にドレス一式を取りに行かせた。
ドレスに着替えた少女は、輝くような貴婦人へと変身した。
「おお! なんと美しい!」
サーリャニコフは少女の前に跪いて、片手を差し出した。
「さあ。私と一緒に舞踏会に参りましょう。」
少女は、はにかんだように頬を染めた。
「あ‥‥でも、わたし‥‥殿方の隣に座るのは初めてで‥‥」
きゅん♡ きゅん♡
「あははは! そんなことでしたら、私が御者を務めましょう! あなたはお1人で乗っていれば、不肖私めがお城まで連れて行って差し上げますともっ!」
お城に着くと、少女は1人で歩き出した。
彼女がにっこり微笑むと、衛兵の全てが魂を奪われたようになってしまった。
少女がお城の階段に足をかけた頃、サーリャニコフは御者台で我に返った。
あれは‥‥。
噂の魔性‥‥。いや、怪獣とさえ呼ばれた‥‥‥
遠いニホンの漁師たちは、それを「デレラ」と呼んでいたとか。
↑(なんで漁師?)
少女は階段を上がって行く。
ダンダンダン ダンダンダン ダンダンダッダッダンダンダン ♪
ガラスの靴はダイヤモンドのように輝き
背中からドレスの裾にかけて青白い光が走ったように見えた。
光は金色の粉となり、それを浴びた周りの男たちが魅せられたようにその後についてゆく。
ダンダンダン ダンダンダン ダンダンダッダッダンダンダン ♪
いけない!
彼女を王子に会わせてはいけない!
サーリャニコフは追いかけようとしたが、足に力が入らない。
衛兵に伝えようと口を開いたが、出てきたのは言葉にはなっていない叫びだけだった。
「ギャオオオオオオオオオオォォォォォォーンス!」
m(_ _)m
これ、著作権ダイジョーブかな? (・・;)
運営さん。ダメだったら、言ってください。(削除しますから)m(_ _;)m