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因縁のマリオネット

少し時は遡りニエの方は、難なく次々と押し寄せるクシャトリヤの臓物をぶちまけ、リズムよく一定のテンポで敵を潰す、悲鳴、金属や骨の砕ける音、途中からは命で音楽を奏でるようにニエは楽しみ始めた、それにガルーダも少し引いて草陰に隠れる。

「二番に突入〜!」

 同僚、仲間、戦友が一人の少女によって新鮮な肉塊へと早変わりする光景にクシャトリヤの誰もが(おのの)いた、そんな血塗られたオーケストラは一人の指揮者により演奏されていたが、その赤い命の染料に染るタクトを地に落とそうと、クシャトリヤの中で明らかに雰囲気の異なる、耳にピアスをした若い戦士がニエの前にカンダと呼ばれる剣を構える。

「あなた、他の人とあきらかに違うみたい……」

「僕の名前はドゥーシャナ、ラーヴァナとカラの弟だ」

「んー、よくわかんないけど偉い人だってことだけはわかるよ!そんな人がどうして隠れるように、あの人たちの中に紛れてたの?」

「あんまり目立つのは好きじゃなくてね、それに様子見してたんだ、いきなりだけど君可愛いね、どれだけウチの兵士を殺したとしてもきっと兄上は気に入るだろうね」

「ふん!あなた達の兄ちゃがあたしをどう思おうと、どうでもいいもんね!」

「見てたらわかるよ、そんなの」

「で、あなたもやるの?それとも降参?」

「僕にも立場があるんでね、すっごく嫌だけど戦わなくちゃ、まぁそっちが降参するならこの数え切れないぐらいの虐殺は目を瞑るよ、兄上に君を見せたら君の命は助かるし、衣食住にも困んないだろうね」

「だが断る!」

「じゃあ決闘だ」

 ニエは鉄臭い拳を握りしめドゥーシャナに飛びかかる。

「さっきから見てたんだけど君っ!神器は!?」

 ニエの連撃を受け流しながら、ドゥーシャナはニエに問いかける。

「神器なんか!なくても!勝てるもん!」

 (なんかこの人変な匂いがする……)

「そうか、まぁどうでもいいか!」

 戦況はニエの一方的な攻撃でドゥーシャナは劣勢に立たされたように見えるが、ドゥーシャナは座った目で汗一滴流さず、まるで弟か妹と遊ぶ兄のように爽やかな顔をしていた。

 (なにこの人!さっきから急所狙ってるのに全部攻撃を逸らしてくる!)

「君とのじゃれあいは昔を思い出すよ、ウチの一族はみんなヤンチャでね、遊びごときで生傷は耐えなかったよ」

 (うっ、なんだか急に目眩が……ダメダメ!倒れちゃ……!)

 体の違和感に気づき、ニエはバックステップでドゥーシャナから距離を置いた。

「効いてきたみたいだ、常人なら三秒で倒れるのに、かなり粘ったね」

「なにしたの……!?」

「聞いて教えてくれると思う?」

 (少し具合良くなってきたかも……なんであの人の近くに居たら急に変な感覚になったんだろ……?)

「どうしたんだい?ようやく降参する気になった?」

「あたしはあなたに負けない!」

「じゃあ来なよ!」

「やだ!」

「しょうがないなぁー!それじゃ僕の方から行くよ!」

 ドゥーシャナはニエの方へ突進し、ニエを切りつけようと見えるが、その攻撃は常に一歩引いているように見えた、まるで距離を縮めることを目的に剣を振り回してるだけのように。

 (うっ、またこの変な匂い……!とにかく近づいたらダメな気がする……!)

「ほらほら、反撃しないと!」

「うるさい!」

 ニエは後ずさりし、その経路上にある石をドゥーシャナにぶつけようと投げるが。

「無駄無駄、君みたいな子が石を投げるなんて似合わないよ!せめて投げるなら枕でも投げて欲しいものだね!」

 当然のようにすべて剣に弾かれる。

 (ん?よく見るとあの人の周りに粉?みたいなのが漂ってる……?)

「そんなに見つめられたら照れちゃうだろ?でも、見たいならもっと近づいてもいいんだぜ」

 (もしかして眠くなるのは、あの変な粉のせい?……さっきからあの人、あたしに近づこうとはするけど、その攻撃に殺意を感じない……そしてこのまま距離をずっと取っても決着がつかないのもホント……こんな時どうしたらいいの?兄ちゃ……)

「考え事かい?相談したい事があるなら、僕も武器おろしてゆっくり話し合おうじゃないか、それに君をずっと見つめてたら個人的に気に入ってきたよ……そこでだ、兄には黙って君を匿うから大人しく降参しててくれないかい?何も痛い目には合わないし、穢れた俗世による苦しい思いもしないよ、ひたすら心地良い安眠、僕の極楽浄土に案内するよ」

「どっちもやだ!」

「はぁ、これだから目を開けている連中を相手にするのは疲れる……話は通じないし、頑固だ……赤ん坊のように寝ていればいいものを……」

 (こうなったら……)

 ニエは辺りに横たわっていたクシャトリヤの死体をドゥーシャナに投げ、それを剣で叩き落とす。

「勘弁してよ、こいつらを捌き切るのも結構疲れるんだよな……」

「おりゃあ!」

 ドゥーシャナが疲労で動きが鈍くなったところを見計らい、ニエは投げた死体の後ろに隠れ、騙し討ちを試みた。

「うおっ、とんだサプライズだっ」

 咄嗟に防ごうとしたあまり、剣の腹をニエに向け、剣は正面からの拳による一撃で折れてしまった。

「おっと!結構気に入ってたんだけどなっ!」

 ドゥーシャナは流石に武器がないと捌くのは難しいと考えバックステップで距離を三メートルとった。

「ここからは僕も手ぶらだね……でも僕だって近接格闘は少しなら自信あるよ!さて一曲踊ろうか!シャルウィーダンス?」

「ふん!剣でどうにか凌いでたような人に負けないもんね!おりゃ!」

 ドゥーシャナの片耳のピアスが妖しげに光る。ニエの一撃一撃のキレがある連撃を避け、流石のドゥーシャナも汗が額につたる、傍から見れば情熱的なタンゴにも見え、ニエもドゥーシャナも互いに汗を煌めかせる。クシャトリヤのギャラリーも思わず見とれてしまう、やはり彼らも曲がりなりにも武の道に足を突っ込んでいるのが大きな理由の一つでもあるのあろう、しかしやはり防戦一方のドゥーシャナにニエは不信感が募らせる。

 (うう、まただ、この感覚……クラっとしちゃう……)

「ははっ!そろそろバテてきたかな?じゃあ締めといこうか!ニドラ・ガンダ・ドラヴィヤ!」

 耳のピアスに空いた穴から大量の粉が噴き出す。

「っ!?」

 (アレを吸ったらなにかやばい!息を止めて下がらないと!あ、あれっ?体が痺れる……意識がっ……!だめっ、こんなところで寝たら!)

 いつものニエなら一跳びで十メートルは下がれるところを、眉間にシワを寄せながら重い瞼を必死に上げて四メートルしか跳べなかった。

「まぁ、安心しなよ、この粉は毒じゃない、ただ安らかな眠り(ニドラ)に沈ませるだけの魔法の香辛料(ガンダ・ドラヴィヤ)さ、息を止めても無駄だよ、この粉は繊細でね、穴という穴に染み込むんだ、近くに居るだけで君の毛穴にも入っていくんだよ」

 (あたし……しっかりして!これじゃ兄ちゃに……見損なわれ……)

 ニドラ・ガンダ・ドラヴィヤの過度な摂取により、今までどれほど罠で毒を食らってきたニエといえども、耐え切れる量ではなく、その場に倒れてしまう。

「そうそう、可愛い子には眠らせよ……うーん見れば見るほど兄上のもとに持っていくのが惜しい可愛らしさだ……新しく僕の眠り姫に加えようか……」

 今まで草むらに隠れてきたガルーダが飛び出す。

「ガ、ガルーダ!ニエ!守る!」

「なっ!さっきの!」

「ガァルゥゥゥーダっっっ!!」

 あの臆病なガルーダは空中で羽を逆立たせ、小さな羽をめいいっぱい広げ、その金色の体を震わせて太陽のように爆光し、目を開く者、全ての眼を潰した。

「うぐっ……ああっ!」

 クシャトリヤはもちろんラークシャサですら、ガルーダは敵の目から光を一時的に奪った。

「ははっ……おいおい、なんて冗談?ようやくどうでもいい中身を眠らせて、いい夢見れたはずなのに……っ、うっ、吐き気がっ……」

 ラークシャサ族は野生で逞しく生きていた種族であり、視力も並の人を外れる優れた目を持っていた、だがそれが今は仇となり、しかも最前線でガルーダの光を浴びたドゥーシャナは脳にまでダメージを受けていた。

「ニエ!起きて!ニエ!起きて!」

 ガルーダは必死に声を上げた、朝イチの雄鶏ですら喉負けするほどの声量で叫ぶが、ニエの寝顔が少し苦しくなっただけだった。

「なんなんだこの鳥はっ!目を潰すだけじゃ飽き足らず、鳴き声すらこれほどやかましいとは、とんだ害獣だな!」

 ドゥーシャナは片耳を抑えながら、声のするガルーダの方へ向かって走り、ニドラ・ガンダ・ドラヴィヤをばら撒く。

「君も眠りな!」



『ここは……』

『やっぱりダメだったじゃないか』

 霧の中で朧げにトガの輪郭が浮かぶ。

『……』

『だから言っただろう、ニエは俺が守るって、余計なことをするからこんな目に合うんだ』

『あたしは……負けてない……』

 ニエは悔し涙を浮かばせ、声を震わせる。

『何を言ってるんだ?お前、誰が見ようと、兄である俺が見ても、負けてみっともない惨めな女の子だ』

『言わない……』

『ん?』

『兄ちゃはそんな事言わない!兄ちゃは確かにいつもニエには戦って欲しくないような顔をする……でもこんなひどい言葉をかけたことは一度もない、どんなにあたしがやらかしても兄ちゃは渋い顔をして苦笑いで、済ましてくれる!』

 さっきまでグスグス泣いていた女の子は、霧の中で灯台のように目を輝かせて高々に宣言する。

『あたしは兄ちゃの影で生きるんじゃなくて、いつか兄ちゃをあたしの背中で守れるような人になりたい!』



 

 重いバーベルを上げるように、少女は少しずつ、少しずつ瞼を開き立ち上がろうとする。

「ニエ!起きた!」

「ガルーダ……あなたが守ってくれてたの……?ありがとう……。あたし、覚悟を決めたよ……今まで言い訳するように戦いでじゃれる真似をしてた、それはもし兄ちゃの前で一回負けても平気な言い訳を作るためだった、怖かったの、兄ちゃの前で自分の限界を見せて、兄ちゃの諦めた顔を見るのが嫌だった……」

 ニエは自分の顔を、目の下から頬にかけて引っ掻いた、三本の鮮烈な赤が顎をつたる。

「ううっ、うん……!もう……眠くない!」

 重たい瞼を引き上げながら強がって自己暗示でもするかのように叫ぶ。

「ま、まさか僕の粉を摂取して自力で起きたの!?そんなことしたら頭に凄まじい痛みが伴うはずだ!それにそんなの悪あがきにすぎない、一時的に起きれたとしても体から粉が抜けるわけじゃないんだ、今の君は寝ぼけた状態で戦わなくちゃいけないし、気を抜けばまたすぐに眠ってしまうんだぞ?」

 ドゥーシャナは辛うじて周りの音を拾える耳でニエの声を認識し、興奮した様子で話す。

「それにこの血の匂い、君もしかして眠気覚ましに自傷行為でもしたの?ははっそんなの、より粉が入りやすくなる傷をつくるなんて馬鹿じゃないのか?」

「ううん……一撃で決めるから心配いらないよ!」

「へー随分自信もって言うじゃないか、怖いねぇ……しかしそんなのしても無駄、今の僕は確かに目が使えない、でも粉で僕の周りを囲めば、その手や足が届く前に、君はまた深い眠りに落ち、今度は二度と日の目を見ることは無い」

「すぅーーーっ!」

 ニエは思い切り息を吸って空気を肺いっぱいに入れ、頬を膨らませた。

「今度は何をする気?言ったじゃないか息を止めても無駄だっ……」

 ドゥーシャナが言い終わる前にニエが粉に触れない程度の距離に一蹴りで縮める。

「ッ!ふっううううう!!!!」

 ニエの一吹きで粉が全て吹き飛ばされる。

「ううっ!この風はっ!」

 ドゥーシャナを囲う粉が無くなったのを確認し、強い一歩を踏みしめ、ドゥーシャナの顔に力強い回し蹴りの一撃を食らわせる。

「さいりゃあああああ!!」

「ぐうっ……!!」

「一撃で決めるって言ったけど、トドメは何回刺すかなんて言ってないもんね!」

 後頭部から木に激突したドゥーシャナに、赤くなっていく拳の連撃を食らわせる。

「うらららぁっ!」

 気絶したドゥーシャナはそのまま胸と頭を貫かれて死亡。

 

「これがあの変な粉を出してたピアス……デザインは好きなんだけどね……役に立つかもしれないし持っておこう……もうダメ……立って……られない……」

「ニエ……起きて……起きて……」

 ガルーダはニエを心配し、羽の輝きも褪せていく、そして視力を取り戻しつつある残兵達は大将を失い唖然としていた、一人の少女がラークシャサを打ち破るところを目の当たりにした、しかしそこにもう恐怖はなく、安堵にも近い感情がなぜか彼らに湧いていた、するとクシャトリヤの中から体を震わせながら一人出てきた。

「今なら俺達にも殺せる……」

「ニエ!守る!」

 仲間の期待を背にそのクシャトリヤはニエに近づき、一人出てくるクシャトリヤの前にガルーダがたち塞ぐ、すると剣をその場に捨てて、震えながらも確かに口を開き話し始めた。

「この方が居れば、我々の国は救われる……」

「お、おい何言ってんだ?!」

 一人のクシャトリヤの突然予想もつかない発言に慌てる仲間達。

「おいバカっ!この娘は俺たちの仲間をたくさん殺してるんだぞっ!?正気かっ!?」

 小声でその仲間に訴えかける。

「いや、あの方があーするのは当然だ、よく考えてみろ……あの状況で戦わなきゃ死んでたのは、この方だぞ!この方の立場に立って考えろ!」

 小競り合いがクシャトリヤ内で起こった。

「が、がる……!?」

 剣を捨て、突然仲間であろう者たちと小競り合いする姿をガルーダは戸惑った

「おいお前ら、この子をあの男のところに運ぶぞ!」

「はぁ!?なんでそんな自殺行為を!?そんなのカラ様が許すわけないだろう!」

 仲間達は顔を再び青ざめる。

「いや、多分カラ様なら倒されている……その男はこの子と同伴していたらしいじゃないか、ならその男も只者じゃない、それにカラ様が勝ったのであれば、とっくにこちらへ向かってるはずだ……」

「だ、だとしても!俺たちはあの男の目には敵にしか映らないはずだ!出会い頭に殺されちまうぞ!」

 仲間は必死に一時的しのぎの言い訳を探す。

「いやよく考えろ!いいか、どのみちこのまま帰ってもラーヴァナ様に殺されるだけだ……だったらまだこの国を救える可能性がある、最善の死路を歩むだけだろ!」

「ぐっ……」

 彼らも頭では分かっていた、理性ではそうするべきだと理解していた、だが仲間の死に様に心にべったり染み付く赤黒い色彩が納得をさせない、迷わせる、このまま帰れば間違いなく家族全員ラークシャサの夕食になるだろうということは確定したようなものだった。

「……俺は一人でも行く、どうするかはお前らで好きに決めろ……」

「ニエ、助ける?」

「ああ、命を賭けて」

 勇気のある一人のクシャトリヤは、ガルーダに敵意はないと認められ、道を空ける。

「たしかお前……いやあなた様はガルーダと呼ばれていましたね」

「ガルーダ、ボクの名前!」

「ではガルーダ様、この方を助けたいのです、なのでどうかこの方のお仲間のもとへ連れていって貰えませんか?」

「任せて!」

 クシャトリヤはガルーダに導かれるままニエを抱き抱えてトガの方へ走って向かう。

「……」

 残った数十名のクシャトリヤは沈黙していた、苦悩し、国のこと、家族のこと、愛する者のことを脳で必死に巡らせる、動いてもないのに汗を噴き出し、考えているだけでバテそうになるほどに、彼らの脳のシナプスは焼き切れそうだった、ここが自分の人生の最大の分岐点だとは誰もが確信していた、食われず運良く愛する者達と逃亡して生き残るか、殺されず運良く国を救って貰えるよう助けを乞い、ラークシャサ族に盾突いて戦うか。

「お、おれも行くよ……」

 一人追った。

「私も……」

 また一人が追う。

「……」

 黙りながらも後に続く人もいた、こうして四分の三が彼らの後を追った。

「あいつら……マジかよ……信じられねぇ……」

「ぐぐっ……オレには無理だ……出来ねぇ……ッ!」

 残った十数人はその場で黙って座り込んだ。




 倒れたトガのもとに数分かけ、たどり着いたクシャトリヤがニエを地面にゆっくりと下ろし、トガの痛ましい容体を一人と一羽が見た。

「がっ!トガ!」

「酷い傷だ……いやしかし末恐ろしい……あのカラ様と戦い勝利し、しかもまだ生きているとは……今俺は確信した、俺の目に見える、たしかな黎明の光が。いやいやこんなことを呟いている場合じゃないな、急いで手当しなければ……!いや俺にはそんな知識(ヴェーダ)、クシャトリヤの俺には無い!どうしたものか……」

「ううっ……ニ……エ……」

 トガは小さな寝言をした。

「ハッ……!たしか天食者は日に当たれば回復するとか言われてたはずだ……!しかしこのまま動かせば傷が広がる……どうすれば……」

「がる……」

 あーでもないこーでもないと大の大人が一人慌ててるところを仲間が遅れて駆けつけた。

「おい、こいつ倒れてんじゃねぇか、どうするよ」

「やっぱり……」

「何早速諦めてんだお前ら!この中で誰か手当の知識を持ってる奴はいないのか!」

「自信はないが私がやろう、私は前に負傷した仲間が手当されているのを見たことがある、見よう見まねだが何もしないよりはマシだろう」

 一人のクシャトリヤが自分の服を切り取り包帯のようにトガの体に巻いていく。

「よし、あとはこの方達を陽のあたる場所に運ぶんだ」

「わ、わかった」

 仲間達はなぜそうするのかよく分からなかったが、彼があまりにもそう自信もって言うのでとりあえず、言う通りにし、陽の当たる大岩に自分達の服を敷き、トガとニエを横たわらせた。

「どうする……これから……」

「わからないが、彼らが治るように力を尽くすしかないだろう、この辺りに賢者か聖仙(リシ)、隠者がいるかもしれない、誰でもいいから彼らに頼み込んでなんとかしてもらえるようにしなくては、今はとりあえず役割を分担しよう、食料を取ってくる者、寝床とこの方達を守る者、助けを呼ぶ者、俺は助けを呼んでくる」

「なら俺たちは食料を」

「私たちは寝床を」

 クシャトリヤらは三人組に別れて、各々のやるべきことをこなす、食料隊は森や川へ、寝床班は付近の枝や柔らかい葉を集め、簡素なベッドなどを作る、そしえ救助隊は円形状に広がって助けを呼びにいく。




「誰かー!助けてくださーい!」

 大声で助けを呼び続ける救助隊達。

「兄者、助けを呼ぶ者達の声がします」

「ああ」

「ラークシャサ共の罠かもしれませんがどうしますか?」

「これはラークシャサの罠かもしれないが、助ける声が聞こえたなら、ダルマに則って助けるべきだ、確認もせずに罠と決めつけてはいけない、例え罠だとしても確認しなくてはならない」

 ダルマとは、この正義や規範、倫理法律など人道のことを指す。

「私もラーマに賛成よ」

 男二人、女一人の三人組が助けを呼ぶ声の方へ向かった。

「弓をしっかり握りしめるんだ」

「はい、兄者」

 そうして三人は先ほどニエを抱えていた者と話をした。

「俺はクシャトリヤのタニシュと言います、あなた方は?」

「私はラーマ、そしてこの二人は私の弟ラクシュマナと私の妻シーターだ」

「いきなりですがラーマさん、お願いします、重症の二人がいるんです、助けてください……!」

 タニシュはラーマ達に頭を深々と下げた。

「少し待ってくれ、それをどうするかの話を家族にしなければならない、その後に助けるかどうか決める」

「はい……どうかお願いします」

 三人はタニシュを隅に置いて輪になり相談する。

「クシャトリヤか……ラークシャサの武士だろうな」

「兄者、彼はラークシャサ族でもアスラ魔神族でもないように見えますが警戒するべきです、ラークシャサ族は我々の第二の敵とも言えますから」

「でも彼の様子を見てみてください、悪意のない切羽詰まった表情をしています、あの顔は無私による愛からにじみ出る顔のように思います」

「シーター……わかった、彼を助けよう」

ラクシュマナは少し渋い顔をしたが兄の言うなら従う弟なので三人は彼の話を聞きついて行くことにした。

「戻ってきたか!」

 仲間の安堵した顔を見てタニシュは笑みを浮かべた、そして仲間に事の顛末(てんまつ)を話す、その間シーターは兄妹の様子を診た。

「酷い傷……でもあのラークシャサ族に勝利し生きているのだから、本当に凄い人達だわ……」

「しかも彼らの仲間を大勢殺してきたのに、彼らが助けようと思わせる、この勇ましい少女、そして助けようとするクシャトリヤのダルマの心には、この私も見たことがない、心から感服する」

「ええ、まるで信じられません……」

 ラクシュマナは眉間にしわをよせ、ラーマは満足そうな顔をして、シーターは額に汗して二人を手当した。

「兄ちゃ……」

 寝言を呟くニエ。

「この人はこの子の兄なのね……」

「ガル……トガ、ニエ……」

 シーターは多くの賢者、母からの知識を幼い頃から頭に入れており、森で取れる様々な薬草を用いて二人を治療した。

「とりあえずこれでいいはずよ」

「がるっ!ありがとう!シーター!」

 その後兄妹は即席の小屋に入れられた。



 

 (あの黄金のように光る鳥……気になるな、我々一族に確かあの鳥についての伝説があったはずだ……)

 夜、ラーマはそんなことを外で一人考え事していた。

「兄者、まったく彼らは何なのでしょうね……」

「彼らは只者じゃないことだけはわかる、それにあの場の傍にカラであろうラークシャサの死体を見つけた、彼の神器も一緒にな」

「その神器がこれですか……」

 二人は乾いた血がこびりつく因業を見る。

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