悪友
シュールパナカーが磔刑にされてから数時間後に、バラモン達に呼ばれたラークシャサの将軍であり、羅刹王の弟カラがシュールパナカーの元へ駆けつけた、妹が惨たらしく串刺しにされ、耳と鼻を切り取られた姿に愕然とするカラ。
「シュールパナカー……っ!?」
「あ、あぐ……」
口に金剛糖を入れっぱなしにされていたシュールパナカーは話せず、それに気づかないカラは焦る。
「どうした?喋れないのか!?」
「あ……あぅ」
「口を見せてみろっ!」
金剛糖が口内に深く刺さり、血が止めどなく流れていくのを見た、カラは額から汗が吹き出す。
「な、なんだ……これは……っ!?」
「あ、ああぅ……」
今も痛みに悶えるシュールパナカーをすぐにでも助けたかったが、深く刺さった金剛糖を無理やり取ろうとすれば、妹が更なる痛みに襲われることを思い、躊躇してしまう。
「どうすれば良いんだ……!?とにかく日が沈む前に何とかしなくてはっ……!もう時間が無いっ!」
カラ達が着く頃にはとっくに午後になっており、夕暮れとなっていた。
「すまん、シュールパナカー……!痛いだろうが我慢してくれ!」
カラは妹の後頭部に力強い一撃を入れ、気絶させた後、刃物で顎の筋肉を切断し、顎が大きく外れ、カラが空いた口内から金剛糖を素手で取るが、棘が手に突き刺さる痛みに堪え、なんとか摘出した。棘を焦って取ろうとすれば更なる出血で死んでしまうから、体を貫く棘が下手に取れないよう、棘を折る。そしてランカー城の医務室へ運び、バラモン達に問い詰めていた。
「おい、バラモンあんたらなぜ身を呈してシュールパナカーを守ろうとしなかった?」
「い、いえ……」
「なにを否定している?それってつまり否定できるほどの理由を持ってるんだよな?」
カラは冷徹に問い詰める、バラモン達の額には汗がとめどなく流れ、顔は青ざめていた、暴力を伴わない言葉の拷問に等しかった、一言でも間違えれば殺される、他の者の失言でも連帯責任で殺されることを全員が分かっていた。
「ま、誠に申し訳ございません……」
「何言ってるんだ?吾は訳を話せと言っている、その訳も話せないのか?」
「……相手は天食者でして……その……私たちではとても相手できないと判断しました……」
「なら身を呈して姫を庇い、無理やりにでも連れ戻す考えはなかったのか?」
「……!?」
「そうかそうか、我が身可愛さで自分の身を犠牲にして助けようなんて殊勝な心がけをお前らは持ち合わせていないんだな?」
ざわめく、バラモン達の心の中で危険信号が激しく点滅する、破裂せんばかりに。
「それってさ、バラモンとしてどういう訳?あんたらの仕事は吾らに身を捧げる聖職者なんだわ、わかってるはずだよな?」
バラモン達はひたすら沈黙した、もう弁明の余地もないことを思い知る。
「もういい、あんたら……クビ」
バラモンの首が一斉に、はねられ血しぶきが壁を汚す。カラは一人呟いていた。
「バラモン達の話によれば、緑髪の男と白髪のメスガキがやったと言う……妹をこんな目に合わせた奴らを吾は絶対許さん……っ!!八つ裂きにして我が妹の贄にしてやる……!!」
トガらは宿で休み、新しい朝が来た。
「兄ちゃ、今日は何する?」
「道具の補充だな、鉄球は昨日でかなり使って三個しか手元にない、いざと言う時無ければ不便だからな」
「でもでも、別にこだわって鉄球じゃなくても良くない?」
「いや、これが違うんだニエ、俺の能力は棘を生やす能力だが、棘を生やすための素材によって強度も性質も変わる、それに鉄球は持ち運びがしやすい。だからシュールパナカーの体を砂や土で出来た地面から生える棘は脆く、貫くことが出来ない。それに固体なら棘を生やすのは簡単だが、砂状だと集中力がいる、棘を生やすこと自体は低燃費でいくらでも生やせるとは言え、砂状とラッシュの合わせ技はかなり疲れるから数分しかできない」
「ふーん」
「……お前も服がかなりボロくなってきたし、新調しとくか?」
「おおー!」
「ニエにぴったりなのを探しに行こうか」
「うん!ほらガルーダ行くよ!」
「がるー、いくいく!」
市場へまた繰り出すトガらだが、昨日の戦闘で市民からは冷ややかな目で見られていた。
「チッ、どいつもこいつもまるで人を犯罪者みてぇな目で見やがって」
「それは仕方ないよー、だってあの人見るからに高貴そうだったもん」
「指名手配受けて大事になる前に去るべきだな……」
トガは顔にシワを寄せていたが、ニエはまったく気にしていないように鼻歌を歌って市場を練り歩く、雑貨屋に着いたトガらは店長のおっさんに嫌そうな目で見られながら買い物していた。
「鉄板か……いや、刃物の方がいいな……二本買ってみるか、とりあえず鉄球は補充出来たな」
「終わったー?」
「またせたな」
「じゃあ早速服買いにいこー!」
ランカー国の異国情緒溢れる服屋でニエは目を輝かせながら見ていた。
「ねぇねぇ、どれが似合うと思う!?」
「紫、白、赤……どれも捨て難いな……全て買ってもいいが、旅の荷物になるのは避けたい……」
あーでもないこーでもないと一人ブツブツ呟くトガと目を煌めかせているニエの和やかな時間となった。
「うーん、よし!じゃあこの紫にしようかな!?」
「うん、よく似合うと思うぞ」
紫色をベースにしたベリーダンスコスチュームはスリットが入っており、ニエのすらりと細く白い足とお腹を魅せ、その上をレースで覆い、隙間からのチラリズムはどんな香辛料よりも刺激的で男の欲を掻き立てる、神秘と妖艶を兼ね備えた美しい衣装だった。またダンス用の服なので動きやすさも確保されており、簡単に破れることさえ心配しなければ、いつでも戦える服となっていた。基本ベリーダンスの服は裸足がデフォルトで想定されているが、意外にくるぶし丈の白いヒールブーツもよく似合う、またスカートが長すぎるので店で少しカットしてもらうことにした。
「どう……?兄ちゃ……」
天真爛漫の妹が普段と違う色気を漂わせるギャップに、トガは唾を黙って飲み込んだ、普段着慣れない大人な服を着たことによる、照れでニエの頬は赤らみ、それが男の想像を掻き立てる至高のアクセントとなっていた。
「おおおお」
「がるっ!ニエ!キレイ!キレイ!」
ニエのあまりの美しさと可愛らしさの素晴らしい調和にトガの脳はエラーを起こし、ガルーダは自分と同じように輝くニエに歓喜した。
(えっちすぎる……!!!!!!)
「どう……かな……?」
「これほど美しい宝石を俺は見たことがない、どんな金銀財宝も霞むように綺麗だ」
「は、恥ずかしいなっ……」
(照れてる〜ッッッ!かわいいいいい!!)
トガは必死に気持ちと立ち上がろうとする自分を抑えるが情緒は決壊しそうになっていた。
(俺はもう、決めた……生涯かけてニエの美しさを永遠に留める方法を探すと……そしていつまでも俺の傍に……)
「あんまり……街中で着るべきでは……ないのかもしれない……」
「えー?せっかく買ったのに……もしかして……本当は可愛くない……?」
トガは首を捻じ曲げんばかりに強く頭を振る。
「いやいやいやいや、そんなことは絶対無い、断言しよう命も賭けよう」
「じゃあ……どうして……?」
あきらかに普段と違う、やたらとねっとり色っぽく聞いてくる妹にトガは悶々とした。
「そ、それはだな、見ず知らずの野郎に見せるのはもったいな……いや見せてはダメだと心が言ってるからだ!」
(ふふっ、あたしを独占したいんだ……満たされるなぁ〜この感覚……)
「でも、あたしが危ない目にあったら絶対助けてくれるよね?」
「当たり前だ、お前以外は何もいらない」
トガはきっぱりとそう言った。
(兄ちゃ自分の言ってること分かってるのかな?もはや告白だよね)
そんなこんなしてるとさっきまで冷えた目で見ていた街の人もニエにメロメロになっていた、それを快く思わないトガは周りに威嚇するように、野郎を睨みながらしかめっ面で歩く。
「どいつもこいつも目の色を変えてニエを見やがる、見物料に金を取ってやりたいぐらいだ」
「いいじゃん!逆に見せつけようよ、兄ちゃの隣りの女の子は凄いんだぞって!」
「どこの馬のクソともしれない奴らにどう思われるかなんて、俺は気にしない、俺だけわかってればいいんだ」
市場の空気も少し変わり、広場のレストランで昼食にするトガ達。
「このカレーって食いもん、なかなかイケるな……」
「ちょっとあたしには辛すぎるよー」
そう嘆くニエ、しかしそれもそのはず、カレーには香辛料がかなり多く使われており基本子供に辛すぎるのだ。
「じゃあ、このラッシーで口直ししようか」
ラッシーとはランカー国のポピュラーな飲料でヨーグルト状のバターミルクである。
「うん!」
「おい店員、辛くない食いもんはあるか?」
「ホウレンソウカレーはいかがでしょうか?」
「ニエはどうだ?」
「辛くないならそれでいいよ……」
「そんじゃ、それで頼む」
「かしこまりました」
食事を済ませたトガらは、町の人から聞いた、木の高さが二十メートルのある森の中にある遺跡へ向かう、そして森の少し開けたところを歩いていた。
「地図によれば……」
「ん?兄ちゃ、なんか足音聞こえない?こう大勢の人の足音がむこうから……」
「がる、クシャトリヤ、多い、来るっ!」
ガルーダの優れた視力はハヤブサ並であり、人の八倍の視力を持っている。
「面倒だな……」
「しかたないでしょ!こんな事になることはとっくに分かってたくせに」
口では文句を言っているニエだが、顔にワクワクした表情が浮かぶ。
そうこう言ってるうちに千人のクシャトリヤを率いり、馬に跨るラークシャサの将軍が森の奥からやって来た。
「吾の名はカラ!吾の妹、シュールパナカーを襲い、顔をズタボロにしたのはあんたらだな?」
「なんだコイツ、妹が醜女なら兄も醜男だな」
「はぁっ!?」
「ラークシャサ族って、みんなあんな顔なの……?」
「きっ!吾らのこの美貌にケチつけるってことは、あんたらよそ者なんだろ!?」
「ああ?いや誰がどう見ても……」
「吾らラークシャサ族は、あんたらのような下品に尖った顔してないんだわ、この丸い曲線美を理解できない凡人や、よそ者は大っ嫌いなんだわ、いやそれより、妹を襲ったのあんたらのようで間違いないんだな?」
「俺ら二人に対してこの千二百人の軍勢を引き連れるか?」
「当たり前だろ、一国の姫をあんな陵辱しておいて許されるとでも?」
「わ〜!この人数、相手したことないからあたしワクワクする!」
「が、がるぅ〜……」
「なんだ?このメスガキ、ちっとも怖がらないじゃないか……なんて不気味なガキなんだわ」
カラがそう口走った瞬間、金剛糖が雨あられに投げられ、カラは神器を振り、急いで捌き落とす。
「いきなりそんな物騒な物投げつけるなんてありえないんだわ!」
「俺の妹に文句言いやがったよな、例え空耳でも許さん」
「ふん、もういい、吾の圧倒的人数による蹂躙でミンチにするんだわ、全軍突撃っ!!」
怒号天高く響かせる軍勢がトガらを囲むように差し迫っていく。
「こんな開けたとこじゃやりにくいな」
「じゃどうするの?」
「ふっ、決まってるだろ?にーげるんだよーっ」
ニエは自分より二十センチぐらい身長差のあるトガを背負い、森の方へ爆走する。
「ええー!?」
敵軍は意表を突かれたのか、まさか少女がいい歳した男を背負って、しかも馬よりもずっと速く逃げるとは、これには一同愕然とする。
「……ッ!?な、なに突っ立ってんだい!早く追いかけるんだわ、じゃないと取って食っちまうよ!」
「ヒィー!!」
カラの一声で兵達が駆け出す。
「へっ、あいつら、たまげて立ち止まってるな」
「あははっ!あのおじさんたちの顔、面白かった!」
「マメ鉄砲を食らった鳩みたいな顔してたな、まっ、とにかく森までたどり着けば、俺たちの土俵に引きずり込める、そこからはイージーゲームだ」
ニエの爆走であっという間に木々生い茂る森へ入った。
「小細工の時間だ」
トガがそう呟くと、手当り次第に神器で傷を木々に浅く付ける。
「こんなところだな」
「じゃ、少し先であの人たちを待ってよっか!」
カラ率いるクシャトリヤが息を切らしながら、ようやく森に着いた。
「ったく、これだから根性ないんだわ、おい賊!さっさと出てこい!」
森の奥で石に座ったトガらが返事をする。
「おーい!こっちだ!」
「奴らはあそこだ!早く行け!」
「そろそろだな……」
(なにか妙だな、どうしてこんなに木に傷が……?まさかっ!?)
トガがパチンと指を鳴らした瞬間、大勢のクシャトリヤが、木から一メートルもある棘が一斉に生え、端っこにいて外れた、クシャトリヤは無事だったが軍の七割程が串刺しになった、カラは野生の勘と動体視力で生えてくる棘を避け、なんとか急所を外す、棘は方腹を抉り、片腕は貫通、カラが乗っていた馬は死んだ。
「ぐっ……!流石に痛いな……」
(しかしなんなんだ、このふざけた力は……っ!?この規模の能力は天食者には不可能……もしかしてデーヴァ族かアスラ族の生き残り……?)
「これしきの傷ならすぐに治るはずだ、抜いて……抜けないっ!?」
トガの生やす棘はギザギザした返しが付いており、無理に抜こうとすれば、肉を持ってかれる悪質極まりない棘だった。
「仕方ない、これは後でどうにかして取るとして一旦刺さったまま行くしかないんだわ……あの野郎、豚の餌にでもしてやるっ……」
カラは貫通してるところ以外を切断した。そして同僚、友人、仲間が惨たらしく磔にされたことにクシャトリヤ達は怒りを覚えるよりも、恐怖が背筋を撫で冷や汗が止まらなくなっていた、クシャトリヤ達はザワつく、自分達の家族が残っている、恋人がいる、ここで簡単に自分が死んでしまっては悲しむ者や困る者がいる、それが彼らに重い鉄の枷を嵌めた。
「はぁ?なに怖気ついてんの?あんたらの家族が気かかり?なら心配ないんだわ、あんたらがここで戦わないなら吾らの皿の上に乗せられるだけなんだからさー!」
ラークシャサ族は人を喰らって生きる食人文化があった、彼らがこの国を支配することに国民は不満を募らせるが反乱しようと思っても、すぐに諦めてしまう。
なぜならかつてこの国ではアスラ魔神族とデーヴァ神族は対立していた、そしてついに国を治めたデーヴァ神族に勝利し、デーヴァ神族をこの地から追放に、そんな戦いを好き好むアスラ魔神族が国を治めるとなった時、バラモンからシュードラまで誰もが絶望した。
しかし魔神王の息子は意外にもアスラ魔神族では珍しい善性と天性の王としての素質を持つ魔神であった、その魔神王による優れた政策で国民の誰もが飢えることなく幸せに暮らし、国民からはマハーバリとして敬われる事に。
だがそれも長くは続かなかった、天下のマハーバリを退く、天食者としての強さを一族に持つラークシャサに国民は心から絶望し、力と恐怖による圧政が敷かれる。この国は目まぐるしく支配者が変わりゆき、一時の安寧も崩れ、消滅するところを凡人は見つめることしか出来なかった、目を背いても苦しみは背中に突き刺さる、彼らがなにをしたというのだろうか、いや何もしなかったからなのだろうか……。
残兵を率いて片腕を抱える負傷しながらも、どうにかトガの元へたどり着くカラ。
「あの無間地獄をよく生き残れたな、大したもんだ」
「くっ、ふざけやがって、この吾によくあんな真似が出来たもんだわ、あんたは吾が直々にぶちのめしてやろう、お前はそこのメスガキを相手してろ!」
クシャトリヤ達は渋い顔でニエに刃を向ける。
「相手する人数どんどん増えてくなぁ、流石に自信ないかも……」
「ニエ、お前ならやれる、遠慮なく暴れて来い」
「うんわかった……!よーし!あたしが三六〇人全員相手するよ!投降するなら今のうちだよ!刃を向ける人はみんな倒すからね!」
「さて……たしか、てめぇが俺の相手すんだろ?」
「ああ、妹をあんな風にした報いを果たすのは、兄の吾でなければならんのだわ」
二人は互いを睨み、トガもカラも神器を構え、状況は一触即発。
「先手は俺がもらおう!そら!金剛糖のお代わりだ」
「きな!因業ッ」
カラはブージと呼ばれる、斧ナイフ状の薙刀を顕現させ、投げられた金剛糖を全てを捌き切る。
「二度も食らわないんだわっ!って居ない……!?」
トガは神器を使って木々を跳び回り、神器の縄を張り巡らしていた。
「来いよ」
挑発するトガ。
「いつまで逃げ回ってるつもり?まぁいい、とことん付き合ってやろう!」
誘いに容易く乗るカラにニヤリと口角をあげるトガ。
「森の純潔ッ!」
縄の結界に入ったカラに、木から生える棘の一斉攻撃を浴びせようとするが。
「もう見飽きたんだわっ……!」
ラークシャサ族の身体能力は並の人間を外れている上、天食の祝福が底上げをし、一度の跳躍で十メートルは跳び、難なく全て避け切る。
「ふんっ」
(空中に一回逃げれたとしても結局地上には降りることになる、そして地面に着く瞬間を狙えば……避けることも出来ず、串刺しとなる……詰みなんだ、アイツは……!)
勝利を確信し鼻で笑うトガ。
「……ハァッ!」
地面に着地する二秒前に、カラは自分の神器をトガに向かって投げる。
「っ!?これしきを避けれない俺ではない!」
神器を木に突き刺し、フックの引く力で避けるトガ。
「はっ!あいつは!?」
カラがトガの目の前からいつの間にか居なくなった。
「吾を探したか?」
グサッ……。
「ごふっ……な、なんで……」
カラの神器、因業がトガの胸を貫通した。
「この神器は吾の手元に戻ってくるんだわ……賢いあんたなら、わかるだろう?」
(まさか……!投げた薙刀と奴の間に俺が対角線上になり、後ろから……!?)
「これが妹の胸を貫かれた分……そしてもういっちょッ!」
「させるか!フォレスト・メイデン!」
カラの半径5mに棘の結界を発動させるが、カラは躊躇なく神器をトガに向かって投げる。
「っ!?もう一度!フォレスト・メイデン!」
トガの前に横から生えた棘の厚い壁を作るが、カラの因業はそれをも貫いた。
「嘘だろ……っ!?」
一方、串刺しにされたカラはその双眸ギラつかせていた、飯が不味けりゃ料理人の首をはね、子がたまたま転び前を塞いでしまっただけで親子を処刑し、少し気に入らないだけで、ケチをつけ、喚き、何人も食い、なんでも人のせいにしていた彼とはまるで別人、まさに武人のような立ち姿をしていた。
「自業自得、誰も業からは逃れられない……っ」
視点はトガに戻る、棘の壁を貫通した因業を避けようとまた、木にトガが神器を突き刺し、躱そうとするが、薙刀は方向転換をしてトガに向かって来る。
「冗談だろ……っ!」
顔をしかめながら、次々へと木を飛び移る。
「あの野郎を倒さない限り、延々と追尾してきそうだなっ!」
カラの方へ必死に向かっていくが、因業の飛んでくる速度は三九〇キロを超えていた、致命傷になる一撃を躱し、体に切り傷を作りながら、カラに向かった。
(こいつは速いが、なんとか致命傷を避けれる……急に方向転換は出来ないようだ……ッ!?)
考え事をして眉間にシワを寄せていたトガは急に閃いたような顔をした。
「ようカラ、久しぶりだなっ……!」
「ふん、もう二度はないんだわ」
身体中に棘を刺したまま、カラはトガに立ち向かう。
「あんたはもう終わりなんだわ、因業からは逃れられないっ」
「そうか、んじゃ冥土の土産にコレを受け取れ!」
トガは余った金剛糖をカラに投げつける。
「お前の冥土への土産だがな……」
手元に何も無いカラは負傷したその身で、避けようと努力したが、傷のせいで動きが鈍り、躱しきれず腕で三発受け止めた。
「ぐっ……ッ!?」
「そしてお前の薙刀だ、返してやるよっ!」
カラの懐に入ったトガは飛んでくる因業を斜め前へ急上昇し避け、その因業はカラの首下を突き刺した。
「うぐっ、ゴホッ……」
(流石にこの出血量は吾でも死んでしまう……!その前に決着を付けなくてはっ!!)
「チッ、しぶといな、まだ立ってやがる、ラークシャサ族はどいつも往生際と顔が悪いなっ!」
「あんたの機転を認めてやる、名を名乗れ」
「……トガだ」
トガは名乗りながら神器で再び棘の結界を結ぶ。
「トガか……その名を忘れない、我が一族の名敵として壁に刻もう、もしそれが叶わず、あんたと戦って死んだとしても、吾は退かん、なぜならそれが吾と我が妹の名誉なのだから……!」
「ふん……なら無駄死にするといい……」
「行くぞ!」
「フォレス……!」
カラは足が砕けんばかりに大地を踏みしめジグザグに駆け回る。
「……ト・メイデンッ!!」
飛び出してくる棘を、カラは限界まで力を引き絞り、傷口からは血しぶきをあげ、トガの縄すらも利用しバネのように飛ぶ。
「なっ!?この速さっ!!」
トガに間合いを一気に詰め、トガも普段は直接神器を敵に刺すことは無かったが、反射のようにカラの頭と胸にフックを発射した。
「ハァァァアアアアッッッ!!」
カラは腹の底から喉を裂かんばかりの咆哮を上げる。
『吾には友などいやしなかった、できるはずもなかった、吾の一族はみな家族であり、人は家畜の対象でしかなく。惚れた女もいたが、些細なことでカッとなり食い殺してしまったこともあった、吾は以来ずっと苛立ち、小さな石ころのような事でも不快ならば叩き潰した。暇さえあれば粗を探して、なにかと理由をつけて罰することは日常茶飯事だった。生きた中で楽しいと感じたのはアスラとの戦争だけだった、あの戦いは心を満たしてくれた。
今思えば吾は戦に恋をしていたのかもしれない、戦をしている時は真剣に敵とぶつかり合い、負傷し苦痛に顔を歪ませることもあったが、不思議と不快ではなかった、むしろ心地良かった充足感に満ち満ちていた、もし吾といつでも真剣勝負に付き合ってくれる友が出来たのなら……』
ザパッ!トガの肩から腹にかけて斜めに斬られた。
「……」
カラは空中から崩れ落ちる。
「うがぁっ……はぁ……はぁ……ようやく、くたばったか……」
咄嗟の二連撃でカラは微かに後ろへと押され、カラの一撃はギリギリ、トガを真っ二つに両断できなかった。




