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アクバル戦遊記 〜天竺の反逆詩編〜  作者: 灼灼金魚
各々の理想郷、パーターラー
16/16

第二層 豊穣の坑道 ヴィタラ

かつての秘密基地。尽きぬ烈日。


「気をつけなさい、第二層は天候も容赦なく襲ってくる過酷な環境よ」

 一行は自然形成された通路を通り出口らしきところからはとてつもない陽の光が差し込む。

「あれは……日の光……?でもなぜ地底世界に太陽が?」

「それは太陽であって太陽じゃない。この第二層ヴィタラの太陽は神ハタケーシュヴァラそのものと言われているわ」

「なにか壁に書かれているな……子供の……落書き?」

「その日光に短時間でも晒されれば体が異形化するの」

「具体的にはどれくらいだ?」

「それは個人によるらしいわ、兆候で言うなら短い者は十〜十五分で軽いめまいと心拍の乱れ。そして約三〇〜四五分が経過すれば第二段階に突入するわ。体の異形化が始まって小さな突起などが生えてくると言われているの。次に最終段階の約六〇〜九〇分では体の一部が昆虫になったり宝石に成り代わり始まる。でもそれはまだマシな方の……」

「はぁ?!なんだよそれっ!?」

「まだマシな方……って更に何が起きるんだ……?」

「……体の大部分が菌類に成り代わって……この地の一員、分解者として迎えられるの……おそらく永劫にね……」

「ではこの層を突破するにはどうすればいい」

 トガが冷静に尋ねる。

「先の探掘者たちはここの原生生物。大型昆虫を狩ってその体の外殻を剥ぎ、体に装備して日光が肌に晒されないようにしたらしいわ」

「そうか……既に成れ果てた物ならこれ以上変わったりはしないということか」

「にしてもまだ外に出てもいないのになんだこの暑さは……」

「それがこの層の二つ名、尽きぬ烈日よ」

「語感からして夜を知らんようやな、まったくこうも分かりやすいと逆に出鼻くじかれる思いやわ」

 鬼車の顔が珍しく曇る。

「第三層に行くためには装備を現地調達しなければならないというなら、仮拠点が必要になるのか」

「その通りよ、トガちゃん。この層にはかつての探掘者たちが建てた拠点があったらしいけど、昆虫たちの襲撃によって壊滅させられたと聞いてるわ。でもきっとまだ使えるものも残ってるはずよ」

「ほな、さっさとそこへ向かうとするか」

「待って鬼車くん」

「ん?なんやヴィビーシャナの姐さん」

「ほら、街で買っておいたあの服をみんな着て」

「……この暑い天候で服を二枚も重ね着するとは……」

 

 全員黒の緩いインナーにブカブカの白衣を纏い頭まで隠した。

 

「しょうがないでしょ!文句言わないで!少しでも日に晒されるリスクを減らさないとダメなんだから!それにこのワタシの美しい肌に変な出来物が出来たりしたら大変よ!」

「もうこの服だけでさっさと第三層目指すべきだ」

「トガちゃん。焦らないで、この服はあくまでその場しのぎなの。こんな軽装備でこの層に挑むのはあまりに無謀よ」

 真剣な眼差しでトガを見つめるヴィビーシャナ。

「なぜそう言える」

「この層の捕食者たちは地上に出ればあっという間に頂点捕食者に上り詰め、他の種を根絶させるほど強いと言われているの。こんな一撃でも貰えば致命傷の装備じゃ危なすぎるわ」

「そんな危ない連中やったらなんで上までこーへんの?」

「認めたくないのだけれど第一層が阻んでいるからと言われているわ」

「一応地図はあるからこの通りに行けば三十分で着くはずよ」

 一行は地底世界とは思えない白昼に出た。

「なんで出口付近に建てなかったんだ……?」

「近くに水辺が無いからよ」

「みんな見てくれ!あっちに黄金が川のように流れてる!!」

 御炙が珍しくはしゃいでいた。この地には火によって黄金が炙られ川のように流れているのだ。

「ここは水も豊富ではあるけど水場には昆虫達が集まりやすい。だから先人たちは周りを見渡しやすい高場で、かつちゃんとした川があるところに建てたの」

「うおー!あの金を汲んで持ち帰ることが出来たら億万長者も夢やあらへんのう!」

「って……ちゃんと人の話を聞きなさい!」

「うげぇー!いてて!やめてくれよ姐さん!聞いてるって!」

 ヴィビーシャナの逞しい指が鬼車の両頬をつねった。

「しかし街の様子を見るにそれは無かった」

「そう。パーターラーでは取った物を命で支払わなければならない。と言われているわね……まぁ入るだけでも片道切符のようなものだけど」




 話は一旦ここで遡ることガルーダが凍りつけになったところまで。


「……こいつは…………」

 道端に落ちたガルーダを見つけた男は何かを考えるようにつぶやいた。

「……お前は未来だ。ここで死ぬわけにはいかない、しかしまだ未熟……」

 男は何かを紙に書いてガルーダに貼り付けると地面を短刀で裂き。ガルーダをそこに落とした。




 ガルーダは深い深い深淵へ落ちていく。この落下する速度では地面に激突し粉々になることは免れない……しかしそんなガルーダを偶然にも受け止めた者がいた。ポヨンと巨大な柔らかい体が受け止めたのだ。

「ん?ワシの背中になにか乗っかってるな……?」

 その巨体は蛇だった。

「ほう、こいつはまた面白いものが落ちて来よったな。()()()()()()を誰が落としたのだ?」




「がる……」

「ほう、目が覚めたようじゃな」

「がるっ!?」

 ガルーダの目の前には大蛇の顔が待ち構えていた。

「そう警戒するでない」

「おまえは……だれ?」

「ほう、ワシか。そうだなまずは自己紹介をせねばならんな。ワシはこのパーターラーと呼ばれる第七層の主の一柱。アナンタ」

「アナンタ……?」

「そうじゃ。凍りつけになったおまえを救ったのはワシじゃ。感謝するが良い」

「あ、ありがとう……」

「そう緊張するでない雛鳥。なにもとって食ったりはせんわい」

「ぼ、ぼくは……」

「ガルーダ、そうなんじゃろ?」

「え?なんでぼくのことを……」

「おまえの事ぐらいは知っておるわい」

「はっ!そうだ……ぼくは助けなきゃいけない人がいるんだった!早く帰して欲しい!」

「んーそれは別に構わぬが……」

 大蛇の穏やかな雰囲気が一変とする。

「無駄死にするだろうな」

「がるっ……?」

「おまえはまだ自分の隠された力を使いこなせてはおらん。おまえはじきにここへくるであろうトガのもとへ行くが良い。そしてもう一度ワシに会え。良いか?」

 地面が蠢きだす。よく見ると蛇たちが所狭しと群がっていた。

「がるっ!?トガの事を知っているの!?」

「ふっふっふっ……」

 ガルーダは疑問を投げかけるも足元の蛇たちは自分たちしか知らない抜け穴を使いあっという間にガルーダを運んだ。

「がるーっ!?どこに連れていくの!?」

 蛇のうち一匹が受け答えた。

「トガ様の元へです」

 そうしてあっという間に第二層に着いたガルーダに蛇はこう言った。

「私たちを食べてください」

「がるっ!?なんでっ!?」

「あなた様はまだ力が回復していません。そこで私たちを食べることで力を取り戻し、トガ様たちを導いてください」

「そんなっ……がっ」

 話そうとするガルーダの口へ三匹の蛇がさっさと入っていった。

「がが……!」

「では私たちはこれにて失礼します。ガルーダ様、最深層でお待ちしております」




「面倒をかけたな。ヴァースキー」

「ふん、珍しく貴様が頼み込んだと思えば……」

「まぁまぁ、きっと面白いことになるぞ。ヴァースキーよ」

「私達の天敵と称された者がこの世界を維持する……ある意味ヴィシュヌの化身になるのであろうな……」

 二匹の大蛇が静かに向かい合っていた。




「がるー……なんか勝手に連れてこられたけど……どこ……?ここにトガがいるの……?んー……考えても仕方ないがる」

 ガルーダはその両翼を広げ、地底の大空を飛んだ。

「がるっ!?なんだあのおっきい虫!?それに綺麗な石もたくさん生えてる!ちょっと見て……いやダメがる!まずはトガを探さないと!」

 しばらく上空を飛んでいると人らしき者たちを見つけた。

「がるー……怖いけど行ってみないと、もしかしたらトガもいるがも!」

「親分!空から鳥が!」

「地上で聞く分には普通の事なんやけど……」

「ここ地底だからな……」

「みんな気をつけなさい!第二層の生物よ!侮れないわ!でもおかしいわね、第二層に鳥なんていないはずよ……」

「鳥……?おいもしかしてそいつ赤いのか!?」

 ダンっ!

 ガルーダは一行に対し立ち塞がる。

「トガを知らないがるが?」

「しゃ、喋ったァァァ!?」

「親分うるさい!」

 ゴッ。御炙が鬼車の頭を一発殴った。

「ってこいつが何なのか親分も知っているくせに……わざとらしい」

「へっへっ、このところ辛気臭かったからな」

「え?知ってるの?この鳥を……?」

「あー、そいつは……」

「がるっ!トガ!本当にいたんだ!」

 ガルーダはトガを見るなり頭に飛びついた。

「おご!むごむご!」

 顔が羽毛に埋まるが手を上手く使えないので剥がしようにもできなかった。

「姐さん。こいつはなガルーダっちゅうんや」

「……喋る動物……さては天食獣ね。気になることは多いけどここじゃ日当たりが強いわ。あの岩陰に隠れましょ」

「おーさっすが姐さん。話の飲み込みが早い!」




 一行は一旦岩陰で休憩した。道中は案外険しく、虫に気づかれないように迂回もやむを得ず。そしてなにより強い日差しによることから疲労は蓄積するばかりだった。

 

「でも平気なの?あの日に晒されても」

 怪訝そうにヴィビーシャナが顎を触る。

「がる?」

「この羽毛……よく見ると光を反射しているようね……艶やかでいい羽してるわ。それに僅かだけど自分から発光しているわね……この羽で服を飾り付けたら……きっと王族も羨む特級品になること間違いなしね!」

「がるっ!?やめてー!!」

「ふふっ、冗談よ。ワタシは動物を痛めつける趣味はないの。でもガルーダちゃん、羽が抜けたらそれを頂戴したいわ」

「がるる……」

 ガルーダは怯えきっていた。顔の化粧は濃いがこの大男、紛れもなく羅刹王の血筋の者だとガルーダは本能で分かっていた。

「それよりもガルーダ、なんでお前がこんなところに」

「わがらない……無理やりここに運ばれたがら……って、トガ!その腕どうしたがる!それになんだが顔も違う……」

 ガルーダはトガの腕が金になっていることにようやく気づいた。

「ちょっとな。後で話すからまず俺の質問に答えてくれ。お前がなぜここにいるのかを知りたい。誰に?どうやって?どこから?」

「がる……たくさんの蛇がる。たしかあのアナンタって自分で言ってた、そのおっきな蛇は第七層っていってたがる」

「七層!?おまんは第七層から来たんか!?どないなっとんねん!」

「これは話が拗れてきたわね……」

「第七層を支配するのはナーガ……そうだったな?」

「ええ、ナーガの王達は探掘者……いえ侵入者に対して友好的よ」

「それで蛇たちはトガを待ってるって言ってだる」

「ナーガの王がトガに?なんの用があって……」

「いやそないなことよりもトガがここにおるって奴らは知ってるっちゅうことがおかしいやろ!」

「蛇たちはぼくを狭くて暗い道をつかって運んだがる」

「ふむ……おそらくパーターラーの実質的な支配者はナーガだな」

「トガちゃんもそう思うわよね、ナーガは自身しか知らない抜け穴を使えると考えた方が良さそうね。それでワタシたちを今も監視しているかもしれない」

「その抜け道を俺達も使えたのなら……」

 御炙も口を挟もうとする。

「しかしそうはしないのだろう……そんなことをするなら最初からそうしていたはずだ」

「ならつまりこれは試練。やつらが俺に何を期待しているのかは知らないが乗り越えなければならないということだけは分かる」

「まぁ、ようはやることは変わらへんってことでええんか?ならさっさと先を急ごうや」


「あっちに虫!」

「っ!?どきなさい!」

 一行は仮拠点に向かう途中だったが災難がいつ襲ってくるのか分からないそれがパーターラーである。一行に対しカマキリ型の昆虫が襲ってきたところをガルーダが気づき間一髪でヴィビーシャナが狙われていた隊員の一人を突き飛ばした。


「うおっ!なんじゃこいつぁ!?」

「厄介ね……天食者の力が無尽蔵に使えるならまだしもこの太陽は偽物……あんまり無茶はできないわ……」

「それに長期戦も避けたい」

「一気に方を付けるわよ!」

「「おう!」」

「ヴィビーシャナは前衛でその虫の攻撃を防げ!鬼車は隙をついて一撃を叩き込め!トドメは俺が刺す!」

「「ええ/おう!!」」

 二人は神器を構える。

「まさかここでアンタと共闘するとはね……実戦でビシバシ鍛えるわよ!」

「望むところや!」

 カマキリ型の昆虫はその巨体に見合わずヴィビーシャナをも凌駕するありえない速度で強襲をかける。

「危ない!」

「助かったわ」

 両腕のカマで隙なく攻撃をしかける。一本の腕でヴィビーシャナを抑えもう一本のカマでヴィビーシャナを貫こうとしていたところを鬼車がとっさに弾いた。

「ヴィビーシャナ!あれはなんて名前だ!?」

「たしかオウオオガマよ」

「あのオウオオガマは思った以上の動きをする!作戦変更だ!俺が奴の足場から棘の柱を生やす!動けなくなったところを叩け!クニール・クルシフィクション!!」

 オウオオガマの足元に神器の刃が突き刺さり。棘が地面から生えるが、オウオオガマの異常な動体視力により躱される。

「ちくしょう!これじゃダメかッ!」

「がる……ぼくに任せてっ!」

 ガルーダが勢いよくオウオオガマの前に飛び出す。

「みんな離れて!」

 自分のもとへ飛び込んでくるガルーダを捕食しようとオウオオガマは掴みかかるがそれが逆に仇となった。

 バゴォーン!

 オウオオガマの目の前でガルーダの炎が炸裂する。これではいくら移動速度、反応速度が速かろうと前へと勢いついた自身の身をひるがえして避けきることはできなかったが、しかしオウオオガマは炎による火傷よりもガルーダの発火する直前の爆光に目をやられていた。

 

「なぁ、虫野郎知ってるか?回転の力に生物は逆らえんっちゅうことをよ!」

 回転の乗った魂暴を渾身の一撃としてオウオオガマの頭部に叩き込む。

「待って!鬼車くん!」

「え?なんやて?」

「ピギャアアア!!」

 鬼車は明らかにオウオオガマの頭部を破壊しようとしたがヒビが入る程度。それでもたしかなダメージがオウオオガマに入り立っているのがやっとのようだった。

「鬼車くん!オウオオガマの頭を粉々しようとしてたでしょ!」

「えっ!?アカンの!?」

「ダメに決まってるでしょっ!この子の外殻を使うんだからもったいないじゃない!」

「せやけど……」

「鬼車!リタに切り替えろ!」

「お、おう!りょうかいっ!」

 鬼車の角が翡翠色に光り出す。

「師匠!出番やでぇ!虚実を穿ち真実を暴けリタッ!!」

 魂暴にはない速度でオウオオガマの節一つ一つを的確に切断する。

「ピギャアアア!!」

 切断したとき虫の悲鳴とは別に子どもの声も微かに聞こえた。

「これでしまいや!」

 スパッ

 静かにオウオオガマの首が落ちる。

 サァァ……

 手にしていた槍が霧散するように消える。

「ありがとな、師匠……」


 隊員はオウオオガマの死体を牛車に詰め込み。一行は仮拠点へ無事たどりつく。


「思わぬ誤算が起きたが、結果的には棚ぼただな」

「まさか鬼車くんの槍があのオウオオガマの節をこんなに綺麗に切断出来るなんて思わなかったわ」

「ふん、やる時はやる。それがアタシらの親分さ」

 自慢げにする御炙は意外に可愛かった。

「ええそうね、ご褒美にチューしてあげるわ!」

「ひえぇぇ!!勘弁してくれ姐さん!!」

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