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【第10話】 最速の預言者


 広間では黄色い稲妻や蒼白いレーザーが飛び交ったりと、激しい闘いが繰り広げられていた。闘いは素人目で見ても、冬美崎(ふゆみさき)が劣勢であることが分かった。


 俺はその現状を確認してから廊下に避難して、大きく深呼吸をした。


(まずは二人の闘いを止めることだ……)


 そのためには二人をギョッとさせて、強制的に止めるしかない。


(大丈夫……。自分が考えた作戦を信じるんだ……)


 ゆっくりと、強く自分に言い聞かせてから、俺はしゃがんで床に黒のマジックペンでアミダくじを書いた。次いで、アタリとハズレの設定をする。


 ハズレは『何も起きない』。

 アタリは『このアタリを引いた後、一度だけ【雷神槍(らいじんそう)――(さつ)】を無条件で発動することができる。尚、【雷神槍――殺】の無条件での発動は、センカ終了まで一度しかすることができないし、発動には無論バランセを要する』。


 設定した後、ズル防止のため、俺はアタリとハズレの書かれた部分を手で隠した。そしてすぐさま、右の始点からアミダくじをなぞっていった。


(よし、次――)


 無事にアタリを引いた直後、俺は床に新たなアミダくじを書き始めていた。


 ハズレは『何も起きない』。

 アタリは『バランセの使用回数、一回の効果を得る』。


 俺は左の始点から、ささっとアミダをなぞり、アタリを引いた。

 これで【雷神槍――殺】を発動する条件は揃った。


(……よし、行くぞ!)


 俺は廊下から広間に飛び出し、右手刀をカエデに向かって突き出した。


「【雷神槍――殺】」


 俺は噛まないよう、慎重に唱えた。広間にその唱えが響き渡る。同時に俺の右手刀から、子どもが絵に描いたようなジグザグで黄色い稲妻が放出された。稲妻は目標カエデから少しズレ、両者のど真ん中に割り込んだ。


 カエデと冬美崎は、同時に素早く後ろへ跳び退いて稲妻をかわした。カエデと冬美崎は大きく距離を取り合うような形となった後、一斉にこちらに振り向いた。


 二人はしばらく唖然とした表情で俺を見、硬直していた。俺が【雷神槍――殺】を発動したことが一番の要因だろうが……。俺が左手を失っていること、左腕に三色のアミダくじが書かれていることも、カエデと冬美崎を長く硬直させた要因かもしれない。


(次――)


 俺は左腕に書かれたアミダくじの一つ、『バランセの使用回数、一回の効果を得る』のアタリと、『何も起きない』のハズレが設定されたアミダくじをなぞった。


 すんなりとアタリを引き、俺はその一回分を源に、静かに唱える。


「『回り込みつつ、取り急ぎ、無数の閃光い潜れ。【疾風(しっぷう)(さば)き】』」


 唱えた瞬間、緑色のオーラが俺の全身を纏った。

 否、可視化された緑色の微風が、俺の全身を纏ったのだ。鮮やかな緑色を持ったその風は、立ち上る湯気のようにユラユラと踊りながら俺の全身を纏っている。


(……あとは動作の問題……)


 肝心なのは思惑通りの呪文が発動したかどうかである。俺が【疾風捌き】に込めた想いは、己の純粋なスピード、目や体の反応速度を凄まじく速めることだ。


 俺は右手を開いたり閉じたりを繰り返したり、その場で屈伸をしたりして動作確認をした。全身を纏う緑色の微風が、動きに合わせて追い風を巻き起こして、動きを加速してくれた。


(この感覚……。大丈夫そうだ……)


 強く頷いた後、俺は緑色の微風と共に半身になって、カエデに向かって構えた。


「すううううううう……ふううううううううぅ……」


 と俺は大きく息を吸って、大きく息を吐いた。それは、自然と出てきた所作であった。


 ……不思議と落ち着いている。


 漫画やゲームの中でしか存在し得ない、命を賭した闘いに、これから入るというのに。

 あの時、冬美崎の姿勢が勇気を灯すキッカケを作ってくれた。それも大きな理由としてあったけど……。


 アミダで左手を失い、退路が断たれたからだと思う。ここまできたら、目的を果たすまで突っ走るしかないと、踏ん切りが付いたからだと思う。


「あ、あんた……さっきのは私の……。それに、その呪文は……バランセで?」


 カエデは酷く驚愕した様子だ。


「……カエデ、今すぐ俺と勝負しろ。『キング』の駒である俺が、おまえに戦う意志を向けている。つまり、おまえの攻撃は弾かれることなく俺に通る……そうだろ?」


 カエデはまだ面食らっている。ここでふと、体の至る部位を斬られた冬美崎の姿が、俺の目に入った。冬美崎は全身、血まみれになっている。


 俺と目が合うと、冬美崎はふっと気が抜けたかのように座り込んだ。助け(俺)が来て、気が抜けたから……いや、傷付いて弱っているからだ。早く終わらせないと、冬美崎が危ない。


「来ないならこちらか行くぞ?」


 焦ったのか、それを挑発と見なして乗ったのか、カエデは俺に向かって左手刀を突き出した。


「【雷神槍――殺】」


 カエデの左手刀から、子どもが絵に描いたような黄色いジグザグの稲妻が放出された。稲妻は荒々しくうなりながらも、俺を正確にめがけて向かってくる。


(……っ! これは、予想以上だな……)


 反射反応した俺の目には、稲妻が超スローモーションに映ったのだ。まるで雪道を徐行する車のように、ゆるりと稲妻が向かってくる。


 俺は緑色の風と共に舞うが如くのサイドステップで稲妻をかわした。稲妻は背後の壁に直撃し、壁はしばらく広範囲に渡ってジジジと音を立てながら帯電していた。


 残光ならぬ『残風(ざんぷう)』といったところだろうか。俺が移動したルートに、可視化された緑色の風がほんの一瞬だけシュワッと走って消えた。


「どうした? 当たらなければ意味が無いぞ?」


【疾風捌き】は思った以上にハイスピードのスペックを持っていた。その弾みもあって、俺は『戦闘』という初体験の場でも、地に足つくことなく動けている。それどころかアクビが出るほど余裕があった。


「カエデ、それしか無いのか? おまえの攻撃手段は?」


 俺はその場でトントンと軽いステップを踏み、カエデを挑発した。


「……はあぁ? さっきから調子に乗ってんじゃねえよ! 【シーグ、(エル)(アール)】」


 瞬間、カエデの左手にもナイフが現れた。


【シーグ、LR】……この暗号らしきものは、バランセを武器化する『速攻技』ではないだろうか。左手にもナイフが現れたところ、前に唱えた【シーグ、R】の改訂版、といったところか。


「ズタズタにしてやんよ!」


 カエデはおぞましい威圧を放ちながら襲いかかってきた。常人にしては凄まじい速さだろうが、【疾風捌き】状態の俺にしてはスローモーションに映る。


 俺のふところに踏み込むやいなや、カエデは縦、横、斜めと、あらゆる角度の斬撃を放った。が、俺は緑色の風と共に紙一重で難なくかわしていく。カエデの太刀筋をかわす度に、ヒュッヒュと鋭い音が耳に届く。太刀筋をかわしていく俺の動きに合わせて、緑色の微風が吹きすさぶ。


「ちょこまかウゼえんだよ!」


 叫びつつ、カエデはナイフの切っ先をこちらに向けて突進してきた。俺は風と共にカエデの突進をかわす。その移動ルートに残風が走り、カエデはそのまま勢い良く壁に衝突した。


 壁に強く叩きつけられたと同時に、カエデの両手のナイフが消えた。俺はその隙に疾風の如く、座り込む冬美崎のもとへ向かった。その移動ルートに、緑色の残風が走る。


「大丈夫か? 冬美崎」


「あ……私は……大丈……夫」


 絶対に大丈夫ではなかった。至る部位がナイフで切り裂かれいて、身体はボロボロ。目は虚ろで、酷く衰弱している。


「今すぐ病院に――って、ここが病院だよな。くそ、看護師とか何処行ったんだ……」


「あの……」


「喋らなくていいから、おまえは楽にしてろ」


「ううん、これだけは……。看護師とか患者さんとかは、カエデが唱えた呪文によって限定的な期間に渡って存在を消されて居ないの……。あと……この病院には普通の人が寄れないようにもなってるの……。でも大丈夫……もうすぐ助けが来るから……」


「助け?」


 続きを問い掛けようとしたが、どうやらそんな暇は無いらしい。


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