第二部19話目・22歳のツインテール
「じゃーん! 私はこんな感じになったよー!」
しばらく待っていると、まずアスカさんだけが先に戻ってきた。
先ほどまで着ていたチュニックブラウスと膝丈ジーンズスカート姿から、お貴族様んとこに仕える執事みたいな服に着替えている。
「おお、すごいじゃないですか」
何がすごいって、ジャケットの下のシャツも男物のようで、胸がパツッパツになってるってところだ。
ジャケットの前も無理やりボタン留めしてるから胸の形に添うようにしてずいぶんと襟が広がってるし、たぶんちゃんとしたデザインの服だってのに、アスカさんの胸を強調するためだけに作られたパチモノコスチュームみたいになっている。
それでいて脚がスラッと長いから細身のスラックスパンツでもよく似合っているし、長い髪を全部まとめて結い上げていると、ギリギリ男装の麗人って感じもしなくもない。
「どうどう? 似合ってる?」
「はい。とっても似合っていますよ」
俺は、お世辞抜きに素直にそう言った。
昔からこの人にはよくお世話になってきたが、美人さとスタイルの良さはそんじょそこらの女性たちとは一線を画している。
俺の幼馴染もかなりのものだが、アスカさんも全然負けていない。
「あの、セラ様……」
と、そこに。
恥ずかしそうにモジモジしているカリナさんが着替えて戻ってきた。
「ど、どうですか、この姿は……?」
カリナさんは、先ほどまで着ていたゆったりとしたワンピース姿から、普段モコウが着ている真っ赤な服にフリルがたくさんついたような服を着てきた。
服自体も赤ではなくて桃色ベースのカラフルな花柄模様生地で、胸元とか腰から下の側面とかに深いスリットが入っていて、カリナさんの黒褐色の肌が大きく露出している。
手が隠れるぐらい袖が長いのだが、膝の辺りから袖口に向けて大きく袖が広がる形になっており、袖口には大量の真っ白いフリルがついていて、袖口から全く手が見えなくなっている。
長く艶のある黒髪はお団子2つ分にまとめて頭頂部の左右に分けてくくり、まとめた髪の上からかぶせる形の髪飾りをつけている。
「めちゃくちゃ可愛いですね。よく似合っていますよ」
「ほ、ほんとう、ですか……!?」
「はい。これもアスカさんのコーディネートなんですか?」
「そうだよー。それからそれからー」
アスカさんが、お店の奥に向けて手を振る。そちらを見ると、明らかに様子のおかしい幼馴染が、柱の陰から顔だけだしてこちらを見ていた。遠目から見ても顔が真っ赤である。
「メイベルちゃーん!」
「っ!?」
メイベルのやつ、俺と目が合った瞬間にサッと柱の陰に隠れてしまった。
普段のアイツらしからぬ反応に、よほど今の格好が恥ずかしいのだろう、と俺は思う。
「おい、メイベル」
なので俺はメイベルのところまで歩いていき、物陰に隠れる幼馴染の手を掴んで引っ張り出した。
そのままアスカさんたちのところまで連れてきて、あらためて幼馴染の姿を見つめる。
「じ、じろじろ見るんじゃない……!」
メイベルは、キラキラした銀髪を大きめのリボンで両サイドで括り、ツインテールにされていた。
上は、肩出しヘソ出し丈のパステルカラーのフリルブラウスだ。七分丈の袖はパフスリーブになっており、胴体部分とは脇下のところだけで繋がっている。
首から肩にかけてが丸出しで、胸の谷間がしっかりと見えるし、アバラ下までしか丈がないので、引き締まった腹筋とヘソも丸見えである。
下は、これまたフリルで膨らんだミニスカートだ。腰口から傘のようにふんわり膨らんだ形状で、裾からは何重にもなったフリルが見えている。
たぶん、あの多量のフリルで下着が見えにくい構造になっているんだろうな。あるいは見えてもいいパンツを重ね履きしているのか。
いずれにしても、いつもより股下がスースーしていると思う。
太ももの半ばまでの長さの横縞柄の長靴下と、テカテカとした小さめのローファーシューズ。
スカート下からわずかに見える生脚部分が、いいアクセントになっている。
「バッチリ可愛いじゃないか。お前、そうやって着せ替え人形やってるとちゃんと女らしく見えるんだな」
「か、可愛いとか言うな……!?」
耳まで真っ赤になって恥じらう幼馴染に、俺はなんだかイケナイことをさせているような気分になる。
「そもそも私は、ダメになった服の代わりを買えと言ったんだ! なのになぜこんな、ヒラヒラした服を着せられなくてはならないんだ……!?」
「ちゃんと似合ってるんだから良いだろうが。それにお前、自分の趣味じゃない服ってのは、こういう機会がないと一生着ないもんだろ。だったら自分とは違うセンスの人間に選んでもらったほうが、見識が広がるじゃないか」
その後もグチグチと文句を言う幼馴染を無視して、俺は3人分の服の代金を支払い、ハウスに残っている2人へのお土産(レース編み用の糸と、髪留めにした)を買ってから店を出た。
アスカさんとカリナさんは、せっかく可愛い服に着替えたので、2人で以前の職場に顔を出しに行くらしい。
なので俺は、ティナと一緒に飯でも食いに行こうかと思ったのだが、
「こ、こんなフワフワした格好で出歩けるか!? 今日はもう帰る!」
と言うので、俺は幼馴染を宿まで送り届けることにした。
「いい! 貴様はついてくるんじゃない!」
怒ったようにずんずん進む幼馴染。
仕方なく、少し離れて歩いていると、
「よぉよぉネーチャン。そんなに急いでドコ行くの? 良かったら俺らと、……あだだだだっ!?」
なんかマヌケ面しか男たちがちょっかい掛けようとして、ノータイムで腕を極められてヘシ折られた。
「こ、このアマ、いきなり何しやが、ぐぺっ!?」
動揺する残りの連中も、順番にティナに殴られ、極め折られ、投げ飛ばされて、踏みつけられた。
コイツやっぱ、生身でも強いなー。
そうして宿に入っていく幼馴染を見送った俺は、そのままパーティーハウスに戻ることにした。
◇◇◇
ハウスに帰ってきて、お土産を渡そうとシオンさんがいる錬金術室へ向かったところ……、なんだかぽやっとした顔のシオンさんが待ち構えていた。
「セリー君。実は、お願いがあるんだけど……」
ということで俺は、シオンさんから頼まれごとをされたのだった。