第二部18話目・オシャレ番長アスカさん
◇◇◇
弟子たちとの銀ダン初挑戦終了から2週間ほどたった。
その間に俺は、まず赤ダンをフルマピしてメイベルにスペアキー3を取らせ、
それから茶ダンに潜ってピラミッド内でのミイラ蟲大爆殺戦法でメイベルの幻想体のレベルを100まで上げさせた。
「貴様……、よくこんなチマチマした作業を延々と繰り返せるな……」
ひたすら爆弾を穴に転がし入れたりステータス表示をいじったりしていた幼馴染に恨みがましい声で言われたが、安全と退屈の引き換えなのでそこは勘弁してもらいたい。
あと、ついでに弟子たちの幻想体のレベルもちょっと上げた。
銀ダン潜りで本人たちの練度が上がったからな。
幻想体のレベルを少し上げても大丈夫だろうと判断した。
それからそれから、2度目3度目の銀ダン潜りで数日間ずつ浅層のエネミーどもを狩りまくり、弟子たちに経験を積ませ、自信をつけさせた。
「なんかもう、いっぱいのおっきいのに囲まれても驚かなくなってきたなぁ……」
ちょっと虚ろな目でぼやくツバサ。
うむうむ。いい感じに度胸がついてきたな。
3度目の銀ダン潜りの最後には皆で10層のフロアボスをボコボコにしたから、次回以降は銀ダンの中層に踏み込んでみてもいいかもしれない。
さて、そんなこんなと慌ただしくも順調にダンジョン探索をしていた俺たちであったが、ここで一つ問題が発生した。
「ごめんねセリー君。まだ新しい護符ができてなくて……」
困り顔を浮かべたシオンさんに謝られてしまった。
というのも、シオンさんには俺たちが銀ダン以上の探索で必須とする護符の作成を依頼しているのだが、
やはり護符は作成難易度の高いものらしく、なかなか作成ペースが上がらないのだ。
いや、全く急かすつもりはないし、シオンさんには護符以外にも色々と作成してもらっているから、そんなポンポンと完成させられるものではないことも分かっているのだが。
それでも、護符を持たずに銀ダンに向かうこともできないわけで。
仕方がないので俺は、弟子どものご機嫌取りも兼ねて今日と明日を探索休養日にすることとした。
「わたくし、ウルトラジャンボデラックスパフェを食べてみたいですわ〜〜!!!」
と、ポンコツ娘が言うので、姉貴とモルモさんの引率で(姉貴は死ぬほど嫌そうな顔をしていた)弟子娘4人衆を喫茶ミルキィに連れていかせた。
「ハイパーデリシャスメロンクリームソーダと一緒に頼むと、すごいよ!」
「マジですかツバサさん!!」
「ゴールデンぷるぷるプリンもね、とっても美味しかったのー!」
「ふぅ〜〜〜っ!! 楽しみすぎてテンション爆上がりですわ〜〜!!」
と、バカとポンコツがずっとうるさかったが、ユミィとモコウもいるのでなんとかなるだろう。
そして、俺はというと。
「よぅ、メイベル。待たせたな」
「相変わらずキッカリ5分前か。律儀なやつめ」
以前、俺がメイベルの服をゲロまみれにしてダメにしてしまい、その詫びとして買い物に付き合う約束をしていたので、
今日は、ティナと一緒に服を買いに行く。
ついでにどっかで飯でも食いながら次の探索についての話でもしようかな、ってところだ。
「……ところで、貴様の後ろの女性たちは?」
と、ここで、メイベルが俺の後ろに目をやった。
そういえば、この人たちと会うのは初めてか。
「アスカだよー! こっちはカリナちゃん! 今日はよろしくね、メイベルちゃん!」
「……初めまして、メイベル様」
「2人とも、ウチで雇ってる家政婦さんだ。この2人も服を買ってほしいって言うんで、連れてきた」
俺が服を買いに行くという話を聞きつけて、先日から新たに家政婦として雇っているアスカさんとカリナさんがついてきた。
まぁ、この2人も年頃の女性だし、やっぱりオシャレとかには関心があるんだろうな。
ちなみに現在パーティーハウスには、護符作りに専念しているシオンさんと、趣味のレース編みに没頭しているカマーンさんが残っている。
なのでその2人にも、お土産として何か買って帰ろうとは思う。
「……貴様というやつは、ほんとに」
メイベルが呆れ顔を浮かべる。
カリナさんがアスカさんの袖をくいくいっと引っ張った。
「……アスカ先輩。やっぱり私たちは、ついてこないほうが、良かったんじゃ……?」
「えー? でもでも、せっかくセラ君が綺麗な服買ってくれるんだよ? それにー……」
アスカさんが、じーっとメイベルの顔を見つめた。
メイベルが思わずたじろぐ。
「……うん! やっぱり私たちもいたほうが良さそう!」
ということで、そういう話になった。
俺たちはてくてく歩き、高級衣料品店「妖精の残り香」にお邪魔する。
ここならダンジョン産のどんなデザインの服でも買えるし、フルオーダーメイドもしてくれる。
緑ダンや黄ダンからドロップする各種繊維素材や布地素材、皮素材やら金属素材やらをなんでも使ってくれるので、カネさえあればマジでどんな服でも売ってくれるのだ。
「メイベルは、いつも男物っぽい服を着てるよな」
俺は、幼馴染の全身を見てから言う。
今日も、しっかりアイロンの入ったシャツとスラックスズボン姿だ。
そこらへんのだらしない男よりよほどピシッとしている。
「ああ……。昔からヒラヒラした服は好かなくてな……」
まぁコイツ、昔からオシャレとかには興味がなかったのか、女向けの服はほとんど着てなかったもんな。
美人なんだからもっとオシャレしてもいいだろうに。
「何気なく美人とか言うんじゃない……! いや、その、なんだ。スカートを履いていると、足を振り上げたときに、その、見えてしまうというか……」
……なるほどな。
確かにコイツ、昔から活動的だったというか、足癖が悪かったというか。
子どものときから気に食わない奴は叩いたり蹴ったりしてたし、この街に来てからも、絡んできた品のない連中を何人も半殺しにしたりしてるらしいもんな。
「で、下着が見えるのが嫌だからズボン履いてるってことか。……まぁ、そういうことなら」
俺は、期待に目を輝かせている様子のアスカさんを見て、頷いた。
「お願いします」
「はーい! それじゃあ2人とも、れっつごー!」
と、アスカさんは首輪のヒモが取れた大型犬のような勢いで、メイベルとカリナさんの手を引いてばびゅんと店の奥に突撃していった。
カリナさんはともかく、メイベルは突然のことに驚いていたが、まぁ頑張ってくれ。
俺は店員と駄弁りながら、アスカさんがコーディネートした2人が戻ってくるのを待つことにしたのだった。




