第二部17話目・地道な基礎の積み重ねこそ成長の近道
なんとか大量のエネミーどもを順番に相手して倒して、少し間が空いたところでスタスタ移動したところまたエネミーどもと戦闘になって倒して……。
そうして進んでいって第二階層に続く階段に入り、階段内の踊り場で休憩をする俺たち。
「い、いっぱい来た……! 疲れた……!」
全身鎧をボコボコに凹ませたツバサが、座り込んで呟く。
持っていた大盾もベコベコに歪んでいるので、俺は今のうちに防具を一旦破棄して再度具現化するように言う。
「連戦中は無理でも、合間合間で再作成しておかないと耐久力がもたないからな」
防具などの実体化している装備品には耐久力という見えない数値が存在している。
これは、受けた攻撃の威力や角度によって減っていく数値で、ゼロ以下になると具現化した装備品が破損するし、運が悪いと装備品そのものも破損消滅してしまうものだ。
だから、完全に壊れ切る前に具現化を一旦解除し、具現化し直す必要がある。
装備品は具現化するたびにPPを消費してしまうのだが、戦闘中に防具が破損すると致命的な隙に繋がるので、ここぐらいの段階になるとこまめに再作成したほうがいい。
「なんだなんだアイツら! 普通にボクの弾を避けたりしやがって!」
ユミィも地団駄を踏んだ悔しがっている。
昔と違って、ユミィもしっかりエネミーの急所を狙うようになったので、避けられるのが余計に悔しいようだ。
なので俺は、ユミィにアドバイスをくれてやる。
「しっかり狙ってきちんと当てる。今までは、相手の動きの先を読んでいればできたことだが……、これからは、相手がこちらの弾道をどう読んでどう避けるか、そこまで読んで弾を撃たなければならんわけだ」
つまり、常にエネミーどもと攻防の読み合いをしなくちゃならないってことだな。
ちなみにユミィは杖の射撃に属性付与での相性変更をしないのでまだマシだが。
俺とかティナとかは4種の属性矢(炎、氷、雷、毒)をエネミーごとに使い分けたり、打、突、斬、射の攻撃種別も使い分けて常にダメージアップを狙っている。
そこまでしないと、無闇に攻撃したところで倒し切るまでに時間がかかりすぎて、ジリ貧になってしまうのだ。
「ぐううっ……、タキ兄ぃ! 読み合いするうえでのコツとかないの!?」
「ある。エネミーどもは、あくまでもダンジョンが生み出した擬似生命体だ。その思考パターンにはある程度の規則性があり、それはつまり、弾の弾道軌道が同じなら、避け方も同じになることが多いということだ」
「じゃあ、牽制用の弾でわざと避けさせて、避けた先にあらかじめ本命の弾を撃っておくとか?」
「それもアリだし、牽制に見せかけて着弾直前に相手が避けるであろう方向に弾の軌道が変わるよう、発射前の軌道作成で設定しておいてもいい」
あるいは、相手の行動パターンやタイミング次第では、回避行動にうつれない瞬間ってのは確実に存在するからな。
そこを見極めて、確実にクリティカルを出せるように狙って撃つのもアリだ。
「いずれにせよ、お前の弾はここでも問題なく通用する威力だ。しっかり当てていけば、それだけツバサたち前衛の負担が減る。頑張れよ」
モコウはどうだ?
うまくやれそうか?
「ウゥー、ただのパンチもすごい勢いだたヨ。かわすのハラハラするアル」
「まぁ、それはそうだな。ツバサとかはあの巨人どものパンチをまともに喰らってもピンピンしているが、それは筋力体力にものを言わせて重防御装備をしているからだからな」
装備品には、コスト上の重さ(装備品枠の20枠)と物理的な重さがあり、同じ装備コストでも物理的に重いものはそのぶん素早さを犠牲にして防御力を上げられるようになっている。
そしてツバサが装備している全身鎧と大盾は、同じコスト帯の中でもダントツに重くて頑丈なものにしており、だからツバサは、あの巨人や大鬼たちと真正面からフレイルで殴り合えるわけだ。
「モコウは、俺と同じで速さを生かした回避重点型だし、一撃もらえば即緊急脱出になりかねないから、緊張するのも分かる」
そのうえで言うが。
「だがそれなら、一発も当たらなければ良いだけの話だ。そして、当たらない攻撃は存在しないのと同じだ。だからそこまで気にする必要はない」
いくらここのエネミーどもが下の級のダンジョンのエネミーよりも素早いといっても、俺たちよりは遅い。
だからしっかり攻撃の軌道を見極めてギリギリでかわせば、こちらが一方的に殴ってるようなものってことになる。
「アイヤー……。それは、そやろうけド……」
まぁ、これはあくまでも気の持ちようの話だから技術的な話もしておくか。
「エネミーの攻撃にはそれぞれパターンがあり、ここのエネミーどもも攻撃パターンの種類が増えただけで、同じ種類の攻撃は同じモーションで繰り出してくる」
例えば巨人が腕を振り上げたとき、拳が頭の上までいけば振り下ろしで、頭の横までだったら真横の薙ぎ払いだ。
大鬼だったら、一定距離以上なら一番近くの探索者の頭部を狙って矢を射ってくるし、それより近くに探索者がいれば近寄ってきての近接攻撃のみになる。
「似たよな動きしてるのは分かってるけド……」
モコウが言い淀むと、だいぶ呼吸が整ってきたツバサが明るい声を出した。
「大丈夫だよモコたん! あたしは避けらんないから気合いで受け止めてるけど、モコたんは今でもちゃんと当たらずに避けてるもん! これから先も同じことをしていくだけだから、ヘッチャラだって!」
ニコニコと、モコウならきっと大丈夫だと力強く断言する。
「ユミィちゃんも! あたしがヤバいって思ったときにはもう目の前のエネミーに弾が当たってるし! ユミィちゃんが後ろから助けてくれるから、あたしはなんの不安もなく戦えてるよ!」
ユミィが、照れたように俯いた。
「ていうかメイベルさんも、タッキーに負けないぐらい弓すごいし、新しいエネミーが寄ってきてたらすぐに教えてくれるし、めっちゃ頼りになる!」
ツバサが、俺の幼馴染にもキラキラした目を向けて褒めると、他の弟子どももコクコクと頷く。
「……まぁ、確かに。気がついたらボクの隣に来てて飛んでくる矢を弾き飛ばしたり、かと思えば一気に前に出て棍棒振り回してたりで、すごく動くよな」
「連打の当たりが悪くてダッメジ足りない思てたら、いつの間にか隣にいて追撃してくれたり、とっても助かるヨ」
まぁ、コイツはここをソロで挑んでたわけだからな。
常に視界を広く保ち瞬間瞬間で優先順位をつけて最速で行動するってのが身についている。
「いきなり第一階層の初戦闘から多重連戦になったときはどうなることかと思ったが……。なんだかんだ、そこまでの消耗はなしで切り抜けられたんだ。上等だろ」
つまり、お前らはここらへんでも十分に通用する。
だから、あとはひたすら慣れるまで頑張ればいい。
「うん! やってやるぞー!」
「……まぁ、避けられっぱなしもシャクだしな」
「ワタシもクンフーの積みどころヨー」
よーし、それならまだまだやるぞ!
と、いうわけで。
俺たちはそこから数日間、ミッチリと銀ダン浅層のエネミーたちと戦い続け、エネミーの強さと戦闘のリズムに体を慣らしたのだった。
ちなみに。
「おいタキ兄ぃ! 卑怯だぞ出てこい!!」
銀ダン内での宿泊用にはもちろんカンテラを使うのだが。
俺は、自分用のカンテラを別で用意しており、就寝時にはユミィが作った結界内に俺用の小さい結界を作って、その中で寝ることにする。
……今までコイツらと泊まり込みしてるとき、実はコイツらがちょこちょこ俺にイタズラしてるということを最近知ったからな。
それに、俺の寝込みを襲ってくるような幼馴染とも一緒のパーティーになったわけだし、俺はきちんと自衛する。
「おら、お前ら。うるさくしてないでとっとと寝ろ。遊びにきてるんじゃねーんだぞ」
俺がベッドにゴロンと横になると、メイベルのやつが騒ぐユミィをたしなめる。
「仕方あるまい。私たちも寝よう」
「くうううぅ〜〜……! 覚えてろよクソボンクラ!!」
そんなこんなとアレコレありながらも、その後の数日間もひたすら銀ダン浅層のエネミーどもを倒し続け、最後は皆で5層のフロアボスをタコ殴りにしてから銀ダンを出たのであった。